Episode002 謎(?)の転校生
とりあえずできてる奴を投稿致します。
次はまたいつ投稿できるか分かりませんけど(ォィ
8時0分
「今日からみんなと一緒に勉強する、ラウル=ナーガスさんです」
「ラウル=ナーガスですー。みなさん、これからよろしくねー?」
そしてその、星川町へ引っ越してきた者はなんと、かなえ達のクラスへ転入するという王道的暴挙を遠慮なく仕掛けてきた。
見た限りその転入生は、どこかほんわかな雰囲気を感じさせる……明るい笑顔を振り撒く少女であった。
髪はうっすらと茶色い天然パーマ。髪色からして、もしかするとリュンと同じく惑星リベルアの出身者かもしれない。
背丈は低く、細い体躯である。背が低いという特徴を持つ、惑星カウラドナの民より、ちょっと高いくらいだろうか。
「ねぇ、ホントに間者なの? そうは見えないけど?」
体を少し捻り、かなえは後ろの席のハヤトに小声で訊ねた。
「油断するな」
ハヤトはラウルへと視線を向けながら呟いた。
「最初お前だって、リュンがそうだと気付かなかっただろう?」
「うっ……確かに、そうだけどぉ……」
かなえは当然の疑問を口にするが、リュンの事を出されると、ラウルがそうではないと全力で否定できなかった。
「ではラウルさんの席は……真ん中2列の、こちらから見て右側の、1番後ろね」
そんな会話が交わされている中、教室内では、転入生が空いている席に移動するイベントが挙行された。
「はいー、分かりましたー。加賀美先生ー」
クラス担任の加賀美麗香先生に笑顔で答えると、行くように促された、これからの自分の席へと向かうラウル。
その最中に、ラウルは擦れ違う全ての生徒達に「よろしくー」などと、ほんわか笑顔で話しかけていた。
当然、彼女の座る席から近い位置にある、1学期と変わらず窓際の後ろ側の席に着いているハヤトとかなえにも「よろしくー」と、ラウルは声をかける。
「あ、うん。よろしく」
「よろしくな」
星川町を始めとする『異星人共存エリア』を地球上から消したがっている間者とは思えぬ眩しい笑顔……ではなく、もしかすると間者だからこそ、ハヤト達を油断させるためだけに作った笑顔かもしれない、疑惑の笑顔込みのラウルの挨拶に対し2人はとりあえず笑顔で挨拶を返した。
仮に彼女が間者であったとしたら、未だに正体が割れていないと油断させるためにも、友好的な挨拶は必要不可欠であろう。
仮に自分達の思い過ごしだったとしても、挨拶をしない事によってラウルに嫌な印象を与えないためにも、挨拶は必要であろう。
とにかく、双方の疑惑の笑顔が交差した――今この瞬間。
地球上に5つ存在する『異星人共存エリア』のこれからを懸けた頭脳戦の火蓋はリュンの入学以来、再び切って落とされた……。
……ハズだったのだが。
※
放課後
結論を述べるならば、ラウルは放課後になっても何も行動を起こさなかった。
星川町テロ事件の影響で、かなえが転校してきた時よりもクラスメイトの人数が少なくなったせいで小規模になった、転入生への質問攻めにあったりしたので……あまり大きな行動を起こせなかったのかもしれないが。
「いや、絶対アイツは間者だ」
「でも、だったら何の目的でこの町に?」
「そうだよハヤト。本当に間者だったら、アイツの目的はなんだ?」
家路を進みながら、ハヤトとかなえ、そしてカルマは話し合った。
かなえもカルマも、ラウルが間者ではない可能性を主張していた。
しかしハヤトは、断固として間者である可能性を譲ろうとしない。
「リュンの時と同様、この町の弱味を握ろうとしているんだろう。弱味さえ握れば世界中の『異星人共存エリア』をまとめて潰せるからな」
「なら、なぜまだ行動を起こさないんだ?」
カルマが質問すると、ハヤトは腕を組みながら答えた。
「通学路、もしくは帰宅後に何かをしている可能性もあるが……それ以前に、まずは敵地に馴染む事が重要だ。お前らだって解るだろ? 地球における諜報合戦でもそうだが、間者というのは……まずは周囲に溶け込む事から始めるって事を。そうしないと周囲の者がその間者を不審に思って、警察に通報するからな」
「確かに……そうだな」
ハヤトの意見に、カルマは納得した。
間者。間諜。密偵。様々な名称で呼ばれるこの存在の任務は、なにも敵陣に潜入して、破壊工作などを仕掛ける事だけではない。時に長い期間、それも数十年規模で敵陣に潜入し続け、現地人と幅広い人脈を築き、その人脈を利用し、敵陣を自分の味方にとって都合が良い場になるよう引っ掻き回す……という、根気強さが必要不可欠の任務も存在する。
離島残地工作員、または残地諜者と呼ばれる者が行っているのがまさにそのような任務であり、星川町においてはリュンと銀一がその残地諜者に近いだろう。
