シーズン・ストーリー 春の騎士様
冬の王子様を見ている人にわかる部分があります。
ぽかぽか陽気。花畑の花が風にゆらゆら揺れる。此処は一年中、春である春の国。町の石像には町の守り人と言われている『春の騎士』の青年の像が立っていました。
端正な顔立ちを持つ、穏やかそうな騎士は剣を構えています。『春の騎士』は春の国が別れる前の王国の騎士だったと言われています。伝説では呪いをかけられた王子様の為に、魔女を倒しにいきました。魔女は倒しましたが魔女が死ぬ間際に呪いをかけ、騎士は石化したと言われます。
勿論、伝説で国の人々は信じていません。不思議なことにその石像は春の力が宿っており、石像を中心に人々は国をつくりました。一年中、春であることから、春の国と呼ばれています。
しかし、昔から夜になると石像が話すと言う噂があります。そのため町の人々は怖がって、夜の石像には誰も来ることはありません。
そんな、夜の日。誰も近寄らない石像の前には、幼い女の子が泣いていました。
「ふぇっ……」
女の子は家族を亡くしたばかり。この町に来て、女の子は優しい叔父と叔母に引き取られました。しかし、本当の家族が恋しく、女の子は寂しさで泣いていることをばれないように夜にこっそりと抜け出して、泣いているのです。噂の石像がある広場なら、夜は誰もきません。女の子は膝を抱え、泣き出そうとしていました。
「ふぁわ……っ!」
[……大丈夫かい!?]
「ふぇ!?」
声が聞こえ、驚いた。女の子は石像を見上げます。……石像から、声が聞こえたような気がしましたが、気のせいでしょうか?
女の子は目に涙を溜め、再び泣き出そうとします。
「ふぇっ……ふぁわぁ――」
[だから、大丈夫かい!? 俺の声、わかるよね?]
「っ!」
女の子は石像を勢いよく見上げます。石像は動いてはいませんが、どこか安心しているように見えました。
[はぁ……良かった。俺の声がわかるんだね。ところで、君、大丈夫かい? 何があったか俺に話してよ]
「――いゃぁぁっ!」
女の子は悲鳴をあげながら、全力疾走で家に向かって逃げていきました。石像は呆然とし、我にかえり、声をあげます。
[なっ、えっ、何で逃げるの!? ちょっと、待ってよ!]
――翌日の昼、女の子サクヤは町の人々に石像の事を話しました。しかし、皆、サクヤの言うことは噂話に過ぎないと笑いました。
「ただいま………」
叔母のリンカは笑顔で迎えてくれました。
「あ、サクヤちゃん。お帰り。ご飯出来てるわよ」
「……うん」
目を見ず、返事だけをしてサクヤは自分の部屋に閉じ籠ります。リンカは心配そうに扉を見つめ、夫のナチラに言いました。
「……サクヤちゃん。まだ、私たちに心を開いていないのね」
「仕方がない。家族を事故で失ったのだから」
サクヤは家族を失い、引き取った二人にまだ心を閉ざしている。扉の前で、サクヤは座り込んで泣いていました。
夕方、サクヤは再び春の騎士様の石像のもとにきました。石像の顔を恐る恐る眺めながら、しゃべらないかを確認しました。
「……しゃべったのは気のせいだったんだね」
安心したのは束の間。
[気のせいじゃないよ]
「!?」
顔をあげた瞬間、騎士様の石像は笑ったかのように、話しかけてきました。
[昨日はどうも。俺に話しかけられて逃げたんだよね。あの時はごめんね。ビックリしたでしょ]
「っ……え……えっ」
[ああ、逃げないで! 安心して、俺は動けないし、喋ることしか出来ないから]
騎士様の石像は優しく言い、サクヤは本当に動かないのかじっと観察をしました。ぴくりとも動きません。石像の言っている事は本当のようです。
「……本当に動かない」
[ね、本当でしょう。……もしかして……信じられなかったのかい?]
