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神装の守護者  作者: 湊川
3/12

魔獣


 アルスター街道沿いの森林の奥、祠の前の広場にて、エルネリアは自身の能力や所持品について検証した。

 ゲーム内で発揮していた超人的な身体能力は、こちらでも問題なく発揮できた。

 魔法の発動も問題なくできる。

 持っていたアイテムは全てストレージにそのまま残っており、回復ポーションの効果にも問題なし。

 拍子抜けするくらいに、ゲームそのままであった。


 こうなれば、あとは実際にモンスターと戦闘することと、人に出会うことを目的にすれば良いだろう。

 状況を整理したエルネリアは、街の方向へ移動を開始した。





 森の中を進むエルネリア。

 森と言ってもプレイヤーが通れる程度には木の間隔が開いているので、移動に不便することはない。

 彼女は、右手にスタンダードな長剣を持ち、左手には頭を覆い隠せる程度のサイズの小盾を装備していた。

 森の構造はゲームのものと同じであるようなので、道に迷う心配は無さそうだ。

 こうなると、モンスターに関してもゲームと同じものが出るのかもしれない。


 ゲーム内でのこの森林には、主に魔獣というカテゴリーに分類される獣型のモンスターが生息していた。

 最も数が多いのがウルフ。

 目が赤く、灰色の毛をした狼の魔獣である。

 それ以外には角をもつ兎のモンスターであるホーンラビット、大柄な(いのしし)のフォレストボア、夜間にのみ出現する(ふくろう)のナイトオウルがいる。


(AWOの仕様のままなら、ホーンラビットは格上のプレイヤーが近付くと逃げようとするし、フォレストボアは数が少ない上に直接視認しないとプレイヤーを感知できない。

 今は昼でナイトオウルも出ないから、順当にいけば匂いで遠距離からこちらを察知して襲ってくるウルフとだけ戦闘になるかな。

 フィールドボスは、もし近くに来てもスルーしよう)


 この辺りは基本的には中級者、Lv50辺りのプレイヤーでもフォレストボアが少し面倒なくらいで、単独で探索が可能なエリアであった。

 しかし、ウルフの群れを統率する「グレイウルフ」、雷の魔法能力を得た一角兎の「サンダーホーン」の二種類のボスモンスターが徘徊しているため、それらと戦う場合にはLv50なら5人以上のパーティ、単独ならLv80は必要といった場所であった。

 勿論、ゲーム内でのエルネリアにとっては何の危険もないエリアだったが、現実となった今ではどうなるかわからないために慎重にならざるを得ない。


 しばらく進んだ所で、エルネリアはモンスターの接近を知覚した。

 正面の方向から三頭のウルフが近付いて来ているようである。

 100mほど先を走っており、一直線に向かってくる様子から、こちらを狩りの対象として定めているようだ。

 エルネリアが動かずに接近を待っていると、二頭が左右に分かれ、迂回うかいを始めた。


(行動パターンはAWOのウルフそのものだな……)


 しばらくして、真っ直ぐ進んで来た一頭がエルネリアを視界に捉えると、大きく吠えて注意を引こうとする。

 正面の個体が陽動を担当し、相手に気付かれないように左右に回り込んだ個体が襲いかかる。

 複数での連携を得意とするウルフの常套手段(じょうとうしゅだん)と言えるパターンの一つであった。

 とは言え、ゲーム内でウルフ系統のモンスターに散々仕掛けられた戦法であるうえ、ステータスの高さから周囲のモンスターの動きを把握できるエルネリアが慌てることはないのだが。


(見た感じ、ゲームと変わりないみたいだ)


 まずは一気に踏み込み、まだ数十メートル先にいた正面のウルフの前に一瞬で辿り着くと、驚いて硬直してしまったそれを斬り伏せる。

 ウルフの体は斜めに両断され、断面からは血液やら何やらが大量に流れ出した。


(げ、やっぱりこうなるのか……)


 流血表現の存在しないAWOではありえなかった衝撃的な光景であるが、ある程度は予測できていたので、深く考えずに残りの二頭に意識を向け直すことにした。

 進んで見たいものでもないが、戦闘中にそんなことにショックを受けている暇などない。


 左右に回り込んでいた二頭のウルフはエルネリアが消えたことに戸惑い、一瞬遅れて彼女が正面の陽動を斬ったことに気付く。

 と、その直後には二頭とも、エルネリアが剣から持ち替えた弓矢によって撃ち抜かれていた。



 三匹のウルフを危なげなく仕留めたエルネリアは、ひとまず弓矢をしまい、最初に斬ったウルフの死体を見る。

 左肩のあたりから斜めに両断された死体は、言葉では言い表せないような凄まじい状態であった。


(だいぶグロい……。でも、現実なら斬ったらこうなるのは当たり前か……)


 AWOでモンスターを斬っても血は出ない。

 基本的に倒されたモンスターは光の粒子になって消えるのが普通であった。

 また、ウルフを倒した場合、一定確率で毛皮や爪、牙などの素材アイテムがその場にドロップしたが、この様子だと死体を解体しなければそれらは入手できなさそうである。

 流石に死体を(さば)く技術は無いが、ストレージにしまおうと手で触れれば、きちんと一つのアイテムとして収納されたため、三体分のウルフの死体を持って行くことにした。


(でも、戦った感じはゲームのウルフと全く変わらなかった。これなら、危険はないかな……)


 ウルフとの戦闘を経てわかったが、やはり敵モンスターもAWOと殆ど変わらないようである。

 違っている点は、斬れば血が出ることや、倒した後に死体が残ることか。

 まだ確実とは言い難いが、戦闘面でAWOから大きな変化はないようであり、最も心配していた部分がこれまで通りだとわかったというのは非常に頼もしかった。

 そうとわかれば過剰に慎重になる必要はないと、エルネリアは走って移動を始めた。



 少しすると、エルネリアはまた新たな気配を察知した。

 今度はどうやら、ボスモンスターのグレイウルフとその配下のウルフ達が5頭程いるようである。

 先ほどまではボスが居てもスルーしようと考えていたエルネリアだが、しかしこれはスルーできそうにない。

 何しろ、そこにはグレイウルフ達と戦う、人間の気配があったのだ。

 ここで人間と接触できれば、現状の把握も進むだろう。


(これが、話の通じる人だといいんだけど……)


 エルネリアは多少の不安を抱えながらも、その方向に走るのであった。

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