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『モブだって人生は激流 』 by紫陽圭

モブだって人生は激流

作者: 紫陽 圭

恋愛小説の世界に転生したと気付いたけど、モブだからと気楽にいたら・・・。

 ********************


 突然ですが、『モブ』って知ってます? 小説やゲームに出てくる『その他大勢』です。 『脇役』でさえなく、名前や設定が無いのも普通という、ストーリーへの影響力皆無の存在です。

 そして、ココは、とあるファンタジー風恋愛小説にそっくりの世界です。 

 魔法もファンタジー生物も一切無いので『ファンタジー風』で、この世界もそうです。

 そしてそして、私は原作(?)ではモブです。 名前や設定どころか存在さえ出てきません。 見事なモブです。 完全なモブなんです、モブとしては完璧な存在と言えるほどの・・・。

 で、それをわかってる私はいわゆる『転生者』なんでしょうね、たぶん。


 ********************


 そんな私『アーシア』は現在フリーズ中。

 いえ、今はとりあえず思考が再開してます。 通常運転には程遠く、外部の動きには今でも反応できませんが・・・。 でも、つい先ほどまでは完全に心身ともに固まってましたから、部分的再起動ってところでしょうか。



 まずは、現状把握のために状況を確認。


 ここは王宮、それも謁見の間です。

 私は侯爵令嬢です。 貴族の娘なので許可や必要が有れば王宮に出入り出来ます。 呼び出されれば謁見の間に出向くことも有り得ます、ただし、ソレは呼び出された場合のみ。

 今、そんな場所に居るわけで、つまり・・・呼び出された?!

 あ、気を張らないと再度フリーズしそうです。


 で、目の前には王と王妃が居ます。

 王と王妃と私と、あ、もう1人居るのに気付きました。 あれ? 従兄いとこです。

 レーヴ(レーギユネス=従兄)は、ソレス公爵(王弟)の次男ですから、王宮に居ても不思議は有りません。 が、公爵もその後継者(長男)も居ないのに、レーヴだけが居るのは何故でしょう? たとえレーヴの身分でも、現当主でも後継者でもない者を1人で王宮に、それも謁見の間に呼び出すことは『普通は』有りません。 

 そこで、もう1つ、気付きました。 ここには、居るべき人が居ないんです。 それは王の唯一の子供であるティーバネス王子です。 レーヴは彼の学友でもあり将来の側近なので、レーヴだけが居るのは王子絡みだと思ったんです。 けど、その王子が居ません、何か別件の用でも有ったんでしょうか?

 そういえば、王と王妃は唖然と苦笑の混ざった微妙な表情を、レーヴは呆然と疑惑の混ざった複雑な表情をしています。 どうしたんでしょう?


 ここで、ふと、感じていた違和感を思い出しました。 私は何故、1人でココに居るんでしょう?

 実は、ホントは、呼び出されたのは従妹いとこです。 フィー(フィーリア=従妹)はディアナ公爵家の令嬢で、王子の婚約者の第1候補と言われてます。 彼女に代わって『事情説明のために』王宮に来たとはいえ、私も1人のみ、やはり『普通じゃない』と感じます。

 王たちの表情から何かが起こったのはわかりますが、何事でしょう?


 ********************


 さて、私の思考が再起動をほぼ果たしたとき、王や王妃、レーヴも復活したようです、 けど、唖然が同情に、呆然が憐れみに変わってるようで・・・馴染みの有る嫌な予感が押し寄せてきます。


「フィーリアは、また何かやらかしたか」

「また、フィーの尻拭しりぬぐい?」


 王とレーヴの言葉から、フィーについて私が報告に来たことを察しているのがわかります。 しかも、王と王妃は予感でも有ったかのようです。 そして、彼らの表情には『いつもながら』という労わり以外のものも含んでいるのは確かで、嫌な予感が急速にふくらんでいきます。

 が、『まずは報告を』との言葉に事情を説明します、『異世界人と称する男性と駆け落ちしたらしい』と・・・。


「決まりだな。」

「逆に何とかなりそうね。」

「(王たちよ、)他人事だと思って・・・。 フィーなら(そんなことも)有りか。」


 なんか、3人とも微妙に安堵したような様子で頷いてますが、私には訳がわかりませんし、嫌な予感はふくらむ一方です。 そこに更に爆弾が落とされるとは、さすがに思わなかったんですけどね。



