蟻のヒーロー
あれはたしか小学三年生の頃でしょうか。
当時の僕は虫が好きでした。
一番印象に残ってるのは……蜘蛛ですかね。
蜘蛛の巣なんて僕らにはちょいと服に着く程度で、なんの障害にもなりませんから。
単純に捕まえやすかったんです。
そうして捕まえたら、足を一本、一本、殺さないように捥ぐんですよ。
成功すると面白いんですよ。
もう絶対に助からないのに、お腹の方を動かして必死に生きようとするんです。
『ああ、可哀そうだなぁ。かわいいなぁ。面白いなぁ』って楽しんでいると、当たり前ですが、それはあんまり長く生きることは出来ないんですよ。
そうしてくると今度は不安が沸き上がってくるんです。
『見つかったら怒られる』って。
やめこそしませんでしたが、悪いことをしたっていう自覚……罪悪感はちゃんとあったんでしょうね。
どうしたと思います?
そこら辺で蟻の巣を探して、巣の前に置いたんですよ。
動かなくなった蜘蛛に一匹の蟻が気付くと、二匹三匹と徐々に数を増やして、蟻の塊になったころでしょうか。
不安な気持ちなんてのはなくなってたんです。
むしろ良いことをしたと思ったんですよ。
僕は蜘蛛に蟻が狩られるのを守って、普段はありつけないような大物をくれてやった。
僕は蟻のヒーローだってね。
何が言いたいって……うーん、そうですね。
初めて人を殺したときに今まで思い出すこともなかったこの記憶を思い出したんですよね。
あなたは蜘蛛です。
他の蟻に害なす、蟻にとっての害虫。
だから、何をしてもいいんです。
それだけ。
目が覚めるともっと可愛い姿になってますから。
楽しみにしておいてくださいね。
……そもそも蜘蛛は蟻を襲わないだろって?
それもそうですね。
少しドキッとしてもらえたなら嬉しいです。




