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Episode004 星川町の秘密3


 数日前


【おまいら全力使って《ここ》見てみ? SからANCに】


 ネット上のある掲示板に、そんな謎の書き込みが投稿された。

《ここ》の部分の文字だけが赤いという、見るからに怪しい書き込みだ。


 ――おそらく赤い文字の部分をクリックすれば、別のサイトにジャンプする(たぐい)の書き込みなのだろう。


 書き込まれた瞬間、その書き込みを見た人達全員がそう思ってしまうほどに。


 だが興味本位で、試しに《ここ》の部分をクリックした者達の中に、別のサイトへ移動できた者はほとんど居なかった。


 なぜならば、クリックした瞬間――パソコンが凍結(フリーズ)してしまったからだ。


 ジャンプした先に、書き込んだ人が作ったコンピュータウィルスがあったのか。それともジャンプしたサイトが異常に重過ぎたのか。


 それはもう、誰にも分からない。

 なぜならその書き込みは、投稿から5分もしない内に、まるで最初から無かったかのようにネット上から忽然(こつぜん)と消え去ったのだから。


 削除されるに(あたい)する、違法な書き込みだったのか。


 それとも……。


     ◆     ◆


 現在


「はぁ……やっと着いたぁ!」

 星川町の地下世界へと続く縦穴を、およそ30分。

 休憩を(はさ)みつつも降り続けて、ようやく降りきったかなえは、辿(たど)()いた場所で真っ先に体育の授業でする準備体操を開始した。


 ハシゴを降りる単純な動きは、単純(ゆえ)に地味につらかった。

 穴の幅が約1m、そして一瞬でも気を抜けば床まで真っ逆さまである()(こく)にして限定的な空間内では余計な動きは許されなかったからだ。


 しかしここは、ハシゴの終着点にして地下世界のスタート地点。

 体の動きを妨げてしまう(せま)き壁、(およ)び身の危険は一切存在しない。

 かなえはまるで水を得た魚の(ごと)く、いつも以上に元気に体を動かした。


「あのー、かなえさーーん? そろそろどいてくれませんかー?」


 だが膝の屈伸運動を終えて、次に浅い伸脚に移行しようとしたその時、かなえはラウルに声をかけられる。

 かなえと同様に、30分近くもハシゴを降りさせられて、彼女の体もいい加減、準備体操でもしてほぐしたいと悲鳴を上げていた。


「あ、すぐにど……く……けどさぁ……………………」

 かなえはすぐに、声をかけたラウルの方を見た……その瞬間。


 その目に、()()()()()()()()()()()()

 ハシゴから降りる途中にも、何度も嫌でもその視界に入ったTバック下着が。


 途端に、かなえは赤面(せきめん)した。

 ハシゴから降りる最中は、それよりも気を抜けば命の危機だと己を叱咤(しった)していたせいかほとんど気にしていなかったが…………いい加減我慢の限界だった。


「んんーー?? どうしたのですかぁーー??」

 いつまでもハシゴのそばをどいてくれないかなえが気になり、ラウルは頭に疑問符を浮かべつつ下を向く。


 その目に、顔を赤らめながらプルプル体を震わすかなえが映った。


 するとその瞬間、かなえ反射的に「あ、あああああアンタッ!! なんでその歳でそんなの穿()いてんのよッ!!?」とラウルにツッコミを入れた。


「おやー? かなえさんは真面目ちゃんで初心(ウブ)なんですねー」


 するとラウルはやれやれと、自分の方がよほど大人だと言いたげに。(まぶた)を閉じ、肩を(すく)めた。両手が自由であれば脇を閉め、()(ひら)を上に向けて地面と平行にし、肘を軽く上に曲げていたかもしれない。


「だ、誰が初心(ウブ)だッ!!」

 思わずかなえは反論するが、ラウルは()(かい)した様子も無く話を続けた。


「このTバックはですねー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでー、意外と世の女性の間で人気が高いのですよー。どうですかー、かなえさんもこの機会に下着をTバックに買い替えてみてはー?」


「ぅぐっ! そ、そう言われてみれば……」


 それは、誰が聞いても(いち)()ある主張であった。

 なぜなら実際問題、下着のラインがズボンやスカート越しに出てしまうケースは存在するのだから。


 それは、腰から足の部分までを隠すズボンやスカートの下に、逆三角形という、肌を隠す面積が非常に少ない衣服を着るからこそ起きる、世の女性にとっては非常に厄介(やっかい)な――必然の事象。


 しかしまさかそれが、Tバックによって防げるとは……ッ!


