第48話「死神と料理教室」
「誠一」
「なんだ」
「料理教室に行きたい」
「料理教室?」
「ああ。もっと美味しいものを作りたい」
「……どうした急に」
「お前のために、もっと上手くなりたい」
「……」
「だから、プロに習いたい」
クロハは真剣な顔だった。
「分かった。探してみよう」
「頼む」
---
駅前のカルチャーセンターに来た。
今日の料理教室は「初心者向けイタリアン」。
パスタとサラダを作るらしい。
「二人で参加するんですね。仲良しですね」
受付の人がにこやかに言った。
クロハは少し照れていた。
---
教室には他の参加者もいた。
主婦の方が多い。
カップルは俺たちだけだった。
……と、クロハが入ってきた瞬間、周りがざわついた。
「あの子、すごく綺麗……」
「モデルさん?」
「髪が銀色……」
「彼氏さん羨ましい……」
小声で囁き合っている。
クロハは気づいていないようだ。
---
「では、始めましょう」
先生が説明を始めた。
クロハは真剣にメモを取っている。
……先生もクロハをチラチラ見ている。
美しすぎて目立つのだ。
---
「まず、パスタを茹でます」
「茹でる」
「塩を入れて、アルデンテに」
「アルデンテ……」
クロハは初めて聞く言葉をメモしている。
「少し固めに茹でることです」
「なるほど」
「お湯に対して1%の塩を入れましょう」
「1%……計算する」
クロハは真剣に計算していた。
---
「ソースはオリーブオイルとニンニクで」
「ニンニクは薄くスライスするんですよ」
「薄く……」
クロハは慎重にニンニクをスライスしていた。
繊細な指先が、包丁を丁寧に扱っている。
……また周りから視線を感じる。
「あの子、料理してる姿も綺麗……」
「手が白くて細い……」
俺は苦笑いした。
クロハはどこにいても目立つのだ。
---
実習が始まった。
俺とクロハは同じテーブルで作業する。
「私がパスタを茹でる」
「俺はソースを作るよ」
「分かった」
二人で協力して作っていく。
---
俺はオリーブオイルを温め、ニンニクを炒めていく。
香ばしい香りが立ち上る。
「いい匂いだ」
「ニンニクの香りな」
「食欲をそそる」
「だろ?」
次に鷹の爪を加える。
ピリッとした辛みが加わる。
「辛いのか」
「少しだけな。アクセントだ」
「なるほど」
---
クロハはパスタに集中している。
「アルデンテ……アルデンテ……」
「そんなに緊張しなくていいよ」
「失敗したくない」
「大丈夫。俺がフォローする」
「……頼む」
クロハは時計を見ながら、正確に時間を測っていた。
茹で上がったパスタを一本取り出して、噛んでみる。
「……少し芯が残っている」
「それがアルデンテだよ」
「成功か」
「成功だ」
クロハは少しホッとした顔をした。
---
パスタをソースに絡める。
オリーブオイルがパスタをコーティングする。
「混ぜすぎないように」
「分かった」
「パスタの茹で汁を少し加えて」
「茹で汁?」
「乳化させるんだ」
「乳化……」
クロハは真剣にメモしていた。
---
完成。
皿の上には、美味しそうなペペロンチーノ。
ニンニクの香りが食欲をそそる。
オリーブオイルがつやつやと光っている。
「できた」
「いい感じだな」
「先生、どうですか」
先生が俺たちの皿を見た。
「上手にできましたね! パスタの茹で加減もちょうどいいです」
「ありがとうございます」
「お二人、息が合ってますね。羨ましいです」
クロハは少し照れていた。
でも、得意げでもあった。
---
試食タイム。
「美味しい」
「本当だ。お店みたいだ」
「ニンニクの風味がいい」
「鷹の爪のピリッとした辛さも」
「家でも作れるな」
「作ろう」
「毎週作る」
「毎週はきついな」
「毎月?」
「それくらいなら」
---
帰り道。
「誠一」
「なんだ」
「料理教室、良かった」
「だろ?」
「また行きたい」
「いいよ。色々なコースがあるから」
「次は何を習おう」
「和食とか?」
「和食……いいな」
「出汁の取り方とか」
「出汁……興味がある」
---
「……お前より上手くなる」
「え?」
「料理。私がお前より上手くなる」
「宣言したな」
「宣言した」
「頑張れ」
「頑張る」
「楽しみにしてる」
「期待しろ」
---
「お前の魂、輝いている」
「料理のおかげか」
「私と協力したからだ」
「そうかもな」
「これからも協力しよう」
「もちろん」
「いつかお前を唸らせる料理を作る」
「楽しみにしてる」




