第4話 徳システム
今オレは緊張している。
そのせいで、全然眠れないんだ。
以前、魔法を使えないと知った時はショックだったけど、その変わり体術と投擲術を鍛えた。
大分強くなったと思うんだけど、判断材料がジグじぃとベルしかいないから、本当に通用するのか良くわからない……。
そんな身体能力頼みを主体にしていたオレだったが、今日の夕食の時にジグじぃから聞かされた話は衝撃的だった。
「ジンや、言い忘れておったけど、多分おぬし今夜の満月を迎える事で新たな力が目覚めるだろうから明日の朝になったら何か特殊なスキルが使えるようになっておるかもしれんぞ。まぁ、どんなスキルが目覚めるかは誰にもわからんのじゃがの」
そういって、ふぉっふぉっふぉと楽しそうに笑うジグじぃ。
いやいや、何それ、どういう事!?
訳が分からないオレにベルが優しく教えてくれた説明によると、13歳になって初めての満月の夜、この世界の人間は特別なスキルに目覚めるらしい。
スキルには色々種類があって、その人だけの特別なスキル、いわゆる《固有スキル》と、他にも持っている人がいる《スキル》が存在しているらしい。ちなみにこのスキルは魔法と違って魔力は必要ない。そうじゃなかったらオレは使えない!
まぁ、どっちにしても明日の朝になったら分かることだから、さっさと寝ろと言われて今ベッドの中にいるわけだが、興奮と緊張で目が冴えてしまっている。
取り敢えず、目だけは瞑ってじっとしていると、ジグじぃとベルの楽しそうな会話が途切れ途切れに聞こえてくる。オレもそれに混ざりたいとも思ったが今日は我慢の虫だ。
それに今頃、大人しか食べられないお茶漬けでも食べてるかもしれない。
一人でクスクス笑った後に、いつの間にやら眠っていた。
次の日、目が覚めて飛び起きた。
スキルが使えるようになってるかもしれないからだ。
しかし、体に変化は全くない。両手を眺めてみるが全く変化は無かった。いや、なんかほっぺたが腫れてる気がするが、むくんだのかな?
オレのスキルは、一体どんな効果があるんだろうと考えてみたが答えは出てこない、もどかしくなってきたのでジグじぃに訪ねに行った。
ジグじぃは、暖炉の前の揺り椅子で、ゆらゆらしながら寛いでいたが、オレの姿を視界に捉えると一瞬驚いたような顔をした。しかしオレがスキルの事を尋ねると、ホッと安心した様な表情になり、ニコニコしながら答えてくれた。
「よしよし、ワシがステータスの見方を教えてあげよう」
そう言ってジグじぃは説明してくれだした。
ステータス……ゲームみたいだな。
「頭の中に意識を集中して、ステータスと唱えるんじゃ。そう、これだけじゃ! 簡単じゃろ?」
教わった通りにやってみるとすぐ頭の中にウインドウが立ち上がった。
地球のパソコンの画面やゲームのステータスの画面によく似てる。
その画面を見てみると自分の個人情報が詳しく載っていた。
この個人情報は他人には見れないらしく、安心していいと言われた。
「あっ、そうじゃ言い忘れておったけど、このステータスを見ることが出来るのはサンタクロースだけじゃからな、他の人間たちは神殿なんかにお参りに行って、お祈りをしてもらってから自分だけの個人者カードを作ってもらうんじゃ。そのカードには自分の個人情報が載っておるが、ワシらのステータスに比べると情報量が少ないの」
そうなのかとジグじぃの話を聞きつつオレは自分のステータスに見入った。
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現時間:8時25分
種 族:神人
固有名:ジン=サンタクロース
性 別:男
年 齢:13歳
称 号:見習いサンタ
職 業:見習いサンタ
出身地:サンタマウンテン
拠 点:サンタマウンテン
状 態:健康
大 事:なし
固 有:【ステータス覗き】
【ギフト・徳システム】
スキル:なし
徳還元ポイント 0P
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おぉ、時間が表示されてる!
この世界って地球と殆ど同じだけど時計はお金持ちじゃないと持てないらしいからこれは便利だな。
ステータスに表示されてるから盗まれる事もないし。
ん? オレの種族が神人になってる……。オレ、人間じゃないの? サンタクロースって神様だったの?
ジグじぃもそんな事、言わないからてっきり人間だと思ってたよ。
おぉ! 固有スキルが二つも表示されてる! うほほぃ!
