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Episode005 第二次電脳戦・序

 ようやく、また書けました(汗


「……あれ?」

「なんだ? 壊れたのか?」


 自動で降りる途中で、なぜかスクリーンは停止してしまった。

 いったいどうしたのかと、不思議に思ったハヤトはスクリーンを時折(ときおり)確認しつつその昇降ボタンを何度も押してみた。


 しかしスクリーンは全く動かない。


 心配になったカルマが、ハヤトと交代してボタンを押してみる。だがスクリーンは(あい)()わらずうんともすんともしない。


「ちょっと、まさかさっき言った異変でも起こったんじゃないでしょうね?」


 そんな2人の言動から嫌な予感を感じ取り、かなえは表情を(こわ)()らせた。

 ついさっき、発電システムに少しでも異常が起きれば大惨事になると説明されたばかりなのだ。しかも彼女達が居るのは、行き帰りに時間が掛かる、ほとんど密室の空間。不安にならないハズがない。


 かなえの意見に、ハヤトとカルマも表情を(こわ)()らせる。

 彼女の不安が(でん)()して、2人の肌からブワッと冷や汗が噴き出る。


 しかし次の瞬間。

 ハヤトは反射的に首を振り、カルマは顔を両手で叩く事で、無理やり胸中で湧き起こる不安を(おさ)()んだ。

 今ここで、不安のあまりパニックに(おちい)ってしまえば、見えるモノが見えなくなりさらなる混乱を呼ぶからだ。


「大丈夫だ。おそらくボタンの周囲の回路が切れたんだ」

「発電システムの方はナノロボットが自動的に整備してくれるけど、こっちは全くしてくれないからな」

「とりあえずボタンを分解してみよう。だけど工具が無いな」

「工具は確か上に――」


 そして改めて、2人は昇降ボタンの修理を始めようとした。


 だが次の瞬間。

 ビーッと、その場にけたたましい警報音が響き渡った。

 同時にその場が真っ赤に照らされる。壁に備え付けられた照明が警報用の照明に切り替わったのだ。


「な、なになにっ!? 本当に発電システムに異変でも起こったワケ!?」


 想像もしていなかった事態に、かなえはパニック状態に(おちい)った。

 ハヤトとカルマも、そんな彼女につられて思わずパニックになりかけたが、なんとか先ほどと同じ方法で不安を押し殺す。


 すると、その時だった。


《警報! 警報! システムに侵入者! システムに侵入者! ただちに排除行動に移ります! 演算能力向上のため、一部システムを一時的にダウンさせます! 繰り返す――》


 廊下全体から、声が響く。

 それはただ音量が高いだけの、人間らしい感情がこもっていない声。

 発電システムに異常が起こった時に(はっ)して、異常を知らせるようプログラミングされたガイダンスボイスの声だ。


「「「…………え、なんだって?」」」

 かなえ、ハヤト、カルマは、発電システムのガイダンスボイスが告げた、あまりに想定外の事態に一瞬……思考を停止させた。


「おやおや~? なんだか面白くなってきましたねー?」

 しかし一方で、ラウルはニヤニヤと楽しげに笑っていた。


「し、システムに侵入者? また!?」

 思考停止をした3人の中で、カルマが最初に(われ)(かえ)った。


 彼はテロ事件で、星川町のシステムを乗っ取ったハッカーと戦った経験がある。

 そしてだからこそ、同じ事がまた起こるという不条理に対し怒りを覚え……幸か不幸か(われ)(かえ)るのが何気に早かった。


「ちょっと待て!? 前回のテロ事件以来、ファイアウォールはさらに強固にしたハズだぞ!? なのになんで破られそうになってる!?」

 カルマの次に(われ)(かえ)ったハヤトは困惑した。


 テロ事件の後。

 各国の『異星人共存エリア』の【揉め事相談所】所長達は、今後同じような事が起きないよう、予算を編成し、発電システムなどの重要な場所のファイアウォールのための費用を(ねん)(しゅつ)し、ファイアウォールを強化したハズだ。