「だって、いきなり喋る石像さんは怪しいもん」
[……確かに君のいうとおりだ]
石像は納得し、サクヤに自己紹介をしました。
[俺は王国の騎士。王子の護衛騎士をしていた者。この国では『春の騎士』と呼ばれている]
「……えっ、『春の騎士様』……!?」
サクヤは驚きました。伝説と言われた話が本当だったのだからです。春の騎士に名前をたずねることにしました。
「私はサクヤっていうの。……騎士様、名前は?」
[……悪いけど、教えられないんだ。呪いのせいで、名前を教えると俺はただの石像になってしまう。つまり、春の騎士として、命を失うということなんだ]
「でも、そうなんだ」
サクヤは春の騎士様がかわいそうに感じ、別の質問をしました。
「ねぇ、騎士様はずっと石化してるんだよね。寂しくないの?」
[寂しくない……って言えば、嘘になるから、ちょっと寂しいかな。町の人々は俺の事を見てくれるけど、俺の声が聞こえる人は極僅かだから]
春の騎士様はずっと町の人々を見ているだけで、話しかけても人々には聞こえません。聞こえたとしても、驚いて逃げられます。春の騎士様は寂しい思いをしている。サクヤは悲しくなり、騎士様に言いました。
「ねぇ、また此処に来ていい?」
[構わないけど、こんな時間に出たら、危ないよ。……家族が心配するよ]
サクヤは家族と聞き、表情を暗くしました。本当の家族はいない。叔父さん達は優しいのですが……。
「大丈夫だよ。本当の家族はいないけど、おじさんとおばさんがいるから」
[……家族がいない]
サクヤの表情から、無理をしているように見えて、春の騎士様は静かに聞きます。
[無理をしていないかい?]
「……してないよ」
[嘘をいわない。していないのなら、昨日、あんなに泣かない]
「……」
真剣な声にサクヤは黙り、春の騎士様は優しい声を出しました。
[……昼間は無理だけど……困ったことや悲しいことがあったら、夕方、俺の所までおいで。何もできないけど、話を聞くことはできるから]
優しい騎様士の言葉にサクヤは笑った。
「……ありがとう。騎士様」
■ ■ ■
毎日夕方にサクヤは春の騎士様の元に行き、話しました。昔の騎士の話。町の行事の話。騎士様はサクヤの話を楽しく聞いています。
「でね。青い小鳥がね。ひなにご飯をあげてたんだ」
[青い小鳥か……幸せを呼ぶ青い鳥の話を思い出すなぁ]
「騎士様は鳥が好き?」
[好きだよ。サクヤちゃんは?]
「好き!」
他愛のない話。サクヤは楽しい気持ちになり、笑顔になりました。春の騎士様は笑ったようにサクヤに言いました。
[可愛い笑顔だね]
「ありがとうっ!」
[俺も表情を見せられたらいいんだけど、石になってるからなぁ……]
「いや、春の騎士様は分かりやすいから、大丈夫だよ」
[……えっ]
騎士様の心にさりげなく刺さることを言われました。春の騎士様は落ち込んだ声を出す。
[ひどいな……分かりやすいって……]
「?」
[……いや、王子にも言われてたからいいけど]
「言われてたんだ」
[うん、言われて、からかわれてた]
そんな話を毎日続け、二人は仲良くなっていきました。サクヤは空を見えました。もう夕日が沈みつつある。帰らなくてはいけません。
「じゃあ、太陽さんが沈んで来てるから、もういくね」
[待って]
呼ばれて足を止め、騎士様に振り返りました。
[……家の人と話しているかい?]
「……」
[話さないと駄目だよ。話さないとわからないことがある]
「わかってるけど」
[わかってない]
厳しい声色にサクヤは黙り、春の騎士様は言い続けました。
[君の叔父さんたちは何のために、君を引き取った? 何で、君と住んでいる? 嫌いだったら、君を傷つけているか、捨てている]
「…………」
[わかるよ。本当の家族の方が良いって言うのは。だけど、叔父さんたちの気持ちを考えてみるんだ。もし、俺が君だったら……っあ]
サクヤは涙を流していました。騎士様は少々言いすぎてしまいました。
サクヤは走り出し、春の騎士様はその背を見ているだけでした。
■ ■ ■
しばらく、サクヤは春の騎士の元にいかなくなりました。春の騎士様から図星を突かれ、会いたくないと思ったからです。サクヤは春の騎士様の像がある広場を見ています。広場には、変わらず春の騎士様が剣を構えて立っていました。
「……」
「嬢ちゃん。春の騎士様の像を見て、どうしたんだい?」
振り向くと、優しいそうなお婆さんがいました。町の服を着て、ハーブの入っているバスケットを持っています。
「悲しい顔をしていたよ」