 それはかなえにとって、まさに目から(うろこ)な事実だった。

 おかげで彼女は顔の色が元通りになるほど平常心を取り戻し、さらにはラウルへこれ以上の反論ができなくなってしまった。


 そしてかなえは次に、ラウルの言う通り、この機会にTバックに買い替えて穿()くべきか否かを考え始めようとした……その時だった。


「……っていうか天宮」

「そろそろ……どいてくれないかな?」


 ラウルの頭上……ハシゴの上部から声が聞こえてきた。ハヤトとカルマの声だ。そしてその事に気付いたかなえは――。



 ――再び赤面した!!



 黒いTバック下着を見た衝撃で、すっかり男性陣の存在を忘れていたのである。

 かなえは今までの恥ずかしい会話を、無自覚に異性に聞かせていた恥ずかしさのあまり、辿(たど)()いた空間の脇へ、両手で顔を隠しつつ走って行った。


「おやおや~~? (かち)()そうに見えてー、なかなか可愛(かわい)い所もあるんですねー?」

 ラウルはかなえと違って恥ずかしくないのだろうか。それとも恥ずかしいと思う気持ちを封じる訓練を受けたのであろうか。とにかく彼女は全く恥ずかしがる様子も無く、ニヤニヤ笑いながらハシゴを降りた。

「お2人もー、そう思いませんー?」


 そしてその疑問の矛先(ほこさき)は、次に男性陣に向けられた。


 しかしハシゴから降りる男性陣2人は何も言わない。

 ただただ気まずそうに、赤面した顔を()らすだけだ。


「と、とにかく!」

 するとその時、男性陣よりも早くかなえは復活を()げた。

 まだ顔は赤いものの……いやだからこそ、話題と気持ちを切り替える事で顔の熱を冷ましたいのか。とにかく彼女はハヤトとカルマに話しかけた。


「とっとと星川町の地下を案内しなさいよ!」


     ※


 そして改めて、星川町地下世界の案内は開始された。

 ハヤトは、まだ少々赤さが残る顔のままで1度咳払いをすると、まずは自分達が降り立った場所の説明をする。


「ここは星川町地下世界を繋ぐ廊下だ。星川町の全ての電力を(まかな)う発電システムやそれを制御するためのコンピュータ室など、いろんな部屋に(つう)じている」


 その廊下は、コンクリートに似ているが、どこか質感が(こと)なる灰色の無地の壁、そして壁と同じ素材の市松模様の床で構築されていた。ちなみに照明は、ハシゴがあった縦穴と同じく、その壁の中に備え付けられている。


「時間が時間だから色々省略するが、ここにある発電システムは――」


「ええー? 私はいつまでも大丈夫ですよー?」

 だがせっかくのハヤトの配慮(はいりょ)も、ラウルによって調子を狂わされた。


「ナーガスさん、明日も学校でしょ」

 すかさずカルマが注意する。すると彼女は「あー、そうでしたー☆」とフザけた調子で返答した。


 3人共、残念な子を見るような目でラウルを見た。

 そんな中でハヤトは、いち早く復活し、説明を再開する。


「……ここの発電システムは帰宅途中も言った通り、他の惑星でも使われている。だけど地球製異星製問わず、発電に(もち)いるシステムというモノは、少しでも異変が起こると大惨事に繋がりかねない危険なモノだ。そしてこの町の発電システムも、その例に()れない。だから発電システムの事でこの町を攻めれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「むぅー……そう言われると言葉もありませんねー」

