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第50話「死神と約束」

 ある夜。

 クロハが真剣な顔で俺に話しかけてきた。


「誠一、話がある」

「……どうした」

「死神を辞めたい」

「……え?」


---


 俺は驚いた。


「辞める? 死神を?」

「ああ」

「なぜだ」

「……」


 クロハは少し考えて、答えた。


「お前との時間を、もっと大切にしたい」

「……」

「今は監視任務として、ここにいる」

「ああ」

「でも、任務ではなく、自分の意思でいたい」

「……」

「死神でなくなれば、純粋にお前と一緒にいられる」


---


「でも、辞められるのか」

「分からない。前例がない」

「そうか……」

「でも、申請はできるかもしれない」

「シロガネ課長に?」

「ああ」


---


 俺は考えた。


 クロハが死神でなくなったら、どうなるのだろう。

 魂を見る力はなくなるのか。

 長寿ではなくなるのか。

 人間と同じように老いていくのか。


「リスクもあるんじゃないか」

「あるかもしれない」

「どんなリスクだ」

「分からない。調べないと」

「……」

「でも、調べる価値はある」

「……」

「お前とずっと一緒にいるために」


---


「……じゃあ、お前が死神界に就職すればいい」


 クロハが突然、変なことを言い出した。


「は?」

「お前が死神になれば、一緒にいられる」

「いや、無理だろ」

「なぜだ」

「人間だし」

「人間から死神になった例は、ないわけではない」

「マジで?」

「例外的だが、ある」


 俺は驚いた。


「でも、できてもやりたくないぞ」

「なぜだ」

「魂を刈り取る仕事だろ? 心臓に悪い」

「意外と楽しいぞ」

「お前だけだ」

「やりがいがある」

「俺には無理だ」


---


「今は転職も珍しくないと聞いた」

「え?」

「人間界では、転職サイトに登録するのが普通らしい」

「まあ、そうだけど」

「死神界にも転職サイトがある」

「あるの!?」

「ある。『死ンカー』というサイトだ」

「名前がひどい」

「好評だぞ」

「誰に」

「死神たちに」


 俺は笑ってしまった。


「スカウトも来る」

「死神にスカウトが?」

「ああ。『あなたの魂刈り取りスキルは素晴らしい。ぜひうちに』と」

「魂刈り取りスキルって何だよ」

「専門技術だ」

「怖えよ」

「ランクがある。私はSランクだ」

「ランクまであるのか」

「当然だ。死神界も競争社会だ」


---


「お前も登録すればいい」

「死ンカーに?」

「ああ。未経験者歓迎の求人もある」

「絶対嫌だ」

「なぜだ。給与も良いぞ」

「魂で払われるのか」

「当然だ」

「換金できないんだよ」

「死神界では最強の通貨だ」

「俺は人間界で生きてるんだよ」


 クロハは不満そうだった。


「じゃあ、副業は」

「副業で死神?」

「週末だけ魂を刈り取る」

「嫌だよ」

「人手不足だ」

「知らないよ」

「年末年始は特に忙しい」

「なんで」

「人間が多く死ぬ時期だからだ」

「怖すぎる」


---


「リモートワークもできる」

「死神にリモートワーク?」

「遠隔で魂を刈り取る」

「怖すぎる」

「福利厚生も充実している」

「どんな福利厚生だよ」

「魂健康診断、魂保険、育魂休暇」

「全部魂じゃないか」

「死神界だからな」


 俺は笑いが止まらなかった。


「本気で言ってるのか」

「半分本気だ」

「半分か」

「残り半分は、お前を困らせたかった」

「成功してるよ」


 クロハは少し笑った。


---


 ……クロハは本気なのか冗談なのか分からない。

 たぶん、半分本気なんだろう。

 でも、俺のことを考えてくれてるのは分かる。


「無理しなくていい」

「え?」

「俺は、今のクロハでいいと思ってる」

「……」

「死神でも、なんでも」

「……」

「クロハがクロハなら、それでいい」

「……」


 クロハは俺を見つめた。

 紫色の瞳が、揺れている。


「……本当か」

「本当だ」

「死神でも、嫌じゃないのか」

「嫌なわけないだろ」

「……」

「クロハは俺の大切な人だ。それは変わらない」

「……」

「むしろ、死神のクロハが好きなんだ」

「……」

「魂を見てくれるクロハが、好きなんだ」


 クロハの目が、少し潤んでいた。


---


 記念日を祝うことにした。


 クロハとの出会いから、もう三年。

 シャンパンを開けて乾杯しよう。


「乾杯」

「乾杯」


 グラスを掲げる。


「クロハ、グラスは当てないぞ」

「なぜだ」

「マナーの問題。高級なグラスは、ぶつけると割れるから」

「なるほど」

「目線を合わせて、少し持ち上げるだけでいい」

「……こうか」

「そうそう」


 俺たちは目を合わせて、グラスを掲げた。


---


 クロハは少し考えて、言った。


「……じゃあ、今は辞めない」

「いいのか?」

「でも、考えは変わらない」

「……」

「いつか、自分の意思で決めたい」

「……分かった」

「その時まで、待っていてくれ」

「待つよ。いつまでも」

「十年でも?」

「十年でも」

「百年でも?」

「俺が生きてる限り」

「……約束だ」

「約束だ」


---


「誠一」

「なんだ」

「約束しよう」

「何を」

「これからも、ずっと一緒にいること」

「……約束する」

「死神でも、そうでなくても」

「どんなお前でも、一緒にいる」

「……」


 クロハは俺に抱きついてきた。

 小さな体が、俺の胸に収まっている。

 温かい。柔らかい。大切な存在。


「ありがとう」

「こちらこそ」

「これからも、よろしく」

「ずっとよろしく」

「死ンカーには、登録しなくていい」

「最初から登録しないよ」

「……そうか」


 俺たちは笑った。

 笑い合える関係が、何よりも幸せだ。


---


「お前の魂、今、輝いている」

「クロハと話したからか」

「未来を約束したからだ」

「……そうだな」

「私の魂も、輝いている気がする」

「じゃあ、二人で輝いてるな」

「ああ。二人で輝いている」

「これからも、ずっと一緒に輝こう」

「……もちろんだ」


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