とにかくかつてそのような存在が自分達の身近に居たのだ。テロ事件後の不安定な時期に転入した怪しい同級生・ラウルが、そんな彼らの同類ではないと誰が断言できようか。
「ちょっ、2人だけで納得しないでよ! 私まだソッチ方面疎いんだから!」
しかし、かなえはまだ納得できなかった。
なにせ彼女は、星川町に引っ越してくるまで、SFモノ……いや、今回の場合は『スパイもの』と言った方がいいだろうか。とにかく心理戦が重要となる物語を、ほとんど見た事が無かったのである。諜報活動のあれこれなど、知るハズもない。
「……ようは、疑うに越した事はないほど怪しいって事だ」
ハヤトは先ほどのかなえの意見から、改めて彼女が諜報方面の初心者である事を知り、勝手にその事を踏まえず話を進めてしまった事を心の中で反省した。と同時に、どう教えれば彼女に分かりやすく伝わるかを考えながら言った。
「まぁ、ただ単に弱味を見つけられなかった可能性もあるけどさ」
「いや、そうでもないよー?」
そして、ついでとばかりにハヤトが楽観的な可能性を提示した……まさにその直後だった。唐突に真後ろからどこか能天気な声をかけられた。声をかけられた3人は一瞬、体が強張ってしまう。だけどすぐに後ろを振り向く。
そこに居たのは案の定――なぜか全長約2mというトンデモなく長い、町立星川中学校の近くのコンビニで売っている超弩級ホットドッグを頬張っている、かなえ達のクラスへの転入生ことラウル=ナーガスであった。
「……へぇ。なら教えてくれるか? この町の〝弱味〟を」
なぜホットドッグを食べているのか微妙に気になったが、ハヤトは臆せず、挑発するように質問をした。
だがどうしても目は彼女ではなくホットドッグの方を見てしまう。
それだけその超弩級ホットドッグは、ラウルという間者以上に、その場での存在感が圧倒的だった。
だがすぐにそのホットドッグは、ラウルによってたった数秒で三割ほど食べられてしまった。
3人は、それを見て驚愕のあまり目を見開いた。
どうやらこの間者は『大食漢』という……あのリュンでさえも持ち得なかった、目立つ〝個性〟を持っているらしい。
「というか間者だって事、最初からバラしちゃうんだね?」
ラウルがいつの間にか自分達に近付いていた事よりも、すぐに三割が無くなったホットドッグの方に驚愕しつつ、カルマも会話に参加した。
するとラウルは……そんなに美味しいのか。ホットドッグを、全体から見てさらに六割近くもモグモグ一気食いしてから、ウットリと笑顔を浮かべ、
「いやぁ、前任のリュンって娘がすでに間者だってバレているみたいだからねー。今さら隠してもしょうがないから、すぐに明かしたまでだよー」
そう言うと、ホットドッグの最後の一口を食べ終え、名残惜しそうな顔をした。
ま、まさかまだ食べられるのか、と3人は胸中で同時に驚愕した。
「でもって、話は変わるけどー……この町の地下ってー、不自然な空洞になってるよねー?」
衝撃の事実を告げるにしては、少々声のトーンが低いラウル。よほど星川町の超弩級ホットドッグが名残惜しいようだ。
「えっ? く……空洞?」
しかしそんなラウルとは反対に、彼女が告げた事実を聞いたかなえはまたしても目を丸くした。
「ちょ、ちょっと、地下に空洞って……この町大丈夫なの!?」
そして慌てた様子で、すぐに彼女はハヤトに訊ねる。自分の真下に、謎の空洞が存在するのだ。地震があった場合、その影響で町がその空洞の中へと崩落しないか不安になるのは当然である。
しかしハヤトは、質問されても慌てず騒がず、そんなかなえを宥めるかのように優しい声で答えた。
「大丈夫だ、天宮。異星技術を取り入れた最新の地球の技術でこの町は支えられている。地盤沈下などは、絶対に起きやしない」
「というか以前、宇宙から正体不明の植物の種が、隕石並みの勢いで落下してきた時も大丈夫だったと思うけど」
カルマは、七夕の日に起こった事件を思い返しつつ、ハヤトの説明を補足した。
するとかなえは「あ」と、すぐにその時の事を思い出した。宇宙から謎の種子、すなわち古代兵器『イヴェルガー』が墜ちてきた日の事を。
だがかなえにとってはトラウマモノな、正直思い出したくない思い出だったため彼女はブルーな気持ちになった。
「そうよー、かなえさん」
するとそんなかなえの心情を知ってか知らずか、ラウルは話を再開した。
「この町の地下にはねー、巨大な空洞が存在するのー。組織が貸してくれた携帯式地中レーダーで調べたから確かだよー」
何気にサラッと凄い事を言っているラウルは、その事に自覚が無いのか、制服のスカートのポケットから財布を取り出し、中身を確認しつつさらに話を続けた。
「確かにハヤトさんの言う通りー、最先端の技術によってこの星川町が崩落したりはしないけどー、今重要なのはそこじゃないのですよー」
まだ金が残っていたのか、彼女は安堵の表情を浮かべた。
