価格決定 相場と原価と加工
物には相場があります。ある、というか商品に対して「大体こんくらいの値段かな?」という、大勢の人が妥当だと考え実際に物が『その時に動く価格帯』を言います。
この範疇外にあるものが定価です。日本だと新品の書籍・雑誌・新聞・音楽・煙草が代表例ですね。まぁ正確に言うともっと細かな定義があるのですが消費者としては「決まった価格で買う商品」となります。
経済学においてはアダム・スミスというおっさんが提唱した「見えざる手」という言葉がありますがこれは
「人間同士、利益を最大限にしようと商取引してりゃ価格なんて妥当なところに自然と落ち着くもんやで。あたかも神さんがワイらには見えん手ぇで撫で回すようにな」
という意味で覚えてあまり差し支えありません。こんな言葉年に一回見れば多いほうですから。
さて価格について。
物の値段の決まり方としては前述の市場において買いたい人・必要な量と、売りたい人・用意した数、という「需要と供給のバランス」によっても変わってきますがその前段階の原価というものがスタート地点となります。
例えば。
貴男がとある商店の社長だったとします。
1000円の物を100個仕入れたとします。
いくらで売りますか?
税金はひとまず考えない事とします。
当然のごとく、特別理由も無ければ貴方は1000円以上で売れると思ったから一〇〇〇円で仕入れている訳で、つまりは仕入れベースで見ると1000円1銭以上で販売をしなくてはなりません。
1銭というのも在庫が100個なのだから最低ラインがそこです。1銭×100個は1円ですから同一人物・会社に100個全部売るのであれば成り立ちます。
1000円1銭で足りますか? 足りませんね。
先ほどは仕入れベースで見たため数字上は黒字になっていますが実際は様々な経費がかかります。
まず注文をFAXか電話でしていれば通信費が掛かりますしメールでしていればメールを使うための機器とその維持費が掛かっています。
さらに帳簿関連も必要です。仮にデータで管理していたとしても電気代だって掛かります。人を雇っていれば当然その人の給料や保険料も払う必要があります。
商品を受け取るのに運賃も掛かるかもしれませんし店頭販売ではない場合は送料も元払いか着払いかで変わりますが当然発生します。さらに倉庫や事務所を持っていれば賃料だって掛かるでしょうし自社物件だとしても今度は固定資産税等が関わってきます。
つまりは様々な必要経費も時には一括で、時には分散して売価に乗せなくてはなりません。
このあたりの雑多なものを今回は仮に「手間賃」として一括りにしてみましょう。
「(仕入単価×数量+手間賃)÷数量=原価」となります。
はいそこ!逃げるな!
ちょっと数字や式が出てきたからって逃げるなよ!
俺みたいに逃げるな!
つまり(仕入単価1000円×100個+手間賃一式10000円)÷数量100=原価1100円となります。手間賃は仮です。
すると、最低ラインは1100円とするにしても今度はいくら利益を乗せるかが問題です。
そこで前述の「相場」というものが関わってきます。
もしその商品が「唯一無二で需要が有り売れやすい、貴方が扱っても売れる商品」ならば簡単です。「常識的に考えて買う側が出せるであろう価格ギリギリ」で値付けすれば回転率はともかく利益が最大限となりますから出来るだけ高くすれば良いのです。
ですが現実はそんな美味い話ばかりではありません。唯一無二の取り扱い商品はブランド化されていたり専売品(煙草とか)でもなければ中々生まれませんし、無理に作ってもそれは価値が無いから存在しない可能性が高いのです。
競合他社というものが世の中有るのですから当然です。
仮に1100円でお酒を100個仕入れたとして、他の同業者は2000円で販売していたとします。
ならば新規参入者としては必然的に2000円以下での販売となるでしょう。
販売方法・立地などにも依りますが1980円で売ればひとまず880円利益が残ります。
基本的な考え方としてはこの通りです。そしてまぁこれは中高生、いや小学生でも解ることでしょう。
ただ、私が競合店なら、相手の体力がどのくらいあるのか見定めます。
仕入れ力が同じとは限りませんし相手が格下なら私は相手が潰れるまで価格のダンピング、つまりは値下げを行うでしょう。
ゴキブリと同じで競合他社は『早期発見早期抹殺』がビジネスの基本です。
まず手始めに1780円に、そして1680円、1420円、1300円、と。相手が撤退するか潰れるのを狙って原価で売ったって良いんです。自分が潰れないようにだけ注意。
そんで極端な話、潰れた後に元の価格以上に高く売るなり元に戻すなりすれば良いのです。
なので仮に、私が新規参入のチャレンジャーの立場ならば、競合店が近隣に有り、同じ商品を売っているのだとしたら一手間加えます。
