第15話 至高のルール
翌朝、美味しそうな匂いで目が覚めた。
体を起こすと床の上で寝ていた。なんでオレは床の上で寝てるんだろう? そんなに寝相も悪くなかったはずなのに……。
と考えていると、昨日の記憶が蘇って来て、ぶるりと震えた。
あのおばあさんか! ……あれは気絶するだろう!
オレが早々に気絶していしまったので残る二人がその後どんな目にあったのかはわからない、今この場に二人の姿は無いが、美味しく頂かれてない事を祈る。
いや、祈るだけじゃなくて確認しに行く。
一階のキッチンに向かうと背中をこちらに向けてまな板で何かを刻んでいる――おばあさんがいた。
だろうね。九割以上そう思ってました。
二階では姿が見えなかった二人も行儀よくテーブルに着いていて食事を心待ちにしているようだ。
オレがあんな目にあったって言うのに……。納得出来なかったけど朝の挨拶をする。
「おはようございます」
「おは……よ」
おばあさんに続いて、コッコさんとブーくんとも朝の挨拶を交わし、丁度出来上がった朝食を頂いた。
何かの焼き魚と何かの漬物とご飯とスープだった。味噌ではない。
沈黙がこの場を支配しているが、黙々と食べ進める。
正直言ってオレは腹が立っていた。オレが昔亡くなったおばあさんの旦那さんに似てるからって、これはやり過ぎだろう。
今後の事もあるし、この食事の後は宿へ行って女将さんと話し合いだ。
イライラしながらも、しっかりとご飯はおかわりして、その後、宿へと向かった。
「おはようございます」
忙しそうに宿のお客さんに朝食を運ぶ女将さんを見つけて挨拶をした。
「あら! おはよう。昨日うちのおかあさん帰ってこなかったんだけど、どこに行ったか――。あぁ、そういうこと……」
オレにおばあさんの行方を尋ねている途中で、後ろに佇むおばあさんの姿を見つけた様だ。そして、どういう展開になっていたかもしっかりと理解してくれたようだ。
「女将さん、色々とお世話をして頂いてとてもありがたいんですが、これはやり過ぎです。お世話の域を超えていますよ。今後このような事がある様なら、おばあさんの店番の件、無かった事にしてもらいます」
ここはハッキリと言った方がいいと思ってしっかりと自分の意見を言った。
それを聞いたおばあさんは、しょぼんとしてしまい。女将さんは平謝り、よく言って聞かせますと言われ今回は大目に見る事にした。次はないぜ。
○ ○ ○ ○
「はぁ……」
男は窓の外を見ながらため息をついた。
高そうな絨毯とソファが置かれてるどこかの部屋。
男の顔色は優れない。額には汗が滲んでいた。
滲んだ汗が額を伝い、鼻筋へ。その時になってようやく男は汗をハンカチで拭った。
部屋は熱がこもっていて暑い。しかし男は窓を開ける事はしなかった。男は何かを恐れる様に窓をチラリと見た。
そしてまた、滴る額の汗をハンカチで直接拭おうとし、手を上げようとした所で、部屋のドアが叩かれ女が入ってきた。
「失礼します。こちらとこちらにサインをお願いします」
「あぁ、わかった」
女から差し出された書類を確認して、サインをする男。サインを書き終わるのを確認した女が男へ尋ねた。
「ミエナイ様、このお部屋少し暑くありませんか? もしよろしければ窓をお開けしますが」
「よっ、よい! 私はこのぐらいの暑さで丁度良いのだ。用が終わったのなら下がりなさい。後、私がよいと言うまで、しばらく誰も部屋に通さないように」
男の額に浮かぶ汗を見て、不思議そうな顔をした女は承りましたと頭を下げてから退出して行った。
「余計なマネを! 窓を開けるなんてとんでもない! なんてことを言い出すんだ」
自分以外、誰もいなくなった部屋で、独り言を呟きながらミエナイは自分の髪の毛に手をやり、むんずと掴んでむしり取った。
いや、すんなり取れた。
取れたと言うより、乗せていた物を取り外したという方が正しい。
そう、ミエナイはズラだった。
ズラと風は混ぜるな危険だ。いや違うか。
ズラのせいで風には気を使ってるらしい。だから暑い部屋の中でも汗を垂らしながら我慢している様だった。
「醜いデブで溢れるポテリーナで髪の毛が生えるという薬が存在するという噂を聞いたが本当だろうか。我々の国にも存在しないものが、あのデブ共の国に? いや、それより、本当に存在するのなら何としても手に入れたい。しかしあの国とは……何か方法は……」
男は汗を垂らしながら、うんうんと悩んでいた。
○ ○ ○ ○
おばあさんの事は一先ず解決した。
お店は手に入れた。次は並べる商品だけど……。
そう考えながら、宿の入り口にの脇に立って、太っちょ達で溢れる大通りを眺めた。
適当に人を選んでスキルを使う。そして、その中でもお店に売ってない商品や簡単には手に入らない物なんかを望んでる人を探していった。
大抵の人のギフトリストはお肉で埋め尽くされてたけど、肉は肉屋へ行ってください。
うーん。二十人近くスキルを使ってみたところ、甘いお菓子が欲しい人が多いな。ただのお菓子じゃない、甘いお菓子だ。
この世界のお菓子は、以前にも言ったけど、茶色くて大味な物が多い。種類もあんまりない。
ここにスキルを使って地球産のお菓子で参入じゃ!
