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直路

「呼ばれてないけど飛び出てジャジャジャジャーン、みたいな感じかな! ひっさしぶりだねソラちゃーん!」

 扇子をもう一度拡げ、扇ぎながら俺にそう言う姉の姿は五年経っていても全く変わっていなかった。赤いブーツを履いているせいもあり、兄と同じくらいの身長を誇る彼女。姉はオーホホホとでも言うかのような勢いで笑う。アルエを操り、零久慈零の正体を俺にばらして。

 この世で唯一の人型アルエ。

 それが、零久慈零だと。

「何をふざけたことを言っているんだ、奈美江」俺より先に姉の名前を呼んだ上で憤慨したのは兄だった。「零久慈ちゃんが傷ついているじゃないか。早くそのみっともない大声を出すのをやめて、零久慈ちゃんの治療に取り掛かろう」

「うっさいねー能登兄ちゃん。基本的にあんたは今回部外者なんだって」

 姉がけだるそうにこう言うと、姉の右側に居たアルエが「ギャイー」と音を発した。「おいおい」と言いながら困惑する兄。だが姉は、その言葉を無視して扇子を兄の方へ向けた。「黙ってなさいな」

 アルエが巨大な足を動かし、兄の目の前までたどり着く。「本気なのかい、奈グエ」と兄は言った。その先の言葉を言うことが出来なかった。目の部分から出すレーザーを兄に射出し兄を視認したアルエが、大きく強固な右手で兄の体を握る体勢に入ったからだ。

「兄!」

 零久慈零を抱き抱えながら叫んだが返事がない。流石の姉も相手は実の兄だ。気絶程度に抑えてくれる筈。ただの屍にはまだなっていないと信じたい。

「さーて。これで邪魔者はいなくなったわ。あとは、ナンバー零零九二とソラちゃんだけ」兄を一瞥し、ハンッと鼻で冷たく笑う姉。扇子を閉じると、俺の零久慈零の方向に向ける。

「姉よ……お前、一体何が目的だ!」

「姉にお前呼ばわりは感心しないわね。お姉ちゃんとか言ってみなさいな。家族のコミュニケーションも大事でしょ?」

「うるさい黙れ! いいから答えろ!」

「あー怖い怖い。年頃の男って気性が荒いから嫌だわー。なあに、惚れた女に何をしたって感じのことをソラちゃんは聞きたいの?」

「全て話せ」惚れた惚れてない云々は姉の勘違いなので置いておくとして。「過去の行動、企み、目的。その全てを話せ」

「最初から最後まで命令口調なのねーソラちゃんは」

 はーやれやれお姉ちゃん嫌になっちゃうわと横を向いてため息をつくと、「ま、いいわ。潮時でしょうそろそろ」と俺の目の前に瞬間移動した姉は言った。リモコンのスイッチを押すというような簡単な動作の前フリさえもない姉の瞬間移動に後退りしそうになるも、見上げて睨み、姉と対峙する。

「うーん。何から話そうかしらねえ。あ、じゃあとりあえずナンバー零零九二について喋りましょうかね」

「零久慈零だ。間違えるな」

「ウフフ」俺の指摘に笑う姉。「キャー、妬けるわ。あんた完全にホの字みたいだね。やっぱりナンバー零零九二をあんたに接触させたのは正しかったみたいだわ」

「は? 何を言う。ホの字とは何だ。何やら古い時代の匂いがするぞ」

「古いのはあんたのその口調でしょうが。なあに? 私がオバサンだって言いたいのあなた」眼光を鋭くした姉が言いながら扇子を俺の方へと向けると、兄を握っていない方のアルエが腹部のエンブレムを開いた。見えるのは白い空洞。それは以前、俺と零久慈零を窮地にたたせたビームの発射口だった。その発射口が、俺の方を向いている。「生意気言ってんじゃないわよ。あんたの命なんて軽く消せるのよ、私は。対等だなんて思うんじゃないわよ。あんたが下で、私が上。弟と姉の関係なんだから当然よね」