「……お婆さん」
優しく聞いてくるお婆さんにサクヤは話した。春の騎士に痛いところをつかれ、騎士に会いたくない事を。話すとお婆さんは優しく微笑みました。
「じゃあ、きっと、春の騎士様も謝りたがっているだろうね」
「えっ?」
お婆さんは笑いました。
「だって、嬢ちゃんを傷つけてしまったんだから、謝りたがっているさ」
「……本当?」
「もちろん。……だけどね。嬢ちゃん」
最初に笑うと、厳しい表情でサクヤに言いました。
「自分にも、原因があると考えないといけないよ。自分は悪くないと思っちゃいけない。自分も悪いことをしたと考えて、反省しなきゃいけない」
お婆さんの言うことに、サクヤは眉を八の字にしました。お婆さんは優しくサクヤの頭を撫でました。
「……ちゃんと、嬢ちゃんも謝るんだよ。大丈夫。きっと、嬢ちゃんなら出来るから」
お婆さんに背中を押してもらい、サクヤは胸をギュウッとつかみました。
――数日後、夕方、春の騎士様の元にきました。サクヤは春の騎士様に声を掛けた。
「騎士様」
サクヤは頭を下げます。
「……ごめんなさい」
[……サクヤちゃん]
それをみて、春の騎士様は声を出し、サクヤは本音を言いました。
「……私はお母さんとお父さんに会いたい。でも、会えないの。…亡くなっちゃったから会えないないの。私を引き取った叔父さん、叔母さんは優しいけど、どうすれば良いかわからないの。騎士様の言ってることは正しいよ。……でも、わからないの」
泣きそうな声で、サクヤは春の騎士様に謝りました。
「……ごめんなさい。騎士様の気持ち、考えてなかった」
[……それは、俺もだよ]
「……えっ?」
サクヤは顔をあげると、騎士様は申し訳なさそうに声を出しました。
[俺は君に厳しいことを言いすぎた。まだ、君は子供なのにな。だから……ごめん]
サクヤは驚きました。
「……許してくれるの?」
[許すもなにも…お互い様だよ]
「っ……よかったぁぁっ」
それを聞き、サクヤは泣きじゃくり、わんわんと泣きました。サクヤの泣き声に騎士は体を動かそうとしましたが、動けません。抱き締めあげてたい、撫でてあげたいのに。呪いのせいで、体が動きません。
「……ひぐっ……よかったよぉ」
[……うん]
「……騎士様ぁ」
[ん?]
「……騎士様はこんな私でも……友達でいてくれる?」
[いるよ。ずっと、ね]
春の騎士様の言葉にサクヤは泣くのをやめ、微笑みました。騎士様も微笑んみましたが、急に眠くなりました。
[……っ]
「……騎士様?」
[……あ、ああ、何でもないよ]
「そう? じゃあ、私、また明日も来るね!」
[うん、また明日]
サクヤは家に帰ります。叔母と叔父の事は大丈夫だろうと感じ、騎士様は息をはくと再び眠くなりました。
[っ……]
騎士は眠いのをこらえ、サクヤの背を見送りました。
■ ■ ■
――とある昼間、サクヤは友達と春の騎士様の像の前で待ち合わせました。
「ヘスティアちゃん、ダナちゃん!」
太陽のようなハニーブラウン。三つ編みの可愛い暖かな女の子はヘスティア。
栗色の髪の包み込むような雰囲気を持っている女の子ダナ。
サクヤと同い年で冬の国、秋の国から遊びに来た友達です。二人は家族はサクヤの養父と仲が良く、遊びに来ることがあります。
「サクヤちゃん。お久しぶり!」
「サクヤちゃん。久しぶりだね」
「うん、皆、久しぶりっ!」
三人は嬉しそうに手を繋ぎあいました。そして、そのまま追いかけっこ、おままごと。会えなかった分だけ、三人は遊びました。休憩するため、春の騎士様の前に三人は座りました。サクヤはもじもじとし、二人をみました。友達なら打ち明けても大丈夫なはずと思い、サクヤは二人に打ち明けました。
「あのね。実は私……春の騎士様と話したよ」
話すと反応は、それぞれ違いました。
「本当?」
棚は疑いますが。
「本当!? 凄いね!」
ヘスティアは純粋に誉めました。ヘスティアの反応にダナとサクヤは驚き、ヘスティアは二人を見て不思議に思いました。
「? どうしたの?」
「えっ……だって」
サクヤは信じてくれるとは思いませんでした。ダナは信じてるとは思いませんでした。
「私は信じるよ。サクヤの言ってること」
「どうして……?」
ヘスティアは微笑みました。愛しそうに、懐かしいそうに。
「だって、『冬の王子』はいたって、私は知ってるもん」
「……えっ?」
「今、居ないけど王子様はお空から見守ってくれてるの。……居たことを知ってるからから、サクヤの言ってることは本当だって、私は信じるよ」
