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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
その名はフェイカー~偽物のヒーロー~
10/79

第10話:下剋上等

「あなたがやったんですの?」


 鳳凰院先輩は真っすぐな目で俺を睨んだ。

 そのままヅカヅカと俺の方までやってくると腕を振り上げる。


「駄目ですよ。先輩を傷つけちゃ」


 そうやって、振り上げた手は桃ちゃんに止められた。

 俺はぶたれても良かったのだがな。そのほうが後の展開をスムーズに進められたかもしれない。


「桃さん、離しなさい。間違ったことをした人を叱らなければ私はヒーローじゃありません」


 鳳凰院先輩は桃ちゃんに羽交い絞めにされる。

 1年生とはいえ、モデル体型でスラっと手と足の長い桃ちゃんの方が背がでかい。けして、鳳凰院先輩が小さいわけではないのだが、それでもスキルの使えない環境で大きさの違いがはっきりとあった。


「会長聞いてくれよ、何の罪もない俺たちをその2年が殴ったんだ。そいつ生徒会のメンバーだろ、責任をとれよ」

「本当ですの?」

「どの口が言うんだ」


 桃ちゃんが睨み殺すような視線を向けている。やばい止めないと修羅場になる。


「おい、鳳凰院」

「先輩をつけなさい。先輩を……」

「こいつら薬の売人をやってたんだ。どう落とし前つけてくれるんだ」

「!」


 驚きの表情で、鳳凰院先輩はクラスメイトたちを見た。

 その形相にその場が一瞬凍り付いた。


「詳しく聞きましょうか……」


 俺は昨日実際に見た様子をあたかも他人から聞いたように話した。その間、光が帰ろうとしたが、俺の身が危険なので羽交い絞めにして逃がさなかった。

 俺の話はあくまで話であり、確固たる証拠はない。全て聞いた話だ。そのうえでこの女がどう判断するか……


「証拠がなければ、結論は出せませんわね」


 そういうと思ったよ。

 その言葉は予想通りだった。優柔不断とでも良いのか、八方美人のこと人に何かを決定するような決断力がないのはわかっていた。


「結論が出せないのなら、生徒会長なんて辞めちまえ」


 その言葉に亜門がすごい形相で俺を睨んでいた。

 またそれに呼応して桃ちゃんの顔も険しい。光は怯えていた。

 情けない奴であるが、この重苦しい空気では仕方ないか……


「鳳凰院さん、私と先輩で生徒会の過半数を抑えています。あなたの不信任決議が出来ます」


 冷静な口調で、桃ちゃんがそういうが顔は険しいままだ。

 ただ、ナイスアイディアである。


 不信任で蹴落としてしまえば、レッドはいないし争う必要はない。俺が繰り上がりで生徒会長だ。そしたら、尋問でも何でも好きにやってしまえばいい。俺は止まんねえからよ。

 理事長がいないのなら、ここで一番偉いのは生徒会長だ。 

 簡単じゃん。さすが桃ちゃんは賢いな。

 

 俺は席から立ち上がると、ずっと鳳凰院先輩に言ってやりたかった言葉を言いに、少しスキップしながら向かった。やつの肩に手を置く。


「今日で首だ。二度と面見せんなよ」

「なっ……ずっとそう思ってましたの?」

「当たり前だろ」


 今日は良い日だ。

 やっぱりレッドがいないと上手くいくな。あの疫病神め。


「お前も直ぐに追い出してやるからな」


 アモンに向かってそう囁いた。

 悔しそうに震えてやがる。ざまあ見ろ。

 その時である。俺は辺りが静まり返ったのに、気づいた。皆、どこかに視線を向けている。


「何で? 目の上のたんこぶが」


 呪詛の呪文のように唱えた。

 そういつは、まるで主人公のように遅れてやってきた。ゆっくりとした歩みには存在感があって、相変わらずギザで嫌な奴だ。


「レッド?」

「俺がいないからって、調子乗ってるんじゃないか、ブルー」

「赤木君」


 鳳凰院先輩が嬉しそうに、レッドの名前を呼んだ。


「誰ですか、アゲハさん」

「うちの副会長です。頼りになる方ですわ」

「……ふっ」


 鳳凰院先輩の言葉を聞いて、俺の方を見ると亜門は嫌味な笑顔を浮かべた。いつかぶっ殺してやるからな。


「……兄さん」


 桃ちゃんの言葉とともに、ひそかに盛り上がっていた1・2年生たちは、レッドの登場に敗色濃厚という雰囲気をただよらせる。俺はレッドには一度も勝ったことがない。それもしかたないことである。

