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直列

 いつもいつも思うことがある。何故、兄と姉がこの世の中に存在するのであろうか。俺はいつもそれを考え、俺を罵倒する兄と姉の言葉を念頭に置くと、その度にやり切れない気持ちになる。本当にこのままでいいのか、何かしなければならないことはないのか。自室の天井を眺めて思いに耽る夜は一度や二度ではない。

「やってくれたね、ソラ。正直予想外だよ。まさかこんな場所から君がやってくるなんて」

 見るからに優男。見るからに俺より長身の、兄。刺々とした意味のわからない金色の帽子や、ふざけているとしか思えない赤色のマント。黒い革靴を履く兄は、手にもった茶色のステッキを俺と零久慈零に向けて言う。「君が零久慈零かい。よくここまで辿り着けたね、って褒めるべきかどうか迷うよ。まさかこんな姿をしているとは」

「こ、こんな姿って何ですか! 何で私がノーパンノーブラだと気付けたのですか!」

「え、そうなの?」言いながらじっくりとなめ回すように零久慈零の全身を見る兄。いやいや兄よ、何をしているのだ。頼むから止めてくれ。こちらとしても恥ずかしいことこの上ない。

「ノーパンノーブラか……。よし、ちょっとそこで跳んでみてくれ」

「何をいけしゃあしゃあと提案しているのだ、兄よ!」

「ん。おっと、そういえばソラも居たね。うん。久しぶり。でも兄ちゃんな、悪いんだけど今は少し忙しいんだ。後にしてくれ」

「忙しいってなにゆえに! ただのエロい欲求であろう!」

「そうだよ! 何が悪い!」

「そこで断言してしまう兄が悪い!」

 あまりの発言に叫びながら、俺は我を取り戻した。そうだ、兄は昔からこんなことをいうような奴だった。グロリアスレボリューション上で出会いを求めてモンスターを倒して徘徊していた過去を思い出す。確かハンドルネームは『ツンパーノ』であった。逆から読んだら歩く猥褻罪であることは言うまでもない。

 かたや、大穴の前、俺の横という位置で立ち尽くす零久慈零は真剣な表情で兄を睨んでいた。「すいませんが、一つだけ質問してもいいでしょうか」と兄に向けて発言する。

「僕の近くに来て、その服を脱いでくれたらいいよ」

 またもや馬鹿げた提案をする兄に対し、流石の零久慈零も顔を真っ赤にして「せ、セクハラは止めて下さい! すいませんがそれは無理です!」と身を両腕で守りながら叫んでいた。その反応を見ると、今度は兄が「え! 脱いでくれないのかい! ちょ、頼むよ君! ホント、お願いします!」と土下座し始めた。駄目だ。本当にこの兄は駄目過ぎる。零久慈零も真っ赤になったまま口をパクパクとしていることであるし、兄と交渉し出来るのは俺だけらしい。深呼吸を一回し、「お願いします! 札束あげるから!」と頭と両腕両足を地面につける兄に向けて、発言する。

「兄よ。一つだけ頼みがあるのだ」

「黙っていろソラ! 今兄ちゃんは大事な所なんだ!」

「いい加減にしろよおい!」

「ええい、わからない弟だな! 一体何だ! 五年も離れ離れになっていた兄弟の再会など、僕はどーでもいい! 早急に話せ! 早急に終わらせろ! ま、待っててね、零久慈ちゃん。お兄さん、もう少ししたら君の相手するから」

「煩悩という煩悩を抑え切ってから俺と話をしろ!」

「無理だね!」

「無理なのかよ!」だから嫌なのだ、兄と話をするのは。俺を罵倒する時と普段のキャラが違い過ぎる。「いいから俺の話を聞け! わかったか!」

「はいはいわかりましたよ早くしろ早く」

 口を尖らせ、口笛をしながら兄は俺の話を聞く体勢になった。これが大の大人のする態度なのか。しかも視線の先はキッチリと零久慈零の方を向いている。信じられない。この男が兄ということが。

