第11話 右半分
今日は寝坊せずに起きた。
朝食もきちんと食べて、今自分の部屋だ。
うん、やる事がない。
いや、嘘だある。
昨日思いついた自分のスキルを使ってお金を稼ぐ事について真剣に考えないといけない。
かなり良いアイデアだと思う、が危険性も理解している。
でも、それをクリア出来る方法がある。いや、思い出した。
変身すれば、どうとでもなると言う事を!
いや、正直忘れてました。いざという時に使えと言われた帽子も一切使いませんでした、何故なら、忘れていたから!
今までなかった物をいきなり使いこなせと言われてもそれはムリと言うものだ。他人は知らない、オレはムリだ。
怪鳥に襲われた時だって、漬物大根を傷口にゴリゴリ擦り込むなんて地味な攻撃じゃなくて一発で撃破出来る様な、凄い攻撃も出来たのかもしれない。
まぁ、それはいい。もう終わった事だしね。
これからは使わせてもらうとしよう、使いこなせるかどうかは別として。
取り敢えず、店舗が欲しいな、一人前のサンタクロースになる為に旅に出たのに、一つ目の街に根を張るってどういう事だって思うかもしれない。それは正しい、オレだって思う。でも店舗は男のロマン、いやオレのロマンだ。
でも、いきなりこの世界に放り出されたんだ、オレもやりたい事、少しくらいやっても大丈夫だろ。一人前になる修行? それはおいおい考えます!
しかし、サンタクロースがやるお店か……、そうだなサンタクロース……サンタ……三田……、三田商会って名前のお店にしよう!
後は、店舗探しだな、外見が子供のオレが店舗探してるのは怪しすぎるから、街の外で変身してからまた街に戻ってくるとしよう。
今日も二人はお留守番だ。お土産買ってくるからねと言うと、ブーくんはニコっと笑い、コッコさんは恐縮ですとでも言う様に頷いた。
今日何もしなくていいとわかったからかブーくんはまたベッドにゴロンと寝転んで、ブヒブヒ鳴いた。それを聞いてコッコさんが近づいてブーくんの短い体毛をツンツンとつついて毛づくろ位を始めた。
お兄ちゃんに甘える子ブタと、やれやれ仕方ないなとでも言う様に毛づくろ位をしてやるニワトリ、うん、和む。オレもそれに混ざりたい。そこをグッと我慢して出掛ける事にする。
○ ○ ○ ○
さっさと変身する為に王都の門を抜ける。今日はあの門番のおじさんじゃない一回り小さいお兄さんでした。居眠りしてたから勝手に通って来ちゃった。
少し歩いて茂みの中に入る。
焦げ茶色の顎ヒゲがもじゃもじゃの、でっぷり太った四十五歳ぐらいのおじさんを想像して変身と唱えた。うん、光ったりしないから変身したかどうかわかりにくい。でも変身してた。やっぱりお腹が出過ぎて足元が見えない、動きづらい程じゃあないけど体が重いな。
わざわざでっぷり太った体型にしたのは、王都で店を開くにあたって目立たない様にだ。痩せてると印象に残るだろうしね。
しかし、見事な太りっぷりだ。今更だけど、この体型……モテモテになってしまうんじゃないだろうか。そんな事は望んでないんだけどな……。まぁいいかと王都に戻る。
さっき王都から出て十分も経ってないのに門番の人が初日のおじさんに変わってた。ちょうど変わる寸前だったのかな。
「お待ちください!」
声を掛けられて視線をやると、キラキラした目で門番のおじさんがこちらを見てた。
「ん?」
返事をして自分が驚いた。変身の効果で声も変わってるのを忘れてた性だ。一瞬ビクッとしたのは気づかれてないようだけど。
「王都には初めて来られたんですね。いえいえ、言われなくともわかりますとも、あなたの様な素晴らしい体をお持ちの方はそうはいない、一度見れば忘れませんよ。私のお腹の贅肉もなかなかだと自負していたのですが、あなたには負けます。いやー素晴らしい!」
おじさんの贅肉たっぷりのお腹に勝ってるのか、オレのお腹は……その事実にちょっとブルーになったが、ここは相手を褒めておく。
「いやいや、オレなんかまだまだだよ。……それよりもオレの直感が、あんたは素晴らしいセルライトを持ってるって囁いているぜ」
「おぉ! わかりますか! これです!」
そう言って、一瞬でズボンを脱いで太ももを見せてくれるおじさん。うん、そこまでして見せてくれなくてもいいよ。やはりオレの感性では何が素晴らしいのか理解出来ないがここでも褒めておく。