油をふんだんに含んだ、ドーナッツ辺りでいくど! ひゃほーぃ! テンションが上がった所で路地裏に移動して人に見られない様に変身した。
そして大通りの道行く甘いお菓子が欲しい人のポイントを使ってドーナッツを一袋十個入りを五個、自分用の塩味のポテチを五袋作ってバリバリ食べながらお菓子を欲しがってる目当ての人物に近づいて話しかけた。
「よう旦那、珍しいお菓子があるんだけどどうだい?」
「珍しいお菓子? どんなお菓子なんだ?」
背負い袋に手を突っ込んで収納していたドーナッツを取り出す。
「これだよ、ドーナッツってんだ。外はカリカリ中はフンワリ、砂糖をたっぷりまぶしてるから美味いぞ~」
今まで見たこともないお菓子にゴクリと喉を鳴らすおっさん。
「う、美味そうだな……、いくらだ?」
「そうだな……、これは珍しいお菓子だからな、銅貨五十枚だ」
「うっ、高いな……。しかし確かに珍しいんだろうな、そんなお菓子今まで見たことない。よし! 買った!」
珍しさと袋から漂うドーナッツの甘い匂いに勝てなかったおっさんを、第一のお客さんにする事に成功した。
「まいど! 熱々だから気を付けてな」
そう言いながらおっさんにドーナッツを渡すオレ。
「おぅ! ん? このお菓子熱いのか……? 熱っ!」
熱々ってお菓子がそんなに熱いわけ……って表情でドーナッツを受けとったおっさんは、言ってる傍から火傷した。
脂肪で包まれた指でも熱い物は熱いんだ。
「熱いな! でも……美味い!」
はふはふしながらドーナッツを食べるおっさん。ぷっくら太った手でドーナッツを掴むと可愛いな。
あっという間に五個食べてしまった。残りは家で待ってる奥さんと子供へお土産として持って帰るそうだ。
オレはそんな光景を見ながら、バリバリとポテチを食べていた。いい加減早く声を掛けてほしい。確かにポテチは好きだけどわざわざ人前で見せびらかす様に食べる様な趣味はない。
「ところで、さっきからあんたが食べてるそれはなんなんだ?」
はい、やっと聞いてくれましたね。待ってました!
「これか? これもお菓子だよ。ポテチっていうんだ。甘くないけど癖になるし美味いんだぜ」
バリバリバリ。会話の途中でもバリバリと食べるオレ。そうだよ! 宣伝だよ!
「それが? そんなに薄い物食べても食べた気にならないだろ」
「でもなー。無性に食べたくなったりするんだよなー。しかも結構頻繁に」
イマイチ理解出来てないおっさんだったが、そんなに美味い物なのかと少しずつ興味が出てきた様だった。
「そんなにか……。すまんがよかったら一口もらえないだろうか」
食いついたか!
でも~、あえて
「いやー、これオレの好物だしなー、どうしよっかなー」
「頼む! そこをなんとか!」
ここらでいいか。
「まぁお客さんはさっきドーナッツ買ってくれたからサービスしとくよ」
そういってオレは一握りのポテチをおっさんの可愛い両手で作ったお皿の上に置いてあげた。
両手で受けたもんだから、手は使えない。当然ながらポテチに口からインするおっさん。
バリバリと咀嚼する音が聞こえてくる。
「うっ美味い! さっきから美味いしか言ってない気がするけど美味いな! それにこの塩味が絶妙だ」
「だろー? 飲み物を飲みながらポテチを食べた日には、いくらでも食べれるよ。おつまみにもいいなー」
「酒が飲みたくなるな!」
「おっと忘れてた。このポテチだけど食べ終わったらしなければいけない決まり! ルールがあるんだよ」
「決まり? ルール? お菓子を食べるのに? 一体どんな?」
「それはな……塩味の付いた指をちゅぱっちゅぱっと舐める事だよ! 塩味を舐め取るんだ」
「そんな決まりが? どれ……ちゅぱっちゅぱっ。……いいな」
「だろ?」
「おぉ、なんかこれも美味いわ」
「まぁそれをしてくれれば問題ないよ」
心得たと頷くおっさんは、手の平に付いた塩味をべろんべろんと舐めていた。言われなくても舐めていただろうなって気がしたけどいいだろ。
さっき思いついた決まりをおじさんに教えて、これから流行らせて行こうと決めた。
オレはそこの宿屋の裏で店やってるからまたドーナッツが欲しくなったら買に来てくれよ、とおっさんに宣伝した。
口コミの力でお客を増やす作戦だ。
皆食いしん坊だから、恐ろしい速さで店を知ってもらえる事だろう。
その後も、ドーナッツを三袋売って、一袋はブーくんへのお土産として持って帰った。
ブーくん喜んでくれるかな。




