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プロローグ



「……はぁはぁはぁ」


「「「待ってくださいお姉さま~~!!」」」


「……はぁはぁ……もお! 追ってこないでよ~」

 一人の生徒が息を切らしながら大勢の女生徒に追いかけられている。

 放課後になってかれこれ一時間くらいか。所属している生徒会室に向かう途中で下級生に見つかり今に至っている。

 日本屈指のエリート学校『シェイクピア私立学園』

 お金持ちのお嬢様やお坊っちゃんそうでなくとも頭のいいエリートの子たちが集う世界に誇れる日本一の学校。

 その学校の中で選ばれたもの、校内での投票によって選ばれた四人と先代から推薦で選ばれた三人の計七人だけが所属を許される生徒会に彼女(・ ・)宮守 葵(みやもり あおい)はいる。

 そのため生徒からの憧憬しょうけいの念を常に浴びているため廊下に出るだけで下級生が待ち伏せしている。なんてことは日常茶飯事であり、事実教室を出た瞬間一斉に葵に向かって生徒の波が押し寄せてきた。

 葵の先代の生徒会役員もこれが当たり前だったといい、おかけで体力や隠密術を身に着けれたと笑いながら言っていた。

 そしてみんな口をそろえて必ずこうも言っていた。

『まあ直ぐに慣れるよ』


 …………はあ、今でも思う――


「嘘つきーーーーー!!」


 叫んだところで追手の足が止まるわけでもなく只管ひたすら校舎内を逃げ回る。

 廊下の角を曲がると急に襟首を掴まれて影のほうに引き込まれる。


「……っちょ! 何!?」


「静かにしてください! 見つかりますよ」

 後ろから口元を抑え込まれ声を出さないようにと強制され、葵は反抗することもなく首を上下に振る。

 するとさっきまで追ってきていた下級生たちと見慣れた色のリボンをした生徒たちが次々と葵に気付くことなく前を通過していく。

 足音が完全に聞こえなくなると葵の口元から手が離れ、

「……大丈夫でしたか? 葵様?」


「うん……ありがとう。助かったよ。悠里ちゃん。」

 振り向くとそこには赤髪で小柄な朱色のリボンを首元に着けた少女がちょこんと座っている。

 彼女は紅妃 悠里(こうひ ゆうり)。葵と同じ生徒会に所属する下級生で彼女も追手を撒こうと隠れていたところにちょうど葵が通ったので引き入れたとのこと。

 葵の見た限りでは悠里を追っていたのは自分と同じ学年の同級生だった。

 この学校は学年ごとに制服のリボンの色を分けており、一年生が朱色、二年生が水色、三年生が橙色という変わった色分けがされている。

 悠里は小柄で見た目が可愛いので上級生、特に葵と同じ二年に人気があり、しょっちゅう絡まれたり追い掛けられたりしている。なので一年生ながらにして処世術や微服の才能がありその実力は生徒会の全員が認めるほどである。



