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Episode006 星川町電脳戦再び

 今回は少々歯切れの悪い終わり方かもしれません(ぇ


 同時刻


「ぅお……こりゃあ、なかなか強固なファイアウォールだな」

「夜になった先進国の、複数のパソコンにコンピュータウィルス送って作った即席スパコンの演算使ってこれかよ」

「相手はどこの大国のスパコンだよ?」

「どうも日本らしいぞ」

「日本!? 確かに日本の製品は高品質だが……ここまでのモン発明できるか?」

「世界のGNP第3位もなかなかやりますね」

「そういう問題か?」

「絶対これ作ったの、日本だけじゃないだろ」


「どちらにせよ……私達【Arachnet.com】の相手には相応(ふさわ)しいスペックだな」


 複数の成年の声が、部屋の中で静かに響く。

 その部屋は一見、まるで学校のパソコン室のように、机と椅子、そしてパソコンが多く存在する場所。だが、地下に存在するのか1つも窓がない……人によっては息苦しさを覚える質素な場所だ。


 しかも部屋は、パソコンから放出される熱を冷ますため、常時エアコンから冷風が吐き出されているせいか……まるで日本の四季で言うところの秋であるかの(ごと)く涼しい状態に(たも)たれている。


 見るからに特殊な部屋だ。

 そしてそんな部屋を使う彼らこそは、コンピュータウィルスやファイアウォールなどの単語からも分かる通り、ハッカーやクラッカーなどと世間では呼ばれている者達で構成された犯罪集団にして……現在星川町を攻撃している存在だ。


 その名も【Arachnet.com】。


 まるで蜘蛛の(ごと)く、知らず知らずの内に標的の周りに罠を張り巡らせ追い詰めていく自分達の戦術から……蜘蛛関連の存在というだけで、ギリシャ神話に登場する蜘蛛に転生させられた女性アラクネを元ネタに、彼らが適当に付けた名前である。


 だが犯罪集団と言っても、上下関係などは無く、彼らにとっては適当に集まって適当に活動する、(ゆる)い空気を(まと)った倶楽部活動に近い。

 そして倶楽部活動感覚なだけに、集まると大抵は遊び感覚で、適当な国の適当なコンピュータにハッキングやクラッキングを仕掛ける。


 それ以外で動くのは、彼らの腕を見込んだ存在からの依頼を受けた時。

 依頼人がキチンと金さえ支払えば、彼らはあらゆるコンピュータにハッキングやクラッキングを仕掛け、時には世界情勢さえ狂わせる。


 しかし現在、そんな特殊な彼らが居る常時冷房空間は……エアコンのスペックを(りょう)()しかねないほどの熱気に、徐々に満ち始めていた。


 それだけ彼らのパソコンに負荷をかけるほどの、激しい電脳戦が繰り広げられているというのも勿論(もちろん)あるだろう。だがそれ以外にも……久しぶりに生きの良い標的に出会えた事に対する、喜びと興奮もあった。


「まさかあの【Searcher】が、俺達を始めとする犯罪組織の使う裏サイトに久しぶりに現れたかと思ったら……こんな強敵を紹介してくれるとはな」

 構成員の1人が、興奮冷めやらぬ状態で声をかける。


 その事からして、おそらく例の謎の掲示板に書かれ、すぐ消された投稿にあった『ANC』は【Arachnet.com】を、そして『S』は【Searcher】を指していたのだろう。


 だが待て、(しば)し。

 そもそも【Searcher】の正体は……。


「というか、これだけ強固なファイアウォール……もしや【Searcher】が負けて、その復讐として俺たち利用されているんじゃねぇか?」

「アッハッハッハッ! あり得る!」

「ヤツが米国防総省(ペンタゴン)に攻撃を仕掛けたせいで……世界のファイアウォールの水準が少々上がったと聞くし、あり得なくはない」

「どちらにしろ、これだけのファイアウォールだ。最後の最後で、何があるか分からん。もしかすると【Searcher】もそれにやられたかもしれん」

「そうだな。油断は禁物。警戒しながらも全力で行くか」


 そして彼らは、改めて気持ちを引き締めて……星川町の攻略を再開した。


     ※


 電脳世界


 ミコガミは『塔』の防衛プログラムと上手く連携しながら、侵入者の放ってきた攻撃プログラムや疑似人格プログラムと戦っていた。


 攻撃プログラムは、電脳世界の住民の目には複数の蜘蛛の形に映った。

 それも、気持ちの悪い表現だが……卵から(かえ)った大量の蜘蛛の子のようにウジャウジャと。それらは『塔』の電脳世界に牙を突き刺し、そのエネルギーを吸収し、代わりに突き刺した場所にバグを発生させた。