ただのスキルの方は一つもないけどね。
オレの固有スキルは【ステータス覗き】と【ギフト・徳システム】
【ステータス覗き】の詳細が知りたいな、と思ったら詳しい説明が表示された。
《知りたい物、人等に向かって使うと、それ等自身が知っている事から知らない事までステータスの内容を無断で覗き見る事が出来る固有スキルです》うん、もっと他に名前なかったんかい。
次に、【ギフト・徳システム】の詳細を見る。
《この固有スキルは、生物が行なった善行を徳ポイントとして加算して貯めておけるシステムです。
獲得ポイントは一ポイントからで、ゴミを拾ったり、気持ちの良い挨拶をする事でも貯まっていきます。
心の豊かさを徳として貯金すると考えてもらっても良いです。
人の徳ポイントの下の部分には、あなただけにしか見えないギフトリストがあります。
ここに、その生物が今、最も欲しいと思っている物、上位三つが表示されますので、そこからあなたが選択し具現化させて相手に差し上げる事が出来ます。
ちなみにですが、この【ギフト・徳システム】ですが、自分には適応されません。
その変わり、この固有スキルで具現化した物を差し上げる事によって、相手が喜んでくれた時に発生する「喜び」「感謝」「感激」等の気持ちを、徳の還元ポイントとして自らに貯めることが出来ます。
そのポイントを使って、あなたとあなたの道具も成長する事が出来ます。
補足として、このスキルを使用しても相手の今まで積み重ねて来た善行、徳そのものが無くなってしまう訳ではありませんので、ご安心ください。
ですが、極まれに、この固有スキルを使い過ぎると、一時的に体がふくよかになる事があります、ご了承下さい。
最後に、副作用としてあなたは今後一生ほっぺたがぷるんと可愛いままです。こちらも重ねてご了承下さいませ》
おいおいおいおい!
なんか、すげぇのかすごくねぇのか分かんないスキルだなこれ!
とゆうか、最後の一生ほっぺたがぷるんと可愛いままってどうゆうことだよ!
と、驚いたが、ハッ! として、自分のほっぺたを触ってみた。
――――ぷるんっ。
うん、既にぷるんぷるんだった。
寝起きの時に感じた顔のむくみは、むくみじゃなかったって事だ……。
おじいさんがオレの顔を見て一瞬驚いたのはこのせいだな。
それに、使いすぎると極まれにふくよかになるって、いきなり太るって事か? 自分の事ながら笑える……ぷぷぷ。
いや、笑い事じゃないか……。法則とかわからないし、人前でいきなり体がふくよかになったらドン引きされるな。
ドン引きで済めばいいけど……。人前ではあまり使わない様にした方がいいな。
徳還元ポイントは、まだ全然貯まってない。そりゃそうだ、朝起きてから誰にもプレゼントしてないものな。がんばろうオレ。
ずいぶん長い事、自分のステータスに見入っていたが、ジグじぃはまだオレの事を待ってくれていた。
そんなジグじぃに目をやり、無言のまま【ステータス覗き】のスキルを使ってみた。
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種 族:神人
固有名:ジグルベール=サンタクロース
性 別:男
年 齢:27億3065歳
称 号:サンタ神
職 業:超一流サンタ
出身地:サンタマウンテン
拠 点:サンタマウンテン
状 態:健康
大 事:ベル、ジン、世界中の子供たち
固 有:?? 観覧不可 ??
スキル:?? 観覧不可 ??
徳 9999999999P
ギフトリスト
1 お菓子 2P
2 お菓子 2P
3 お菓子 2P
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ぶっ!!
余りの内容に吹き出してしまった。唾がジグじぃに掛かったけど気にしない。ジグじぃは「何するんじゃ!」と言いながら顔を拭いてる。
突っ込みどころが多すぎて、突っ込む気になれない……。
あえて言うなら、ジグじぃの徳が半端ない事になってる。もう限界まで貯まってるって事なのかな?
それなのに、欲しいものがお菓子って、無欲過ぎるよジグじぃ……ヨヨヨ。
よし、ならオレがジグじぃの徳ポイントを使ってお菓子をわんさか具現化してやろう!
