第17話 罪悪感
昨日、お土産で持って帰ったドーナッツでブーくん火傷事件があった。
熱いから気を付けてねと言って渡したが、よくわかってなかったようで、大口開けて熱々のドーナッツを頬張って、あまりの熱さに驚き、ブッ! っと一鳴きして飛び上がってお尻から着地した。尻餅だ。
その後、くりっとした目でオレを見つめて、なにこれ? なんで熱いの? と聞いてきてる気がした。
他にもオレの膝の上に前足を乗せて、言い聞かせるようにブヒブヒ言ったり、ドーナッツの穴を覗いていたが何がしたいのかよくわからなかった。
可愛いからいっか。
コッコさんは、その光景を見つつオレに何やら話しかけてくれていたが、相変わらず何を言っているのかイマイチよくわからなかった。
よくわからない事ばっかりだな……。
○ ○ ○ ○
さて、お店はゲットしたが、自炊はあまり得意ではないのでお金に余裕がある今は、宿の食堂に通っている。
「あら、おはよう。昨日は母がごめんなさいね」
「あー、おはようございます。いえ、ちゃんとしてもらえたらいいんですよ!」
あえて、いえいえ大丈夫ですよとは言わないぜ! 本当に怖かったんだもん!
今日の朝食は肉をパンで挟んだ物だ。かなりボリュームがある。美味い。
ピリ辛のタレがお肉と良く合う。
もりもりと食べていると、女将さんが声を掛けてきた。
「そういえばジンくん。お店を開くって言ってたけど、何のお店を開くの?」
「あぁ、言ってませんでしたね。店の名前は三田商会って名前なんですけど、とりあえずは、珍しいお菓子なんかを扱うつもりです」
「珍しいお菓子!? 興味あるわぁ~」
右手を頬に持っていき、虚空を見つめる女将さん。どこみてんですか? そこは壁です。
「そうですか。是非また買いに来てくださいよ」
「もぅ! そこは、これをどうぞ、とかってサービスしてくれるんじゃないの?」
女将さんにそう言われるが、無言の笑顔で切り抜ける。やらぬ! やらぬぞよ!
「ところで、材木屋さんって近くにありますか? 木の一枚板が欲しいんですが」
「材木屋なら、この大通りをずっと真っ直ぐ行った所の左手にあるわよ、はいっ」
質問に答えてくれた後、はいっ、と言いつつ差し出された手。
ん? なにこれ? と首を傾げていると、材木屋の場所を教えたんだから、珍しいお菓子ちょーだい! って事の様だ。
情報の対価ってことか。
オレは、仕方ないなとため息をついて、自分用に取っておいたポテチを取り出した。
そして、ポテチの封を切って、中身をバリバリむしゃむしゃと食べ始めた。
「うめぇ~。うんみぇ~」
やはりポテチは美味い。つい口に出して言ってしまった。
目の前の光景が理解できなくて、オレのポテチを貪り食うシーンを固まって眺めている女将さん。
袋の中のポテチがどんどん無くなっていく。
もう中身は指で摘まむのが難しいようなサイズのポテチだけだ。
それをオレは袋を口にあて、逆さまにする事で余す事無く口の中に注ぎ込んだ。
そして、ポテチの欠片もなくなった袋の中に右手を入れ、袋の中をこねくり回した後、女将さんに向かって言った。
「女将さん、手を出してください」
その声に反応してやっと動き出す女将さん。言われるがままに右手を差し出してきた。
「はい、どーぞ」
ポテチの塩まみれの右手で、女将さんの右手と握手して、ポテチの塩味と油をなすりつけた。
唖然と右手を見つめる女将さん。
オレは、うんうんと頷いて、お菓子買いに来てくださいねー、と笑顔で言いながらさっさと宿を後にした。
○ ○ ○ ○
教えてもらった材木屋はっと……。宿を出て真っ直ぐ行った左側……、ここか。
「おはようございまーす」
「はーぃ。おはよーさーん」
材木屋の中から姿を現したのは、やっぱり太ったおじさんだった。白いタンクトップに腹巻きを着ている、下はステテコだ。なんて恰好で仕事してんだ……。
「すみません。木の一枚板が欲しいんですけどありますか」
