第45話「死神とホワイトデー」
3月14日。
ホワイトデー。
俺は仕事帰りに、デパートに寄った。
クロハへのお返しを買うためだ。
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何を買おうか迷った。
お菓子か、アクセサリーか、それとも……
色々見て回った結果、ネックレスを選んだ。
シンプルなデザインの、銀色のネックレス。
小さなハートがチャームになっている。
クロハの銀髪と白い肌に似合うと思った。
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帰宅後。
「クロハ、ちょっと来てくれ」
「何だ」
「バレンタインのお返しだ」
俺は箱を差し出した。
「開けてみろ」
クロハが箱を開けた。
中からネックレスが出てきた。
「……綺麗だ」
「気に入ったか?」
「ああ」
「付けてみるか?」
「……頼む」
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俺はクロハの後ろに回った。
銀髪をそっと持ち上げて、ネックレスを付ける。
白いうなじが見える。
その瞬間、クロハの美しさに、改めて息を飲んだ。
銀色の髪が、サラサラと指をすり抜ける。
絹のような手触り。
白い肌が、ネックレスの銀色と美しいコントラストを作っている。
うなじから首にかけてのラインは、細くて繊細だ。
「……」
ドキドキする。
こんなに綺麗な人と一緒にいるんだな、と改めて思う。
「できたぞ」
クロハは鏡を見た。
銀色のネックレスが、白い肌に映えている。
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俺はクロハの姿に見惚れていた。
銀色の髪が、優雅に流れている。
紫色の瞳が、鏡の中で輝いている。
白い肌は、まるで雪のように透き通っている。
銀と紫と白のコントラスト。
人間離れした美しさだ。
……いや、実際に人間じゃないんだけど。
「……似合っているか」
「すごく似合ってる」
「……そうか」
クロハは少し照れたように微笑んだ。
その笑顔がまた、美しい。
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「大切にする」
「そうしてくれ」
「毎日付ける」
「無理しなくていいよ」
「付けたいのだ」
「……そうか」
クロハがくるりとこちらを向いた。
「誠一」
「なんだ」
「ありがとう」
そう言って、クロハが俺に抱きついてきた。
「!」
予想外の行動に、体が硬直した。
クロハの体が俺に密着している。
柔らかい胸が俺の胸に押し付けられる。
銀髪が俺の顔にかかる。甘い香りがする。
「クロハ?」
「……嬉しいから」
「……」
「嬉しいと、こうしたくなる」
クロハは俺の首に腕を回してきた。
ぎゅっと抱きしめられる。
俺の心臓が、暴れ回っている。
「……お前の心臓、うるさい」
「そりゃそうだろ」
「私のせいか」
「お前のせいだ」
「……そうか」
クロハは嬉しそうに俺の胸に顔を埋めた。
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「誠一」
「なんだ」
「お前は、私を綺麗だと思うか」
「思うよ。すごく綺麗だ」
「どこが」
「全部」
「具体的に言え」
俺は少し考えた。
「髪が綺麗。銀色で、サラサラで」
「……」
「肌が白くて、透き通ってる」
「……」
「目が紫で、キラキラしてる」
「……」
「顔も可愛いし、スタイルもいいし」
「……」
「全部綺麗だ」
クロハは顔を上げて、俺を見つめた。
紫色の瞳が潤んでいる。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
クロハは再び俺に抱きついてきた。
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「誠一」
「なんだ」
「お返し、嬉しかった」
「よかった」
「お前が選んでくれたのが嬉しい」
「……」
「お前に綺麗だと言われるのが嬉しい」
「……」
「ありがとう」
「こちらこそ」
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「誠一」
「なんだ」
「お礼がしたい」
「お礼?」
「お返しのお礼だ」
「お返しのお礼って……」
クロハは真剣な顔で俺を見つめた。
「ホワイトデーにネックレスを貰った。嬉しかった」
「……」
「だから、お礼がしたい」
「別にいいよ。お礼なんて」
「したいのだ」
クロハは俺の手を取った。
「……いいか」
「何を」
「お礼を」
「……分かった」
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クロハは俺をソファに座らせた。
そして、俺の隣に座った。
「まず、抱きしめる」
「え?」
「お礼だ」
クロハが俺に抱きついてきた。
細い腕が俺の首に回る。
柔らかい体が俺に密着する。
「……っ」
銀髪が俺の顔にかかる。甘い香りがする。
柔らかい胸が俺の胸に押し付けられている。
「クロハ……」
「お礼だから」
「……」
「嫌か」
「嫌じゃないけど……」
「じゃあ、いい」
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「次に、キスをする」
「え?」
「お礼のお礼だ」
「お礼のお礼って何だよ」
「お返しのお礼のお礼だ」
「意味が分からない」
「いいから」
クロハの顔が近づいてきた。
紫色の瞳が、すぐ近くにある。
そして、唇が重なった。
柔らかくて、温かい。
クロハの唇は、いつもより優しい感じがした。
「……っ」
「……」
唇が離れて、また重なる。
今度は少し深く。
「……誠一」
「……」
「もっとしたい」
「……」
クロハが俺を押し倒すように、体を預けてきた。
細い体が俺の上に乗る。
「お、おい……」
「お礼だから」
「お礼って、これはお礼なのか?」
「お礼だ」
クロハの顔が、すぐ上にあった。
銀髪が俺の顔にかかる。
紫色の瞳が、潤んでいる。
「……誠一」
「なんだ」
「好きだ」
「……俺も好きだよ」
「……」
クロハの唇が、俺の唇に触れた。
今度は深いキス。
舌が触れ合う。
クロハの息が荒くなる。
「……っ」
「……」
クロハの手が、俺の胸に置かれた。
心臓の上。
「……お前の心臓、すごくうるさい」
「そりゃそうだろ」
「私のせいか」
「お前のせいだ」
「……嬉しい」
クロハは俺の胸に顔を埋めた。
銀髪が俺の顎をくすぐる。
「……誠一」
「なんだ」
「お礼、伝わったか」
「伝わった」
「よかった」
「……」
「また来年も、お返しを頼む」
「分かった」
「そしたら、またお礼をする」
「……それは楽しみだな」
「楽しみにしろ」
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俺たちはしばらく、そのまま抱き合っていた。
クロハの温もりが、心地よかった。
柔らかい体。甘い香り。
ずっとこうしていたいと思った。
「誠一」
「なんだ」
「幸せだ」
「……俺も」
「お前といると、幸せだ」
「……俺もだよ」
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「お前の魂、輝いている」
「お返しを渡したからか」
「私が喜んだからだ」
「……そうだな」
「お前は私が喜ぶと輝くのだな」
「たぶんな」
「……なら、もっと喜ばせてくれ」
「努力するよ」
俺たちは顔を見合わせて、笑った。
「来年も、ネックレスを買ってくれ」
「また同じものでいいのか」
「違うものがいい。揃えたい」
「分かった」
「再来年も」
「ずっと買い続けるよ」
「……約束だ」
「約束する」
来年も、再来年も、こうやってお返しを渡したいと思った。
そして、クロハの「お礼」を楽しみにしていようと思った。