「問題はー、なぜ空洞を整備してまでこの星川町を作ったかって事よねー?」
そして告げられたその言葉は、星川町に関する全ての情報を把握しきれていないかなえからすれば、まさに水を浴びせられたかのような衝撃の事実だった。
そもそも町を作るのであれば、そこに住む人々の事を考え、町を作る前に周囲の環境を把握し、場合によっては土地の安全性を高めてから作らなくてはいけない。
どうしてもそこに町を作らなければならない事情、即ち住む側の金銭的問題などがあれば話はまた別となるが、基本的には住民の安全を重視しなければ、そもそもそんな危険な町に住もうと思う人はそういまい。
そしてその事を踏まえると、果たしてこの星川町を作った者達は、どうして住民の安全を考えて空洞を埋めたりせず、そのまま整備・維持したのか。
費用節約のためだろうか。
だが空洞を整備するための費用もそれなりに高いだろう。なにせ、謎の種子こと古代兵器『イヴェルガー』墜落の際の衝撃に耐えきるほどの整備なのだ。
生半可な整備をしていれば、もしかするとイヴェルガーは星川町の地面を容易く貫通し、その際に生まれた穴を中心に崩落が始まっていたかもしれない。
もしそうなっていたならば、もうその時点で、星川町の一部地域に人が住めなくなるだけでなく、全世界の『異星人共存エリア』が無くなる可能性もあった。
しかし、古代兵器『イヴェルガー』が墜落した事件から2ヶ月は経った現在も、未だに崩落する気配は無い。地下空洞をそれだけ頑丈に整備したのだろう。
という事は、少なくとも金銭的な問題で地下空洞を整備したワケではない。
ならば、古代兵器『イヴェルガー』の墜落程度では貫通しないくらい頑丈になるほどの高い金をつぎ込んででも、地下空洞を維持しなければならない理由があったのか……?
「もしかするとこの地下に、何かを隠してるのかなー?」
サイフを再びスカートのポケットにしまったラウルが、不敵な笑みを見せながら再度ハヤト達に訊ねた。
「頑丈に作るほどだよー? それなりに隠している事があるよねー?」
ラウルは、自分の両手を背後で組んだ。そして1歩ずつ、1歩ずつ……ハヤト達へと勿体ぶるように近付いて行く。まるで、犯人を追い詰める探偵の如く。
事実、この時ラウルは探偵気分だった。
この星川町へと引っ越してから、毎日試しに、星川町の〝弱み〟を見つけるためだけに……何ヶ所も、地中をレーダーで調べ上げるという作業を延々と続け、ようやくこの地下に空洞がある事を突き止めたのだ。
その努力が報われた嬉しさと言ったら、半端なモノではないだろう。探偵気分で勿体ぶるように相手に近付くかどうかはともかく……だが。
「別に大したモノは隠していない」
しかしそんなラウルの気分をぶち壊すように、ハヤトは真顔で即答した。
「……え? ええー?」
全く予想していなかった返答だったため、ラウルは唖然とした。
「も、もっとさー。冷や汗かくとかー、目が泳ぐとかー。タジタジになるとかー、いろいろないー?」
予想に反して即答されたショックから立ち直ってすぐ、ラウルは星川町の事情をあまり知らないかなえでなく、詳しく知っていると思われるハヤトとカルマに質問する。
だがなぜか、質問するラウルの方がタジタジで、対するハヤトとカルマは堂々としていた。
もしかして無理に嘘を吐いているんじゃないか、とラウルは一瞬思ったが、嘘を吐いた時の独特の仕草や、不自然な行動や反応などは見受けられなかった。
読心術を使える者ならば、もう少し詳しく分析できるかもしれないが、2人とも不自然な事を全くしないという事は、2人が言っている事はおそらく事実。
ならば2人とも、上位階級の者によって完璧な洗脳が施されているせいで、嘘を嘘だと思えなくなっているのか。
だがそうすると、今度はその洗脳がかなえにまで施されていないのはおかしい。いくら最近星川町の事情に関わり始めたと言っても、洗脳をしないせいで違和感を覚え、そして組織と敵対する可能性はゼロではあるまい。
……と、いう事は?
「いや、だって本当にそんな秘密無いから。なぁ?」
それどころか仲間に同意を求めるハヤト。
だがこの町の『塔』を管理する権限を持っているカルマはともかく、まだ詳しくこの星川町を知っているワケではないかなえは「ちょっと、私に訊かれても困るわよ!」とすかさずツッコミを入れた。
「……ではこの町の地下の空洞はー、いったい何なのですかー?」
ラウルは落胆しながらハヤトに問うた。
それほどまでに、星川町の地下に重大な秘密があると期待していたのだ。
そしてその期待が外れたならば……再びこの町の〝弱味〟を探し回らなきゃいけない。その苦労は計り知れなかった。
「ああ。この町の空洞は」
そしてそんな彼女の落胆ぶりを見たハヤトは、そんな彼女に同情したのか、苦笑しながら言った。
「他の星にも存在する、発電システムがある場所だ」