ヘスティアの見た事のない大人びた表情。サクヤは不思議に思いながら、笑いました。
「ありがとう」
ダナは不思議そうに首を横にかしげ、それを見ていた春の騎士様は微笑ましく見守っていました。
――春の騎士の石像に遊びに来るとサクヤに声を掛けました。
[仲良いんだね]
「ヘスティアちゃんとダナちゃんの事?」
[うん、そのヘスティアちゃんの言ったことは気になるけど……君たちを見て、懐かしい事を思い出したよ。俺には親友と呼べる友達がいたんだ。一人は国の王子で、もう一人は執事、もう一人は王宮の魔法使いだった。よく四人で遊んだり、喧嘩したりしたなぁ]
「その友達さん達は……?」
聞くと春の騎士様は黙りました。言いたくないのでしょうか。サクヤは聞かないようにしようとしたら、騎士は話しました。
[俺の討ち取った魔女に呪いをかけられた。俺は親友の呪いをときたくて、魔女を倒したのに……こんな様じゃあな……]
悔しく、苦しそうでした。サクヤは騎士様に悲しみを感じ、騎士様はサクヤの顔を見て、戸惑い始めました。
[何で、君が泣いているんだ]
目から涙を流し、サクヤは騎士様の顔を見上げました。
「……騎士様は、ちゃんとしたよ。呪いをかけられても、ちゃんとやることしたよ!苦しまなくていいの。騎士様はちゃんとやったからっ!」
[……ありがとう]
サクヤは慰めてくれていたのです。騎士は感謝を言います。サクヤは、決意して騎士様に言いました。
「……私、騎士様の呪いをとく方法を見つける!」
[えっ……]
呪いをとくことは簡単ではありません。サクヤに騎士様は言いました。
[魔女の呪いをとくことは、簡単じゃない。それに…今すぐ見つかるものじゃあ]
「見つける!」
サクヤはしっかりと告げました。
「絶対に見つける! 騎士様は毎日、私の話をいっぱい聞いてくれた。私はそのおれいをしたいの!だから、たくさん時間がかかっても、見つけるもん!」
[……サクヤちゃん]
騎士様はなんとも言えない気持ちになりました。しかし、騎士様の呪いをとくのは難しいです。騎士様は優しく言いました。
[サクヤちゃん。嬉しいけど、君の気持ちだけ受け取っておくよ。……俺は君がこうして、話に来るだけで十分だから]
「……わかった」
サクヤは頷いて、騎士と別れました。
[っ……]
春の騎士の視界が一瞬、真っ黒になりました。とっても眠くなり、なんとか眠気を払い、騎士様は気付きます。
[……っまさか……]
――サクヤは諦めたくありませんでした。なんとしてでも春の騎士様の呪いを解きたい。家に帰り、リンカの前にきました。
「あら、お帰り」
リンカは声をかけるとサクヤはドキドキと緊張しました。言いたい、言わなくてはいけない。サクヤは勇気を出してい。
「…叔父さん、叔母さん!」
「ん?」
「…私、大きくなったら、学校にいきたい。魔法使いになる学校に行きたいっ!」
リンカは驚き、夫のナチラに視線を向けました。魔法使いになるには難しい勉強を沢山しなくてはいけません。リンカは驚き、夫のナチラに視線を向けました。魔法使いになるには難しい勉強を沢山しなくてはいけません。ナチラは問いかけます。
「……何でだい?」
サクヤははっきりと言いました。
「助けたい人がいるから」
「助けたい人?」
「うん」
頷いて、思いをぶつけます。
「私の話をいつも聞いてくれて、私を励ましてくれる優しい人なの。その人は何もできなくて、困ってる。だから、私はその人を助けたい。おれいをしたいの!」
サクヤの言うことにナチラはしばしば黙り息を吐き、言いました。
「……まずはこの町に魔女のマリアンさんに相談をしてみなさい。そこから、行くかどうか、検討しよう」
サクヤは表情を輝かせました。リンカは目線をサクヤに合わせて、嬉しそうに微笑みました。
「……サクヤちゃん。やっと、私たちと話してくれたね」
「……あっ」
サクヤは驚きました。戸惑っているとリンカは真っ直ぐと目を見て笑いかけました。
「サクヤちゃんがやりたいことをいってくれて嬉しかったわ。だから、サクヤちゃん。遠慮しないで話していいのよ。――だって、私たちはもう家族でしょう?」
家族。
その言葉にサクヤは目に涙をためました。ちゃんと言えば、二人の気持ちがわかるんだとわかったのです。サクヤはぼろぼろと涙を流し、泣き始めました。リンカとナチラはビックリし戸惑います。
泣きじゃくるサクヤの頭を二人は優しく撫てあげました。
まるで、本当の家族みたいです。
サクヤはナチラに連れられ、町外れの屋敷にきました。屋敷はあまり広くはありませんが、そこそこ大きいです。此処にはマリアンという魔女がいるらしく、町に薬などを売っているようです。