 それこそファイアウォール突破に、スーパーコンピュータ数百台分のスペックが必要なくらいだ。


 にも拘わらず、なぜ突破されそうになっているのか。


「…………まさか、組織的な犯行……か?」

 どう考えても、そうとしか考えられなかった。

 スーパーコンピュータ数百台分のスペックを持つ特殊なパソコンを個人が持ち、それで攻撃しているなら話は別だが、そんなパソコンなど何処(どこ)の世界にあろうか。


「そ、組織的って……」

 そして最後に(われ)(かえ)ったかなえは、不安のあまりさらに表情を(こわ)()らせた。


「まさかハッカー集団でも攻めてきたって言うの!?」


「……フザけやがって」


 するとその時。カルマは何を思ったのか。

 ポケットから耳に()めるタイプの無線機を取り出し、そして――。


「俺のパソコンに接続! そして起きろ、ミコガミ! システムに侵入者だ!」


 ――パソコンの中にしか存在しない、相棒の名を呼んだ!?


     ※


 電脳世界


 普段は不動カルマ……もとい、米国防総省(ペンタゴン)に侵入してしまった事で、世界規模で有名になってしまったハッカー【Searcher】のノートパソコン内で待機をしている疑似人格プログラム体・ミコガミは、創造主の声に従い再び起動する!


「おはようございます。()(あるじ)様」

 疑似人格プログラムの少女が、凛とした声でカルマへと話しかける。

 川の(ごと)く流麗な黒色の長髪。そしてその名の通り巫女装束という出で立ちが特徴的な、12歳前後くらいの見た目の少女だ。


「侵入者との事ですが……またですか」

 カルマのノートパソコンの中で、彼女は肩を(すく)めた。

 彼女も彼女で、また侵入者が現れた事に(あき)れたのかもしれない。


『ああ。信じたくないが本当だ。だからまずは状況を確認! その(あと)の指示はお前から送られてくるデータから判断してする!』


「了解です。我が主様」


 そしてカルマが指示を出し終えるのと同時。

 彼女は彼のパソコンから、急いで『塔』のシステムへと向かった。


     ※


「……ま、まさかカルマ……お前……」

 一方その頃、ノートパソコンの中にしか存在していないハズの存在に指示を出すという、ハタから見ればアブナイ言動をするカルマに対し、ハヤトは驚いていた。


 アブナイ言動にドン引きしたのではない。

 むしろその逆……その用意周到さに驚いているのだ。


「ああ。その通りだよハヤト」

 そしてその予想が正解だと証明するかのように、カルマはハヤトの方を向きつつ己の目を指差し、頷いた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……な、なんですって!?」

 その発言に、かなえは瞠目(どうもく)した。

 これからのためにイメチェンしたと通学中に聞いてはいたが、まさか間者であるラウルと同じSF的アイテムを付けていたとは……。


「……ん? ちょっと待って?」


 そしてその直後、かなえはふと思い出す。

 ラウルがコンタクトレンズ型ウェアラブルコンピュータを装着していた事が発覚した時、彼はそのコンタクトレンズ型ウェアラブルコンピュータについて、()(よう)に詳しくはなかったかと。