 こいつがいたから、俺は3年生に対して反逆できなかった。


「赤木君、今……」

「分かっているよ。大方ブルーが俺のいない間に、悪さしているんだろ。お前はいつまでも人の下にいる奴じゃないもんな。下剋上何て熱いじゃねえか」


 嬉しそうにレッドは笑った。強者の余裕のようなものを感じ取られ、イラッとする。しかし、実際にレッドは強者だ。能力を2つも持っていて、その2つとも強力だ。1つは、光の能力で無効化しても、もう一方の能力とは真正面からぶつからないといけない。


「俺がいない間に不信任決議でもしていたか?」

「…………」

「図星か?」


 この男が出てくるのは完全にイレギュラーだ。

 こいつがいると、俺の思ったようにことが進まなくなる可能性が高い。俺のやることなすこと何でも邪魔する男である。


「兄さん、先輩の邪魔しないでください」

「桃、そいつは碌なやつじゃないぞ」


 面倒くさい奴だ。碌なやつでないのはあっているが……

 あまり悠長にしている暇はないのだ。ささっと膿を出してしまわないと病巣はどこまでも進んで、取り返しがつかなくなる。今は私情を優先している場合ではない。


「3年生の中に薬の売人がいる。俺はやつらを尋問して大元を叩きたい。お前が生徒会長でも良いが尋問する許可を出してくれ」

「…………」


 レッドが俺を値踏みするように見ていた。


「駄目だ。大した証拠もなく仲間を疑えない」

「……証拠なんてまっていたら、何も防げない。ヒーローなら目で見て判断しろ」

「お前はいつもそうだな……覚悟はあるのか? お前の決断が最悪の結果を招く可能性もある。誰かを不幸にするかもしれない。それはお前にはコントロールできない。それでも、お前は迷いなく決断を下せるのか?」

「俺は……」


 俺の決断に色んなものが乗ってくる、生徒会長になるってそういうことだとレッドは言いたいのだろう。鳳凰院先輩も昔はこんな保守的な人ではなかった。

 この人にはこの人なりの重圧があったのだろう。校内をパトロールしてたのだってそうだ。この人なりの責任だったのだろう。


 レッドは屑だけど、馬鹿じゃない。

 こいつだって、わかっているはずだ。なのにこうやって問いかけるのは、俺のことを試しているのだろう。糞生意気なことにレッドはその能力を評価されて、一足さきに卒業して、いなくなることが決まっているからだ。

 俺は……逃げない。そう決めたんだ。もう自分から逃げない。俺は俺の正しいと思ったことをする。


「覚悟は決めたよ。俺がこの学校のトップになる。そのためにあんたが邪魔だ。そろそろ道を譲れよ先輩」

「へー変わったな……いや違うか、お前はそうじゃないとな。後輩」


 独特な空気がその場を支配した。ピリピリとしている。でも痛快だった。この気持ちは男の子じゃないとわからないだろうな。


「みんな、ブルー正しいのかどうかは俺には分からない。だから、ヒーローらしく戦って決めようと思う。デュエルだブルー、お前が勝てば生徒会長になって尋問でもなんでも好きにすれば良い」

「おい、赤木」


 3年生の一人がそう声上げるが……


「黙れ、俺もお前らを疑っている。だがコイツみたいに証拠もないのに、自白剤まで取り出して尋問までしようとは思わんだけだ。筋が通らないからな」

「だけど……」

「俺は負けるとでも」

「ひっ」


 レッドの鋭い眼光に、その3年生は黙ってしまった。

 ヒーローは力が全てだ。そのため、ヒーロー学校では何かあればデュエルで決められる。デュエルに勝てば全てが許される。全くもって馬鹿な制度と思えるかもしれないが、作った人間が馬鹿なのだから仕方ない。