「いえいえ、当たり前のことです葵様」


「それでも助かったしね。御礼は言っとかないとね。

 ……でもね、悠里ちゃん。あの……その……もうちょっと離れてくれないかな?」


「……ふふっ、何でですか?」


「……だって、……ち、近すぎて——」


「近すぎて? なんですか?」

 悠里は先ほどとは打って変った小悪魔のような微笑みで赤くなった葵に密着し顔を覗いてくる。

 そしてぬるりと手を出し、撫でるように葵の体を制服の上から撫でる。


「あっ……ぁん、っく、ぅん……。……ダメだってそんなとこ触ったら——」

 つやっぽい声と共に悠里を自分から引き剥がそうと手で悠里の体を押す。けれど体勢が悪いのか、うまく力が入らず押し退けられない。

 そのことをいいことに悠里はさらに体を寄せてくる。そして手の動きも激しくなり、仕舞いには股のところにまで伸ばしてきた。

 そのことに気付いた葵は、

「いい加減にしなさい!!」

 と声を上げ顔を真っ赤にしながら無理やり悠里を引き剥がす。


「きゃあ!」

 悠里はワザとらしく小さく悲鳴を上げると軽く尻餅をつき、そのまま素直に離れてくれる。


「ふふっ……葵様のイ・ケ・ズ」

 そして悪戯っぽく笑い葵の顔を上目使いで覗き、葵はその仕草にドキッとしながらもため息をつく。


「もお!ダメでしょ! 私はみんなと違うんだから、同じように触ったりしたら……」


「いつも言ってるじゃないですか。私は葵様が()でも気にしませんよ」

 と悠里がその言葉を発した瞬間葵は慌てて悠里の口を押える。


「ちょ、ちょっと!! 誰かに聞かれたらどうするの!?」


「大丈夫ですよ。誰もいませんから」

葵は周囲をのみ一匹をも逃さないかのように辺りを注意して見渡す。

普段あまり慌てたりしない葵でもその言葉が出たときはかなり取り乱してしまう。


そう葵はこの学校ではイレギュラーの存在。男なのだ……

この事実を知っているのは生徒会のメンバー、そしてこの学校の理事長である葵の母と男子校の生徒会だけだ。

もしこの事実が明るみに出た場合、下手をすれば裁判にもなりかねない。

そうならないためにも最初は戸惑っていた生徒会メンバーも今では葵に協力してくれている。


「はぁ……、気を付けてよ悠里ちゃん。いつどこで誰が聞いているかわからないからね」


「は~い。わかりました」

悠里は可愛く返事をするとそのままどこかへ向かうように歩き出す。


「悠里ちゃん、どこ行くの?」


「……はい? いや、どこって生徒会室ですけど……。葵様も行くんですよね?」


「あっ……!」

葵はすっかり忘れていたようで、悠里に言われ当初の目的を思い出す。

逃げるのに必死になっていると葵はたまに抜けることがありそのたびによく皆に呆れられている。


「ふふっ……葵様は天然さんですね」


「うぅ……」

葵はその言葉にしょぼくれながら悠里と一緒に階段を下り一旦校舎を出る。

この学校の生徒会室は校舎の外にあり一つの専用棟として建てられており、それ一つで様々な機能を備えている。しかも校舎の外にあるにもかかわらず一々下足で履き替える必要はなく上履きのまま行き来することが出来る。

二人は建物の入り口の前に来ると個々にカードを取り出し扉の端にある機械に通す。

すると赤く光っていたライトが青に変わり、ガチャッと鍵が開く音がする。二人はそれを確認すると扉をスライドさせ中に入り二人はそのまま階段を使って二階へ上がり、建物の奥にある扉の前に行き、葵は取っ手に手を掛ける。

葵はそのまま扉を奥に押す。すると——


「あら、会長。遅かったですね?」

長髪の少女が微笑みながらティーポットからカップに紅茶を注いでおり、その横で無口な短髪の子が頷いていた。


「あはは……ごめん、ごめん真唯(まい)理紗(りさ)。あと、やっぱり慣れないね……その呼び方」


「そうですか? 最近は様になって来たと思いますが」

そう言いながら長髪の少女こと由紀乃 真唯(ゆきの まい)が部屋に備え付けられた大きなドーナッツ型のテーブルの奥の椅子を引き、紅茶をテーブルの上に置き、ここに座るようにと葵を促す。