「うーん、立派なもんだ。このセルライトのデコボコ加減。あんたモテるだろう」
「いやはや、あなたの様な素晴らしい贅肉をお持ちの方にそこまで言っていただけるなんて光栄ですよ! この門を潜るのに通行料が掛かるんですが、今日は特別に無料で良いですよ。良い物を見せていただいたお礼です。また贅肉について語り合いましょう!」
え、通行料!? そんなのいるの? あぶねー。今、一文無しだから王都に入れなくなるところだった……。次から気をつけよっと。
お礼を言ってありがたく通してもらったオレは、肉の壁の中に違和感なく入って宿まで戻って来た。体型が大きくなったおかげなのか今回は肉の壁に恐怖を感じる事はなかった。自分で言うのもなんだけど、かなり馴染んでたと思う。
宿に入って女将さんに声を掛ける。お店を開く為の店舗を探してるんだけど、どこか紹介してくれる場所はないかなと尋ねると、「紹介って言うか私の母が昔やってた店舗があるからそこ貸してもいいけど、買取なら金貨二十枚、賃貸なら月々銀貨二十枚だよ」とのこと。
はい、ムリー。リームー。今はお金が足らないのでしばらく待ってもらうことにした。
ついでにオレは旅人で紙幣の価値がいまいちわからないから教えてほしいと女将さんに頼んで教えてもらった。
説明によるとこんな感じだ。
銅貨一枚百円 銅貨が百枚で一万円、銀貨一枚
銀貨一枚一万円 銀貨が百枚で百万円、金貨一枚
金貨一枚百万円 金貨が百枚で一億円、その上もあるけど、必要ないだろうとの事で教えてもらえなかった。
女将さんにお礼を言ってる所で、食堂が騒がしくなってきた。誰かが叫んでる。
「なんなんだい! 厄介ごとはごめんだよっ」
女将さんそう叫んで食堂に向かって駆け出したのでオレもその後を追いかけた。
食堂ではおじさんが騒いでた。うん、昨日オレが頭頂部に育毛剤をこっそり塗りつけたおじさんだった。
おじさんの騒いでる内容は、もう十八年以上も生えてこなかった髪の毛が今朝いきなり生えてたという事についてだった。
確かに頭頂部に十円ハゲの逆バーション、十円生えが出来ていて長さ三センチぐらい髪の毛が生えてるな。しかも金髪。
このおじさん今はハゲだけど以前は金髪だったらしい。うん似合わない。
良かったじゃないかと女将さんは言っていたけど、本人は複雑らしい。
お前髪の毛が生えてる方がいいんだろう! と奥さんに詰め寄れば奥さんからは「そうだけど、なんでてっぺんだけなのキモい」と言われてしまったらしい。
すまん。おじさん。
オレの実験のせいで色々巻き起こってしまったな。
でもこれで育毛剤は問題なく販売できるという事がわかった。すごい収穫だ。
さっそくオレは昨日の育毛剤の残りを手に持っておじさんの元へ進み出た。
「すまんが少しいいかな」
「ん? なんだあんたは」
「今髪の毛についての話が聞こえたんでね、ちょっと口を挟ませてもらおうかと思ったんだよ」
「そうか……。で?」
「いや、オレは怪しいもんじゃない。ただ髪の毛が生えてくる塗り薬を持ってるから値段次第では売ろうかと思ってな」
「なに!? そんな薬が存在するのか? 聞いたこともない!」
「オレが作ったものだからな、他には売られてないせいだろう」
「でも、その薬本当に効くのか?」
あぁ、そりゃ疑う気持ちもわかる、オレだって昨日あんたの頭を使って実験するまで半信半疑だったんだからな、ここはもう一度実験してみせてみないとダメだな。
「効くぞ、まぁ疑う気持ちもわかる。だから今から実験しよう。あんたの頭をこちらに向けてくれ」
オレの指示に従って頭をこちらへと差し出すおじさん。
きちんと実験が終わってからこの育毛剤を購入したいという気持ちが起こるように、頭部の右半分だけ育毛剤を塗った。
「よし、塗ったぞ、明日朝起きてこの薬を買う気になったらまたこの宿を訪ねて来てくれ」
オレがそう言ったことで、塗られたおじさんも、周りを囲んでた野次馬も解散していった。
そのどさくさに紛れてオレも移動した。
てっぺん生えのおじさん以外にも食堂にはハゲてる人がいたし、何か聞きたそうな視線を送ってきてたからね。質問攻めにあう前にとんずらだ。




