第5話 相棒たち
次の日、ジグじぃからオレのスキルについて質問があった。
「ジンのスキルはお菓子を作れるスキルじゃったのか? 今まで食べた事のない驚愕する美味さのお菓子も沢山混じっておったけどあれはどこのお菓子なんじゃ?」
その質問に、オレはあのお菓子は地球のお菓子だと説明した後で、【ギフト・徳システム】の事を説明した。
その説明を聞いてジグじぃは、そんなスキル聞いた事がないと驚いていたが、サンタクロースには持ってこいのスキルじゃな! と喜んでくれた。
「ところでジンや、13歳になった事じゃし、そろそろジンにも相棒が必要じゃろう。だからちゃんとスカウトしといたんじゃ。仲良くするんじゃぞ!」
そう言ってジグじぃが、背負袋から取り出したのは、
赤いトサカが見事なニワトリと、ぶりっとした子ブタだった。
「……いやいやいやいや! サンタクロースの相棒って言ったらトナカイでしょうよ! なんでニワトリとブタなんだよ!」
「探したんじゃけど、ジンにピッタリ合うトナカイがおらんかったんじゃ……」
トナカイなら何でも良いんじゃないかとオレは思ってたんだけど、どうもそうではないらしい。
サンタクロースとトナカイの間には相性があり、目に見えない潜在的相性を見抜けるのはサンタ神の称号を持つジグじぃだけ、とのこと。まぁ、この世界に他にサンタクロースは居ないんだけどね。
本当にちゃんと相性を見極めたんだろうな……、と半眼で疑う視線を投げかけるとジグじぃは「ちゃんとワシ調べたもん! ホントじゃもんっ!」と泣きそうになった。でも、泣きそうになりながら、ぶるんっと揺れるお腹をボリボリ掻くのは止めてほしい。
ジグじぃキャラ変わったな……。いや、素がこれか。
しかし、トナカイがダメだからって、ニワトリとブタって言うのはどういう事なんだとジグじぃを問い詰めてみた結果、オレが元異世界人という事に問題があった様で、オレが悪かったようだ。
いや、悪かったんだろうか?
オレとジグじぃが言い合いをしている間、子ブタはフガフガと辺りの匂いを嗅いで、部屋の隅で見つけたお菓子を嬉しそうに食べていた。ニワトリの方はと言うと、ビシッと姿勢良く胸を反らして立ちこちらを見ている。
「じゃあ、紹介するかのぅ。まず、こっちの直立不動のニワトリが兄で、こちらの食いしん坊の子ブタが弟じゃ!」
「こらこらこらこら! 種族が違うだろうがよ! なんで兄弟なんだよ!」
「さてのぅ? なんでじゃったかな、忘れてしもた。じゃが、こやつらは言葉は喋れんが、理解はしておる、後で聞いてみるんじゃな」
ニワトリの方を見てみると、しっかりと頷いていた。ちゃんと話の内容を理解しているらしい。
一方、弟の子ブタは鼻ちょうちんを出しながら、涎をダラダラ垂らして寝ていた。寝るの早っ!
「ちなみに、このニワトリは鶏皇種と呼ばれる、なんやかんやで凄いニワトリなんじゃ。後、オスじゃが卵を産めるのぅ」
「オスなのに?」
「そうオスなのにじゃ!」
「……オスなのに?」
気になったのでもう一度聞いておいた。
ニワトリにも聞いてみたが直立不動のまま頬を赤く染めた様な気がした。
照れたのだろうか。まぁありがたい話だ。食べ物に困っても、卵ならあるよって事だな。
「それでこの子ブタなんじゃが……、ん? あれ? なんじゃったかな……、うーん。まぁ、よかろ」
何がいいのか全然分からないが、子ブタの緩みきった寝顔を見ていたら、どうでも良い様な気もしてきた。なんだかんだで可愛い顔してるわ。
「ジンや、こやつらにはまだ名前がない、いつまでもニワトリと子ブタじゃあ可愛そうじゃからのぅ。ちゃんと名前を付けてやるんじゃぞ」
こいつらスカウトされてから今までずっと、ニワトリと子ブタって呼ばれてたのかよ……。というか、いつから背負い袋の中に?