 学生ヒーローは力で決めろと、何かあるごとにデュエルで決められるように理事長がこの制度を作ったのだ。


「行くぞ、ブルー」

「ああ」


 俺はレッドとの後について、生徒会室の奥に入っていく。生徒会の奥から地下の訓練場に行けるのだ。


「待ってください、先輩」

「赤木君、待ってください」


 俺の後に2人のひろーが続いた。さらに遅れてギャラリーがその後に続く。取り残された亜門だけは、ひっそりとその場を後にしたことを誰も気づかない。


 学校の地下には、様々施設が揃っている。生徒会の奥からだけではなく、図書室の隠し扉や、体育館倉庫の床下など、様々なルートからアクセスできるようになっているその場所は、地下3階まであり、それなりの広さを備えている。


 その中でも、比較的狭いバスケットコート2面ほどの訓練場にレッドが進んでいった。その広さは、ちょうど光の能力発動範囲と重なっているのは偶然ではないだろう。


「お前の友達の能力はオートで発動するんだろう」

「そうだが、ハンデのつもりか?」

「これは余裕だ」


 むかつく、きざで嫌な奴である。

 しかし、冷静になって考えれば、能力2つとも使われては俺に勝ち目はないのだ。

 能力が1つになって、始めていい勝負が出来る。そういう相手なのだ。銀子さんにボコボコにされたレッドであるが、あれは銀子さんがおかしいだけで、俺よりも遥か高みにいる。


「……怪我はもう良いのか?」


 銀子さんのことを思い出し、一応聞いて見た。


「俺の能力分かっているだろ。もう万全だ」

「……安心したよ」

「心にもないことを言うなよ」

「違うよ。思い切り殴れると思ってな。もう一度病院に送ってやるよ」

「能力が1つの俺にも勝ったことないだろ」

「昔の話だ」

「そうだな。今の俺は昔のお前に似てきてるもんな」


 気持ち悪いことを言い出した。


「ヒロ、本当にやるのか?」


 光がそう聞いてくる。

 こいつには感謝しないとな。コイツがいないと勝負が成立もしなかった。


「何のために戦うんだ? あの人話わかりそうだし、別に戦う必要はないだろ?」


 実に一般人的なことをいう、まあ仕方ない。一般人だからな。

 戦っても金にもならない。話し合えば解決するかもしれない。非合理的なのはわかってる。でも、この戦いは昨日したような怒りをぶつける手合いのものではないのだ。それくらい、俺にだって分かる。

 この戦いは……プライドのぶつかり合いだ。避けては通れない。我を通したいのなら、越えて行けと言われているのだ。この不器用な男に、だったら、逃げられるはずはない。だって、俺はヒーローだから。


「先輩」


 桃ちゃんが心配そうに見つめてきた。

 

「俺は勝つ、もう逃げない」


 呪文のようにつぶやいた。自分に期待してない過去の俺はもうどこにもいない。俺は何にだってなれるのだ。 


「武器はあり、スーツは無し、相手のどちらかを戦闘不能にしたら勝ち。こんなところか?」

「異存はないぞ」

「じゃあ、ギャラリーも集まったし、そろそろやろうか」


 レッドがにやりと笑いながら言う。その言葉にギャラリーが湧くとともに、誰かがタイミングよく訓練場のシステムを操作し、訓練場の下から様々な武器が上がって来た。

 俺はその中から使い慣れた刀を一本拾って鞘から抜いた。


 レッドはそれを楽しそうに見ていた。こんな武器ありのルールまで、俺が有利になるように設定している、その真意に気付かないほど俺は鈍感ではない。

 言い訳の一つも通じないほど徹底的に、俺に敗北を与えたいのだ。本当に嫌な奴だが、レッドは絶対に言い訳を言わせないつもりだ。

 そして、この男も言い訳を言わない。

 だから、この状況に乗っかることにした。何も口を挟まない。勝てばいいのだ。それがどれだけハンデをもらった状況だったとしても、勝った方が強いと胸をはって言おうじゃないか。


「行くぞ」

「ああ」


そんな2人の掛け合いから勝負が開始した。


 レッドが地面をけると同時に、一瞬で間合いが詰まる。とてもスキルの使えない状況下での人間の動きとは思えない。

 それを可能にしているのが、レッドのスキルである『レベルアッパー』だ。戦えば戦うだけ、その戦いの記憶が血肉になって、人間の限界を超えて強化されていくという、意味の分からないスキル。