 疑似人格プログラムは、まさに蜘蛛型怪人のような容姿をしており、大量の蜘蛛型攻撃プログラム同様破壊活動や、防衛プログラムを襲撃したりしている。


 一方防衛プログラムは、前回の電脳戦の時と同じく西洋甲冑姿な騎士の姿をしており、その剣で蜘蛛型攻撃プログラムや蜘蛛型怪人を攻撃し、そして電脳世界に突き立てる事で、どういう原理かは不明だがバグを修復していくのだが……数がほぼ拮抗(きっこう)しており(らち)()かない。


 ミコガミも己の専用武器である大剣『ミカナギ丸』や、前回の電脳戦の(あと)に新たに追加された専用武器である魔滅弓『アズサ』を(もち)いて蜘蛛型攻撃プログラムや蜘蛛怪人型疑似人格プログラムと応戦するが、なかなか敵の数が減った様子が無い。


「主様からの命令です。作戦『F』で行きます。ただちに侵入者達を例のブロックへ――」


 しかし疑似とはいえ人格プログラム。

 恐怖などの感情をおぼろげながら理解しているにも拘わらず、彼女は引かない。それどころか己の創造主の作戦を『塔』へと伝えた。

 すると『塔』のプログラムも、カルマの作戦を信じているのかすぐ『了解です』と答え、徐々にだが防衛プログラムの陣形を変化させた。


     ※


 現実世界


「おぉっと!? なんか侵入しやすくなったぞ!?」

「慌てるなよ? ここで下手に踏み込んでは【Searcher】の二の舞になるかもしれん」

「だが今が好機である事には違いない」

「慎重に行きつつも、全力で行くぜ!」


 そして【Arachnet.com】による星川町の『塔』の攻略は()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 相手のコンピュータの防衛プログラムや、そして相手のモノと思われる疑似人格プログラムによる()(とう)の攻撃を受けたものの、相手側が()(へい)してきたのか、陣形に綻びが生まれ……ついに相手のパソコンの中枢と(おぼ)しき場所へと至ったのである。


     ※


 電脳世界


「貴様には悪いが……ここは押し通らせてもらおうか」

 蜘蛛型怪人の(ごと)き容姿の疑似人格プログラムの1体にして、特に高い実力を持つ『スパイダー・ジョー』が、中枢へと至った他の蜘蛛怪人型疑似人格プログラムを背に、ミコガミと相対する。


「安心しろ。我が主様達の望みは強者との闘いのみ。貴様を消去、もしくは貴様の主の情報を得よとは命令されていない。だからここは、おとなしく去れ」


「そう言われて引き下がっては……主様の忠実な(つか)いたる、私達の恥でしょう」


「なるほど。確かにそうだ」


 スパイダー・ジョーとの戦いで、疲弊した様子のミコガミ。

 だがしかし、かけられた情けに素直に従うほど心は折れていない。

 彼女はスパイダー・ジョーに鋭い眼差しを向けつつ、静かな声で反論した。


 するとスパイダー・ジョーは、己の専用武器である2つの小型ナイフ『ファングセイバー』を構え直す。そしてミコガミも、大剣『ミカナギ丸』を構え直し――。


 ――両者は再び交差した。


     ※


 現実世界


「よっしゃ! ファイアウォール突破!」

「思ったより強固だったな」

「あの【Searcher】が苦戦したとしても不思議じゃない」

「俺達はあらかじめ、突破のための準備をしていたからなんとかなったな」

「さぁて、突破した先にあるのはいったい何かなぁ……って、あ~ん?」


 そして星川町の『塔』のシステムは突破された。


 しかしその直後。

 彼らの中の1人が素っ頓狂な声を上げ、そして――。


「な、なんだこりゃ?」

「おいおいおい、マジかよ?」

「ここまで来て……そんなぁ」


「こ、こいつぁ……()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 ――見た者から順にガッカリした。


