表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

克服

 ――数日後、頭の外傷の方は大したことなかったようで、俺は退院できた。だが「元の生活に戻る」という表現は使えないような生活を送ることになる。今までやっていた運動を減らし、食事内容も改善する必要があったのだ。


 元々運動嫌いで食べることの方が圧倒的に好きだったのだから、ダイエットを止めるだなんて簡単だと思ってた。だが筋トレを減らせば、筋肉があっという間にしぼんでいく気がした。走りにいかない日があれば、体に脂肪が付いた気がした。動かないで食事をとろうものなら、もっとブクブク太ってしまいそうで、食べないようにする日もあった。だが絶食すればその反動で過食してしまう。そして過食すればカロリーを消費しなければと過剰に運動したり、今度こそ食べないようにと食事を抜いたりした。「ダイエットは明日から」なんてよく言うセリフがあるが、今の俺にとっては「ダイエット止めるの明日から」になっていた。しかも端から見れば過食しているわけだから、ダイエットしているようにも見られないだろう。そんな、自分と他人の認識のズレも辛かった。


 退院した後も、通院は続いた。医者に現状を聞いてもらうだけだが、よく言葉に詰まる俺にとって、時間をとって話を聞いてもらえるのはありがたかった。


「過食を止めたいって思ってるのに、我慢出来ないんです。どうすれば我慢出来ますか……」


「そうですね。過食したくなるのは、どんな時ですか?」


「……」


 医者にそう問われ、色々浮かんでくるようで、うまくまとまってくれなかった。


「例えば、食事を抜いた時とか、運動を頑張った後とか」


「あ、はい……」


「であれば、過食を我慢するより先に、ご飯を食べたり、運動をしすぎないことを頑張るのはどうですか? 強烈な食欲の原因には、体のエネルギー不足があるのです。もちろん、すぐに出来るようになるものでもありませんし、上手く出来ないことがあっても『まあいいか』と考えて、自分を責めないようにしてくださいね」


 そのアドバイスを受け、俺は絶食しないようにしたり、運動量の調整を行った。しかしそれでも過食欲求が顔を出すことは度々あった。そしてこの二の腕や太ももの筋肉が脂肪に変わっていくのを目の当たりにして、「まあいいか」なんて微塵も思えなかった。今まで努力してきたことが無駄になったように感じられた。例えるなら、一生懸命貯金した金を、何の目的もなくただドブに捨てているようなものだった。


 次の受診日では、この時の感情を吐き出すように話してしまった。


「先生の言う通りにしたのに全然過食が収まりませんが。ただただブクブクブクブク体が膨れ上がっているだけなんですけど。この通院も意味あるんですか?」


 感情任せに話す言葉は、何故かスムーズに出る。怒鳴り声にも近い声だったのに、医者は驚く様子もなく、冷静に聞いていた。


「過食には、エネルギー不足の他に、ストレス発散目的のものもあるのですよ」


「それは俺も分かってます」


「だから、食べること以外のストレス解消方法があるといいかもしれません。昔好きだったこととかを思い出すのも良いです」


 そう言われて、「そんなものない」と叫びたくなったが、その時はグッとこらえて「わかりました」と答えた。




 その日の晩、何となくSNSを眺めていると、小学生の頃好きだったアニメが、リメイク映画として上映されるという情報が流れてきた。俺は胸が高鳴るのと同時に、ざわめきも感じた。そのアニメは、ジャンル的には少年向けなのだが女性人気も高く、それゆえこのアニメが好きだと言ったら女みたいで気持ち悪いと言われたのだ。そもそも俺の地元ではアニメオタクというだけで蔑まされていた。そんな嫌な記憶も蘇るのである。大学生になってダイエットに打ち込んだのも、アニメから離れて脱キモオタを目指したからだ。


「でもな……」


 キモオタと言われたくなくてアニメから離れて、デブと言われたくなくてダイエットを始めて、その結果が今のこの有様なら、何をやっているのだと思わされた。俺はその映画の上映予定日を、スマホのカレンダー機能に登録した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