「兄よ。五年振りに再開してなんなのだが、聞かせてくれ」言いながら、俺は周りを見渡す。どこぞの貴族が住んでいるかのような大きな部屋。兄の後ろには玉座があり、それが一層俺を苛立たせる。

「愛する弟の言うことだ」俺の真剣な口調に感化されたのか、俺の方を向いて優しい視線を投げかける。「兄ちゃんは何でも言うことを聞こう」

 ――何でも言うことを聞こう。

 俺は。

 そういうことを、いけしゃあしゃあと言ってのける兄が昔から大嫌いだった。何でも『出来る』、『出来ない』ことなど有りはしない。そう信じて疑わない兄が、俺は大嫌いなのだ。

 人間誰しも出来ないことがある。いや、出来ないことだらけだ。俺を見てみろ。運動が出来ない、勉強が出来ない、人との会話だって上手く出来ない。兄と姉が何でも上手くこなす姿を見て、フラストレーションが溜まりに貯まる小学生時代の苦い思い出は、今も尚俺の心を苦しめる。

「ん? どうしたんだいソラ。急に苦虫を食べちゃったみたいな顔をして」

「……誰がそんなもの食べるか、誰が」

「そんな細かい部分を指摘しなくていいからさ。ほらほら、早く言いたまえよ」

「…………」白々しい兄の顔を意味もなく睨みつけながら、俺は言う。「兄は、俺達が何の為に此処に来たのか知っているのか?」

「ああ。勿論、知っているよ。街の機密事項とかいうのを奪いに来たんだろう。だけど途中零久慈ちゃんが、何者かによって操られたアルエに追い掛けられていた。逃げた先に出会うソラと零久慈ちゃん。屋上から美少女が、ってそんな売り文句じゃ今時誰も買ってくれなさそうだけどね」

「全部、お見通しという訳か」

「まあでも、ソラと零久慈ちゃんが何を喋っていたかまでは知らないよ。だから零久慈ちゃんがダブル下着ウィズアウト状態だとは知らなかったのさ」

 後半の発言は無視をしよう。つまり、兄は殆ど、俺達がどのようにしてここまで来たのか、俺が今何が出来るのかというようなことを知っているのだ。そうであるならば、俺が次に言うことを兄は予測出来る筈。そう俺が逆に予測していると、「ソラが僕に聞きたいこととは、あれのことだろう?」と兄が言ってきた。そうだ。あれのことだ。無言で頷くと、兄は依然優しい目をしたまま俺に言う。


「零久慈ちゃんが捜している機密事項。それが一体何処にあるのかを、ソラは知りたいんだ」


「え?」兄の言葉を聞き、真っ先に反応したのは零久慈零だった。「イカルガのお兄さんが、この街の機密事項を持っているってどういう意味ですか? 私の聞いた話だと、この街の王様が持っているって……」

 零久慈零の発言に、「その通りだよ」と静かに返す兄。その言葉を聞いて、零久慈零は更に困惑した表情になる。「え、えと、はへ?」と呻きながら、それでも大体頭の理解が追い付いて来たのだろう。両手を頭の上に乗せながら、ゆっくりと俺を見て、こう聞いた。

「イカルガのお兄さんは」苦悶の表情をする零久慈零。「王様なんですか?」

「その通りだよ」

 零久慈零の前方からの肯定の言葉が王宮の一室を響かせる。ふいに落ちそうになった王冠を整えると、兄は零久慈零と俺を見た。「零久慈ちゃん。僕は君がここに来ることを知っていた。君が僕を狙っていることも知っていた。だけど、僕は君がソラと共に行動しているとわかった時、街の皆が操作してくれていたアルエを引き下げたんだ。その理由が、わかるかい?」

