第14話:反撃準備
俺は全ての真実をベルから聞いた。
サタンの正体、そしてアモンの狙いについてだ。
アモンはサタンの送り込んだスパイで、サタンの正体や薬の売買がばれないように、中から監視するために、ヒーロー学校に送り込まれたということだった。また、組織内の掃除役を行っていた人物で、すでに薬の売人をやっていた3年生たちは、この前の襲撃の時に死んだと聞かされた。常々死ねばいいと思っていたが、実際に死なれると心にもやもやが広がった。
そして……
「俺が尋問しようとしたために、口封じのための襲撃だったのか?」
「……そういうことになる」
決まづそうに、ベルが答えた。
あの野郎、絶対に許さない。
俺はアモンに対して拳を握った。
「つまりだ。やつの次のターゲットは……」
「ああ、失敗して逃走したデウスだろう。殺しにくるはずだ」
デウスは大けがを負ったが、あの場から逃走したらしい。あの状況では、誰もデウスを捕まえる余裕がなかったのだ。
「……どうしたものか?」
俺はベルと話してアモンの炎の性質を理解していた。アモンの炎はその炎で焼き殺した相手の能力を奪う。それも、アルルの炎と違って永続効果である。
ただ、アモンの炎の威力に関してはアルルの炎とは比べるまでもなく、本体も弱いらしい。さらに、炎系統の能力しか奪えない。デメリットもあるのだ。
光の能力を無視していきなりあらわれたのも、ルシファーの能力のおかげだ。光の能力県外から発動させたのだ。
「俺が証言しようか?」
「一生牢獄で暮らしたいのか?」
ベルの言葉にそう返した。
薬の売人で、ヒーロー学校の襲撃犯だ。捕まれば、死刑か終身刑だ。俺くらいの権限じゃ、恩赦もだしてやれない。せめて、トップヒーローの下部組織であるフェイスくらいの権限がいる。
サタンを倒すために、トップヒーロークラスの戦力が欲しいが、下手にこの街に呼ぶとローリー博士たちにも迷惑がかかるし、不確かな情報では彼らは動かない。
あくまでターゲットをサタンにしぼって、ヒーローを呼びたい。そして、ベルではなくデウスあたりに自白させなければならない。
そのために、デウスを捕まえなければならない。アモンはルシファーの能力があれば捕まえるのは悔しいが不可能だろう。
そのため、ターゲットはデウスだ。
やつはどこにいる?
そして、七つの大罪はどう動いてくるんだ?
「お困りかい、若人よ」
俺たちが考えていると、ローリー博士が突然現れた。
「デウスって子を探しているんでしょ? 君たちは考え方がおかしいんだよ」
自信満々にない胸を誇らしげに逸らしながら、ローリー博士は言った。
「彼は、どこに行ったかではなく、どこに行けたと思考すべきだ」
「!」
確かにそれは抜けた考え方だった。
「僕なら、どこにもいけなかったと解釈する」
「でも、学校には救助隊が入ったと……」
「彼の炎は透明の炎だろう? 自分すらも透明に出来たんじゃないかな?」
「俺、学校に……いててて」
ローリー博士に腕を捕まれる。
「その身体で行くきかい? まったく治ってないし、ベルトもまだ直ってないんだよ」
「でも、俺……病院にいる皆を早く安心させてあげたいんです」
「駄目だ、今無理したら死ぬよ。命をかけるほど大事じゃないだろう?」
「大事ですよ。俺の掛け替えのない仲間なんだ」
俺が一番駄目だった時を支えてくれた同じ窯の飯を食った仲間だ。
思えば、面倒をみているつもりだったけど、俺は皆に支えてもらっていたんだ。それに俺はリーダーになったのだ。皆を安心させてやるのは俺の役目だろう。
「…………」
ローリー博士は深いため息を吐いた。
「男の子だね。銀子ちゃんよりも向こう見ずだ……身体をだますとそのあとにやってくるのは、深い疲労、無理して背伸びしたら背が伸びなくなるのと一緒だ。その怪我は一週間で治る。もっとかかるし、辛いリハビリが待っているよ。それでも良いのかい?」
俺は迷わず、首を縦に振った。
「男だね。だったら痛いの我慢できるよね?」
そうにこやかに笑うローリー博士。
「えっ……ちょ……」
どこからともなく、通常の数倍でかい注射器がでてきた。いつもどうやって出してるんだ?
