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第四話 帝と英

まいど、らくだです(^ω^) 長いけど頑張って読んでくれぃ!

 西暦193年、中国は徐州。ここのとある宿舎で、深夜に二人の男が静かに酒を飲み交わしていた。


「劉殿、もはやこの呂布が味方したからには、 袁術の軍など恐るるに足りません」

 呂布は笑いながら劉の杯に酒を注いだ。まだ顔にあどけなさが残る二十歳を少し過ぎたばかりの小柄な青年である。

「確かに。呂布殿がいれば百人力だ……いや、一騎当千というからには千人力か」

 酒をあおる劉も、かなり上機嫌である。姓は劉、名は備。この時劉備は三十二歳であった。

「ははは、何をおっしゃいます! そなたの”雌雄一対の剣”の前には私などとてもとても」

 と、呂布。しかし、彼は顔では笑っているものの、目は何処か冷たかった。今は心中を隠すために笑顔を装っているが、この男、後の徐州の合戦に置いて、劉備を裏切ることになっている。

「いや愉快愉快! 今夜は朝まで飲み明かそうぞ」

 劉はそうとも知らず、この裏切り者の注ぐ酒に酔いしれていた。

 と――


「そいつァまっこと下せん話しぜよ」


 外の廊下から、男の声が響いた。

「誰だ!」

 劉と呂布は同時に叫んだ。相手の顔は、簾で隠れて窺えない。

「ふん、ワシが誰かっちゅうことなど、この場では知らんでもええことじゃ」

 男は言って、簾をくぐって部屋に入ってきた。背丈は劉と同じ百七十五センチほど、年も同じくらいか。体格は筋肉質でがっしりしている。見慣れぬ異国の服装をしていて、長い髪は後頭部でしっかりと束ねられている。そして気になるのは、彼が腰に下げている奇妙な形をした剣、刀身が緩やかな曲線を描いている。一見細くて脆そうだが、その切れ味やいかに。

「貴様、袁術の手の者か!」

 劉が叫び、手元の自分の身長ほどもあろうかという大剣を引き寄せた。

「おいおい、ワシは貴殿と争うつもりはない、ワシは刀が嫌いじゃぁ。それより、貴殿に話しておきたいことがある」

 男は言って、劉と呂布の前にどっかりと腰を据えた。

「なんじゃ、話とは」

 劉は男の度胸をあっぱれと取ったか、男の無礼を無視して訊いた。

 男は「うん」と頷いて切り出した。

「始めに訊いておくが、貴殿が劉備殿で、こちが呂布殿で相違ないか」

「いかにも」

 劉は頷いた。

 男は続ける。

「では劉殿に申す。この右の呂布という男は、後の徐州の合戦で、貴殿を裏切るつもりじゃぁ。今のうちにこんな裏切り者など、追放するべきじゃ」

「今なんと!?」

 驚いたのは呂布だった。

「おまんさんが、劉殿を裏切るつもりだと言っちゅう」

 男はあっさりと答えた。

「呂布殿、真か!?」

 劉はぎょっとして呂布を見た。

「劉殿、こんな下賤者の言うことを信じまするか!」

 呂布は明らかに動揺していた。逆に、今しがた会ったばかりのこの男の態度の方が、藪から棒の話しのわりに、説得力を感じる。

「劉備殿、貴殿は後の帝となられるお人じゃ。このワシと、そこの若造、どちらが真を申しちょるか、貴殿なら分かるはず」

「黙れ、貴様やはり袁術の手先であったか!」

 呂布は狂ったように喚いた。

「何、そなた、この劉備が皇帝になると申すか!?」

 劉は呂布にかまわず、男の言葉に驚いていた。

「うぬぅ……劉殿、ご乱心とお見受けした……ならば、この下賤者共々、生かしておくわけにはゆきませぬ!」

 呂布は立ち上がり、壁に立てかけておいた自分の槍を手にした。

「呂布殿、何をする!」

「ふん、やっと本性を表しやがったか、馬鹿野郎が」

 男は言って劉を制し、自分も立ち上がって呂布と向き合った。そして徐に刀を抜き、中段の構えをとった。

「奇妙な剣だ……どうした、剣が震えておるぞ、さては臆したな」

 呂布は嘲笑った。男の刀の切っ先が、ゆらゆら動いている。

「これぞ、北辰一刀流!」

 男は言うと、鋭い目つきになった。劉は彼を見ながら、自分の腕に鳥肌が立つのを覚えた。

「ほざけ!」

 呂布は嘆を発すると、重そうな槍をいとも簡単にぐるぐると回した。そして一度槍を後ろに引いてから、渾身の突きを男に放った。

 

 ――びゅん!


