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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
その名はフェイカー~偽物のヒーロー~
19/79

第19話:目覚める力

最悪な想像をしていた。満身創痍だった身体が動き出す。思えば、この時既に能力が覚醒してしまっていたのだろう。力を得るには遅すぎた。

軽くなった足とは別に重くのしかかる重圧。2人のことなど置いて俺は突き進んだ。


「ああ……ああ……」


 街が燃えている。

 そして、あそこの方角は……そんなことってあるのか?

 そんな非道が許されるのか?


 最悪の想像をしていた。

 そこは、病院の方向だった。

 走った。さっきの何倍も早く駆けだした。

 着いたとき、焼け跡になってそこには何も残っていなかった。何もないのだ。遺体すらない。骨になるまで燃やされて、もはや灰になった残りかすだけが残っている。

灰が降っていた。白く降り積もる雪とはまるで違う。汚い灰だ。


「ああああああああああああああああああああああ」


 感情をコントロールできない。ただ苦しかった。何でこうなったんだ?

 俺はこの感情をどこにぶつければ良いんだ?

 分からない。俺には分からない。涙すら俺には流せない。


 これは報復だ。俺がフェイカーとしっての報復だ。

 それも最悪タブーを犯しての。ローリー博士に勝てないと察して、この街にトップヒーローを呼びたかったのだろう。最悪の一石二鳥だ。

 病院などの施設への攻撃は最低最悪の行為として、悪の組織の中でもタブーとされている。そうしているのは、トップヒーローが派遣させてくるからだ。


「ヤス君?」


 遅れてローリー博士がやってくる。


「来ないでください」


 今は誰かと話せるような気分じゃなかった。後ろにいるローリー博士を一瞥することもしない。このドス黒い感情を、濁流のように流れ出す想いを誰かにぶつけてしまいそうだから……


「放っておけないよ。僕は君の上司だからね」

「上司?……有能上司で今回も無能な部下を助けたローリー博士には分からないでしょうね?無能な人間の気持ちなんて……何をやっても上手くいかない人間の気持ちなんて」


 心の中で止めろと叫んでいる自分がいた。でも、一度溢れだしたものに蓋をしたところでもはや遅い。

 お別れすら言えなかった。あれが最後だって言うのか?

 いつか別れの日が来るとは覚悟していた。それでもこんなあっさりと終わると思っていなかった。何故俺はもっと……


 悔やんでも悔やみきれない。最後の会話はあれだって言うのか?

 俺は何で直ぐに会いに来なかったんだ。俺は生きてるって伝える暇もなかったじゃないか?


「これは俺の決断の結果か?」


 重い。あまりにも重すぎる。

 俺は自分の無能が許せなかった。これは俺が招いた結果だ。

 俺がフェイカーになったからこうなったのだ。七つの大罪となんて最初からかかわらなければ良かった。そうしたら、こんな結果にはならなかった


 ちくしょう。ちくしょう。

 涙すらでない。考えるのはどす黒い感情だけだ。

 殺してやる。絶対許せない。殺してやる。


「ヤス君、君のせいじゃないよ。戦いには不確定要素が常に付きまとう。それを予想することは誰にも出来ない」

「慰めの言葉何て、要りませんよ。全部俺のせいなんですから」

「悔しいのかい?」

「……悔しいに決まってるでしょ」


 俺がここで初めてローリー博士の方を見た。仮面を外したローリー博士の素顔が見えた。悲しそうな今にも泣きだしそうな顔をしていた。どうしてそんな表情をしているのか分からない。でも、そんなことよりも重要なのは、ローリー博士の体が石に変わり始めていることだ。

 無意識に能力が発動している?


「ローリー博士……」


 いけない。能力を止めないといけない。俺は目を閉じた。

 しかし、俺の瞼はローリー博士の小さな手に無理やりこじあけられる。


「いいかいヤス君、悔しいならちゃんと悔しがらないとだめだ。悲しいならちゃんと悲しまないと駄目だ。君は感情を押し殺しすぎる、それじゃ、いつか壊れてしまう」

「何をやってるんです。壊れていっているのはあなたでしょ」

「感情をコントロールしないと、能力は安定しない。怒りや憎しみ、悲しみなんて感情は、戦いにおいてもっとも不要なものだろう。君はヒーローだからそう教えられてきた。でも、そういった感情こそ、君の力を目覚めさせる。使うのと目覚めさせるには、全く違う心の動きが必要になるんだ」

