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第二話 交渉成立

らくだです!個人的に牧野さんを一杯つかいたい・・・

 空洞を抜けると、すぐに別の空間に出た。そこは真っ白な、いわば光の中のような場所だった。

 空間の中には、二つの長いソファとテーブルが一つぽつんと置かれており、その他には一切何も見当たらない。

「不思議な部屋だ」

 小次郎がつぶやき、辺りを見回していると、自分達がやってきた空洞がゆっくりと小さくなり、そして消滅してゆくのが見えた。

「罠……とかでは無いですよね、まさか」

 用心深い小次郎は心配げな表情で質した。

「私が罠を仕掛けても意味が無いでしょう」

 浅井は無表情で返した。

「なんでもいい、条件とやらを早く聞かせてくれ」

 豪快な性格の武蔵は、勝手にソファに腰を下ろし、浅井を促した。

「良いでしょう。しかし、ここからは私の仕事ではありません。私の仕事は、あくまであなた達の魂をここに誘導することです。ここからは、面接係りの人間があなた達を見極めます」

 浅井は言った。

「面接係り? つまり我々を検査する人間のことですね」

 小次郎は腕を組んで言った。

「そう言うことです。それでは、係りの人間を呼んでまいりますので、少々お待ちを」

 浅井は言って礼をすると、一歩後ろに下がった。すると不思議なことに、彼の体は光の中に消えてしまった。残されたのは武蔵と小次郎二人だけ。

「むう……未だに考えが整理できん。ここは時空管理……何だって?」

 武蔵は名詞を見つめて首をひねった。カタカナが読めない。

「センターです」

 小次郎は立ったまま言った。

「そうそう、時空管理……」

「センター」

「そう、せんたー。あの浅井という男、一体何者なのか。我々を甦らせるとか言っていたが……まさか神か?」

 武蔵は真剣にそう思った。

 小次郎はかぶりを振り、それを否定した。

「神にしては、やることがいちいちややこし過ぎます。彼も、我々と同じ人間でしょう。おそらくは、我々が生きていた世界とはまったく違う世界の人間……」

「ご名答」

 小次郎の言葉を、男の声が遮った。二人はビックリして背後を振り返る。

 そこには、いつの間にか浅井とは違う別の男が立って居た。

「あなたは?」

 小次郎が訊く。

「俺? 俺はあんたらの面接をする牧野ってもんだ、ヨロシク」

 牧野と名乗る男は、汚い頭をガリガリ掻きながら、ニカッと笑いかけた。武蔵と小次郎は彼の突然の出現に驚いたものの、本能的に、彼が友好的であると感じ、すぐに警戒を解いた。

「さ、あんたも座りな」

 牧野は言って、小次郎にソファをすすめた。

「忝い、失礼仕る」

 小次郎は律儀に断ってから武蔵の隣に腰を沈めた。牧野は「お堅いヤツだな」と笑いながら彼らの向かいに腰を下ろした。

「さてと……ん、どうした?」

 牧野は、なにやらもぞもぞと落ち着かない様子の小次郎を見て訊いた。

「いえ、私は生まれてこのかた、このような椅子には座ったことがないもので……その……どうも落ち着かなくて」

 小次郎は腰をモジモジさせながら言った。

「ええい、じっとせい! 気色の悪い」

 隣で武蔵が堪らず咎める。

「あなたはよく平気ですね」

 小次郎は武蔵を見て半ば呆れ顔で皮肉った。

「ははは、コイツはソファっていうんだ。慣れれば結構心地のよいものさ」

 牧野は笑顔で説明した。小次郎は「……はあ」とだけ答えた。

 牧野は頷き、「さて」と話を切り替えた。

「ぼちぼち面接を始めるかね。まあ、面接と言っても、ほとんどは君達の仕事についての説明に終わるんだがね」

「仕事?」

 武蔵は眉をひそめた。

「おや、聞いてなかったのか? 君達には、俺達世界時空管理センターの巡視員のエージェント……つまり代行人になってもらい、世界の歴史の秩序を守ってもらうんだよ」

「なんと、歴史の秩序?」

 小次郎は首を傾げた。間髪を置かずに武蔵が突っ込む。

「ちょっと待て! そもそもお前達は何者なんだ? 別の世界の人間と小次郎が言っていたが」

 武蔵の言葉に牧野は頷き、説明した。

「ここは、君達が生きていた時代から三百年ほど後の世界なんだよ」

「未来……という訳ですか」

 小次郎が口を挟む。

「ほう……意外と物分りがいいな、小次郎君」

「ここまでで十分不思議な体験をしてきたのです。もう何を言われても驚きませんよ、私は」

 牧野の言葉に、小次郎は開き直ったような口調で返した。武蔵は、いまいち分からないような顔をしているが。

 牧野は「なら話は早い」と続けた。

「我々の時代には、過去のどの時代にでも行ける機械……君らの言葉で言うカラクリがある。我々は『タイム・ゲート』とこれを呼んでいるがね。コイツは使い道を間違わなければ、過去の真実を知ることができる便利な物なんだが、ふと血迷った連中がこれを使って過去の世界に迷い込むと、大変なことになっちまう。下手をすれば、人類の歴史を大きく変える結果になりかねんのだ。 

 そこで、この時空管理センターが、常時、歴史に異変が無いか管理している訳だ。そして、万一異常が見つかれば、君達のように選ばれたエージェントを、歴史の修正を目的にその時代に派遣する、という訳さ。何か質問は?」

 牧野はまくし立てるように語った。

「一つ気になることがある」

 と武蔵。

「なぜ我々のような人間に、わざわざ代行を求める必要があるのか。牧野殿が未来の人間であれば、それこそ未来の武器と知恵を持ってすれば、たやすく問題は解決されるのではないのか?」

 武蔵の問いに対して、牧野は満足そうに頷いて答える。

「武蔵君も鋭いね。確かに、我々が現場に行って修復を行えば、収拾は早いかもしれん。が、しかし、もし誤って我々が過去に自分達の痕跡を残してしまえば、そこからまた歴史が変わってしまうかもしれん。が、仮に剣しか持たない君達ならば、たとえ何千年遡っても、その歴史に与える影響はほとんど無いだろう」

「まるで、私達が何千年も前から成長していないような言い方ですね」

 小次郎が少しむっとした顔で言った。

 牧野は小次郎を見て不敵に笑った――と思うと、目にも止まらぬ手の動きで懐から何かを抜いた。そして、小次郎がそれが何か分からぬうちに、ガウゥゥウン! という爆音が轟き、小次郎の胸に衝撃が走った。

「うおぉ!!」

 小次郎は衝撃でソファの後ろに吹っ飛んだ。

「何をする!」

 武蔵が剣の柄を握り、叫ぶ。牧野は手に筒のような物を握っていた。その先端から煙が上がっている。種子島に似ているが、それよりずっと小さく、しかも火縄が見えない。

「貴様、小次郎に何をした!」

 武蔵は怒り狂って、二本の刀を引き抜いた。

「落ち着け、後ろを見てみろ」

 牧野は彼を制して、その背後を指差した。そこには小次郎が不思議な顔をして立って居たが、胸の辺りにぽっかりと穴が開いていて、向こう側の景色が見えている。

 牧野はまた笑顔に戻って、告げた。

「今は魂だけの体だから死にはしないが、生身だったら間違いなくお前さん死んでたぜ。どうだい、はたしてこんな物を、何千年も前に使えるかね」

 

もはや、武蔵と小次郎には返す言葉すら無かった。

交渉成立? 四話に続きます。

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