 

 俺のコピー能力と同じで一度発動すれば、永続的にその効果を発揮する。

 光のスキルは万能じゃない。過去に活動したスキルは消せないのだ。だから、俺のコピーもレッドの成長も消えない。


 俺よりも遥かに万能なスキル。唯一の弱点と言えば、その成長スピードが緩やかなことであろう。

 スピードはもちろんのこと、パワーにいたっても純粋な強化能力に劣る。だが、それを補ってあまりあるほどの技があった。肉体強化とは違い、技も身に着けることが出来るのがこのスキルのいやらしい所だ。


 俺の牽制ではなった一閃は空を切り、一気に懐に入られる。そのままの低い姿勢から浮き上がってくる拳は、回避不可能の一撃だった。

 身体が宙に浮き、一転、地面に叩きつけられた。


「先輩!」


 桃ちゃんの声が聞こえるだけで、それ以外はあまりの一瞬のことで静まり返っていた。


「早いな。もう終わりか、ブルー?」


 次は、レッドの声が響いた。全くうるさいやつだ。


「終わりのはずないだろ」


何とか地面から立ち上がる。


「刀を捨ててガードしたのは正解だったな。だが、ガードした腕は終わったんじゃないか」


 ガードした腕は、びりびりと痺れている。折れていないが数分間は使い物にならないだろう。だけど、安い買い物だ。

 

 ルシファーとの戦いで、俺は学んだことがある。自分よりも強い相手と戦うには、ある程度捨て身でないといけないと言うことを……攻撃のタイミングと、動きの速度にパワー。今の一撃で全部わかった。

 レッドは常に進化するので、会うたびに実力が良く分からなくなるのだ。腕一本でそれが測れたのは大きい。


 俺は落ちている槍を一本拾った。元々長引かせて勝てる相手ではない。地力が違うのだ。短期決戦しかない。次の一撃で最後だろう。

 俺は弱い。


「俺なら、寝てる相手に追撃して確実に勝つぞ」

「……何が言いたいんだ。そうされてないから、お前は立ち上がれているんだろ?」

「お前の敗因を教えてやっているんだよ」

「本当に変わったな。何もかもを諦めて無理に自分を演じていたようなお前が、何があった?」


 何もかもお見通しだったようで、少し笑えた。

 嫌いだからこそ、奇妙なほどお互いを理解していることもある。


「俺は俺の道を見つけた。レッド、お前が戦隊に入れたおかげだよ……」


 そのおかげであの2人に出会えた。どういう結末を迎えるかはわからない、でも……


「お前には感謝してる。だけど、ここでお別れだ、俺は別の道に行く。お前とは一生交わらない」

「そうか……」


 すこし寂しそうな声音。俺とコイツの関係は決して友達でもなければ、ライバルでもない。お互いがお互いのことを嫌っていた。だが、リスペクトできるところがあることはわかっていた。だからあえて称するなら、仲間くらいまではいっていただろう。


 勝負は一瞬。

 人間の限界を超えた脚力で間合いを再度詰めたレッドに対して、低く構えて向かいうつ。避けるつもりはなかった。地面に根をおろしたかのように低く構えた。それに対して、正面からの攻撃は不利と悟ったレッドが軽快なステップで、俺の後ろに回る。

 見えたわけではない。でも、確信があった。


 全て想像だ。だけど、自分の判断に自分の決断に、何の躊躇いもあるものか……覚悟を決めたのなら、こんなにも自由だ。俺はレッドがそこにいるとういう自分の判断を信じた。まったく見えもしない背後に、自分事、槍を突き出した。