「すみません。マリアンさんはいませんか?」
ナチラがノックをします。サクヤはドキドキとしていると、扉が開きました。出てきたのは前に広場で会った優しいお婆さんでした。
「はいよ。どちら様かね……っておや……嬢ちゃん?」
「優しいお婆さん!?」
「サクヤ。マリアンさんを知っているのかい?」
「広場で会った優しいお婆さんなの!」
優しいお婆さんと聞き、マリアンは笑いました。
「あっはっはっ、魔女を優しいお婆さんとは、嬢ちゃん。変わってるね、いいよ。中に入りなさい」
二人はマリアンの屋敷に入りました。ハーブの匂い、何やら怪しげなものなどありました。サクヤは作りかけの箒を見て、はしゃぎました。
「あっ、ほうき!」
「嬢ちゃんも、魔法使いになれば、箒で飛べるようになるさ」
マリアンはお茶を用意しました。ナチラはサクヤを椅子に座らせ、マリアンに話しました。
「マリアンさん。折り入って、頼みがあります。実はサクヤは魔法使いになりたいと言いまして、サクヤに魔法学校に入学するまでの間、魔法を教えて貰いたいのです」
マリアンはお茶を飲み、サクヤに聞きました。
「……なぜだい?」
「助けたい人がいるから」
「それは騎士様かい?」
言われ、サクヤは驚きました。マリアンは図星である事を見抜き、申し訳ない表情でサクヤに言いました。
「……悪いけど、あれは私でも、有名な魔法使いでもとけない呪いだよ」
「何で、どうしてですか!?」
サクヤは言うと、マリアンは答えました。
「あれは、ふるいふるい魔女が掛けた呪いでね。私でもお手上げの魔法なんだよ」
「だから、私が助ける」
その言葉にマリアンは驚き、サクヤは身を乗り出します。
「絶対に助けるもん。騎士様を助ける!」
助けると言いきりました。マリアンは更にサクヤに聞きました。
「……何で助けたいんだい?」
「……春の騎士様は私をささえてくれたひとで」
サクヤは笑いました。
「大好きな人だから」
ナチラは驚き、マリアンは聞いて、明るく笑いました。
「あっはっはっ! そうかい。大好きだから、助けたいのかい!
いいね、気に入ったよ。嬢ちゃん、お前さんを私の弟子にしてやるよ。私の弟子になった以上、厳しいことが待ち受ける。耐えられるかい?」
「やる!」
サクヤのいい返事に、マリアンは満足そうに微笑みました。
家に帰る頃、ナチラはサクヤに尋ねました。
「サクヤ。春の騎士様を助けたいって言っていたけど……」
「……うん、伝説は本当だったの。夕方、暗くなるまでの間、騎士様とお喋りしてたんだ。だから、春の騎士様に叔父さん……ううん、二人目のお父さんを紹介したいの!」
お父さんと聞きいてナチラは驚き、サクヤは春の騎士様がたつ広場に来ます。
「騎士様! 騎士様にお父さんを紹介するよ」
………………。
返事はきません。サクヤは不思議に思い、何度も声を掛けました。
「騎士様? 騎士様!」
声を掛けても返事はありません。ナチラはサクヤの肩に手をおきました。
「サクヤ。きっと、騎士様は眠っているんだよ。また明日、会いに行けばいい」
「……うん」
首を縦にふって、二人は家に帰るのでした。
翌日の夕方、雨が降りそうなとき、サクヤは春の騎士様の元に来ました。
「騎士様!」
[……あ、サクヤちゃん]
声に元気がありません。サクヤは心配そうに騎士様に聞きました。
「騎士様、どうしたの……?」
[……ううん、いや、何でもないよ]
「そう? なら良いけど」
サクヤが気にしない様子に騎様士は安心した。何やら、サクヤは嬉しそうだ。騎士様は聞きました。
[なんか、嬉しそうだけど……どうした?]
「よくぞ。聞いてくれました!」
サクヤは表情を輝かせ、昨日の出来事を話しました。魔女に弟子入りをし、魔法を習うこと。騎士は聞いていると、サクヤは魔女に弟子入りをした理由を言います。
「あのね。騎士様。私、騎士さまの呪いを解くために魔法使いになるっ!」
[……えっ!?]
騎士は驚きの声を出し、サクヤは真っ直ぐと言いました。
「だから、騎士様の呪いを私がといて、騎士さまを自由にするの!」
騎士様は戸惑い、サクヤに言います。
[だから、無理だ! 俺の魔法使いの友人でもとけないんだ!]
「わかってる! だから、私が見つけるの!」
[見つけるって……何で……こんな時に……]
騎士は辛そうに言います。騎士の様子がサクヤは不思議に思い、聞きました。
「……どうしたの?」
[……昨日、君は俺の所に来たかい?]