 ラウルは指で顔をかきつつ、苦笑いした。


 ようやく見つけた星川町の〝弱み〟と(おぼ)しきモノが、まさか自分の知る発電システムであったとは。彼女は夢にも思わなかった。

 確かにハヤトの言う通り、仮にこのネタで攻めても『異星人共存エリア』を地球から無くすか否かの問題にはおそらくならない。代わりに宇宙規模で普及しているこの発電システムの事が問題になるだろうが……。


 これはさすがに『異星人共存エリア』の〝弱み〟とは言えない。


「ところでその発電システムって、何を電気エネルギーにしているの?」

 ラウルの話が一段落した事を(さっ)したのだろう。今度はかなえがハヤトに訊ねた。

 この地下世界にある物が、異星由来の発電システムだと知ってから、ずっと気になっていた事だ。


「宇宙から地上に()(そそ)ぐ、電磁波だ」

 ハヤトは、かなえの方を向きつつ答えた。


「……ん? ちょっと待って?」

 しかしその返答を、かなえは理解できなかった。

「宇宙からって……え? それってオゾン層に防がれてるヤツ? なんで地球まで届いてんの?」


「ん?」

「えっ?」

「んんー?」


 一方3人は、かなえが理解していなかった事を理解できなかった!


「ま、まぁ……防がれてるヤツもあるにはあるけど」

 だがよくよく考えてみれば、地球の大気圏上層に存在するオゾン層が、いったい何をどれだけ、地上に来るのを防いでいるのかを知っている人はそう多くはない。むしろそれを知っている自分達の方が異質なのだと思い直し、ハヤトはかなえに、どう説明すれば(わか)るのかを考えつつ答えた。


「簡単に言えば、電磁波にも色々あって、その色々の内の、人体に有害な電磁波をオゾン層は防いでいるんだよ。まぁ近年オゾンホールの影響で、有害なのも来てはいるけど」


「え、そうだったんだ」

 かなえは自分の無知を知り、少々ショックを受けた。


「ちなみに、だけど」

 今度はカルマが答えた。

「光も電磁波の一種だから、ソレまでオゾン層に防がれたら暗くなっちゃうよ」


「ええっ!? そうだったんだ!」

 かなえはさらにショックを受けた。


 勘違いしないでほしいが……いや、する人は少ないだろうが、中学において、光が電磁波である事は教わらない。だからどちらかと言えば、その事実を知っているハヤト達の方が異質なのだ。


「話を戻すけど」

 1度咳払いをしてから、ハヤトは説明を再開した。

 時間的に、ここで大学レヴェルの授業をしている暇は無いからだ。

「地球に到達する無害な電磁波は、まず星川町敷地内の地面の中に設置されている電磁波指向制御装置によって、地下世界にある電気エネルギー変換装置、いわゆるジェネレーターに送られて、電気エネルギーに変換される」


「じ、地面ンン――――?」

 まさか地下世界だけでなく、自分の足元にもSF的超技術があったとは思わず、かなえは反射的に足元を見ようとしたが……それがあるのは地上から見ての足元であるのを思い出し、すんでの所で止めた。


「だけどそこで取り出せる電気エネルギーは微々(びび)たるものだ。そのままでは星川町全体を(まかな)う事はできないほどに」


 オゾン層の外側で発電すればまた違うかもしれないが、そのエネルギーを地上にレーザー伝送技術などで届ける際、雲や雨で(さえぎ)られる、空気による擾乱を受ける、目に対する安全性が保障されていないなどの問題点があるため、基本的に毎日電力を使う『異星人共存エリア』では、残念ながらレーザー伝送技術の使用は不可能に近かった。


「え、じゃあダメじゃん」


 またしても反射的に意見するかなえ。

 しかしハヤトは、表情を崩す事なく話を続けた。


「だけどそこは大丈夫。この地下世界には電力増幅装置もある。そしてこの3つの装置のおかげで、星川町の電気事情は支えられているんだ。無論、海外の『異星人共存エリア』も同じシステムで支えられている」


