のめり込む
そんな、運動と食事制限を始めて数か月が経ったある日のこと。気温もだいぶ暑くなり、周りも俺も半袖の服を着ていた。この日は楓は受講していない講義があり、俺は1人で席に着いていた。
「公助君さ、何かシュッとしたよね」
すると突然、女子から声をかけられた。
「確かに。変わったよな」
その隣にいた男子すらも、そう言う。
「え、あ……」
元々人と話すのは得意ではないことに加え、突然話しかけらたことで上手く反応できず、どもってしまう。気持ち悪い奴だと思われたかもしれない、そんな不安もあった。だが2人が俺から離れ席に着くと、不安より浮き立つ感情の方が大きくなっていった。
そのフワフワした感情は講義中も続き、講義が終わればすぐさまトイレに駆け込んだ。そして手洗い場にある鏡で自分の顔を確認してみる。確かに、今まで頬にたっぷり付いていた肉は減り、細くなった気がする。さらに全身鏡も見てみると、ずっとコンプレックスだった腹が少し引っ込んでいたのだ。心なしか、腕や足には脂肪だけでなく筋肉も付いた気がする。もう、嬉しくて仕方がなかった。
――学校が終わると、俺は家電量販店に向かった。大学とアパートまでの道のりにはなく、何ならかなり遠回りになるのだが、そんなことはどうだって良かった。俺は体脂肪率も量れる体重計を買い、アパートに帰れば荷物を放り投げてすぐに体重を量った。するとどうだ、大学入学時の健康診断で出た体重と比べ、10キロ以上落ちていたのだ。
これまでの苦労が報われた。周りの反応も変わり、数字としても出ている以上、これは俺の自己満足じゃない、客観的事実として痩せていると証明されたわけだ。こんなに嬉しかったこと、今までなかった。
これからもっと体重を落とそうと思えた。いや、それだけじゃリバウンドの可能性が高まるから、筋肉も付けていこう。さすがにシックスパックとはいかなくても、腹筋も付いたらいい。そんな妄想ばかりが膨らんでいた――。
体重計を買った日から、俺のダイエットはより本格的になった。筋トレについてもより詳しく調べ、種類も頻度もどんどん増やしていった。ジョギングの距離も、始めは1キロで音を上げていたのが2キロ、5キロと伸ばせている。
自炊の方も、ケチャップやめんつゆの糖質が気になって、味付けは塩コショウのみにした。食材にも気を遣い、タンパク質補給には皮を剥いだ鶏むね肉やノンオイルのツナ缶といった脂質の少なそうなものを選び、野菜も糖質や脂質を調べてから買うようになった。
出来る運動量が増えれば増えるほど、かつて運動全般が出来ず馬鹿にされていた自分から変われたような気がした。脂肪が筋肉に変わっていけば、周りの目が変わっていくのが分かった。あんなに重くてだるかった体もスムーズに動く。食事制限に関しては、「我慢できる自分」が誇らしく思えた。
大学入学当時の肥満体系と比べ、今の俺には筋肉も付いてきている。体重や体脂肪率が減っていくのが快感で、一日に何回も体重計に乗っていた。
そして夏休み期間は実家には帰らずひたすらダイエットに勤しんでいた。もう、地元にも、過去にも戻りたくはなかった。