 呂布の槍は風を切って男の心臓に伸びて行く。そして一瞬で彼の胸元を抉ろうとした、その刹那、男は気合と共に動いた。

「どっせぇぇ!」

 男は怒号を発すると、刀を真上に振り上げた。

 ガシィン――と音を立てて、呂布の槍が跳ね上がる。男は、呂布の槍を刀の峰で払いのけたのだ。その膂力は凄まじいものがあった。

「クソッ!」

 呂布はうめいた。自らの槍が、天井に刺さって抜けない。

「きえぇ!」

 男は間髪を居れず、無防備な呂布に踏み込み、刀を横に薙ぎ払った。

「―――――!」

 呂布は何かを叫ぼうとしたが、それも間に合わず、男の刀が彼の首を飛ばした。頭がなくなった呂布の首からは鮮血が迸り、脚ががくりと折れた。その足元には、呂布の顔が、男を恨めしそうに睨んでいた。

「まっこと、おまんは馬鹿野郎ぜよ……」

 男は、返り血を浴びた真っ赤な顔で冷ややかに告げると、パチンと刀を鞘に収めた。

 劉は、口をあんぐりをあけて男を眺めていた。呂布は中国でも名高い槍の名手だ、”雌雄一対の剣”を使う劉とて、彼に一騎討ちを挑まれたら勝てる保証はない。しかし、この男はいとも簡単に呂布の首をとったのだ。とんでもない剣客だ。

 男は劉に振り返り、口を開いた。

「歴史的には、この呂布が貴殿を切りつけるはずじゃった……しかし、呂布は今このワシが切り捨てた」

「……歴史、とは何のことじゃ……そなたは予言者か、それとも鬼神の類か」

 劉は男と正面から対峙し、問いかけた。

「劉殿、歴史なんてもんは、下らんもんだとは思わんか?」

「……説明してくれんか?」

 劉はまた床に腰を下ろし、胡坐をかいた。彼はもはや腹をくくった潔い顔で男を見ていた。その目に迷いはない。

「さすがは噂に聞くだけの太い人間ぜよ」

 男は血まみれの衣装も気にせず、劉の前に座った。

 そしてこう切り出す。

「劉殿、貴殿に見てほしいものがあるがじゃ」


                                    *

 

 それから時を遡ること二千年、ギリシャのベロボネス半島にあるネメアの地。ここでは近くの谷に迷い込んだ一匹のライオンが、たびたび近隣の村にやってきては人畜に被害を与えていた。


 ネメアの農家で育った青年ヘラクレスは、村一番の怪力の持ち主であり、また誰よりも正義に篤い男でもあった。彼は困り果てた村の人間に、自分がライオンを退治してくる、と請け負って、弓と棍棒を携えて谷にやってきた。

「ライオンめ、いるなら出て来い! 俺が相手をしてやる!」

 ヘラクレスの声が谷に響き渡る。

 と、背後の茂みの中から何かが近づいて来る気配があった。

 

 グルルルルルゥ……!


 低い唸り声を発しながら、茂みから現れたのはやはりライオンであった。ライオンは涎をたらして、目をぎらつかせている。

「このヘラクレスを食おうというのか」

 言って、彼は矢を一本弓に番えた。そしてそれを固く引き絞り、ライオンの頭に狙いを定める。

「死ね!」

 ヘラクレスは言葉と共に弓を放った。弓はまっすぐにライオンの頭に向かって跳んでいったが、本能的に反射したライオンがわずかに首をひねったせいで弓は目標をたがえ、その右目に刺さったのみで命を絶つまでには至らなかった。


 ――ゴォオオオオオン!


 ライオンは怒りで我を失い、右目に矢が刺さったままヘラクレス目掛けて突進してきた。もはや新たに矢を番える暇もない。ヘラクレスは棍棒を構えた。

「くらえ!」

 ヘラクレスは棍棒を怒号と共に打ち下ろし、見事にライオンの頭を強打したが、強度はライオンの頭の方が勝っていたため、棍棒は真っ二つに折られた。やむなくヘラクレスはライオンと組み合うことになった。

 跳びかかるライオンを真正面から受け止める。ヘラクレスの赤い髪とライオンの鬣が絡み合う。

 ライオンは、身長二メートル近くあるヘラクレスよりさらに大きかった。膂力ではさすがのヘラクレスも勝てず、たちまち地面に押し倒されてしまった。

 ヘラクレスはライオンの腹を蹴り飛ばし、どうにか窮地を脱した。しかしライオンはすぐに起き上がって跳びかかる体勢をとった。

 ……もはやこれまでか。

 諦めたその時だった。谷の上から何か光る物が飛んできたと思ったら、それがライオンの腹に深々と突き刺さり、ライオンは転倒した。見ると、跳んできた物はとてつもなく大きな剣だった。

 誰がやったのか戸惑っていると、谷の上から男の声が響く。

「今だ、殺せ!」

「おう!」

 ヘラクレスは反射的に飛び出していた。ライオンの首に組み付き、怪力に任せて一気にそれをへし折る。ライオンは泡を吹いて絶命した。

「誰か、俺に手を貸してくれたのは!?」

 ヘラクレスは立ち上がり、辺りに叫ぶ。すると、谷の上に人間と思しき二つの影があった。

「そなたがヘラクレスか」

 片方が声をあげる。

「いかにも、俺がヘラクレスだが、何か用か!」

 ヘラクレスが問い質すと、もう一人がこう言った。

「ヘラクレスよ、ワシらと共に、正義を探す旅に出ないかい」

 

 ヘラクレスに、それを断る道理はなかった。


謎の「男」の正体は分かったかな? では次に行くデース!

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