「レーギユネスと結婚して王太子妃となれ。」


 命令された内容をすぐには理解できず、再びフリーズ。 でも、衝撃が強すぎたせいか今回は先程より早く再起動したものの、思わず場所も立場も忘れて叫びました。


「レーヴと? 結婚? 誰が? 王太子妃? ・・・そして、レーヴ、なに黙ってるのよ?!」

「レーギユネスとアーシア(私)が、結婚して王太子と王太子妃になれ。」

「やっぱりティーヴもフィーと同類ってことだよ。」

「え・・・?!」


 再度命令する王は冷静で、私の叫びへの答えを兼ねて落ち着いた声。 王妃は静かに微笑むのみ。 レーヴは割り切った様子で大きな溜息ためいきとともに話す。 けど、命令の理由がわからないんですけど? レーヴの言葉は同意せざるをえないものだけど、この場合は・・・ねぇ?!


 ********************


 さて、当事者だからと明かされた事情はやはりトンデモナイ代物でした。


 この国では近々立太子(王太子就任)の儀式が予定されていた。 それは立太子予定の王子の結婚が条件なので、同時に結婚式も行われる。 さらには、王宮神殿の巫女も代替わりすることになるため、占いによる次期巫女の選出が事前に行われる。


 まず、この巫女の選出で問題発生。 通常は、たとえ遠くとも王家の地をひく者が選ばれるのだが、今回は異世界から召喚されて来たらしい。 召喚術どころか魔法さえ無いこの世界では起こりえないはずの事態だった。 さらには、その召喚に巻き込まれて兄まで来た。

 とりあえず、異世界からの客人として別室でもてなしつつ説明し、改めて選出したら今度は普通に子爵令嬢が選ばれた。 それを聞いて、立ち直っていた客人ユリアナ(妹)とカイル(兄)は『じゃぁ、自由に生きる』と後見人の貴族の紹介だけ依頼して退城していった。


 次に起きたのは、ユリアナたちの退城にくっ付いての王子の出奔しゅっぽん。 周りが呆れるほど王子とユリアナは意気投合していたようで『駆け落ちだ』とささやかれたが、即座に王が箝口令で押さえた。 立太子予定で、しかも唯一の王の子供、当然だろう。


 で、追い打ちを掛けたのがフィーの駆け落ち。 フィーは呼び出しに渋々応じて王宮に着いたところで王子たちに遭遇、自分が乗って来た馬車の御者に伝言を託して王子たちに同行して行ったらしい。 王子とフィーは幼馴染以上ではなかったからお互いに結婚を嫌がってたし、伝言には『異世界人』とある。 つまり、フィーの駆け落ち相手はほぼ確実にカイル。


 ということで、王たちは状況を察し、今後の計画を立て直した。

 王子は性格的に絶対戻って来ないし1人でも生きていける。 となると、次期王太子は最も血の近いレーヴになる。

 同様にフィーも戻ってくる可能性は限りなくゼロに近く、のたれ死ぬ心配はない。 そこで、次期王太子に必要不可欠な妃として私が選ばれた。

 で、先程の命令になり、王命では拒否は不可能なのでレーヴは私と話し合うことにした・・・。

 当然、関係者には打診・了承済み、よって通告のため本人たちのみ呼び出して現在に至る。



 あぁ、ここで誰も王子や公爵令嬢フィーの心配をしないのは当然。 二人ともすごく優秀で、特に剣術は護身の域を超え、体力は熟練冒険者並み、何よりも退屈を嫌う、似た者同士の『同類』だと社交界では衆知の事実ですから。 そんな、身分を捨てても生きていける規格外な王族・令嬢だから、現在の追跡は無事に落ち着くのを確認するのが目的。


 ちなみに、レーヴも優秀。 王立学園での学年トップは、1歳上のレーヴの年代は彼が、王子と私の年代は王子が1位で私が2位、1つ下のフィーの年代では彼女が、それぞれ1位を独占したまま卒業している。 そして、レーヴは次期王の側近と目され将来の宰相候補でもあった。 王子より頭脳派で落ち着いてるから良い補佐役とみなされていたわけで・・・本人は『子守か目付け役』と苦笑していたけどね。


 しかし、事後報告というか命令の通告って、私が『ハメられた』と感じるのは普通ですよね?!