     ※


 電脳世界


「ッ! 承知しました我が主様」


 ミコガミと交差した直後。

 スパイダー・ジョーは腹の部分に受けたダメージを(こら)えながら、己の創造主から届いた命令を承諾した。


「今日のところは……いや今夜か? とにかく今回は引き分けにしておこうか」


 そして己に傷を与えた、背後に立つミコガミにそう声をかけると、すぐに仲間の疑似人格プログラムや攻撃プログラムに帰還の指示を出し、そのまま消えるようにその場から去って行った。


 そして、声をかけられたミコガミは――。


「……こちらも『塔』の演算能力の一部を、借りるべきだったでしょうか」


 ――スパイダー・ジョーと同じく腹にダメージを()っていた。


 しかし彼女はそれを(こら)え、スパイダー・ジョーとの電脳戦を思い返す。


 前回の電脳戦の時の侵入者とは違い、今回の侵入者は膨大な演算能力を『個』にせず『群』にして使っていた。

 そして蜘蛛型怪人な疑似人格プログラムも、その膨大な演算能力の恩恵を受けており、ミコガミとほとんど互角に戦えていた。


 いったいどれだけの演算能力のバックアップを受けていたかは不明だが、少なくとも彼らは、ミコガミが前回の電脳戦の時や、かつて米国防総省(ペンタゴン)から逃走する時に使用した『ダミー・プログラム』を看破し本物だけを攻撃するという芸当を見せ、さらに言えば『ダミー・プログラム』と似ているプログラムや、この電脳世界を構築するプログラムに偽装――(すなわ)ちカメレオンの保護色の要領で姿を隠し、いつの間にやら背後に出現するなどの恐ろしい戦術を使ってきた。


「……今回は守れましたが、できれば何度も会いたくはないですね」


 電脳戦を思い返し、思わず彼女は誰に言うともなくそう呟く。

 そして己のダメージを回復させるためにも、すぐにカルマのノートパソコンへと帰還した。


     ※


「ええー……? どうやったんですか今ー?」

 そして現実世界では、なんとかハヤト達は、地下世界に続くハシゴを昇り終え、さらには『塔』からも脱出していた。


 今まで暑い空間に居たためか、9月上旬の蒸し暑い夜に拘わらず、かなり涼しく感じる。むしろ寒いかもしれない。それだけ地下世界は暑かった。

 さらに言えば、あと数分脱出が遅ければ、暑さのせいで体力が消耗し、地下世界に落下という……ふりだしに戻りそのままデッドエンドを迎えるという最悪の結末を迎えていたかもしれない。


 外に出ると同時に、4人は涼しさをより深く味わうべく地面に寝転んだ。

 ある程度体力を回復させると、カルマはより一層、対侵入者用の作戦を、完璧に近いレヴェルまで細かく考えてはミコガミへ伝え、ハヤト、かなえ、ラウルの3人は、そんなカルマを見守った。


 そして先ほど、ついに電脳戦が終局を迎えたのだが……カルマの言動だけでは、彼がいったい何を実行し、何が起こったのか、ラウルには全く想像できなかった。


「ゴメン、私にも分からない」

「俺もだ。いったいどうやって追い払ったんだ?」

 かなえとハヤトも手を上げ、正直に言った。


「相手はおそらくハッカー集団、もしくは複数のパソコンを繋げる事で、一時的にスパコン並みのスペックを得た個人だ。本気で勝とうと思うなら、こっちは集団で対抗するしかない」

 そんな3人に、カルマは(りち)()に解説した。

「本当はこっちも、町外のパソコン繋いで対抗したかったけど……いろんな意味で時間が無かったからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『ダミー・ホームページ』に誘導をして……一応、そこと侵入経路以外を、一時的に隠したんだ」