「カッカカッカッ……カッ! うちわ材木屋だよ。あるに決まってんだろぅ。何に使うんだ?」
変な笑い方の上に、訳判らない所で二拍開けたな、このおっさん。
「……えぇ。お店を開くので、看板を作りたいんです」
「ほー。それならこのラーベンの木がいいだろうな。雨風にも強いし、頑丈だぞ」
「いいですね! それにします。おいくらですか」
「そうだな……銀貨一枚の銅貨五十枚ってところだな。ちなみに看板に掘る文字は決まってるのか?」
「はい。こんな感じにしようと思ってます」
と、地面に靴で字を書いて見せた。
「なんて書いてあるのか読めんが……。これでいいのか? もしよかったらうちは看板屋の知り合いがいるからついでに字を彫る事も出来るけど、どうだ?」
「是非お願いします。ちなみに、この文字は、さんたしょうかいと読むんです。この文字を彫った下の部分に読めない人にも読める様に、小さ目に文字を彫ってもらう事もお願いします。それとバランス良くこんな感じのマークを彫ってもらってもいいですか」
「よし、わかった。そしたらしめて、銀貨二枚でいいぞ」
「はい、一枚、二枚」
数える様にしておじさんに銀貨を渡すと、確かにと言いながら腹巻きへとしまった。そんなところにしまって大丈夫なのかなと一瞬不安になったが、大きなお世話だろう。腹巻きから浮き出てる銀貨二枚がチョットしたオシャレに見え……見えんな。でべそが二個あるみたいには見える。
良い仕事期待していますと言って、ポテチを一袋差し出した。
「おぅよ、任せときな! ん? なんだいこりゃ」
「うちの店で扱う商品です。是非どうぞ」
「そりゃぁ、ありがてぇ」
嬉しそうに受け取るおっさんを見て、お酒に合いますのでおつまみにどうぞと言っておいた。
これで、看板の目処は立った。
後は、道行く人のポイントを使ってドーナッツとポテチを補充して帰る事にする。
「それにしても、女将さんにしたアレはちょっと酷かったな。いやちょっとじゃ済まないか……」
今更ながら女将さんにした行為に罪悪感が出てきた。あの時、おばあさんの件について未だにイライラしていたので、ついあんな事をしてしまった。
お詫びに、今出したドーナッツとポテチを一袋持って行くか。
前世と合わせるといい歳なのに、子供っぽい所って抜けないよなぁ……と思いながら宿へ向かった。
○ ○ ○ ○
「こんにちはー」
「いらっしゃーい。あら!」
女将さんの表情からして怒ってはないようだけど……。
「さっきは塩味と油だけだったので、見本を持ってきましたよ」
素直に渡せない奴。それがオレ。
「あら! そうなの? さっきの塩味最高だったわ。何度も舐めたものっ」
思いのほか悪い感情は持たれてないみたいだ。いや、悪い感情ゼロだ。女将さん器がデカい!
「これがお店で扱う予定のドーナッツ、こっちがポテチです」
「二つもいいの!?」
あんなことをした後だからか、目を見開いて驚く女将さん。クネクネと動いてる。いいんですよ、オレの罪悪感がそうさせるんです。
「えぇ、どうぞ。うちの宣伝にもなりますし」
大切に食べるわね。と女将さんは両手でお菓子を大事そうに抱え込んだ。
それを目ざとく見つける食堂のお客たち。
「おぃおぃ、なんだよそりゃぁ、美味そうな匂いがぷんぷんするぜ」
「俺たちにもくれよ!」
「はやくはやく」
やんややんやの大合唱になってきたので、どうしようかなと思っていたら、女将さんが大声を張り上げた。
「やかましんだよ、この飲んだくれどもが! 欲しいんだったら買いな! このっポンコツ!」
はい、ポンコツでましたー。
ポンコツ一丁!
なんだよー、くれよー。女将さんももらってんじゃんよー。と駄々をこねつつ、自分のお腹をポンポコ叩いている太っちょのおっさん達に女将さんは、わたしゃ特別だよ! と言い切った。
うーん。すごい空間が出来上がってしまった。
面倒なことになる前に、さっさと宿を後にしてブーくんにポテチを食べさせてあげよう。コッコさんにも何かいいお土産が見つかったら良いのにな……。