「…………」

「黙ってんじゃないわよ。わかったら土下座でもしろ弟」

 土下座の代わりに頭を下げて「すまない」と言うと、姉は「まあいいわ。頭に血ぃ昇っちゃった。ごめんねソラちゃん」と笑う。やはり兄と同じように五年前と変わらない。普段は優しいのだが、自分がけなされたとわかると例え家族でも容赦しないその物言い。キレた後の美しい笑顔が、俺の心を更に奮え上がらせたことは言うまでもない。いつの間にか冷や汗が額から流れている。まずい。姉は恐らく、何かをするつもりでいる。その為なら兄を握り潰すし、場合によっては俺をも潰すかもしれない。

 自分の都合で散々利用した零久慈零を用済みと見なした途端、二体のアルエで計画的に攻撃したように。「まあ、とにかくナンバー零零九二のことから話そうかね。くつろぎながら聞いてなさいな」

「……了解した」

「うん。いい返事。その調子で聞いてなさい」

 俺の返事に満足気に頷くと、閉じた扇子の先で顎をさしながら話し始める。「ある日ね。私がいつもの通り自分の知性を磨くために図書館で分厚い本を探っていたら、無茶苦茶昔の書物を見つけたのよ。確か捨てられる予定のコーナーに置いてあったわ。で、埃被ってて文字通りカスみたいだったんだけど興味持っちゃってね。茶色い表紙をめくって読んでたら、この街に地下道っていうのがあるって書いてあったのよ」

 誰にも遭遇せずに壁の向こうへ行けると零久慈零が提案し、実際に入ってみたらアルエが二体居たあの地下道のことであるのは間違いない。

「地図も書いてあってね。試しに能登兄ちゃんに黙ってアルエを一体拝借して掘ったら、本当にあったのよ、地下道が。何に使っていたのかはわからないけれど、何かに使っていたのには間違いない。蛍光灯とかあったしね。そう思った私がアルエと一緒に 地下道の奥まで行ったら」

「ちょっと待て」話の腰を折るが、それが仕方のないことになるくらい聞き捨てならない言葉があった。「地下道の奥まで行くとはどういう意味だ。あの地下道は普通に行ったら前には進めないのではないのか?」

 俺が指摘をすると、初めは話を遮られて少し不機嫌になっていた姉も、「あ、そういえばナンバー零零九二にはそう言ってあったっけ」と言って話を切り替える。「違う違う。そんなファンタジックな地下道がある訳ないじゃないの。あんなの私達が瞬間移動させて細工してたに決まってるじゃん」

「瞬間移動で細工、とはどういうことだ」

「わかんない子ねー。いちいち逐一説明しなきゃいけないなんて残念過ぎるわ。えっとね、ナンバー零零九二から聞いてるとは思うけど、あんたが造った瞬間移動装置とは違って私達が持つ瞬間移動装置には制限があるって知ってる?」

 私達という表現が気にはなったが、言われて俺は零久慈零の発言を思い返す。確か、零久慈零は一度瞬間移動したら二日間は瞬間移動出来なくなる瞬間移動装置によってこの街に侵入したと言っていた。「ああ。知っている。だから零久慈零は瞬間移動装置などという便利な道具を持ち運んでも意味がなかったのだ」

「そうそう」満足したように頷き、俺を見つめる姉。「でもね。その制限付きの瞬間移動装置が何百個もあったらどうなるかしら」

「な、何百だと!」

 盛大に俺が驚くと、「いやあ、いいリアクショーン」と満面の笑みを姉が浮かべたが、そのようなことを言われてリアクションしないなど有り得ない。いくら制限付きと言ったとしても、それが何十も何百もあったらその制限などあってないようなものだ。俺が造ったなけなしの瞬間移動装置など軽く越える性能を誇るだろう。