その後、3時間、拷問かと思える痛みに苦しめられた。
腕はまったく元の焼かれた状態のままである。しかし、その腕は動くようになっていた。身体から痛みが引き、身体が軽い。
「良いかいヤス君、君の身体はだまされているだけだ。決して治ったわけではない。動くのに必要な部分だけを強制的に治しただけだ」
その不完全な状態で再び学校に向かう。
学校につくと当然だが、校門がしまっていた。そして、外からも半壊しているのが見えた。当然学校は休校になっており、ガス爆発という適当な理由が発表され、近くの住民は避難され、1日たった今も人の気配はない。
俺はそのまま校門をけって一番上まで上ると、グランドに降りる。
よく遅刻して鳳凰院先輩に校門閉められた時もこうやって、桃ちゃんと侵入したものである。
あの人、よく怒っていたっけ……
今では懐かしい想い出だ。もう帰ってくることはないだろう。
俺は1人で学校の中に入っていった。正確にはそう思わせているだけである。ベルがいると思われたら、出てこない可能性があるためだ。
校内に入って、俺は迷わず地下に潜った。そしてそこで装備を整える。今回はフェイカーのベルトは使えない。装甲をパージしたときに、ベルトが故障したためだ。
俺はフェイカーとしてではなく、青田泰裕としてここに来た。
そして、やつに勝つためのスーツがここに1つだけ存在している。
新しいスーツに着替えた。桃ちゃんが設計したスーツだ。あの子は才女だから色んなことが出来る。俺には勿体ない凄い子なのだ。
少しだけ温かい気持ちになりながら、昨日のことを思い出して暗く沈んでいった。
俺の大事なものをボロボロにしやがって、絶対に許さない。
あいつだけは、フェイカーではなく、ヒーローとして勝たない俺の気が済まない。
地下室のラボでスーツを用意しながら、デウスの居場所を監視カメラで探した。思った通りの場所にやつはいた。
「よう、デウス」
「…………」
「いるのは分かっているんだぞ」
デウスの炎に夜ステルスは、炎により温度感知にも引っかからない。だが、その性質いうえに、僅かだが、その場所のみ気温が上がるのだ。
これもローリー博士の仮説だ。あの人も本当凄いな。
だから、やつのいる場所がわかった。
そこは保健室だった。けがを治すにも食料もある。ここよりも良い場所はないだろう。
「あっ、誰だよお前?」
俺が出ていかないことを察してやつは姿をあらわした。
「生き残りか?」
「お前は疑問何て持つ必要はない。お前は俺に捕まって一生臭い飯食うんだからな。娑婆のことはお前には関係ないんだよ」
俺がそういうとあざける様に奴は笑った。
「関係ない?お前、何いきってんだ。この街のヒーローは雑魚ばかりなんだから、デカいこと言っちゃ駄目だろ。後で泣くことになるんだからな」
サディステッィクな笑顔をみせるデウス。
「忠告ありがとう。雑魚刈り専門の雑魚らしいセリフで安心したよ」
「は?」
明らかに、デウスは表情を崩した。
「さんざんボコボコにして、後悔させてやるから、お前はせいぜい悲しい過去でも語って命乞いするんだな。まあ、どんな過去があれど豚箱にぶち込むけどな」
「……よっぽど死にたいみたいだな。雑魚ヒーロー」
デウスは今までにない表情を見せた。悪の組織に入るやつは悲しい過去のあるやつが多いことが分かっだ。やつのトラウマでも刺激してしまったのだろう。笑わせやがって、どんな悲しい過去があろうが、頑張って生きている人間の邪魔して許されるどおりはない。悔い改めないのなら、同情の余地何てこれっぽちもないんだよ。
「懺悔の用意は出来ているか?」
「ちょうど、人をいたぶりたいと思っていたんだ。聞かせてくれよ、絶望と恐怖に歪んだ、。敗者の歌を」
「……お前が歌え」