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隣の席の人

少し暗い話になります。

まだ展開をいろいろと考えている途中なので更新が遅くなると思います。


2年前の○月×日。

春休みのことだった。

その日、私、山本さきの友人、藤崎千春は

()()()()

中学1年の時だった。




現在中3の春休み。

受験も終わり、高校も合格。

千春と一緒に行きたかった高校には行かず、住んでいるところから地下鉄で1時間もかかる遠い高校にした。そこなら、同じ中学の人もいないし、さきと千春のことも知っている人はいないはずである。というのも、さきの通っていた中学の近くには高校が3つほどあり、偏差値もバラけているため大体みんなそこに行くのだ。


新しい生活。

世界中のどこを探しても、宇宙に行っても千春はいない。

空を見上げても、うつむいて地面を見ても、千春とはつながっていない。

そんな世界で2年間。

だからもう、千春を知る人にかわいそうな目を向けられることが嫌だった。気を使われたくなかった。

そんなことをしたって千春はもどってこないでしょう?

だけど一番千春のことを、まだ、忘れられずにいるのは私だった。

 なんで自殺したの?

 どうして何も話してくれなかったの?

 ――――私たち、友達だったよね?

そんなことに答えてくれる人なんていない。

私には私の人生がある。だから高校も行くし、大学も行くし、就職もする。

そんな日々を、他人より重たくて暗い影を持ちながら―――。




高校1年生になった。

やはりどこにも同じ中学の人はいなかった。通っていた中学からここを受験したのはさきだけであったから当然だ。

出席番号順に並べられた席。周りの人は男子ばかり。私の席だけだけど。

担任は数学教師で、背が高くて細い、35歳くらいの男だった。

なんとも頼りになりそうにない人であるが、思っていたよりも声がしっかりしていた。


入学式の次の日からさっそくオリエンテーションが始まった。

 友達を作る気はあまりないし、席が悪い。でもさすがに1人はよくない。どうしよう…。

と考えていると、隣の席の男子が話しかけてきた。

「ねぇ、どこの中学?」

「…遠いとこ」

「じゃ、俺と同じだ」

にかっと笑って彼はそう言った。

「なんか、もうグループできてるよな。同じ学校から来たやつ多いんだろうなー。」

「私は1人だけどね。」

「あ、俺もー。よかったら友達にならない?俺、橋口裕太。」

「…山本さきです。」

「よろしくなー。」

彼はまたにかっと笑った。

「…うん。」

彼、橋口裕太はとても気さくで明るい人だということがわかった。まさか高校の友達第1号が男子になろうとは思ってもいなかった。まあたぶんこれ以上友達は作らないだろうから2号はいないのだけれど。彼の笑顔は明るくて、温かくて、でもなんとなく子供っぽかった。




その日から、橋口は何度もさきに話しかけてくれた。

さきはもともと橋口のように明るい性格であったが、千春の自殺後は口数が少なくなり、控えめな子になってしまっていた。

それに加え、最初は男友達なんてできたことがなかったため緊張していたのだが、毎日話しているとだんだん慣れてきて、彼の前だと昔のように明るく振る舞えるようになった。

しかし、彼と仲良くなればなるほど、さきの心は暗くなっていった。

 私だけ、楽しく高校生活を送っている。

 それを千春は許してくれるのかな?

 千春も本当なら笑って一緒に高校生活を―――

「おい、聞いてんのか?」

「え…あ、うん。ごめん、ぼーっとしてた。」

そういって彼に笑いかけようとした。しかし、うまく笑えず苦笑いになってしまったようだ。

「…どうしたんだ?最近ずっとそんなんだぞ?…俺と話してる時だけ」

「別に、何でもないよ。心配してくれてありがとう。」

「…まぁ、あんま無理すんなよ」

「うん。」

さきは橋口に微笑んだ。

今度はうまく笑えたみたいだった。




 千春の過ごしたかった日々を、私は今、送っている。

  私が、あの子の心の支えになれなかった。

  だから千春は自殺してしまった。

  ごめんなさい。

  こんな私が楽しい日々を過ごしていいはずないよね。

授業前、うつむいて机を見ながらそんなことを考える。

いや、本当は視野に机が入っているだけであってさきは何も見ていなかった。

それは2年間ずっと変わらない。

だけど、彼を見ているときだけはそんな気持ちにはならなかった。




それから2か月間、そんな日々が続いた。

ある日、橋口はさきに言った。

この学校で誰よりもさきを見てきた彼は、ついに聞いてきたのだ。


「中学の時、何かあったの?」


目を見開いて息をのんだ。

視界が狭くなる。

世界がどんどん端から暗くなっていく。

呼吸が苦しい。

「ごめん!追い詰める気はなかったんだ!」

大きな声で言っているのはわかったが、なぜかぼんやりと聞こえる。

彼はとても後悔しているようだった。

橋口君が暗い顔をする。

申し訳なさそうな顔を。

そんな顔をさせたくなかった。

弱い自分が大嫌いだった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

気が付くと、うつむいたまま小さな声でさきは繰り返しそう言っていた。

 橋口君に悪い事をしてしまった。

そう思った。

だから謝った。

「ごめんね、橋口君。」

「…俺こそ悪かったよ。」

彼はもっと悲しそうな顔をした。






―――次の日、さきは学校を休んだ。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

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