「うん、騎士様。眠ってたみたいだから」
それを聞き、騎士はばつ悪そうに溜め息を吐き、サクヤに告げました。
[……時間が迫って来たんだ]
「え?」
[簡単に言えば……お別れの時間だ]
「……えっ?」
サクヤははっ気付きました。お別れと言えば、一つしかありません。
「騎士様……」
[………]
「死んじゃうの……?」
[……言い方を変えれば、そうなる……かな]
サクヤは悲しそうな顔になると、騎士様は話を続けました。
[正しくは、眠るんだよ。死なないけど……覚めない永遠の眠りにつくんだ]
「じゃあ、死なないなら……その間、私が探すよ! 騎士様の呪いをとく方法!」
[……きっと、見つかったとしても、何百年はかかる。その頃にサクヤちゃんがいるかどうかは、わからないよ]
騎士は苦しそうに言います。
「……っ!」
[……いつ眠るのかは、わからない。だけど、出来る限り、君の話は聞きたい。眠るまでの間、君がいれば]
「ヤダッ!」
騎士様は驚きました。
[っ、君は……]
「私は騎士様が…好きだから助けたい。大好きだから助けたいの!
大好きだから、騎士様に辛い思いをしてほしくないもん!」
はっきりと言い、思いを聞いた騎士様は黙った。はじめて聞いた、サクヤの気持ち。愛しい思いが溢れ、声をだした。
[なんで……]
ポツリ、ポツリと雨が降る。騎士は声を出そうとしているが、辛そうに嗚咽を噛み締めました。
[なんで……それを…]
雨がサァー……と静かに降る。サクヤはずぶ濡れになり、髪が頬にくっきます。石像は雨により、黒くなり、目に水が流れまるで、石像――春の騎士様が泣いているようにみえました。
[なんで……それを……今……言うんだっ!?]
サクヤは騎士様を見て、涙を溢れさせました。
「だって……伝えたかったから。騎士様に寂しい思いをしてほしくないから」
[……だからって、今、言うことないだろう。それにもっと寂しい思いをするのは…サクヤちゃんだ]
「騎士様も……騎士様も寂しい思いをするよ!?」
サクヤは泣きながら言い、騎士様はなにも言えなくなります。二人は黙って雨にうたれていると、騎士様は声を出します。
[……サクヤちゃん。帰りな。風邪引くよ]
騎士様はサクヤに言うが、サクヤは首を横にふり、拒みます。騎士様は厳しい口調で言いました。
[……帰るんだ。きっと……また明日も会えるから]
サクヤは首をふり続け、拒みました。騎士様は苦しそうに言葉をはいた。
[帰って……いいから、帰るんだっ!]
「ヤダッ!」
言うと、騎士は言葉を荒げます。
[――サクヤ、帰れっ!]
サクヤはビクッと震え、騎士様は我にかえりました。
[……頼むから帰って]
騎士様は小さく言い、サクヤは涙ぐみながら走って帰っていった。
――サクヤは顔を真っ赤にし、体の暑さを感じながら、家に帰りました。帰ってきた瞬間に、リンカに心配されます。
「サクヤっ! 今まで、どこにいってた――ってサクヤ……?」
「……ふぇ?」
リンカは急いでサクヤのおでこを押さえました。熱い、目が虚ろで視線が定まっていないようです。
「すごい熱…! サクヤ、あなた、風邪を引いたのね」
「かぜ……?」
自分の体調にも気付かず、帰ってきたサクヤ。先ほどの騎士様の悲しみの声を思いだし、目から涙を流しました。視界が揺れ、サクヤはリンカに向かって倒れた。
「……サクヤ!? ……あなた! サクヤがっ!」
騎士様は雨に打たれながら、眠りの悪魔と戦っていました。サクヤと少しでも長く話せるように。明日、いや、サクヤがいつにくるかはわかりません。あったら、ちゃんと謝ろうと騎士様は考えていました。
町の通りの向こうから、雨に打たれながら走ってくる人物がいます。
ナチラでした。ナチラは春の騎士様を通りすぎ、マリアンの元に向かいます。騎士様は気にせずに、睡魔と戦いますが、マリアンとナチラが通りすぎると、会話が聞こえました。
「急いでください! サクヤが……熱で倒れたんです。貴女の薬で治してください!」
騎士様は反応をし、二人の会話を聞きました。
「たかが風邪で、そう慌てるかい?