うーん、名前か、そうだな……。
異世界物での定番として真名を知られると不味いって言うのは、よくある話だし真名と愛称を考えよう。
うーん。
しばらく考えさせてくれと言って、その日はずっと名前を考えて過ごした。
そして、夕食の前に二匹? を呼び出して決めた名前を伝えた。後、二匹? って言いづらいから二人と呼ぶ事にする。
兄のニワトリの方は、「コーキン=トリュータス=アカボシ」
弟の子ブタの方は、「ブーランド=ムシャード=アカボシ」
ファミリーネーム的な位置にアカボシを無理やりくっつけたのでちょっと違和感があるけど、まあいいだろう。
二人は兄弟だし、オレもこれから長い間一緒にいる家族みたいなもんだ。オレの大切な前世の名前である、アカボシを付けたっていいだろう。オレもこれからは、ジン=サンタクロース=アカボシって名前にしよっと。
その事を二人に伝えると、コーキンは誇らしげに胸を張ってからお辞儀をし、ブーランドは夕食が気になって仕方ない様で、そわそわしていて、伝えた名前を聞いていたのかさえ怪しい。
「ブーランド、ちゃんと聞いてたのか?」とちょっと強めに言ったら、こちらを向いて、むにゃっと顔を綻ばせた。
一応聞いてたみたいだ。とゆうか照れてるのか? ちょっと上目遣いでこっちを見てるな。気に入ってくれたなら良かったよ。
そして、真名の大切さを説明して、普段は愛称で呼ぶ事を伝える。
コーキンはコッコさん。ブーランドはブーくんと呼ばせてね、とお願いすると二人は頷いてくれた。愛称がそのまんまだけど、気に入ってくれたみたいだ。
オレも嬉しくなってつい、二人に触れる。
コッコさんに触れた瞬間、体がビクッとしたけど問題はないみたいだ。表情を見てみると恐縮です、と聞こえてきそうな気がした。
ブーくんは触れられたのがくすぐったかった様で、笑っているのか体をぐねんぐねん捩り、その度に、鼻からブッ、ブッと音が聞こえた。
オレも何だか楽しくなってきて、もっと撫で回してやると、ブーくんはくすぐったいから止めてくれー、と言うかの様に床でドッタンバッタン体を捩る。
やり過ぎたかなと手を離してみれば、ゼイゼイと荒い息をするブーくん。
でも、口角が上がっている様に見えるのは気のせいだろうか。
やっと息も落ち着いた頃、オレの膝に体を擦り付けてきて、ブッと一鳴き。もっかいしてくれとでも言う様だったので、もう一度撫で回してやる。
そしてまた床を転げまわるブーくん。なんなんだ一体。
その後も、何度も、もう一回! もう一回! と、おねだりされたが夕食ができたぞいと、ジグじぃが知らせてくれた瞬間に一目散にキッチンへと走っていった。今日から二人もこの家で一緒にご飯を食べることになっている、それが楽しみで仕方ないんだろう。
床に落ちてたお菓子で味をしめたかな?
それから皆でいただきますをして、ジグじぃに二人の愛称を伝える。そのまんまじゃな! と言われたが二人が気に入っている様なので気にしない。わかり易いのが一番だ。
ブーくんは夕食を何度もおかわりして、ジグじぃに「それ以上食べると豚になってしまうぞ、いやお主は既にブタか」と注意されてしまった。
あんなに食べたのに、ブーくんは食べたりなかったのか、ちょっとしょぼんとしてた気がする。
でも、ご馳走さまをしてすぐ、寝室に戻っていくブーくんの膨らんだお腹は地面をズリズリ擦っていたので、やはり、あそこで止めておいて正解だったと心の中で、ジグじぃへ賞賛を送った。
あれ以上食べたら身動き取れなくなってただろうな。
その日は、オレのベッドで川の字になって、二人と一緒に寝た。
ブーくんは、またもや鼻ちょうちんと涎を垂らし、毛布はお団子になっているし。時折、ブッ! と寝言の様な一鳴きをしてその度に、ビクッと跳ね起きて辺りをキョロキョロ見回していた。
いやいや、ブーくんの鼻から出た音ですよ。
危険は無いと思ったのか、また、ボスッと毛布に倒れ込むブーくん。今度は微かに歯ぎしりも聞こえてくる。今後のブーくんとの就寝生活が心配になってきたが兄のコッコさんはと言うと、全く乱れの無い毛布の中で仰向けで寝ていた。こんな所までビシッとしている。兄弟でここまで違うか……と思ったけど種族全然違うし関係ないなと思い直してオレも寝た。
おやすみ二人とも。これからよろしくね。
ミニブタ飼いたいなー。ブー