「…………な、なんか……凄いっちゃ凄いけど」

 自分の想像を超えた発電システムに、かなえは(かえ)って(あき)(かえ)った。

 だが逆にそこまでの発電システムでなければ、星川町を支えられないのだろう、とも納得もしていた。


 星川町には、生活用の他にも、電気を使用するシステムがいくつか存在する。

 正式に『E.L.S.』に入る事を決めた(あと)、彼女はハヤトに、その事実をある程度――テロ事件の時には『セーブ・ド・アース』に逆に利用されてしまった障壁や電磁バリアがそれぞれ、そのシステムの1つである事実も含めて教えられていたからだ。


 だが聞いていて、ふと気になる事が出来(でき)たので……彼女は再びハヤトに訊ねた。


「なんか、イメージ的にはソーラー発電に近い気がするんだけど……違うの?」

「まぁ、確かに似ていると言えば似ているけど……」

 ハヤトは再び考え込んだが、すぐに答えた。


「ソーラー発電はどちらかと言うと、電磁波を発生させる側だしな」


「え、どゆ事?」

 ハヤトの謎発言に、かなえは頭上に疑問符を浮かべた。


 ちなみに電磁波が発生するのは直流電流を交流電流に切り替えるパワーコンディショナーの中であるが、ハヤトは「それに」と、かなえ達のプライベートな時間を考え、無理やり話を戻した。


「ソーラー発電は気象条件によって発電できなかったりするけど、この町の電磁波発電は気象条件に左右されない。この宇宙に電磁波がある限り……半永久的に発電し続ける事ができる」


「ちょ、ちゃんと説明を……って? 半、永久的?」

 詳しい説明をされず、腹が立ったかなえはハヤトに抗議しようとした。

 しかし無理やりに、ではあるが、戻された話の中にあったその言葉が耳に()まるなり……言葉を失った。


「……半、永久的って……まさか、()()()()()()()()()()()()って事!?」

 だが彼女はすぐに(われ)(かえ)った。そして告げられた星川町の発電システムの説明に改めて愕然(がくぜん)とした。


 なぜならば、さすがのかなえも、永久機関の概念を知っていたからである。


 ちなみに永久機関とは、外部からのエネルギー供給無しに、文字通り永遠に動き続ける装置であり、同時に人類の夢の発明の事である。

 だがその研究の果てに、熱力学という一分野を生むに至ったものの、結局は様々な物理法則に(とら)われ、18世紀の終わりには実現不可能であると判明した……文字通り夢に終わった発明でもある。


「まぁ、確かに1番……永久機関に近いかな?」

 宇宙がこれから先も()(つづ)ければ、だけど……と、異星人と関わった事で、ある程度宇宙を知ってしまった1人として、思わず口が滑りそうになったが、ハヤトはすんでの所で口を(つぐ)んだ。



 これ以上話をややこしくして、さらに時間を食う事を避けるためである。



 宇宙とは、プライベートの時間を削る程度では全てを語り切れない存在なのだ。



「じゃあ最後に……時間も時間だし、その永久機関モドキの中枢部分を見て、今回の地下世界の案内を終わりにしよう」


 あまり地下世界を案内できていなかったが、時間的に、そして安全面からしてもあまり奥に行けないので、ハヤトはサクッと案内を終わらせる事にした。

 予想通りラウルから「えー? 先に行きましょうよぉー」と抗議の声が出たが、ハヤトは自分の左手首に装着している腕時計を指差し、なんとか黙らせた。


 ちなみに時間は、19時を回っていた。


「遠方からでも中枢部分……電気エネルギー変換装置と電力増幅装置を確認できるように、それらをリアルタイムで撮影しているカメラの映像を映す機能が、壁には付いてる」


 そう言いながらハヤトは、自分達が降りてきたハシゴの右側の壁を軽く押した。

 するとその壁にスイッチが付いていたのか、パチッという音がしたかと思うと、ハシゴがある壁とは反対側の壁の近くの天井から、40インチ以上はある大きめのスクリーンが降りてきた……のだが。



 ガコンッという異音を立てて、スクリーンは完全に降りる直前で停止した。


 なぜ黒なのか。

 その謎は次回明らかに!?

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