 ********************


 ハッキリ言って、混乱しました。


 誰にも話してませんが、ここはファンタジー風小説そっくりの世界なんです。 主要人物も彼らの立場も小説そっくりです。

 小説では、王子と巫女が恋に落ち、王子の婚約者候補という立場から解放されてハメを外す公爵令嬢フィーを幼馴染の公爵子息レーヴが押さえてるうちに婚約、ハッピーエンドなんです。

 王子には『王家の血を薄めるつもりか』と、レーヴ達には『王家の血が濃くなり過ぎる』と反対があったり、代わりの巫女がなかなか選ばれず(見つからず)神殿が混乱してる中に『私でも良いよね』と子爵令嬢が押し掛けたり・・・。 フィーやレーヴを狙う人々の起こすトラブルも有って、と定番の騒動がてんこ盛りのはずだったんです。

 異世界からの客人2人も私も、影も形も出てきません。


 で、モブの私は傍観者として見て楽しむだけと、むしろ楽しみにしてたのに・・・。 予想どころか想像さえしなかった事態と、その斜め上を行く展開ばかりです。

 侯爵令嬢として政略結婚することになろうとも、人生は穏やかに過ぎていくと信じてました。 多少の問題はなんとか出来ると思ってました。 トンデモナイ王子と従妹が居ようと、ここまで引っきまわされるとは考えもしませんでした。 まだまだ甘かったようです。

 そして、甘かったといえば、『ここは現実』という認識もまだまだ甘かったのでしょう。


 もう、開き直るしかない気がします。 

 無理にでも前向きに考えないと、キャパオーバーで現実逃避して引きこもり、家族等を巻き込んで(変な)悪役令嬢になりそうです。

 レーヴ相手なら、色々と交渉の余地は有るでしょう。 不幸をかこって泣き暮らすことにはならないと信じられます。

 そうと決まれば、交渉内容を考えておかなくては・・・。 彼を言いくるめたりは無理とわかってますが、いざとなったら伯母(母の姉=レーヴの母)に泣きついて協力してもらいましょう。


 ********************


 結局、王命に従うことになりました。 もともと拒否権は無いんですけどね。

 正直、相手が王子だったら私はもっと抵抗しましたね。 彼は色々な点で私の手には負えない。 結婚相手として見ることも困難。 振り回されて疲れ切ってしまうのは確実。 ・・・ほら、無理でしょ?! その点は王たちもわかっていたらしく、相手がレーヴなら『逆に何とかなりそう』と思ったらしい。

 いや、レーヴだって、結婚相手として考えたことはお互いに無かった。でも、学園や社交界で『理想的な組み合わせ』として見られてたのは知ってたし、さりげなくにらみつけてくる視線も探るような気配もあおるようなささやきも感じてた。 そして2人とも当然のようにスルーしてた。


 さて、その気の無かった2人の結婚です。 王命なので、1種の政略結婚です。 普通だったら『契約結婚で良いよね』で済ませるんですが、王位継承者問題が有るので『白の結婚』は不可能です。 とはいえ、あまりにも突然のことだからと、2年は『白の結婚』の許可をもらいました。 レーヴも巻き込んで2人で王たちを説得しましたよ。



 そして、結婚・立太子・立太子妃から2年。

 実は予想以上に上手くいってます。


 今、妊娠3か月だったり・・・。

 人目の無いところでは大喧嘩もしました。 王宮って、壁が厚いから各部屋の音や声がれることが無いんです。 助かりました。 思いっきり言い争ったから不満をめることもありませんでしたから。

 一緒に乗馬や視察や議論して、意見も交わし理解を深めストレスも発散しましたし、ね。


 王たちは今も元気で現役です。 後継者が確定したことで負担が減り、夫婦仲は今までより良くなったみたいですし、私の妊娠で楽しみが増え、ますますパワーアップしてるくらいではないでしょうか。 嫁姑問題も無く、私たちとも仲良くやってますよ。

 巫女は私のハトコですが、彼女にはうってつけだったようで生き生きしてます。

 王子とユリアナは結婚して、ソレス公爵家の領地を拠点に夫婦で冒険者してるそうです。

 フィーとカイルも結婚し、ディアナ公爵領で食堂をやってて、繁盛してるらしいです。


 え? この騒動の外交への影響や内部の混乱? 王もレーヴもそんなの余裕で回避です。 王妃も私もスルースキルはほぼ完璧です。 むしろ、お祝い特需で経済効果バッチリでした。

 レーヴは王たちの養子になり、我がディアス侯爵家は初代の王の弟の直系なので、王家の血が薄まる心配は無いとも言えるため、要らぬ口出しを封じられましたしね。


 さぁ、小説と違って、まだまだ現実の人生は続きます。 

 モブだからと油断してたら小川から激流に急変した人生ですが、ともに歩む相手も居ますし、親兄弟や親友も居ます。

 顔を上げて、笑顔で幸福を呼び込みましょう、明るい将来に向けて・・・。


 ********** (本編)完 **********

番外編と設定をまとめてシリーズとして投稿してあります。

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