第46話「死神とGW」
ゴールデンウィーク。
連休を利用して、旅行に行くことにした。
「海を見に行こう」
「海?」
「ああ。一緒に見たことないだろ」
「……ないな」
「じゃあ、行こう」
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電車を乗り継いで、海辺の街に着いた。
駅を出ると、潮の香りがした。
「……これが海の匂いか」
「そうだ」
「塩の匂いがする」
「海水は塩辛いからな」
「なるほど」
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海岸に来た。
青い海、白い砂浜、広い空。
波が寄せては返している。
「……すごいな」
「だろ?」
「大きい」
「海は大きいからな」
「……死神の世界にはない」
「そうなのか」
「こんなに広い水は見たことがない」
クロハは海を見つめていた。
紫色の瞳が、海の青を映している。
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「触ってみるか」
「触れるのか」
「波打ち際に行けば」
「……行く」
俺たちは靴を脱いで、砂浜を歩いた。
波打ち際まで来ると、冷たい水が足に触れた。
「……!」
「どうだ」
「冷たい」
「そうだな」
「でも、気持ちいい」
「だろ?」
クロハは少し笑った。
子供のように無邪気な笑顔だった。
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クロハは波打ち際で遊び始めた。
波が来ると逃げて、引いたら追いかける。
何度も繰り返している。
「逃げた」
「うん」
「追いかける」
「うん」
「また逃げた」
「……楽しそうだな」
「楽しい」
俺も一緒になって遊んだ。
二人で波と追いかけっこ。
まるで子供に戻ったみたいだ。
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水をかけ合った。
「……! 冷たい」
「ははは、ごめん」
「やり返す」
クロハが水をかけてきた。
思いっきり。
「うわっ! 服が濡れた!」
「お前が先に仕掛けた」
「確かに」
俺たちは笑いながら、海で遊んだ。
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貝殻を拾った。
「これは何だ」
「貝殻。貝の殻だよ」
「綺麗だ」
「持って帰るか?」
「持って帰る」
クロハは綺麗な貝殻を見つけるたびに、楽しそうに拾っていた。
気づいたら、ポケットがいっぱいになっていた。
「集めすぎ」
「綺麗なものがたくさんあった」
「まあ、いいけど」
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砂浜を歩いた。
二人の足跡が、砂に残っていく。
「誠一」
「なんだ」
「見ろ、足跡だ」
「ああ」
「二人分だ」
「そうだな」
「……並んでいる」
「一緒に歩いてるからな」
クロハは足跡を見つめていた。
「……いいな」
「何が」
「こうやって、一緒に足跡を残すのが」
「……そうだな」
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「誠一」
「なんだ」
「夏になったら、泳ぎたい」
「泳ぐのか」
「ああ。今日は少し触っただけだ。もっと入りたい」
「夏になったらな」
「水着はどうすればいいのだ」
「買いに行こう」
「一緒に選んでくれ」
「……選んでいいのか」
「ああ。お前に似合うと言われたい」
「……分かった」
クロハは嬉しそうに頷いた。
夏が楽しみだ。
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海の家で休憩した。
かき氷を食べながら、海を眺める。
「美味しい」
「かき氷はいいよな」
「夏バテの時を思い出す」
「また作ってやるよ」
「楽しみにしている」
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夕方になった。
海に夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光が、水面に反射して輝いている。
「綺麗だな」
「ああ。綺麗だ」
俺たちは並んで座って、夕日を眺めた。
手を繋いでいる。
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クロハが俺にもたれかかってきた。
「誠一」
「なんだ」
「今日は楽しかった」
「俺も楽しかった」
クロハの体が俺に密着している。
銀髪が俺の肩にかかる。
白い肌が、夕日で染まっている。
「……綺麗だな」
「何が」
「クロハが」
「……」
クロハは少し照れたように微笑んだ。
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「誠一」
「なんだ」
「キスしてもいいか」
「……いいよ」
俺はクロハの唇に軽くキスした。
潮の香りがする。
夕日に照らされた唇は、いつもより温かかった。
「……もっと」
「……ここで?」
「誰もいない」
確かに、周りには誰もいなかった。
夕日を見ながらのキス。
なんだかロマンチックだ。
俺たちは夕日が沈むまで、キスをしていた。
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「誠一」
「なんだ」
「海、良かった」
「また来ような」
「ああ。また来たい」
「夏にな」
「夏に泳ごう」
「約束だ」
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「お前の魂、今、すごく輝いている」
「海のおかげか」
「私と一緒だからだ」
「……そうだな」
「これからも、一緒に色々な場所に行こう」
「もちろん」
「約束だ」
「約束する」
夕日が海に沈んでいく。
俺たちは手を繋いだまま、その光景を見ていた。
最高のゴールデンウィークだった。
来年も、ここに来よう。そう思った。