「え、え? すいま、せんが意味がわかりません。イカルガのお兄さんが王様? じゃあイカルガは王様の弟? ど、どういうことなんですか、どういうことなんですか!」

 叫びながら俺を睨みつける零久慈零の顔は赤くなっていた。先刻とは違う理由で。零久慈零は俺に対して怒りを感じているのだろう。当たり前、だ。

 何故なら俺は、零久慈零に隠し事をしていた。

 俺の兄が、零久慈零が狙う機密事項を持つ王だということを隠していたから。

 ――しかも、それだけじゃないんだ。

「すまん、ゼロちゃん。今まで隠していて」

「……何で隠していたんですか。何で隠していたんですかっ!」

「…………」

 零久慈零の悲痛な叫びを。

 俺は、無言になって無視をした。零久慈零が俺の胸倉を掴み、宙に上げる。苦しい。息がしづらい。両足をばたつかせても空を切るばかりだ。「答えてください! 何で私に、隠していたんですか!」と叫ぶ零久慈零。その言葉に対し、俺は何の返事もすることが出来ない。

「無理だよ零久慈ちゃん。ソラは何をしても、ソラは君に何故隠し事をしたのかは教えない。昔からそうだったんだ。僕ら三人兄弟な筈なのに。母さんを亡くし、父さんを殺し、兄弟三人で生きていこうと決意した時も、ソラは黙ってふて腐れていたから」零久慈零に持ち上げられる俺を見ながら、兄は悲しい目つきをする。「ソラは、三人兄弟の中で父さんの血を一番濃く受け継いでいるんだよ。おかしな口調も父さんに似ている。ロボットを人間より好んで、人間を拒絶するところも父さんに似ているんだ。重い感じの口調、正直僕は羨ましいよ。街の皆に命令を出す時くらいしか、僕はそれを真似『出来ない』から」

「なっ」

 一気にそう喋った兄を見て。

 『出来ない』と口にした兄を見て。

 話を聞いて呆気にとられた零久慈零の腕を振りほどくと、俺は一目散に兄へと向かい、兄の胸倉を掴んだ。「やめろ! お前が、軽々しく『出来ない』なんて口にするな! 何でも出来るのだろう、優秀なお兄様は何でも出来るのだろう! 俺と違って!」

「ソラ。君はまだ、あのことを引きずっているのか」

「……ああ、引きずるとも」

「もう忘れた方がいい。気の迷いだったんだよ、あの言葉は」

「何を」淡々と語る兄に、心底憤りを感じる。「何を馬鹿なことを! 俺が、『出来ない』と罵倒されてどれだけ傷付いたのか、兄は知っているのか!」

「ああ。知っているさ」

 ブチン、と自分の奥底で何かがちぎれる音がした。胸倉を掴みながら、兄に向けて咆哮する。変わり果てた俺を見て、零久慈零が「どうしたんですか!」と泣きながら俺の腕を引っぺがした。荒い息を整えながら、俺は零久慈零に羽交い締めをされている。

「わかってる。ソラがあの時どれだけ傷付いたかわかっている」

 頭に浮かぶのは俺を罵倒する兄と姉の姿。その光景が頭に浮かぶ度、俺は、俺は――。

「ソラが唯一慕っていた父さんが、ソラを『不出来な人間』の街に住ませようとした時のソラのは、本当に苦しかったんだと思う」


「は?」


 無意識のまま、兄に向けて惚けた声を出していた。零久慈零の両腕を振りほどこうとしたが、零久慈零の力が強すぎて上手くいかない。「ゼロちゃん。頼む」と消え入りそうな声で頼むと、ようやく納得してくれたのかゆっくりと俺の両腕を離してくれた。「兄よ。何を言っているんだ」と呟きながら、落ち着かない足どりで兄に近づき、兄の前に膝を落とした。

「俺の父はネトゲ廃人だ。グロリアスレボリューションという名称のネットゲームにはまるろくでなしだ。浮気が母にばれ、離婚はやめてくれと泣きつくのだ。俺の介護が無ければ生きていけない。俺がいなければ、俺の父は生きていけない。父には俺が必要なのだ。だから父は俺を罵倒したりなどしない! 俺を罵倒したのは兄と姉、お前達二人だ! だから、だからっ!」