「ま、まさか……カルマがそのコンタクトレンズに詳しかったのは……」

「ハヤトの力になるために必要な便利な道具はないかと、異星の通販サイトに検索していろいろ探したからね」


「うむむぅ~~……カルマさんも付けていたんですかー」

 一方、そのラウルはと言えば、ジト目をカルマに向けるものの、あまり驚いた様子ではなかった。もしかすると技術的な優位性を覆されて悔しいのかもしれない。


「お前がただイメチェンするとは思わなかったが……まさか、ラウルと同じモノを付けていたとはな。驚いたよ」

 用意周到な親友に、ハヤトは冷や汗と笑みを浮かべつつ言った。


 味方だったから良かったものの、もしも敵だったら星川町は一夜で壊滅していたかもしれないな……などと怖い想像をしながら。


「これさえあれば、パソコンを持って来なくてもミコガミに指示出せるし……なにより目立たないだろうから買ってみたんだ」

 そしてその親友カルマは、親友の驚きと(あん)()を知ってか知らずか、ウェアラブルコンピュータの画面へと視線を集中しながら淡々と答えた。


 目に(じか)()めたレンズに、膨大な情報が表示される。

 しかしカルマは、その量を前に一切引く事なく、それどころか、その全てを流し読みしつつも正確に状況を把握していく。


「ハヤト、これは排除するのに時間が掛かるぞ」

 ミコガミから送られてきた敵ハッカーの侵入状況を、現在進行形で頭に入れつつカルマは告げる。

「どこからこの『塔』の位置情報とかを得たかは知らないけど……相手は相当ハイスペックなパソコンを使ってる」


「マジか。でも……排除できるんだろ?」


「もちろん」


 絶望的な状況の中。

 カルマは冷静な口調で、それでいて心強い言葉を(はっ)した。


「この程度で()()げるようじゃ、米国防総省(ペンタゴン)には侵入できなかったよ」


「それはそうとー」

 だがそんなシリアスなシーンを破壊する声がした。


 誰であろう、ラウルの声である。


()()ー、()()()()()()()()()()ー?」

「「「え?」」」


 しかし彼女が次に放った発言は、無視しようにもできるモノではなかった。

 なぜならば彼女の指摘通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


     ※


 電脳世界


「……マズいですね」

『塔』の排除プログラムと、それを突破しようとする侵入者の(せめ)()いを確認しながら、ミコガミは()(けん)(しわ)を寄せた。


「廊下には、主様がいらっしゃるのに……()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()


     ※


 かなえ達は、急いで出入口へと続くハシゴを昇っていた。

 ラウルの指摘通り、自分達が居た廊下の室温が上昇し始めていたからだ。

 それもただの室温上昇ではない。ここは星川町を(まかな)える程の発電施設に繋がった廊下だ。そして廊下の先は発電炉――エネルギーを生み出す際に、膨大な熱を発生させる場所にも勿論(もちろん)繋がっている。


 つまり空調設備が無い状態で、侵入者を排除できるまで廊下に居れば、発電炉が放出した熱が廊下へと伝わり……中に居る人は熱中症で確実に死亡するのである。


 だから室温上昇が判明した直後、すぐさまかなえ達はハシゴを昇った。

 ちなみに昇る順番は、無論、行きとは反対に男性陣が先で女性陣が(あと)である。

 その決定をした時、ラウルは本気で羞恥心が欠如(けつじょ)しているのか「えぇー? ここはレディーファーストじゃないんですかー?」などと文句を言ったが、スカートを理由にハヤト達はそれを却下(きゃっか)した。


「急げ! 上はまだ涼しい!」


 カルマの次にハシゴを昇っているハヤトが、昇るみんなに(げき)を飛ばす。

 しかしカルマは、身体能力が高いハヤトと違って遅い。と言ってもノロマというワケではなく常人レヴェルである。だが発電炉が放つ熱気から逃げるには少々速度が不足していた。


(こんな事なら、速い人からハシゴを昇ってもらうべきだったかな?)


 カルマは一瞬そう思ったが、よく考えればハヤトの次に運動神経が良いのは、彼に鍛えられ始めているかなえと『イルデガルド』の工作員としてそれなりに厳しい訓練を受けたであろうラウルだ。そうなるとカルマは確実にラウルの下着をお目にかかる事になるのだが、さすがに女子の下着を進んで見るような性癖を彼は持ってはいなかった。


(というか……そんな事を考えている場合じゃないッ)

 自分の身体能力の平凡さに劣等感を持ち始めていたカルマは、逃げながらも頭を切り替えた。


(熱気から逃げられたとしても……『塔』のシステムへの侵入者をどうにかできなければ……星川町を乗っ取られるかもしれない!)