 これで進めない筈の地下道でアルエの足元を抜けることが出来たことの合点がいった。つまり、進めない地下道は姉が陰で作り出したのだ。「瞬間移動でしか進めないっていう地下道の設定。どうだった? ジョースター家のヤレヤレだぜってよく言うカッコイイいかした時間停止男みたいになれた私、カッコイイ!」

「…………」わーいわーいとはしゃぐ姉を白い目で見ながら沈黙していると、その視線に気が付いた姉が俺を見てため息をつき、「あー白けた。もっといいリアクションしなさいよリアクションを」とぶつぶつ愚痴をたれていたが、気にせずに姉の話が再開するのを待つ。

「はあ。まあいいわ。もういいわ。えー、どこまで喋ったっけ」

「地下道に潜入したところまでだ」

「あーはいはいわかりましたよ早くいえばいいんでしょ早く」兄と同じような台詞をはきながら、話を続ける姉。「地下道の奥に行ったらね、そこには何があったと思う? 金、銀、財宝、他人の名誉なんかよりもよっぽど面白いものよ。あれね。あれを見た時、私はあの過去話を思い出したわ」

「長考は無用だ。何があったのか喋ってくれ」

「姉ちゃんを急かすなっての。そんなにナンバー零零九二を治療したいの? はーやだやだ近頃の若いもんは。目先の異性しか視界に入ってないんだわ。だから早く現れろ私の前にもカッコイイ異性!」

「そんな願望はどうでもいい。早く教えてくれ」

「はあ。わかったわよわかりました。言わせてもらいます」旦那の相手に疲れたような口調になった姉が、表情も疲れたようにして言った。「そこにはね。箱に入っていた人型アルエが居たのよ」

「な」姉が言ったのを聞き、俺は抱き抱えた零久慈零を見た後、後ろを振り向いた。聞き捨てならないぞ今のは。「つまり、ゼロちゃんはこの大きな箱の中に居たのか!」

「そうよそう。簡単にいうとその人型アルエの家ってところなのかもね。一回触っただけで簡単に開いたわ、その箱。拍子抜けよ拍子抜け」

 ――でもね。

 姉は、そこまで言うと、俺と零久慈零、それから更に向こうの箱を見ながら不敵に笑い始めた。その笑いは今まで見たことがない程黒く、そして恐ろしかった。何だ。姉は、一体何を考えているのだ。無意識にゴクリと息を飲む。抱き抱えている零久慈零は依然目を閉じたまま。そんな中、一人だけ笑う姉は、俺に向けてこう言った。「父さんが言ってた『星の鳥』の話。あんた、覚えてる?」

「星の鳥?」

 オウムのように何も考えずにその言葉を繰り返す。星の鳥。確か、あの、俺の、俺の――関係者が塔から落ちる時に言っていた単語だ。そういえばアルエの腹にも白い鳥が翼を拡げたようなエンブレムがあった。何だ。星の鳥とは何だ。

 いや。そもそも、アルエとは何だ。

 人型アルエという、零久慈零とはなんなのだ。

「ナンバー零零九二の服を脱がしてみなさいな」姉が目を閉じる零久慈零を指して言う。いやいやいやいや何を言う。いきなり何を言うか姉は。あたふたとテンパりこの場を取り繕うとしていると、姉が白けた目で「恥ずかしいなら私がやってあげるわよこの純情刑事童貞派」と辛辣な言葉をはき、グイッと零久慈零の服を上にあげた。

「うおっ。やめろ姉よ、何をしている」

「目を隠すならちゃんと指の間閉じなさいよ」ヤレヤレだぜと言い、俺の恥的行動を静かに否定する姉。畜生。そんなことは断じてしていないぞ。いや、だが何故だか零久慈零の腹部が見えてしまった。姉も上手い具合に胸の部分を見えないようにしているので安心して見ることにする。

 零久慈零の腹部には。

 星の鳥のエンブレムがあった。「う、そだ……」

「嘘じゃないわい。これが真実なんだって。認めなさいよ、ソラちゃん」服から手を離し、エンブレムを服が隠すのを見届けると、姉は言った。「この子が最初のアルエ。父さんは、この子を元にしてアルエを造り出したのよ」