「……そうかい」悲しそうな声を出しながら、俺の頭に右手を置いてくる兄。「そう思い込みながら、ソラはこの五年間過ごしてきたんだね」

 零久慈ちゃん。だから僕は君をソラに近づけたくなかったんだ。まだソラがこの家に戻るのは早過ぎる。だから僕は、機密事項だのなんだの嘘をいって街の皆に動いてもらったんだ。機密事項なんて、そんなものはこの街にはないんだよ。この街には優しい人と、優しいロボットしか居ないんだ。

 兄が何かを言っている。それを聞いた零久慈零が、「この街に機密事項がない? 何を言っているんですか? すいませんが、それ以上嘘を言ったら許しません」と言っている。兄は今頃困った困ったとでも言っているのであろう。零久慈零は怒るだろうが、本当のことであるから仕方がない。

 この街の王は、機密事項など持ってはいないのだから。

 知っていた。俺は、知っていたのだ。だけど、それを零久慈零に言うことが出来なかった。言ってしまえば、零久慈零に俺が王家の出だとばれてしまうから。

 俺の父が王様だと、俺自身が認めてしまうことになるから。

「そんな、そんな」苦痛に満ちた声を出す零久慈零。「この街に機密事項なんてものがない? だったら私は、何の為にこの街に侵入して、何の為にイカルガをこんなに苦しめたんですか」

 そうして再び涙を流し、俺と同じように膝をつく零久慈零。俺はというと、依然膝をついて兄に向けて頭を垂れていた。兄の右手は俺の頭に置かれ続けている。懐かしい暖かさだった。使用人に教育され、その度に失敗すると、昔から兄と姉は俺の頭に手を置いて慰めてくれた。その過去が頭をよぎり、声を出さずに涙を流す。馬鹿は俺の方だ。過去から逃げていた俺は、何の罪もない兄に向けて酷いことを叫んでしまった。今からでも謝れば、兄は許してくれるだろうか。そうして今一度、一緒に住めれば良いに越したことはない。五年間も、父の幻影が残るこの王宮から逃げていたんだ。久しぶりにこの匂いを吸った。昔のように、直ぐさま発狂するようなことはなかった。

 出来るだろうか。

 もう一度、この家に住むことは出来るだろうか。

「無理はしなくていい。だけど、ソラが僕達と暮らしたいと言うのなら、また一緒にこの家に住もう」

 兄は俺に優しい言葉をかけてくれる。二十代にもなったにも関わらず泣きつく俺に、優しい言葉をかけてくれるのだ。涙を右腕で拭いながら、ゆっくりと俺は顔をあげた。目の前には膝を曲げながら笑顔で俺を見てくれる兄の姿。

 いつになるかはわからないけれど。もし俺がこの家に住みたいと言ったら、一緒に暮らしてくれますか。

 この言葉を言おうとした。言おうとして俺は兄を見て、零久慈零に一度「すまない」と言って。そうして俺は口を開けた。

 その時だった。

「ギャイー」

 唐突に。

 一体のアルエの、重く低い音が俺の鼓膜を響かせた。

「へ」「は」「何でアルエが?」

 先程まで姿形も影も予兆もなかったアルエの襲来に、三者三様、それぞれが反応する。しかしそれらはどれも、驚愕の反応だった。

 ――不思議に思っていたことがある。

 前に進まない地下道。ならば、何故俺と零久慈零は前方に居たアルエを抜かすことが出来たのか。

 兄はアルエを零久慈零討伐に使うのをやめたとかなんとか言っていた。ならば、何故地下道にアルエが二体も居たのか。

 そもそも。

 零久慈零をこの街に侵入させ。アルエに遭遇しない、走るだけでは前に進まない地下道などというおかしな情報を与えたのは、「一体全体、誰なのだ」

 アルエを眺めながら、呆然と呟く。その間にもアルエは頭部の目と思わしき部分から赤いレーザーを出し、零久慈零を捉えた。「ギャイー」と発すると、右拳を握りながら零久慈零に攻撃を加えようとする。

