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第十話 疑心暗鬼

 気絶した盗賊の頭を持っていた縄で縛り上げ、仁太は茂吉の妻達が眠る小屋へと戻りながら考えていた。


 あぁ、あまりに盗賊たちがバカだから頭以外の奴等を殺ってしまったよ。本当は救出したうえで周辺の村から人を募り叩こうと思ってたんだけどなぁ…、これで計画はパアだわ。

 前から親父に言われてた事だけど、面倒臭くなって後先考えなくなるこの性格嫌になるなよ…。


 今度は自分自身のバカさ加減に嫌悪し軽く凹む。しかしこのまま凹んでいても自分がやってしまった事が変わる事も無く、後ろ向きになってしまった考えを払うために頭を振る。




 小屋の前に着き中から人が動く気配が伝わってきた。


 先ほど使った眠り玉は一時的に相手を無力化するための物なので、効果は三十分程度で切れてしまう。この気配は茂吉さんの奥さんや護衛の男達の気配でほぼ間違い無いであろう。

 仁太は直ぐに小屋に入ることはせず、壁に取り付き隙間から中の様子を覗き込む。もしかすると、盗賊が生き残っており中に居る可能性もあるからだ。


 仁太は自らに危害が無く面倒臭いと思った事は短絡的な思考に行くことが多いが、危害が及ぶ可能性が高い時にはどれだけ回りくどいと感じたとしても、しっかりと確認する用心深さも持っている。これは長い忍術の修行の最中に師匠である父親から嫌というほど体に覚えこまされた結果であり、実際の性格は面倒臭がりであることは間違いないだろう。


 まあ、確認して入った方が面倒なことにあたらないので、実際の正確に合致しているとも言えるのだが…。


 周りを見回すと先程眠り薬で眠らされた男達が、意識のはっきりしない頭を抱えながら身を起こしており。どうやら盗賊達の生き残りはこの屋敷には居ないものと見て良さそうだ。




 取り敢えずの安全を確認したので小屋の中へ入ることにする。警戒は解かず、右手には荒事にすぐ対応できるように暗器を隠して持っておくことは忘れない。


 小屋の戸を開いたところで、中の男達がこちらに気が付き得物を持ち上げ威嚇しようとするが、足元がおぼつかない為にまったく構えになっていなかった。


「貴様、さっきはなにをしやがった」


 一人が睨みつけながら強がっているが、仁太からして見れば負け犬の遠吠えぐらいにしか感じない。


「再度言いますが、私はあなた方の敵ではありませんよ。茂吉さんから頼まれて助けに来たのですが、騒がれて外の奴らに気が付かれそうだったので眠り玉で眠ってもらっただけです。あなた方のが眠っている間に盗賊達を潰して来たんですよ」


「それが信じられるか。お前が奴らの仲間という可能性もあるしな」


 う~ん、参ったな。この状況だと倒した敵を連れて来ても信じて貰えそうにないや。茂吉さんを読んだ方が話が早く終わさりそうだし、呼びに行こうかね…。


「なら、ここに茂吉さんが来て証明して貰いますね。この小屋の中でしばらく待っていてください」


 そう言い残すと、仁太は小屋の戸をつっかえ棒で開かない様にして茂吉を呼びに出掛けていった。





 あらかじめ決めてあった合流場所で、茂吉達と出会った仁太は顔を俯かせ沈んだ声で話始めた。



「茂吉さんすみません、失敗しました。」


「まさか私の妻はもう…」


「服部殿、それはどういう事ですかな?」



 沈んだ声で勘違いをした茂吉は地面に倒れこみ悲嘆に暮れる、勘三郎は、冷静に仁太の発言の意味を読み取ろうとしている。

 茂吉の様子を見た仁他は、自分の言葉の使い方が間違っていた事に気が付き慌てた。



「へっ、茂吉さん違いますよ。

 失敗したと言うのは作戦通りに出来なかったという意味であって、あなたの奥さんは無事です」


 茂吉は地面に崩れ落ち悲嘆に暮れていたが、仁太の言葉を聞くと詰め寄ってきた。


「それは本当ですか?

 私を慰めようとして嘘を付いているのではないですか、本当の事を教えてください」


「本当ですよ、私が嘘を付いてどうするのですか。

 それで、あなたの奥さんを守っている忠実な部下達が私のことを信じてくれないので、茂吉さんを呼びに来たのですよ」


 仁太が再度落ち着いた調子で‘嘘では無い,と言ったのを聞いた茂吉はやっと落ち着きを取り戻した。


 しかし、あんな調子でよく山賊の頭をやっていたなぁ。それとも奥さんの事をそれだけ愛しているから、あれだけ取り乱したのだろうか…。

 まあ、取り敢えず百聞は一見に如かずと言うし小屋に連れて行きますか。


「では奥さんの元へ行きましょうか、そこで早く私が仲間であることを説明して貰わないと先の方針も話し合えないので」


 すっかり元気になった茂吉は、嬉々とした表情で仁太の腕を引っ張る。


「わかりました。では早く行きましょう。

 今すぐ行きましょう!」


 凄い勢い引っ張ってくる茂吉にタジタジになるが、勘三郎は微笑みながら見るだけでまったく助けてくれそうにない。

 諦めてされるがまま引かれていく仁太は、ある歌の歌詞にある子牛の心境だった。


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