「俺の話を聞いてください」


 ローリー博士は全く意に返さない。既に体の半分が石化してしまっているのに……効きにくいのか、俺が力をセーブしているのかはわからないが、明らかに石化の進行が遅いのだけが、助けだろう。

 それでももう……


「えっ」


 強く抱きしめられる。体がごつごつしていて痛い。それは、俺の石化の影響だろう。それが苦しかった。


「君を見ていると痛いほど分かるよ。君は昔の僕によく似ている。心に余裕がないのに、それを誰にも見せようとしない。いつも冷静を装っている。リーダーには必要な才能だろう。でも、誰だって弱い人間なんだよ。だから……」

「……ローリー博士?」


 動かない。何も言わない。


「嘘でしょ? からかってるんでしょ……ローリー博士」


 また俺がやったのか?

 違う。自業自得だ……違う……俺がやったんだ。分からない、分からない。もう道を示してくれる人はいない。酷く孤独だった。美涼がいればそれで良いと思っていたけど、今は酷く孤独で寂しい。


 そんなことを考えても意味がない。今はどうすれば良いんだろ。答えてくれる人はもういない。頭を抱えた。体が震えた。

 どうすれば、どうすれば良い?


「おい、俺の力なんだろ言うことを聞け」


 意味もなく騒いだ。目に手を突っ込んだそれも意味のない行動だ。視界がぼやけて赤色に染まる。

涙は流せない代わりに、血の涙が出た。


ヒーローはただ悪を倒せば良いと教わった。ヒーローたるもの常に冷静な判断で適切に対処する。理事長の大嫌いな教えだったのに、いつの間にか俺の心に染みついた。


 思えば俺は悪の組織に入って、銀子さんに合って、ローリー博士に合って、自分という人間を知った。でも、何の感情もない空っぽな人間だったのは変わらなかったのだ。こんなに辛いのに涙すら流れない。

 俺に合ったのは何が正しくて、何が大切で、何が許せないかとかそう言った、合理的な判断から出てくる、無機質なものでしかなかった。


 ローリー博士を体から剥がして、優しく地面においた。

 そして、骨と灰になった仲間たちのもとに進んでいく。その灰を手に取った。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 そう呟いていた。抱きしめた灰は人間の温もりはない。どこまでも無機質だ。それが失ったことを、鮮明に感じさせてくれた。


「悔しいならちゃんと悔しがらないと駄目だ。悲しいならちゃんと悲しまないと駄目だ」


 ローリー博士の声が聞こえた気がした。そして一粒零れ落ちた。血ではない、確かな透明な液体が溢れていた。それが止まることはない。

 いつ以来だろうか……だぶん、母さんが出て行ったとき以来だろう。空っぽな自分の中に最後のピースが埋まったようだった。


「あっ……あっ」


 嗚咽が漏れた。

 俺は失ったんだ。仲間を失ったんだ。何も残ってない。死は音もなく現れて全部を奪っていく。


 青天の空に、雨が降る。

 雨は灰を洗い流して空に虹をかけた。ヒーローとしての呪縛はこの時壊れ、失ったものは仲間の命と引き換えに戻って来た。


 ヒーローになって、俺はずっと悲しかったのだ。仲間が死んで、それを当たり前だと思う日々。感覚は麻痺して、それすら感じなくなっていた。

 俺は馬鹿だ、無くしたことすら気づかなかった。


 銀子さんの誘いに乗って、悪の組織に入ったのは何故だ?

 最初から、仲間を助けたいと、死なせたくないと思っていたからだったんだな。


 壊れた感情は、こんな時に正常に戻っていた。

 前の俺なら、何も感じなかったかも知れない。おそらく、涙など流してはいなかっただろう。


 だが今は、張り裂けそうな胸の痛みと、悲しみを感じている。怒りではない。これは悲しいだ。皆が思い出させてくれた。


 俺の心の鏡のように、雨が降る。

 それは第3の能力の目覚めに他ならなかった。そして、第2の能力も俺の制御下におかれた瞬間でもあった。心が動き、リミッターが外れたのだ。一目見ただけで、ローリー博士の石化が解かれていく。

 トップヒーローになんて渡してなるものか……


「サタンは、俺が倒す」

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― 新着の感想 ―
[一言] どゆこと? なぜ、いきなり影山が出てきて、イエローたちが死んでんの? 意味わからん
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