 突然の登場に、突然の攻撃。当然零久慈零は慌てふためいた様子を少しだけ見せたが、すぐに視線を鋭くさせ戦闘体勢に入る。トン、と跳んで大穴の向こうへ足場を移した。アルエが放つ巨大な拳を軽いフットワークでかわしながら、一気にアルエの懐に入る。空を殴るアルエの拳はそのまま地面へとおちた。地面が揺れたが、零久慈零は全く気にしていない。零久慈零の頭上にはのびきったままのアルエの屈強な腕がある。

「すいません」言いながら零久慈零は拳を構える。アルエと比べたら華奢な、小さい拳。けれども、零久慈零が一度それをアルエの腹へと突いたら、アルエの腹はバラバラにされ、とりあえずは一件落着する。――筈だった。

「「ギャイー」」

 重低音が。

 二つ、王宮に響いた。

「ゼロちゃん!」「零久慈ちゃん!」

 叫んで危機を知らせようとした俺と兄だったが、もう遅かった。何の音も起てずにいつの間にか大穴の上で飛ぶもう一体のアルエの左腕は、既に零久慈零の体へと向けられていた。

「キャアっ」

 俺達の言葉とアルエの音に気がつき左を見て、咄嗟に腕をクロスさせてガードの体勢に入ったのはよかったが、駄目だった。

 一体の強烈な攻撃を防げたとしても。

 二体同時となると、そうはいかない。

 床にヒビを入れて大穴のすぐ上を飛ぶ一体の攻撃を防いでいる最中に、零久慈零の前方の一体が伸ばしていない左腕を振るった。一体の右腕と一体の左腕が交差し、その間に更に一体の左腕が挿入される。

 そのような状態を、零久慈零は耐え切ることが出来なかった。

 右腕の攻撃を避けられたアルエの左拳と、飛ぶアルエの右拳に挟まれた零久慈零は、悲鳴すらあげることが出来ずに潰された。

「ゼロちゃん!」

 無我夢中に飛び出した。行動に移すのが遅いと言われても言い返すことが出来ない。呆気にとられて何も出来なかった俺の不甲斐なさが悪い。左手に握ったリモコンのスイッチを押し、二体のアルエをこの世のどこかに瞬間移動させた。巨大な二つの体が消え、空中に一瞬だけ浮いた零久慈零が前方体を落とす。俯せになった体。あれ程の質量の攻撃を二つ同時に喰らったのだ。ただで済む訳がない。スイッチをもう一度押し、穴の向こう、零久慈零のすぐ側という位置に自分を瞬間移動させる。零久慈零の体は、見るも無惨な状態になっていた。

 だが。

 体の裂け目から、血が一切出ていなかった。


「アハハハハ! どうだい弟。私の緻密な作戦、アンタはどう思う!」


 後方から下品な声が聞こえた。先刻までは間違いなく居なかった、女の姿が穴の向こうに見える。杖をつく兄も、突然現れた女の姿に驚嘆を隠せないでいた。

 赤い服装に身を包み、赤い長髪をなびかせながら赤い扇子を広げる姉が、いつの間にか王宮の一室に現れたのだ。

 否、それだけでは終わらない。姉の左横にアルエが一体。姉の右横にアルエが一体。そして最後に、アルエとほぼ同じ大きさの箱のような機械が零久慈零の体を抱き抱える俺の後ろに出現した。

「瞬間移動なんてねぇ、別にあんただけが出来る訳じゃない。零久慈零が、改造人間なんて有り得ないっ!」

 大げさに笑い、俺の方へ閉じた扇子を向ける姉。いや、向けているのはどうやら零久慈零の方らしい。「どうだい。わからなかっただろう!」と楽しそうに姉は言うと、再び笑い、発言した。

「零久慈零は私が動かしたんだよ。零久慈零は俗称さ。本当は、ナンバー零零九二って名前なんだよソーラちゃーん! この意味、わかるかなっ!」

 零久慈零。

 零九二零。

 零零九二。

 ナンバー、零零九二。「零久慈零は改造人間なんかじゃない。この世に一体だけの、人型アルエなのさ!」

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