第十一話 卑弥呼の憂い
さて、牢屋に入れられてしまった小次郎は、こっそり忍び足で現れた壱与を見つけ、正直なところ驚いていた。
「小次郎さん、逃げてください。卑弥呼様があなたを、句奴国の人間と思いこみ、処刑するつもりなのです」
「なんと。しかし拙者が逃げてしまえば、壱与殿、あなたにも危険が及ぶやも知れませんぞ」
青ざめた顔をしながら叫ぶ小次郎に、壱与は引き締まった表情でこう言った。
「わたしがあなたを信じたいと思ったから、そうするまで。卑弥呼様は最近おかしい、わたしに対して何かこう、嫉妬のようなものが感じられます。――できた」
壱与は木でできた錠前をあけると、小次郎を促し、地下通路を通じて外へ連れ出す。
「壱与殿。すまない」
小次郎が頭を垂れて壱与に謝る。
「いいえ。わたしは・・・・・・いけないと知りつつも、実はその・・・・・・」
壱与が小次郎に歩み寄り、何かを告げようと唇を動かした刹那。
「おぅ、いたヨいたヨ! コジロー!」
小次郎は顔をしかめ、引きつった笑みを浮かべた。
「何やってるんだ、みんな心配してたんだぜ」
武蔵は壱与を確認すると、小次郎と以心伝心して、悟っていた。
しかしマリアはと言うと・・・・・・。
「コジロー、隅に置けないデス! カワイコちゃんつかまえたネ」
「妙なことを抜かせ! そ、そういうのではない」
「アハハ、照れるな、照れるな、このヤロー」
「それで、どうするつもりなんだ?」
とは武蔵。
「彼女は卑弥呼から邪険にされているのだそうです。ならば卑弥呼を説得するのも手ではなかろうかと」
「どうするのだ・・・・・・」
地下牢から出てきたばかりで、まだ卑弥呼の宮殿からあまり離れてはいない場所である。
小次郎は少しばかりそわそわしてきて、
「場所を変えないか、武蔵。もちろん壱与も一緒に・・・・・・」
今、壱与を宮殿に返すわけには行かないと言う、小次郎の配慮だった。
何をされるかわかったものじゃない。
「イヨも一緒に行くデスよ!」
小次郎より早く壱与の腕を取った人物があった。マリアである!
「い、いくってどこに?」
「ナキのおうち! さあ、行くデスよ!」
マリアは強引と言うか、何というか・・・・・・。
壱与の意志もきかずして無理矢理引きずっていく。
「お、恐ろしい女だ・・・・・・」
武蔵と小次郎は顔を見合わせて、マリアと壱与のあとをついていった。
「あの娘・・・・・・」
卑弥呼の神殿は、木造住宅で檜や杉の匂いが立ちこめていた。
薄暗いその拝殿の奥で、かがり火を焚き、部屋の中央あたりに祈る卑弥呼の姿があり、彼女は老いし我が身を呪い、震える手で皇帝から授かった銅の鏡を覗き込んだ・・・・・・。
すると、白髪、しわだらけの醜さを強調したような、老女の顔!
卑弥呼は怒りがこみ上げて、とうとう鏡を投げつけて割ってしまう。
「壱与の若さがにくい」
卑弥呼はかつての自分を思いだし、美しさを渇望した。
美貌の女神とまで歌われた、卑弥呼の女王としての役割は、もはや風前の灯火であった。
「いやじゃ、いやじゃ、このまま朽ちて死んで行くなど、ありえん!」
だが神に祈ったところで、所詮は捨てゴマである。
「小次郎の処刑もなくなり、わらわはいったい、何を生き甲斐にせよと!」
ピンチヒッター水乃です!
さて、らくだ先生にお詫びを^^;
小次郎の拷問シーンは省いちゃって申し訳ないw
なんだか苦手なので・・。