 最初に私が見つけた時はこの子全裸だったのよ。真っ白でスベスベな肌だったわー。その時私はピーンと来たの、そうかこの子が父さんの言ってた星の鳥なんだってね。箱の中でマネキンみたいに立ってて。全裸の無言少女とご対面なんて、兄ちゃんがあの本見つけてなくて本当によかったわ。箱の中にナンバー0092って書いてあったから、もしかしたら捜せば他にも人型アルエは存在するのかもね。だってわかる? もし父さんの言ってた過去話が本当なら、ナンバー零零九二は宇宙人かもしれないのよ。じゃあアルエって何? 父さんは、人間でもないロボットでもない、全く新しい友達を見つけ出したんじゃないのかしら。だから箱に閉じ込めて、地下に閉じ込めた。来たるべき時にもう一度開けて、自分だけじゃない大量の同族と一緒に彼女を歓迎する。寂しがり屋だったのよ、父さんは。

 姉が何かを言っている。先刻も似たようなことがあった。だが、俺の耳には、何も、届かない。零久慈零が実はアルエだと。そんなの信じられる筈がない。

 ――元々、零久慈零が人間ではないとはわかっていた。

 ロボット君達と五年も一緒に居た俺だ。当然、機械と人間の区別は一目で簡単につく。だから、零久慈零が人間ではないとわかった瞬間、俺は零久慈零に興味を持ったのだ。

「ん?」聞いた当初は頭がついていかず、しかし改めて考え直したら気付くこともある。俺は無言で零久慈零の全身を眺めると、一度、確信の意味を込めて頷いた。零久慈零が人間ではないとわかっていた。そして、「俺はゼロちゃんのことをロボットだと思っていた」

 姉に向けて、言ってやる。


「今もそれは、変わらない」


 零久慈零はロボットだ。改造人間? 人型アルエ? 星の鳥? 何を訳のわからないことを言っているのだ、姉よ。「ゼロちゃんは。零久慈零は、どこからどう見てもロボットだ」

 零久慈零を見て最初に抱いたあの好奇心を、俺は忘れていない。人の形をしたロボットなど初めてみた、友達になったらどれだけ楽しいだろう。そう思ったあの気持ちを、俺は思い返す。まあ、あの二度目に抱いた好奇心の方は未だによくわからないのだが。

 姉は俺の言葉を黙って聞いていた。珍しく、口を閉ざしてじっと俺を見ている。狐目と呼ぶに相応しいその目は、俺をじっと見ているのだ。何を考えているかわからない。俺の発言を聞いて、何を思っているのかわからない。何か言ってくれ、姉よ。そう言おうとした俺を見越したのか、「ウフフ」と微かに笑う姉。

「姉ちゃんの目的、教えてあげようか」静かにそう言う姉が、何故だか怖くなかった。微笑を浮かべていたからかもしれない。

「頼む」

 俺がこう言うと姉は膝を折り、零久慈零の髪を撫でながら俺を見る。「姉ちゃんね。あんたのトラウマを克服させてやりたかったのよ。人間不信。父さんも同じトラウマを持っていたんだと思う。だから父さんは、私達が殺す前に、零久慈ちゃんを隠している場所を遺言に遺したの」

 零久慈ちゃんね。父さんが初めて会った、若い頃のお母さんに似てるらしいのよ。

 姉は一言一言、俺に諭させるかのようにゆっくりと言う。零久慈零をナンバー零零九二と言っていた姉の手が、優しく零久慈零の髪を撫で続ける。零久慈零を眺める姉の顔は、可愛い妹を見るかのような目だった。

 その姿を見て俺は唖然とするしかなかった。誰だこれは。こんな姉の姿、俺は知らない。

「街の皆にも協力して貰ったのよ。最初はソラちゃんを連れ戻すことじゃなくて、暴走した零久慈ちゃんを討伐することが目的ってことで能登兄ちゃんに命令してもらったけどやっぱりばれちゃってね。しょうがないからぜーんぶはいて、ぜーんぶ協力して貰っちゃった。瞬間移動装置を合図に合わせて起動させたりアルエを操作させたり。能登兄ちゃんもピンピンだわ」