「という事は……よっぽどつまらんホームページだったのか? 侵入者が撤退するなんて」

 電脳戦に(のぞ)んでいたカルマの言動から、電脳世界において起こった事をある程度予測しながら、ハヤトは口を(はさ)んだ。


「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お爺さんの、他愛もない日記が載ったホームページだ。ちなみに、その非実在性お爺さんは去年の冬に亡くなった設定」


「なるほど。撤退するのも納得だなッ」


 確かにそれは……現代人からすればあまり見るに値しない味気ない内容だろう。

 ミコガミという疑似人格プログラムや防衛プログラムがそのページ内に存在したワケも、パソコンを使うサラリーマンだったから、という形で一応説明もできる。


「それでも詳しく調べてきた場合には、日記の1つに書いておいた『自分が死んだ時のために遺産を山に埋める』という内容に、さらに詳しく調べるのをやめて注目するかもね。相手が金目当てならなおさら。ちなみにその場所だけど……星川町がある場所から北に8km。非実在性お爺さんの友人という設定にしておいた、()()()()、俺達からしたら全くの赤の他人の土地である山にとりあえず設定しといた。事実も少しは書かないと信じてもらえないからね」


「お前ってヤツはッ」


 それでは金目当ての集団ならば、他人の土地とも知らずにその山の中に侵入し、最終的には逮捕されるという結末を迎えるだろう。


 しかし、最終的な結末がそれでも……星川町とは無関係の人に迷惑をかける事実は変わらない。

 ハヤトは、今回の『塔』ハッキング事件の忙しさによる疲れだけでなく、いずれ書く羽目になる、今回の事件の報告書の分、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……頭痛を覚えた。


     ※


 数日後


「…………あれぇ? なんで星川町のファイアウォールが健在なのぉ?」


 とあるホテルの一室にて、1人の少女がパソコンの画面を見つつ困惑した。

 普段身に着けているウサギミミの付いた帽子も、ワイシャツもスカートも適当に部屋の中に放り出し、下着姿で、パソコンと一緒にベッドに横になっているという

……だらしない状態で。


 そんな風邪を引きそうな格好の少女は……中学生くらいだろうか。

 少しずつ大人に近付いているかもしれないが、彼女はまだまだ美人と言うよりは可愛(かわい)らしいと言うべき顔付きと、小柄な体格をしている。


 だがそんな彼女は……普通の中学生の(くく)りに入れられる存在ではなかった。


 なにせ彼女は【Searcher】こと不動カルマと激戦を繰り広げた存在。

 かつてカルマの異名を(かた)り、挑み、敗れたハッカーこと偽【Searcher】だからだ。


「まさか【Arachnet.com】までやられたの? ウソでしょぉ?」


 そして自分を倒した【Searcher】ことカルマへの復讐として、世界的に有名なハッカー集団を使った今回の電脳戦を計画した彼女は……カルマが守る星川町が、ファイアウォールを張り直せるレヴェルのダメージで済んだ、という事実に驚きを隠せなかった。


【Arachnet.com】が仕事をしていないのかとも思ったが、彼女は星川町の『塔』のファイアウォールを一応徹底的に確認し……そのファイアウォールのプログラムの一部が改変されているのを発見した。


 おそらく彼らは、偽【Searcher】の目論見通りに、ちゃんと仕事をしたのだろう


 というか他者に紹介されておいて何もしないのは、時に依頼を受けてハッキングやクラッキングをする彼らハッカー集団にとっては信用問題に繋がるので……逆に行動に出ていないとおかしい。


 にも拘わらず、なぜファイアウォールが一部改変された程度で済み、肝心の綻びが一切存在しないのか……その答えはただ1つ。


 本物の【Searcher】に、()()()()()()からだ。


 そしてその事実を再認識すると同時。

 再び、彼女の中で本物にやられた悔しさが再燃を始めて……。


「うぅぅ~~! 次こそ! 次こそは復讐してやるわ【Searcher】!」


 下着姿のままベッドの上に立ち上がると、右手の拳を突き上げ……自業自得にも拘わらずそんな決意を新たにした。


 次回は送別会(ぇ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の冒頭から、第一部を想起させる電脳戦が展開されて面白かったです。 かなえとラウルは意外にも良いコンビになるのでは? カルマの宿敵ハッカーさんも、『おのれぇ~~! 次こそは目にもの見せて…
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