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担任の先生

なんだか思っていたよりも話が進むのが遅いです・・・。

次回の投稿は遅くなるかもしれません。


「先生、山本さきさんにプリント届ける役やりたいんですけど。」


グランドからは野球部やサッカー部など、運動部の活発な声が聞こえてくる。

放課後の職員室に橋口は来ていた。

6月の中頃で、もうじめじめとした暑さがある。

訪ねてきた橋口に先生は答えた。

「もう高校生なんだからそんなことをしなくても・・・」

「いえ、友達なのでお見舞いに行きたいんです。ただ家の場所を知らなくて。」

「そうか・・・だが個人情報だし・・・」

先生は困ったように返事をする。

橋口はそんな先生の様子をうかがい、ゆっくりと語りだした。

「もしかしたら、俺が今日休んだ原因かもしれないんです。」

「・・・何?どういうことだ?」

「ちょっとケンカしたというか・・・俺がいろいろ言ってしまって・・・だから謝りに行きたいんです。」

まっすぐ先生の目を見る橋口。

先生も何かを探るように橋口の目をじっと見た。

「・・・ちょっと待ってなさい。」

先生はそう言うと丁寧にファイリングされた名簿のようなものを出し、パラパラと紙をめくっていった。目的の資料が見つかったようで、紙の上の方に右手の人差し指を当て、そのまますーっと滑らかに下へと動かしていった。途中でピタッと止まったかと思うと、今度は左手で先生のデスクの前に置いてある電話の受話器を取った。どうやら調べていたのは電話番号のようで、番号を確認し電話を掛け始めた。

橋口は先生の一連の行動を少し眉をひそめて、何してんだ?と言いたそうな顔で観察していた。


「あ、もしもし、私○×高校の中村と申します。山本さきさんのご自宅でよろしいでしょうか?」


「っ!?」

橋口の声にならない声が漏れる。

どうやら相当驚いたようだ。

それは無理もない事で、担任の先生は頼りにならなそうな見た目をしており、行動力という言葉からイメージがかけ離れているからだ。どちらかというと頭が固そうな雰囲気である。

そんな先生が友達に謝りたいという橋口の想いを理解して電話を掛けてくれるなんて思ってもみなかったのだろう。

山本さんに今日会える可能性はほぼないと諦めながらも職員室に来たかいがあったと橋口は内心喜んだ。


「私、さきさんのクラスの担任なのですが・・・ええ、はい。体調はどうでしょう?・・・それはよかったです。あの、よろしければ少しさきさんとお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?連絡事項がありまして・・・はい、ありがとうございます。」


橋口は、たぶん今山本さんと電話を替わるために少し待っている時間があるはずだと思い、タイミングを見計らって

「先生、ありがとうございます。」

と担任の先生にだけ聞こえるくらいの小声で言った。

先生は橋口を見て、口元だけでニヤッと笑ってみせた。


「お、山本さんかな?お母さんから体調はだいぶ良くなったと聞いたけどどうかな?・・・それはよかった。実は連絡事項というのは・・・橋口が今職員室に来ていてな、君に謝りたいと言っているんだが・・・」


先生はチラッと橋口を見た。

橋口は受話器を渡せと言わんばかりに手を出している。

先生は困った顔をしたが


「電話代わってもいいかな?嫌なら嫌と言ってくれていいぞ・・・ああ、じゃあ代るな。」


と言って仕方なく代わってくれた。

先生は予想外にも行動力と優しさがあるようだ。

橋口は受話器を手渡された瞬間に緊張した。

昨日さきが取り乱したことを思い出したらしい。また傷つけるようなことを言わないようにしなければ・・・。

電話のコードの長さのせいで橋口は先生のデスクに手をつき、前かがみになった。


「・・・こんにちは、山本さん。」


橋口はゆっくりと話しかけた。

さきはまだ少し戸惑っているようで、返答に間があった。


「・・・こんにちは、橋口君。」


おそるおそる様子をうかがうような声だった。

さきの声を聴いて橋口は緊張が解けたようで、いつものように明るく話し始めた。


「山本さん、今日直接会って話したいんだけど大丈夫かな?俺、そっちまで行くから・・・。」


「え、こっちまでって・・・私の家遠いよ?」


「いいよ、行くよそれくらい。」


「・・・。」


さきは迷っているようだった。

当たり前だ。突然学校から電話がかかって来ただけでも驚いて焦るだろうに、そこから電話の相手が橋口に代わるだなんて思わなかっただろう。

ましてや家の方に来ると言い出すなんて。

沈黙が続く。

これはダメかもしれないと思い、橋口は諦めようかと考え、何かを言おうとした。

その時


「わかった。△△駅まで来て。私もそっちに行くから。」


とさきが言った。


「っありがとう!すぐ行く!」


それまで硬く暗かった橋口の顔がパァッと明るくなった。

その様子を先生は暖かく見守っていた。

橋口はその後さきと軽い挨拶をして電話を切った。


「先生、ありがとうございました!」

橋口は心を込めて感謝の言葉を言った。

先生はまたニヤッと笑った。

「仲直りできるといいな。二人とも明日学校に来れるようにな。」

「はい!では失礼します!」

元気よく返事をして橋口は去っていった。

先生はそれを見送って

「青春してるなぁ」

とつぶやいた。


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