お酒は飲み物な上に免許が必要なので本来は駄目なのですが考え方としては、果実やフレーバーを加えて高く売って付加価値商売と、高い酒の量目を減らして手が届きやすいようにします。
仮にそれまで一本1リットル入りを五〇〇mlに詰め替え瓶代+手間賃を加えて販売するのです。
つまりは加工。
これはリスクも有りますがメリットも明確で出来てしまえば一つのビジネスモデルに成り得るのです。
例えば小売店、スーパーやコンビニ等で行われていることですが、ケース単位で購入して一個一個バラで販売も一つの加工と言えます。
一ケース、24本もビール要らねぇよ6本で良いよ、というお客さんや市場のニーズに答えている訳です。こうしないと洗剤も食品もすべて家に収まらなくなりますからね。
生鮮食品も同じ事です。豚一匹牛一匹買ったって置く場所もなければ運ぶのだって大変、そもそも解体して小分けするのだって一般人には無理です。
そりゃあ一匹、一ロット、丸々買えれば安くなりますが、それは極論で手間賃をカットしているからです。
米だって白米にする手間が掛かっているから玄米より高いのです。
購入価格を抑えたいから値切る、というのはそのあたりを踏まえて行わなければならないのです。
たとえば八百屋で朝一に買い物に行って「みかん5kg買うからまけてよ」と言うのと閉店間際に行って言うのとでは成功率も変わるでしょう。
店側は出来るだけ新鮮な物を店頭に置きたいからそのまま翌日に持ち越して鮮度を落としたり売れ残りのロスとなるよりは多少なりとも値引いて売った方がマシ、と考えるかもしれないのです。
では世の中みかん5kg買う人ばかりでしょうか? 仮に5kgで二〇〇〇円とします。
中には当然「そんな要らないよ」という人も居るので仮に500gで袋に入れて小分けで売るとしたら?
当然、袋代、手間賃が必要となります。ですがこの袋・手間もまた商品なのです。
需要に合わせた商品づくりが出来れば武器となり、その武器を経費として加味しなくてはいけないのです。
それぞれの商品にそれぞれの事情が有るので、一概に何でもかんでも多く買えば原価が安くなる、という訳ではありません。むしろ余程大量でなければ運賃分が下がらないためそこまで価格は下がらないのです。
工場や生産者に依頼をする場合はそれこそ大量ロットの方が歩留まり、つまり端材・中途半端な剰り、が発生しにくく、生産効率が上がりやすくなるので価格に転嫁しやすいのですが、それは余程の数量でなければ難しい話です。
米10kg精米して地方から東京に送るのと、1000kgを精米して送るのとではまず精米に掛かる手間賃が違います。10kg精米するのと一〇〇〇kg精米するのとでは確かに一〇〇〇kgの方が大変は大変ですがそれに伴う準備やらを考えると機械化がなされている現代では運んだり詰めたり程度で精米自体の手間はそれほど変わりません。
また、単位重量に対する運賃が違ってきます。トラックをチャーターするか宅配便で送るかで効率が変われば運賃も変わるのです。
チャンスロスや店側のキャッシュフロー、廃棄ロス、生産コスト、他経費などなど、様々な要因で相場というのは変わる訳です。
つまりそんなこんなで色んな人の色んな事情がない交ぜになると、「自然と適正価格ができあがる」訳です。
ここに大きな要因、例えば中東で戦争が起これば原油価格が高騰しそれに伴ってガソリン価格も高騰しますし、シェールガス等の生産量が増え供給量も増えれば今度は原油価格が落ちてガソリン価格も引っ張られて落ちる、というのが乱暴に言えばここ数年の流れです。
工場もまた、電気ガス水道だけじゃなく重油で動く場合も多々有りますので、中東で戦争が起こればやっぱり原油価格が上がってあらゆる製品の生産コストが上昇する訳です。
原価、というのは様々な要因が折り重なって作り上げるものの一つである以上、簡単に『この商品の原価って○○○円なんだぜ~』とか言う人が居たら鼻で笑ってあげると良いでしょう。
私は居酒屋で『この枝豆、原価20円30円のくせして300円も取るのかよ』とか言う奴とは呑みたくありませんねぇ。
そもそも300円で枝豆出す店って良心的なのか低価格帯なのかどっちかじゃないですか、と久々に会った同級生に言いたくて仕方なかったのですが『マジで!?そんなこと一々気にしてんの!?凄いな!一粒いくらとか考えて食ってんの!?』と酔ったふりして馬鹿にする程度で我慢しました。
性格はかなり悪いと自認しとりますが治すつもりも無ければ治せる可能性もないと思います。
自分を守銭奴だとは思ってますが、枝豆一つの値段をお店でどうこうは言いたくないのであります。
まぁこういうこと書いてる限りは五十歩百歩・ブーメラン突き刺さる、という奴ですけどね。
 




