第47話「死神と写真」
「写真を撮ろう」
ある休日、俺はそう提案した。
「写真?」
「二人の写真だ。あまり撮ってないだろ」
「……そうかもしれない」
「記念に残そう」
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クロハは少し不安そうな顔をしていた。
「どうした?」
「……私は、写真に写れるのか」
「え?」
「死神だ。もしかしたら、写らないかもしれない」
「……」
確かに、考えたことがなかった。
死神は写真に写るのだろうか。
「でも、クロハは顕現権を得て、人間に見えるようになっただろ」
「ああ」
「だったら、写真にも写るんじゃないか。たぶん」
「たぶん、か」
「試してみないと分からないけど、たぶん大丈夫だと思う」
「……」
「人に見えるなら、カメラにも見えるはずだ」
「……なるほど」
クロハは少し納得したようだった。
「試してみよう」
「……分かった」
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俺はスマホを構えた。
クロハが隣に立つ。
銀髪が風に揺れている。
「撮るぞ」
「ああ」
カシャ。
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画面を確認した。
……写ってる。
ちゃんと、クロハが写ってる。
「写ったぞ」
「本当か」
「見てみろ」
クロハは画面を覗き込んだ。
自分の姿を確認して、目を丸くした。
「……写ってる」
「だろ? 顕現権のおかげだな」
「ちゃんと写ってる」
「よかったな」
「……」
クロハは少し嬉しそうだった。
「もっと撮ろう」
「いいよ」
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色々なポーズで写真を撮った。
並んで立っているやつ。
手を繋いでいるやつ。
クロハがピースをしているやつ。
「ピースとは何だ」
「記念撮影の時にやるポーズだよ」
「なぜやるのだ」
「……習慣かな」
「よく分からないが、やってみる」
クロハはぎこちなくピースをした。
……可愛い。
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撮った写真を見返していると、クロハが画面を覗き込んできた。
「この機能は何だ」
「フィルターだよ。写真を加工できる」
「加工?」
「ほら、こうすると可愛くなる」
俺は犬の耳が付くフィルターをかけてみた。
クロハの頭に、ふわふわの犬耳が乗っている。
「……何だこれは」
「可愛いだろ」
「私は犬ではない」
「分かってるよ」
「なぜ犬の耳が生えるのだ」
「可愛くするためだよ」
「……理解できない」
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次に、キラキラ光るフィルターをかけてみた。
「……なぜ光るのだ」
「綺麗に見えるだろ」
「私は元から光っていない」
「盛るんだよ」
「盛る?」
「実際より可愛く見せること」
「……」
クロハは困惑した顔をしていた。
「人間は変なことをするな」
「そうか?」
「現実と違うものを作り出して、何が楽しいのだ」
「楽しいんだよ」
「理解できない」
「まあ、死神には分からないかもな」
「……」
クロハは首を傾げていた。
「でも、お前が楽しいならいい」
「俺というより、みんなやってるよ」
「みんな変なことをしているのか」
「そういうことになるな」
「……人間界は不思議だ」
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「アルバムを作ろう」
「アルバム?」
「写真をまとめて、本にするんだ」
「……いいな」
「二人の思い出が残る」
「作りたい」
「フィルターなしの、素のクロハでな」
「当然だ。犬耳は不要だ」
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後日、アルバムを作った。
これまでの写真を選んで、順番に並べる。
カフェでの写真、海での写真、花見の写真。
色々な思い出が詰まっている。
「できた」
「見せてくれ」
クロハはアルバムをパラパラとめくった。
「……」
「どうだ」
「……いいな」
「だろ?」
「たくさんの思い出だ」
「これからもっと増やそう」
「ああ。増やしたい」
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「リビングに飾ろう」
「飾る?」
「一番いい写真をフレームに入れて」
「……これがいい」
クロハが選んだのは、二人で海を見ている写真だった。
夕日を背景に、手を繋いでいる姿。
「いい写真だな」
「ああ。一番好きだ」
「加工なしの、素の写真がいいな」
「当然だ。変な耳は付けるな」
「分かってるよ」
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「誠一」
「なんだ」
「写真は、時間を止めるのだな」
「え?」
「今の瞬間を、ずっと残せる」
「……そうだな」
「死神には、そういう概念がなかった」
「そうなのか」
「でも、今は分かる。大切なことだ」
「……」
「お前との時間を、全部残したい」
「……俺もだよ」
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「お前の魂、輝いている」
「写真のおかげか」
「思い出を共有したからだ」
「そうか」
「これからも、たくさん写真を撮ろう」
「ああ。撮ろう」
「ただし、変な加工はするな」
「分かったよ」