葵は「ありがとう」と礼を言い席に着く。目の前には会長と記された置物が置いてある。

まじまじと見つめた後、葵はそれを手に取り転がす。

「はあ……なんで会長になったんだろ……」


「それは葵が推薦されたから」

すると短髪の少女こと真唯の双子の妹由紀乃 理紗(ゆきの りさ)がボソッと呟く。

それはしっかりと葵の耳に届いており、「わかってるよ~」と会長の置物を置き、机に突っ伏す。


そう葵はこの学校の生徒の頂点に立つ、と言っては大袈裟だがこの学校の(おさ)と言っても過言ではない生徒会長である。

前会長から推薦と言ってよいのか分らないが、指名され今の会長職に就いた。

そして前会長は生徒から絶大な人気を誇っていたため、その人物から認められたということが現在葵が重度の注目や追い掛けられたりする要因となっている。

そして葵はそのことを相談しに前会長の元へ赴くが、いつも面白そうにニコニコしながら聞くだけである。


「でも葵様は文句付けながらも(しっか)り仕事を()してるじゃないですか」


「そうですよね~。逆になんでもやってしまうので私たちがやる仕事が減って楽できていますが……」


「葵、立派……」


()はそんなに立派じゃないよ……」


「「「()!!!!」」」


「……ごめん」

葵は事情を知っている人たちがいることで気が抜けてしまっていたのか、人称を戻してしまった。けれどそれを三人が訂正する。


「ここでは一応女の子なんですから気を付けてください」


「はい……」


「ふふっ……やっぱり葵様は天然ですね」


「天然天然」


「もうっ! うるさいなー。そんなことよりほかの三人は?」

葵はこのままでは自分はネタにされると思い無理やり話題を変える。といっても、元々この部屋に来た時から気にしていたことを真唯と理紗に聞いただけだ。


「先ほど先生に呼ばれて書類を取りに行ってもらっています。そろそろ帰って来るかと——」


「だだいまー!」


「これっ! 静かにしなさい!」


「はあ……疲れた~」

生徒会室の扉が勢いよく開かれると書類を持った生徒が3人が順に入室してきた。

最初に入って来たのは小さく髪を纏め、如何(いか)にもスポーツ系といった動きやすいように制服を軽く改造し、胸元には朱色のリボンを付けた一年生、星宮 緋音(ほしみや あかね)

その後ろを、緋音を叱りながら細微まで手入れされた艶やかな黒髪を(なび)かせ、入って来たのは、水色のリボンに、西日本の制服によく見られる膝下まで丈のあるスカートをはいた大和美人、三雲 佳蓮(みくも かれん)

最後に書類の束を前者二人が全く持っていなかったことから、一人ですべて運んできたと思われる首に水色のヘッドホンをぶら下げた四月一日 翡翠(わたぬき ひすい)


翡翠は重そうに持っていた書類を机の上に置くと椅子を引き、倒れ込むように座り込む。それとは対照的に、他の二人は真唯に入れてもらったお茶を涼しい顔で飲んでいる。


「(……なるほど、翡翠はジャンケンで負けたのか)」

葵はやれやれと苦笑いを浮かべる。

状況から察するに緋音が『負けた人が全部運ぶこと』とでも言いだしたのだろう。

面白いこと好きの緋音はことあるごとに迷惑な発想を思いつき、よく教師や友達などを巻き込んでおり学校中にトラブルメーカーとして名を馳せている。

そんな人が何故生徒会にいるのか?それは……まあまたの機会に。


「その書類は何?」

葵は机に向かって項垂れている翡翠に彼女が持ってきた書類をパラパラとめくりながら内容を尋ねる。すると翡翠は顔を上げると、

「あ~それは、今度行われるシェイクピア学園の設立二十周年式典の詳細と、其れに纏わる様々な書類で——」

気のない気怠い声で返事をし、簡潔に書類の内容を説明してくれた。


「……はぁ」

説明を受けた葵はため息しか出なかった。

なぜなら――

「式典も男子の方と合同だなんて……」

 


この学校は男子学部と女子学部とに分かれており毎年祭りなどの行事の時は合同で行うことになっており、無論向こうもシャイクピアなわけであるから20周年だ。

生徒会も別々なため会議なども開かなければならない。

葵は性別を偽って女子校の方にはいるが籍は男子校の方にもあり、両行を行き来するという多忙な生活を送っている。

本来ならそんなことはあってはならないが生徒会のメンバー以外周りにはバレていないので大した問題にはならずに済んでいる。が、行事となると男子校の生徒にも否が応にも必ず会うこととなる。向こうの生徒会の人たちもある程度の事情は知っているため問題ないがそれ以外の生徒は別だ。

即ちバレる可能性がグンっと上がってしまう。

そう思うと胃が締め付けられる。


「うぅ……」


「仕方ありませんよ。葵様」


「葵、ドンマイ」


「本当どうしてこうなったんだろう……」

葵は薄っすらと目に涙を浮かべながら眩い太陽の光が差し込む窓の外を眺めながら追憶にふける……

アドバイス、意見、要望などがあればどしどしよろしくですw

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