オレのスキルの実験にもなるし、オレもお菓子のおこぼれに預かれるかもしれん! ついでに、オレの徳還元ポイントまで貯まるんじゃないかな? 良い事づくめだ。
オレは、いきなり立ち上がって、ジグじぃの方へ右手を突き出した。
急に立ち上がったオレに、ジグじぃが驚いて「ひょっ! 一体どうしたんじゃ!」と、言ってるのを無視して、「ギフト!」と唱える。
すると、右手からお菓子が飛び出してきた。突然の事だったので驚いて「いいいいいぃぃぃっ!?」と変な声を上げながら仰け反るジグじぃ。
これはいけるぞ! と思ったオレは、その後も小声でギフトギフトと唱え続けた。
そして、唱える度に右手からお菓子が、わんさか出てくる。
しかも、この世界で今まで食べたお菓子や、オレの以前住んでた地球のお菓子たちが凄い勢いで出てくる。
あっという間に部屋中がお菓子だらけになってしまった。
もう少し早く止めれば良かったと思いつつ、ジグじぃの徳リストをもう一度見てみる。
徳ポイントに変化があったかどうか確認する為だ。
でも、ジグじぃの徳ポイントに変化はなかった。
多分、あのポイント欄を振り切った分も、ちゃんと蓄積されていて、そこからこのお菓子の分を消費したんだろうなと結論を出した。
オレが一人でスキルの検討をしている時に、ジグじぃはと言うと。
引くぐらいのはしゃぎっぷりでお菓子の海の中をバタフライで泳いでた……。
ジグじぃの相棒のベルは冷静にお菓子を食べてる。
「ジン、おぬしのスキルは最高じゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう叫んでお菓子の海の中に消えていくジグじぃの背中が見えた。
ジグじぃ興奮し過ぎで死ぬんじゃないか? とちょっと心配になってくる。
出てきたお菓子の上に乗っかってお菓子を食べ進める。
食べてて思ったけど、やっぱり地球のお菓子の方がレベルが高いな。
それと比べると残念だけど、この国のお菓子は、なんか雑だ。
味も大味だし。色も地味。主に茶色だ。
まぁ、以前まではそれでも食べられるだけで無茶苦茶嬉しかったんだけど、今となっては霞んでしまうね。
コンソメ味のポテチを食べながらオレは人心地付いた。
しかし、ほっとしたら気づく、お菓子の海に大喜びはしたが、落ち着くと益々家の中が大変な事になっているのが目に付く。
部屋の天井近くまでお菓子の山になっており頭が付きそうだ、当然ドアを開ける事も出来ない。
なので、外に出る事も、トイレに行く事も出来ない。
ベッドもお菓子の下だしね。
いやそりゃ、無理やり行けば行けなくもないけど、せっかくのお菓子だから強制突破は最後の手段だ。
という事で、とにかくお菓子をどんどん食べていくことにした。
ジグじぃの食べるスピードったら半端ない。いや引く。
物凄い吸引力を持った掃除機みたいにどんどん吸い込んでいってる。
そして、今やジグじぃの外見は凄い事になってしまっている。
食べたお菓子が、恐ろしいスピードで消化され贅肉となりブクブク太ってしまっているし、それにケーキのクリームやらが顔に付きまくって、そこにお菓子がくっ付いてえらい事になってる。
お菓子の家ならぬ、お菓子のジグじぃだ。食べたら腹壊すよ。
その顔に付いたお菓子を、オレが食べるのは遠慮したいので、ジグじぃ自分で自分の顔のお菓子を食べてくださいね。
あれから三時間。
家の中のお菓子は殆ど無くなっていて、部屋の隅にくるんと丸まってるお菓子が少し転がっている程度だ。
お菓子を食べ続けてたせいで、もうしばらくお菓子はいいやって気分になった。
というか胸焼けが凄い。この若さで胸焼けって、そんな事あるんだろか。
オレは揺り椅子に手足を投げ出して、だらりと腰掛け、ジグじぃは床に大の字になって寝転んでいた。ジグじぃの破裂しそうなほど膨らんだお腹が見苦しい。
ベルは家の外に生えてる草を食べてます。やっぱ草よねっ! と聞こえた気がした。あんなにお菓子食べてたくせに……。
やはり主食は草なんだね。
もう、一歩も動けないのに、何だか手持ち無沙汰で自分のステータスを見る事にした。
すると、自分の徳還元ポイントが13ポイントに増えてた。
おお! 増えてる! ジグじぃが喜んでくれたって事だろうな。
なんだかんだで、喜んでもらえて嬉しいよ。
そう思いつつ、自分のお腹を擦り、そのまま床で寝た。