第九話 盗賊壊滅
仁太は周囲に敵が居ないことを確認した後、慎重に小屋へと近づいた。
先ほど安全を確認したが、念のために鉄製のクナイを手に持っておく事も忘れない。
忍者というものはどんな時でも最悪を考えて行動することが求められる、仁太は小さな時からの修行で刷り込みを受けたので石橋は叩いて安全を確認しさらに安全策を採る程の慎重さを身に着けた。
しかし慎重なだけでは忍者はやっていけないので程好い位には大胆さもある。
小屋の影に隠れて周りの気配を探るがこちらの変化を悟られては居ないようで、辺りは暗闇と虫の声がする他は静かなものだ。
些か拍子抜けをした感が否めないが、盗賊相手に厳重な警備を求めるのも酷な事だろう。それどころか大した抵抗もなく人質を救出する事が出来るのであれば文句も出ようはずが無い。
小屋の木戸の外側にあるつっかえ棒を外し小屋の中の様子を伺うが、外に居た男達以外の見張りは居ないようだ。
小屋の中を見渡すと中には、若い女性一人とそれを護るようにして男が五人座っていた。
「こんばんわ~、皆さんを助けに来ました」
緊張感のない仁太の声が小屋の中に響き渡る。その声に驚き、男達はこちらを向き身構えるがその構えは衰弱している為に弱弱しいものだ。
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ、私はあなた方を助けに来たのですから」
「そんな言葉を信じられるか」
「昔の仲間に私は居なかったと思いますが?」
「前は居なかったかも知れないが、新しく入ったやつが居てもおかしくない。それにお前がここに入って来る時に戦っている気配が無かった、それはお前が奴等の仲間だという証拠だろ」
あちゃ~、敵側に無用な警戒を与えないように入り口の男達を倒したのは失敗だったかな。でも助けた後の事も考えると警戒を煽る訳にも行かなかったし、どうやって理解をしてもらおうか……。
しかし、茂吉の元に早く奥さんを戻してやりたいし仕方ないな。
「今は話している時間が惜しい、出来ればこんな事はしたくないんだけど…」
「俺達と戦うと言うのか、やはり助けに来たというのは嘘だったという事だな」
男達は戦う構えを見せ仁太に向き直って来る。それを見た仁太は肩を竦めると、気乗りしないながらも懐から火縄の付いた丸い物体を取り出して縄に火を付けて床に転がすと小屋の外へ出て行った。
男達は何かわからず、その場で丸い物体を床に置き仁太が小屋の外へ出て行くのを怪訝そうに見ているだけで動かない。
仁太が小屋の外へ出て、戸につっかえ棒をして開かないようにした。暫くすると小屋の隙間から煙が漏れ出し小屋の中から戸を叩き何かを叫んでいるのが聞こえたが、煙が出てこなくなる頃には静かになった。
さあて、眠り玉が効いて中の方々はぐっすりと眠ってくれたかな。
はぁ、眠っている人を連れて行くのは手が大変なんだけど…。
そう心の中で呟きながらつっかえ棒を取り小屋の中へと足を踏み入れる。入って直ぐの所で男が一人眠り込んでいたため、それを跨ぎ中を見回すと崩れ落ちるように残りの男女が眠り込んでいた。
ようし、この人達を外に出すために勘三郎さんと茂吉さんを呼びますか。でもさっきの叫び声を聞いて盗賊たちに気が付かれた可能性もあるしちょっと周りを警戒してから行きますかね~。
小屋の屋根に登ると周囲の気配を探ってみたが、微かに盗賊達の騒ぎ声が聞こえるだけで誰も近寄ってくる気配が無い。
本当にここ盗賊達はバカだよ、こんなに騒いでるのに異変に気が付いてないんだからな。
このまま騒いでいるところに出向いていって壊滅させてしまおうか…。本当は強い相手が居る事を前提にいろんな策を考えていたけど、これだけバカなら策を弄するだけ無駄だしやってしまおう。
そう考えると屋根から下り宴会の声が聞こえる場所まで音も無く近づいていった。
宴会場が見渡せる木の上に登り様子を見てみると、盗賊達はお酒も入り気分良さそうに騒いだり中には屋外であるにも関わらず地べたに横になり眠っているものさえ居る。
流石にここまで来ると本当にこいつらは盗賊なのか疑わしいところだ。
仁太は忍者刀を抜くと自分の近くに居る盗賊に近づき背後から男の首を刎ねる、すると首から夥しいまでの値が噴出する。
騒いでいた盗賊たちも流石に異変に気が付いたようで、武器を持ち首から上が無くなった仲間の周囲を警戒し始めた。しかし仁太は首を刎ねると同時に闇に紛れ宴会の逆側に移動していたので、まったく見当はずれな場所を警戒している状態だ。
ざわざわとした中、盗賊の頭と思われる男が怒りを露わにし叫んだ。
「おい、誰がやりやがった。 出てきやがれ!!」
ふむ、出て来いと言われて出てくると思っているのかね~。もし思っているとしたら、こいつら救い様も無いバカだよ…。
あくまで俺は忍者だからね、姿を顕さずに頭だけ残して屠ってやるとしましょうか。
そう決めると仁太は毒を塗った棒手裏剣を四本取り出し、盗賊四人に狙いを定めて投げる。
盗賊達は警戒して一塊になっているので、いとも簡単に的となり倒れていく。その動作を繰り返し頭を残しあっという間に盗賊を倒した仁太はやっと木から下りる。
盗賊の頭は自分の周囲でもの言わぬ骸となっている仲間を見て戦意を喪失した様で、その場に立ち酷く怯えた様子で仁太を見て言った。
「おっ、お前がやったのか…」
「あぁ、そうだ。おれがお前の仲間を一人で屠ってやったのさ、お前だって盗みに入った場所でやっただろう、自分がやられる覚悟はもうとっくに出来てたんじゃないのか?」
「やっ、やめてくれ。殺さないでくれ、なんでもやる」
「お前だけはすぐには殺さないさ、役に立ってもらわないといけないからな。
さて、静かに眠っていて貰おうか」
そう言うと、仁太は盗賊の頭の鳩尾に刀の柄を叩き込む。
頭はいとも簡単に意識を失い、その場で糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちるのであった。