第17話:マッドクイーン
「ローリーさんが?」
俺はデバイスを操作して、今度こそローリー博士にSOSを送っていた。だが、どうする?
俺は生身もいいところである。頼れるのはベルだけだ。
「これで、消し済みだよ」
そう言って、サタンが青い炎を放つ。
「ベル」
「分かってる」
そんなことを言いながらベルが炎を展開する。
「何の意味がある」
紫の炎と青い炎がぶつかる。紫の炎は明らかに押されていた。負けるのは明白だ。だが……
「いない」
そうサタンが呟くのも仕方ない。炎が隠れ蓑になり俺たちは逃げ出した。これは戦闘ではない。逃亡だ。逃げるが勝ちである。
炎を背中に感じながら、校舎に入った。
炎がうねりをあげて襲ってくる。
「こっちだ」
ベルに服をつかまれて、俺たちは廊下を転がった。建物に入って俺たちを視認できなくなったと思ったが、青い炎は生き物様に姿を変える。
それは蛇だった。俺たちをおって迫ってくる。
思い切り駆けた。
学校の廊下を今まで出したことのないスピードで走る。それでも駄目だ。蛇に追いつかれる。
そう思ったとき、ベルが前に出た。
あのアモンを倒したけりを蛇にお見舞いする。
「おー」
蛇の首が廊下に転がる。やったかと、心の中で呟いたが駄目だった。
蛇の胴体から、また別の首が生えてくる。止まらない。どうなっているんだ。
「おい、ベル、こいつはどうやったら倒せるんだ」
「……不死身だよ」
「そんな訳ないだろ。死なない生き物がいるか」
俺はサタンの炎の蛇を見ていた。そんな馬鹿な話があるかよ。まだ1分と少ししかたってない。このまま生き残れるのか?
会談を駆けあがり、戦闘で見るも無残になった保健室まで到着すると、大穴から地下に逃げた。少しでも遠くへ、生きるために遠くに駆ける。
「どうした?」
急にベルが止まった。
身体が痛みで震えてもう走れないのに、急に止まるなという話で……
「嘘だろう」
「鬼ごっこはたのしいかな?」
あざける様に、目の前にサタンがいた。最初から逃げる俺たちを観察していただけなのだ。
糞、どうすれば?
「飛ぶぞ」
ベルのそんな声とともに、地面から体が浮き上がる。ベルに抱えられ空へ。その瞬間地面から火柱が吹きあがった。
間一髪回避した火柱であったが、7つの火柱はそれぞれが火竜に変わり、空中で動いて俺たちを襲って来た。
もう逃げ場所なんてどこにも?
「僕は思うんだよね。ヒーローは遅れて登場するっていうけど……僕たちはヴィ欄はどうなんだろう。少しばかり早く来るんじゃないかな。どう思うヤス君?」
竜の首が全て一瞬で吹き飛び、爆発する。
その爆発から守る様に俺たち2人はマントに包まれた。
「助けを呼んだことだけ評価してあげるよ、ヤス君。でも、加点はそこだけで、僕は無茶するなと言ったよ、ぼろぼろじゃないか、20点の赤点だ」
「……マッドクイーン」
サタンは、ローリー博士を見て、信じられないものをみたようにつぶやいた。
「おいおい、こんな美少女を捕まえて化け物見た顔をするなよ」
いや、美少女って……顔をマスクで隠していて分かりませんよ。
しかし、そのマスクは俺でも見たことがあるマッドクイーン。その呼ばれるヴィランのマスクだ。
マッドクイーンはSランクの悪の組織ミステイクの参謀だ。
そして、Sランクの悪の組織は今のところ5つしかない。そして、Sランクの組織の戦力は、トップヒーローすら凌駕する。
ヒーロー本部もSランクの悪の組織には、滅多に手を出せないでいる。トップヒーローの損失を避けるためだ。本来、群れることのないトップヒーロー達もSランクの悪の組織と戦う時だけは細心の注意を払い、チームを組み徒党を組んで戦うと言う。
「そいつはヒーローだぞ。何故お前が出てくる?」
「察しが悪いな、僕の部下だからだよ」
「何? ならもしかしてそいつが……フェイカーか?」
「さあね」
いつものローリー博士だ。態度や感じは何も変わらないおどけた感じだ。
でも今日は、いつもの白衣姿は崩さず、不気味なマスクと、宙を浮く4つの大型兵器によるフル装備できていた。
でも、あのローリー博士である。戦闘要員というよりは、ローリー博士は技術者である。
助けを呼んだが、銀子さんでも連れてきてくれると思っていた。
「ローリー博士……」
不安になって名前を呼ぶ。
「ヤス君、上司命令だ。そこで黙って僕の戦いを見てな。僕にとってあれは、雑魚だから」
不敵にサタンに指を指すローリー博士。仮面越しでもいたずらっぽく笑っているのが分かった。その小さな背中が、今は大きく見える。