……ま、弟子が倒れたとなると心配せずにはいられないけどね」
二人は雨の中、サクヤの元に向かいました。
サクヤが熱で倒れた。春の騎士様は今すぐにサクヤの元に向かいたいのですが、石像になっているため、動きません。ぶわっと騎士様の目の前が真っ暗になります。
[……っ]
一瞬、気を抜いてしまい、騎士様は睡魔に負けてしまいました。騎士様は歯を噛み締めたくなりました。
[せめて……最後に夢の中だけでも……サクヤちゃんに……]
会いたい。
言う前に目の前が真っ暗になってしまいました。
口の中になにか苦いものを飲まされました。サクヤは一瞬だけ、眉をしかめ、聞こえてくる声が耳に入ってきます。
「……はい、これで大丈夫だよ。三日、寝ていれば大丈夫さ」
「……ありがとうございます」
「いいって……それに……サクヤは大事にされてるね」
「はい、娘のように可愛がっていますから」
「そうかいそうかい。じゃあ、私はいくよ」
マリアンが帰るようです。サクヤは有難うを言いたかったのですが、だるくて言えませんでした。頭に冷たくて気持ちがいいものがのせられ、サクヤは静かに寝息をたてました。
「サクヤちゃん」
「んっ……」
「…おーい、聞こえる?」
サクヤが目を開けると青年がいました。茶髪で端正な顔立ち。穏やかで爽やかそうな青年です。騎士様の格好をして、サクヤに笑っていました。
「あ、起きた。まさか、夢で会わせてくれるなんて、神様は優しいね」
「っ……ふぇ!?」
怪しい人にサクヤは驚いて、逃げようとしたとき、青年は慌てました。
「あっ、逃げないで! 俺だよ。君に話しかけていた春の騎士」
「……えっ?」
サクヤは驚愕すると騎士様は笑って、手を振りました。
「夢の中だけど、こうして、動けるし笑える。これが俺だよ。サクヤちゃん」
「……えっ」
騎士様に手を伸ばし触ると、触った感じがありません。夢であることをサクヤは理解しました。
「……本当に夢」
「そっ」
「じゃあ、何で、騎士様が私の夢の中で」
言うと騎士様は辛そうに微笑みました。
「……これで君に会えるのが最後だからね」
最後と聞き、サクヤは驚きで目を見開かせ、騎士様は頭を掻いた。
「…本当はもうちょっと、君と話したかったけど、はやくタイムリミットがきたみたいだからね…」
「まっ……待ってよ。騎士様。私、まだ何もしてないし…これから始めようとしてたところだよ!?
呪いもこれからとく方法を探そうとしているのに……騎士様が眠っちゃうなんて」
早いと言いたいのです。春の騎士様は優しく、サクヤの頭を撫でました。
「……そうだね。俺も早いなと思うよ。……でも、タイムリミットだから仕方がない。俺は静かに眠るよ。でも、死ぬ訳じゃないから、大丈夫。君はいつでも俺に会えるから」
「でも、騎士様はずっと寂しい思いをするよ!?」
それを聞き、騎士様は苦笑しました。
「……確かに、寂しい思いをするだろうな。けど、大丈夫。俺には君と居た思い出があるから」
「……でも――っ!」
サクヤは体が重くなるのを感じ、前に倒れようとします。春の騎士様が支え、サクヤを抱き締めました。
「本当に大丈夫。俺は君がいてくれたお陰で、寂しくはないから」
「……でもっでもっ!」
「本当に大丈夫! ……まったく、君は心配性だな」
「……だけど、騎士様っ!」
「サクヤ」
呼び捨てで名を呼び、サクヤは黙った。騎士様は愛しいそうに微笑み、思いを告げます。
「孤独だった俺のそばにいてくれて有難う。俺は本当に大丈夫。呪いで動けなくても、永遠の眠りについても、サクヤと居た日々が俺の支えだ。決して寂しくない。だから、サクヤ。俺が寂しがらないように幸せになってくれ」
「……騎士さ」
サクヤの耳元で優しく呟きました。
「――大好きだよ」
■ ■ ■
――熱が大分引いた頃、サクヤは広場、春の騎士様の元に向かいました。
「騎士様」
…………………。
声をかけても返事はありません。春の騎士様は覚めない永遠の眠りについたのです。
「……騎士様のバカ」
サクヤは涙ぐみ、鼻をすすります。石像をよじ登って、サクヤは騎士様に口づけをしました。きっと騎士様を見て、決意を固めます。
「……絶対に呪いをとくんだから」
サクヤはマリアンの元で魔法の修行をし、魔法学校に入学しました。魔法学校に入学しても、春の騎士様にする挨拶は忘れませんでした。
きっと、いつか、話しかけてくれると信じて。
■ ■ ■
――時がたち、ぽかぽか陽気の空に箒に乗った女性が飛んでいます。
女性は春の騎士様の石像の前に降り立ち、手をかざし、光を出しました。石像に光が包む。光が消えるとただの石像が現れただけでした。
「――ん……理論上ではできるはずなんだけど……実践はうまくいかないか」