 そう自分に言い聞かせ、レンズに映る、ミコガミから送られてきたデータを(もと)に作戦を即座に考えた。


「ミコガミ、排除プログラムに加勢しつつ、相手を例の――」


「いやぁ~……あっついですねぇー」

 するとそんな状況で、突然ラウルは無駄な文句を言った。何を考えているのか、緊張感がまるで感じられない声色で。

「あぁもうー、一休みしてもいいですかー? もう体中汗でビショビショでー、服を1度(しぼ)ったりしたいんですがー」


「はぁ!? この状況で何言ってんのアンタはッ!?」

 暑さのせいでイライラし始めているのか、ラウルの言動にかなえはキレた。


「私が1番下なのよッ!? 蒸し殺す気かアンタッ!!?」


『イルデガルド』の工作員ではあるものの、ラウルも一応、星川町の住民である。

 つまりその安全を確保する義務が【星川町揉め事相談所】所員には(しょう)じているのである。


 なのでスカートの中を見ても問題にならず、()つラウルを護れるように、そして一応ラウルの動きを監視するために……残念な事に、かなえが1番最後にハシゴを昇る事になってしまったのだ。


「おい! 蒸し焼きになるかどうかの瀬戸際なんだぞ!? そんな事は地上に出てからやれ!」

 するとかなえのイライラが(でん)()したのか、ハヤトはラウルの方に顔を向けながらキレた。だがすぐにラウルから反論が来る。


「ハヤトさんは女の子じゃないからそんな事が言えるんですよー。女の子にはですねー、()(ぎわ)でも身だしなみを整えたいという気持ちがあるモノなんですよー」


「私も女の子だけど我慢してるんですがッ!?」

 かなえは即座にごもっともなツッコミを入れるが、そのラウルは聞こえているのかいないのか、そのまま話を続けた。


「まぁ私もー、熱波を浴び続けたくはないのでー、上着パタパタ程度で我慢しますよー」

 そして驚いた事に彼女は、ハヤトが見ているというのに躊躇(ためら)いも無く、その場で上着の下に空気の流れを作るべく、パタパタと上着をたなびかせた。

 すると当然、ラウルの上半身の下着が見えるワケで……。


 ハヤトはこれ以上熱を()びて熱中症になりたくないので、すぐに目を()らした。

 いや、もしかするとこうする事で反論を封じたのかもしれない可能性もあるが。


「ちょっと!!? アンタ緊張感や羞恥心無さ過ぎじゃ…………んっ!?」

 ハヤトの分も、かどうかは不明だが、かなえはとにかくラウルを厳しく(しか)ろうとした……のだが、その目に奇妙なモノが映ったために目を丸くした。


 彼女の目に映ったモノ。

 それはラウルの白色のブラジャーの下――胸元から腹にかけて、ほんの数個だけ肌に(えが)かれた、それぞれ色の(こと)なる水玉模様だった。


 ()(ずみ)だろうか。だがそれにしては何の絵も(えが)かれていない。というか芸術性があまり感じられない。


 いや、そう見えてやはり入れ墨なのか。

 ラウルはヤクザ者と繋がっているのか。


 まだ宇宙を細かく知らないかなえの中で、あらゆる可能性と不安が交錯する。

 すると、そんな彼女の疑問を(さっ)したのか、ラウルは求めてもいないのにその場で説明を始めた。


「ああこれはですねー、地球の事を調べていて見つけた()()()()()ですよー。内臓がいつまでも元気であるようにー、というモノでしてー。聞いた事はありませんかねー? 内臓にはそれぞれ対応した色がありましてー、それを表皮に付ければ内臓が良くなるっていうー。実際にそういうデータがあるそうですよー? プラシーボ効果の可能性もありますがー、私は好きですよこういう()()()()()はー。なんだかボディペイントみたいで面白いじゃないですかー。あー、ちなみに入れ墨じゃないのでご安心をー。でもってパンツが黒くブラジャーが白いのも同じ理由でしてー、黒は腎臓や膀胱(ぼうこう)に――」


「「()()()()()かよッ!!」」

 かなえと、珍しくハヤトからもツッコミが飛んだ。

 発電炉が(はっ)する熱によって相当イライラしているようだ。


「というか静かにしろよ侵入者排除に集中できないだろッ!!?」

 そして当然ながら、1番働いているカルマはかなえ達以上に怒った。


 まさか第1話からの展開がここまで続くとは(汗

 ちなみに白は肺や大腸によろしいようで……本当に良くなるか分かりませんが(ぇ

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