 扇子の先を後方にやり、兄を見るようけしかける姉。見るとそこにはアルエが居なかった。「さっきのチチチラが僕的には残念だったかな。もっとこう、グイッとやれば良」とくだらないことを言う兄の姿が見える。屍どころか、傷一つ付いていない兄。なんだこれは。なんなんだこの、茶番劇は。

「五年よ、五年」泣きそうになる目を必死に堪えているような顔をしながら、姉が俺を見る。「能登兄ちゃんとも話し合った。街の皆とも話し合った。ねえ、ソラちゃん。もう一度、私達兄弟一緒に暮らす気はない?」

「…………」

 俺は何も言えなかった。何も言わずに周りを見渡し、過去を回想する。教育係りに散々こけにされた過去。運動がろくに出来ず、いつも周りの奴らに冷やかされていた過去。父に、罵倒された過去。

 『出来ない』

「俺は、何も、出来ない。出来ないのだ。だから、ここに住んではいけない」

 だって。

 ――父を殺したのは、俺だから。

 罵倒され涙した俺が、他の街に連絡をしてオムライスを父に食べさせたのだから。

 何も『出来ない』筈の俺が、無我夢中になったら『出来た』最初の行動が、親殺しだったんだ。

「父を殺した俺は、『不出来な人間』の街に一生住むことに決めたのだ。ロボット君達が居れば悲しくない、ロボット君達なら俺を罵倒しない、だから『不出来な人間』の街にロボット君達以外住むことを許さなかった、『不出来な人間』とは俺のことだ! 俺だけが、『不出来な人間』なのだ!」


「そんなこと言わないでください!」


 今の今まで抱き抱えていた零久慈零が突然目を開け、起き上がり、俺の胸倉を再び掴み始めた。「お、お前、アルエからの攻撃を喰らったのに何で」

「演技に決まってるでしょう。零一三七妹と零零九四兄上が手加減してくれましたよ、ちゃんと。街の皆さんに操作されながら」

「はあ?」零一三……何だって? 「お前は、アルエとは、結局何なのだ」

「私達アルエは、前代王の遺言で動いている、いわば操り人形みたいなものです」胸倉を掴みながら俺を睨む零久慈零の目が怖い。「人間でもなければロボットでもない、宇宙人でも超人でもない新たな可能性。前代王は、私達をそういう存在として造りあげてくださったんです。この街に落ちたと言われる、星の鳥をモチーフに」

「な、ならば! その話が本当ならば! 何故お前はアルエを破壊していた!」

「私達アルエの目的は、前代王の目的と同じです。つまり、この街の平和と、貴方達前代王の子孫の幸せ。その為には、私達の命など軽いものです――そう言って、兄上や姉上達はこの世を去りました」

 すいませんでした。

 零久慈零はずっとそう言っていた。俺と一緒に居る時も。他のアルエを倒す時も。あれは飾りの謝罪などではなく、本心からの謝罪だったのか――。

「で、では、この箱は。この箱は何なのだ!」そう言いながら俺は大きな箱に指を指した。そうだ、これだけ何の説明もされていない。一体全体この箱は何の役割を持っている。

「触ってみてください」「触ってみなよ」「触ってみればわかるさ」

 俺を見守る三つの存在が、微笑みながらそう言ってくる。何だ、何なのだ。この暖かい雰囲気は何なのだ。まだ状況についていけてない重い頭を無理矢理起こし、苦悩に満ちた表情をしながらも渋々立ち上がる。ゆっくりとした足取りで箱に向かい、箱に触る。

「能登。奈美恵。そして、空。これを聞いているということは、私の椅子の後ろにあった書物を元に地下道にたどり着いたということだろう」

 箱から。

 父の遺言が、大音量で流れ始めた。

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