十八になったサクヤは立派な魔法使いになり、春の騎士様にかかった呪いをとこうとしてました。
これで百十回目。何度も呪いの研究をし、呪いを解いてきましたが、騎士様の呪いはとけません。
「サクヤぁ! 頑張れ!」
「お前なら出来るぞ!」
「んっ、有難う!」
サクヤは応援する町の人々に、手を振った。サクヤは性格が明るくなり、有名な魔法使いの一人になり、町の誇りでした。もう一度、研究をし直そうと、家に帰ろうとしたとき。
「……あれ?」
春の騎士様の石像を見ている旅人がいました。フードとマントを羽織ったは旅人にサクヤは尋ねます。
「どうしました?」
旅人はサクヤに気付き、春の騎士様の石像を見ました。
「……この石像が私の親友に似ていたから、つい見てしまった」
「友人に似ていたのですが?」
サクヤが聞くと旅人は頷きました。サクヤの姿を見て、聞いてきます。
「……見た所、魔法使いのようだが、何をしていた?」
「信じられないと思いますが、私は春の騎士様にかけられた呪いをとこうと頑張っている所なんです」
旅人は驚き、優しく微笑みました。
「……そうか、あいつは」
「どうしました?」
「いや、何でも」
サクヤは旅人に聞きます。
「旅人さんは何処に向かうのですか?」
「冬の国だ」
旅人は冬の国がある方向を見て、愛しそうに微笑みました。
「……国許を出て、いかないでと言った相手に会いに行くところだ」
「……大切な人なのですか?」
「ああ」
旅人は頷き、サクヤを真っ直ぐと見ました。雪のように綺麗な容姿。サクヤは驚き、旅人はふっと笑いました。
「……そこにいる友を頼むな」
ポツリと呟き、背を向けて去ります。綺麗な姿にサクヤはぼうっとし、騎士様を見ました。
「……あの人……騎士様の事……知ってた?」
旅人の背中が見えなくなるまで見ていました。
――夜、家に帰りると年を取ったリンカとナチラはサクヤにあることを言いました。
「……えっ、引っ越し!?」
いきなりの事にサクヤは驚きました。
「ああ、此処でサクヤが魔法の研究をするのは大変だろう」
聞くと騎士様のいる町とは遠いところでした。サクヤは黙り、二人を見ました。
「……いつ、引っ越すの?」
「明日だ。荷物はまとめてある」
ナチラは言い、サクヤは顔をうつむかせます。騎士様がいるこの町に離れるのは嫌だからです。リンカはサクヤに優しく笑いました。
「……明日の朝、騎士様に別れの挨拶をしてきなさい」
リンカの言うことに、サクヤは首をたてにふりました。
サクヤは朝、春の騎士様の石像の前に来ました。
「……なんか前も呆気なく別れたよね」
喋らぬ騎士様に言い、サクヤは微笑みました。
「大丈夫。時間かけででも、騎士様の呪いをとくから」
喋らなくなったあの日のように、サクヤは石像によじ登り、騎士様の目の前に来ます。そして、口付けをします。唇が離れるとサクヤは笑いました。
「待ってて。絶対にとくから」
サクヤは石像に飛び降り、春の騎士様から背を向けて歩き出しました。
…ピキッ
「えっ?」
サクヤは驚いて振り返りました。春の騎士様の石像にヒビが入っています。サクヤは驚いて近づくと、さらにヒビが入りました。ピキピキッと音をたて、全身にヒビが入ると、石が弾けました。
「っあ……」
――中には夢で最後に話した騎士様の姿がありました。
騎士様は目をつぶって、剣を落として、前に倒れようとしています。サクヤは驚いて受け止め、尻餅をつきました。
「った」
騎士様の温もりを感じ、サクヤは驚きました。
「……何で……どうして!?」
前に口付けをしても、騎士様は現れなかった。
「……っん」
騎士様がピクッと震え、目を開けました。深い緑の瞳。顔をあげて、サクヤの顔を見ました。まじまじと見て、驚きで目を見開きました。
「……サクヤ? ……サクヤなのかい?」
「……騎士……様」
「えっ、何で……俺が動けるの?」
手を握ったり開いたりを繰り返し、考えます。
「……サクヤの声が何度も聞こえて、有難うと強く思ったから……?」
再び騎士様はサクヤを見ました。大きなったサクヤ。騎士様は頬を赤く染め、照れて頭をかきました。
「……っこりゃ、参ったな。サクヤがこんなにも可愛くなるなんて反則だよ」
「……っ!」
それを聞き、サクヤは顔を真っ赤にしました。
「ま、どう呪いがとけたかはいいか」
騎士様は思いっきりサクヤを抱き締め、頬に口付けをし笑いました。
「サクヤ。俺の名前はヨハネ。ヨハネ・スプリングス」
騎士様――ヨハネはサクヤの顔を見て笑いました。
「これからも――いや、ずっとよろしく」
下手な話を読んでくれて感謝です。
一回、消したのは少し不備があったから、直したのです。
それでも、読んでくれてた人には感謝です。
2016/4/19 文章修正