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ポケモンGOとシン・ゴジラに感化されて、小話を一つ書いてみた

作者: 斉藤ミツバ

最近は『ポケモンGO』にはまり、ダイエットと称して時間を見つけてはあちこちうろうろしつつ、

『シン・ゴジラ』の素晴らしさを知人に薦めまくる日々を送っております。

2016年が、こんなに素晴らしい年になるとは夢にも思っていませんでした。

やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、ポケモンとゴジラのことしか考えられない今日この頃です。

夕暮れが辺りを包み始める。母親は遊びに出た幼い息子が、まだ家に帰ってこないことに気付き心配になった。


そのとき、ズシン、ズシンと地震のような揺れが響いた。


危険を感じ、反射的に家から飛び出し息子を探そうとした。


幸いにも、玄関前に息子は立っていた。


しかし、息子の後ろに何かがいた。視界にはトカゲのような巨大な黒い足しか入らない。


母はその全体像を捉えるために顔を上げなくてはならなかったが、夕暮れで暗い空ではその巨大な怪物の顔を見ることはできなかった。

かろうじて、太古の肉食恐竜を何倍にも巨大化させたような姿であると理解した。


「なんなのこれは?」


「さっき、海辺で見つけたの。すっごい大きくてかっこいいんだよ」


「うん、そうね、見上げてると首が痛くなるもの。で、なんなの?

 いや、そんなことはいいから早く家に入りなさい」


「まってよ、ねぇ、(うち)で飼ってもいいでしょう?」


「飼うって、あの恐竜を?」


「違うよ、怪獣っていうんだよ」


母もう一度、顔を上げて目をこらし空を見上げる。

巨大な何かがこちらを見下ろしていることだけはわかる。


そして、険しい顔を息子に向けた。


「駄目よ、こんな怪獣は家では飼えません。もといた場所に戻してきなさい」


「え、なんで? ちゃんと面倒みるよ!」


「そういう問題じゃありません!

 こんなでかい動物。歩けば地震が起きて、何かのひょうしにご近所さんを蹴り飛ばしたらえらいことだわ!

 そもそも餌はなんなの!? ゾウやキリンよりたくさん食べそうじゃない。

 何を食べるの? いったい何を食べるの!?」


 息子は怪獣の頭のほうを見上げて、何を食べるのかと尋ねた。


 怪獣は低い声で唸った。口から吐き出された生臭い息は、目もあけられない強風となった。

家々の窓ガラスががたがた揺れた。


 息子は怪獣の言葉をためらいがちに通訳した。


「かく……」 


「何? よく聞こえないわ。ちゃんと言いなさい」


「核燃料だって!」


「核燃料!? ねぇ、それはペットショップで買えるの?

 そもそもいくらなの? 無理です、うちでは用意できません」


「でも……」


「いけません、怪獣は家では飼えません。

 すぐに返して来なさい」


「ママのバカッ!」


「まぁ!」


男の子は母に背を向けて走り出した。


怪獣もその後を追う。振り向きざまに尻尾で危うく家を吹き飛ばしそうになり、母親は冷や汗をかいた。

それでも、落ち着いたら、怪獣を捨てて帰ってくるだろうと楽観的に考えていた。




○○○○○○




男の子は、怪獣と出会った海辺に戻っていた。


怪獣と別れるのは心残りだが、母親が正しいことは理解していた。


怪獣を飼えるほど家は広くはないし、餌の核燃料もコンビニやスーパーでは買えそうに無い。


男の子は泣きながら、怪獣の足の爪にしがみついた。


「ごめんよ、お前を家で飼うことはできないよ」


「……」


「わかってる、ぼくもお別れしたくないよ。

 でも、やっぱり(うち)じゃ飼えないよ」


「……」


「え、どうしたの?」


男の子は、怪獣の爪から離れた。


怪獣も理解していた。

自分は人間とはいっしょにいられないことを。

寝返りをうてば高層ビルが将棋倒しになる。くしゃみをすれば森が吹き飛ぶ。マグマを風呂がわりにすれば火山が噴火する。


とても人間と仲良くいっしょに暮らせそうにない。


しかし、怪獣は人間に害を与えず、いっしょに暮らす方法を知っていた。簡単なことではないが。


「……」


「え、また戻ってくるって」


「……」


「うん、ぼく待ってるよ。何年でも。

 そのときまたいっしょに遊ぼうね」


男の子が涙に濡れた目をふいた。


怪獣は大波を起こして男の子を流してしまわないように慎重に海に入った。


そして、男に別れを告げて海の中へと消えていった。




○○○○○○




怪獣は海の底で考えた。


人間と暮らせるようになるには時間が必要だった。もしかしたらその準備の間に男の子は自分のことを忘れてしまうかもしれない。そんな不安があった。


いや、もしあの子どもが自分のことを忘れたとしても、別の子どもが仲良くしてくれるかもしれない。


しかし、その子どもがどんな姿を好むか予測できなかった。黒い恐竜は好みじゃないかもしれない。いくつか種類があったほうがいい。それもたくさん。


怪獣は目を閉じて眠りについた。明確な意思をもって眠った。


その身体はいくつにも細かく分かれた。別れたそれぞれに生命と心が宿る。


一つは鳥になり、一つはトカゲになり、一つは植物になり、一つは鼠になり、一つは虫になり、一つは――


とにかく細かく分かれた。世界中の全ての子どもたちと友達になれるくらいには分かれた。


その仕事に、当初の予想通り数年を費やした。




●●●●●●




ぼくは、今、歩いている。すごく足が痛い。とくに(すね)が。足にマメもできてしまった。


それでもぼくは歩くのをやめられない。彼らと出会うためならたとえどんな場所にでも行くつもりだ。


なぜなら昔、彼と約束したからだ。またいっしょに遊ぼうと。

生まれ変わった彼、いや彼らは家の中にも入れるし、いるだけで街を壊したりなんてしない。


今日もぼくは手のひらに納まる怪獣(モンスター)を求めて歩き続ける。

これからもずっと。

私は平成VSシリーズの世代にあたるわけですが、その最終回『ゴジラVSデストロイア』が上映されたのが1995年。

ゴジラが終わっちゃってさびしいな(正確には平成ガメラやモスラはやってました)と思っていた翌1996年に発売されたのが『ポケットモンスター赤・緑』です。

当時は今のように個人用モンスターを連れまわす考え方(ドラクエの魔物つかいみたいのはいましたが)はそれほど浸透していなかったわけですから、とても斬新に映りました。

「怪獣といっしょに冒険できる!」と思いわくわくしたのものです。それがまさか、世界中の子ども(未来の大人、これ大事)の心をつかんで現在に至るわけですから二重の驚きなわけです。

また数年もすれば、ゴジラもポケモンも廃れてしまうのかもしれません。それでもきっと彼らはまた帰って来てくれるのだと思います。

そして私たちとドキドキわくわくの冒険に出てくれることを信じています。

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