槍は、もろい人間である俺の体を完全に貫き、深々とレッドの体にも突き刺さった。完全な死角に入っていたレッドにとっても、俺の身体は死角だった。


 地面を支えとし、レッドの勢いをカウンターとすることで、人間離れした防御力をもつレッドの体に槍が刺さったのだ。


「お前……」


 レッドは唖然としていたが、それ以上の言葉が出てこないでいた。完全に急所を貫いたためだ。勝つために文字通り手段を選ばなかった。

 崩れ落ちるレッド。自分の急所は外したとはいえ、俺の体も槍が深々と刺さっているために、痛いとかそういうレベルではない。

……でも言わなければならない。何かを変えるには、口に出して言わないと。


「181戦1勝だ、俺の勝ちだ」


 残った力を込めてそう宣言すると、流石に限界で地面に倒れるしかなかった。


「……リーダーなら、迷うなよ」


 最後にそんな声が聞こえた気がする。 

 

 

悪の組織 

ローリーたちの高層マンション


「ふげけるな。こちらは幹部が殺されているんだぞ。フェイカーをさしだせ」


 怒りに震えた悪魔の体から青い炎が発散され、部屋一帯を燃やし尽くさんがごとく燃え盛る。ただ、それを見ても涼しい表情で、ローリーは口を開いた。


「それは出来ないね。部下は売れない。それにルシファーはそちらのアモンが、口封じのために殺したんだろう」

「その状況を作ったのはやつだ。それにやつには薬の取引を邪魔された。どういうつもりだ。悪の組織が、ヒーローごっこか?」

「僕のシマで勝手に薬をさばいておいて、何言ってるんだい?」


 ローリーの言葉に悪魔は後ずさりした。


「お宅のナンバー2に許可を得ている」

「あいつが何と言おうと僕には関係ない。出ていかないとただじゃ済まないよ」


 悪の組織にも格がある。ローリーたちの組織のほうが圧倒的に格が上だった。

 それでも、悪魔は言った。


「こちらは、高い金を払って商売しているんだ」


 自分の理を通すために……


「知るないな。あいつは平然とそういうことするんだよ。それに僕たちの組織は横のつながりが薄いの知っているだろ? 僕はボスの言うことしか聞かない」

「フェイカーを差し出す気も、認める気もないと?」

「ないね。あれは僕のだからね」


 その言葉に、銀子は納得いかないという顔をする。


「おい、私が拾ってきたんだぞ」

「銀子ちゃん黙ってていったよね」


 イラっとした顔で、ローリーがそう返す。


「何もゆずらないと?」

「悪の組織に譲り合いの精神なんてあると思うの?」

「戦争になるぞ」


 その言葉に、銀子は笑った。


「戦争でもなんでもやればいいじゃないか?」


 それを、また勝手なこと言っているよと、ローリーはあきれたような顔を向ける。


「ここは、利益の分からん馬鹿ばかりなのか? ここには学生ヒーローばかりだ。欺くのは容易い。商売をするのには最高の環境だ。なのに、貴様らは何もしてない、何が目的でここに居座っている?」

「だからこそさ、ここは平和だ。僕の研究にはもって来いの場所だ。だから、君みたいな格下に暴れられると目障りなんだ。それに、ヒーロー学校の生徒を使って、薬をさばいていたらしいじゃないか? ばれたらどうするつもりだったんだい、そんな不祥事が浮き彫りになれば、この平和な街に、中央からトップヒーローがくるかもしれない、君のやったことは下の下だよ」


 ローリーの言葉に、悪魔は激高してソファーから立ち上がった。否、ソファーが燃え尽きるタイミングだったために、立ち上がっただけなのかもしれない。


「そんなことは分かっている。だからこそ口封じをしないといけない。ヒーロー学校を襲撃してね」

「!」

「その顔を見たかった。もうことは起きている。誰も止められない。トップヒーローがきて、この街の悪の組織は崩壊するだろう。私は十分稼いだし、どこかに姿をくらますさ」

「最初から、それが目的だったわけだ?」


 全てを察したように、ローリーがそう問いかける。元々戦う気も認めてもらう気もなかったのだ。したかったのは時間稼ぎ。

 トップヒーローが来てほしくないのはどこの悪の組織も同じだ。それを呼寄せようとするなら、止められるのは必然、

 そして、フェイカーが目障りだったから、あわよくば殺すためにきたのだ。


「私の商売をつぶしたあの屑だけは殺す」

「帰れると思っているのか?」

 銀子の拳が悪魔をとらえたが、身体は火の粉に変わって霧散して消える。


「ヤス君……」


 ローリーが心配そうに呟いた。


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