第43話「死神とお正月」
1月1日。
新年が明けた。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
クロハは少しぎこちなく、新年の挨拶を返した。
「上手くなったな」
「練習した」
「そうか」
---
「初詣に行こう」
「初詣?」
「神社にお参りに行くんだ」
「神社……」
クロハは少し不安そうな顔をした。
「死神が神社に行っていいのか」
「……どうだろう」
「罰が当たらないか」
「当たらないと思うけど」
「……不安だ」
「大丈夫だよ。行ってみよう」
---
近所の神社に来た。
参道には人が並んでいる。
初詣客で賑わっている。
「人が多いな」
「元旦だからな」
「みんな何をしに来ているのだ」
「一年の無事を祈るんだ」
「祈る……」
---
俺たちも列に並んで、お参りした。
賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。
「何を祈った?」
「……お前と一緒に過ごせますように、って」
「……」
クロハは少し照れたように視線を逸らした。
「お前は?」
「……秘密だ」
「教えてくれよ」
「教えたら叶わない」
「そういうものか」
「そうだ」
---
おみくじを引いた。
「これは何だ」
「おみくじ。運勢を占うんだ」
「占い……」
クロハはおみくじを開いた。
「……大吉」
「おお、いいな」
「大吉とは」
「一番いい運勢だよ」
「そうか」
クロハは少し嬉しそうだった。
「俺も引いてみよう」
俺がおみくじを開くと……
「中吉」
「私の勝ちだな」
「勝ち負けじゃないだろ」
「勝ちだ」
クロハは少し得意げだった。
---
参道の屋台を見て回った。
「これは何だ」
「りんご飴だよ」
真っ赤なりんご飴が並んでいる。
「食べてみるか?」
「食べたい」
俺はりんご飴を二つ買った。
「甘い」
「だろ?」
「カリカリしている」
「飴だからな」
「美味しい」
---
たこ焼きの屋台も覗いた。
「丸い」
「たこ焼きだ」
「これも食べたい」
熱々のたこ焼きを二人で分けて食べた。
「熱い」
「だから熱々って言っただろ」
「でも美味しい」
「だろ?」
クロハは満足そうに頷いた。
---
破魔矢を買った。
「これは何だ」
「魔除けの矢だよ」
「魔除け? 私も魔の一種ではないのか」
「死神は魔じゃないだろ」
「そうか」
「……多分」
「不安だな」
「大丈夫だよ」
クロハは少し不安そうに破魔矢を見つめていた。
---
帰宅後、お雑煮を作った。
「これは何だ」
「お雑煮。餅が入った汁ものだよ」
「餅……」
クロハは餅を箸で持ち上げた。
びよーんと伸びる。
「……これは何だ」
「餅だよ」
「なぜ伸びるのだ」
「そういうものなんだ」
「不思議だ」
クロハは餅を一口食べた。
「……美味しい」
「だろ?」
「もちもちしている」
「餅だからな」
「もう一個食べたい」
「食べすぎ注意だぞ」
---
おせち料理も食べた。
「これは何だ」
「黒豆。健康を願って食べる」
「願い事が多いな」
「これは伊達巻。知識を願う」
「これは?」
「数の子。子孫繁栄」
「……子供か」
「……まあ、そういう願いだな」
クロハは少し考え込んでいた。
---
午後、こたつに入って二人でのんびり過ごした。
テレビでは正月特番が流れている。
みかんを食べながら、たわいもない話をする。
「誠一」
「なんだ」
「こたつは良いものだな」
「だろ?」
「出たくなくなる」
「こたつむりだな」
「むり?」
「こたつから出ない人のことだよ」
「私はこたつむりか」
「今はな」
---
クロハが俺の隣にずりずりと寄ってきた。
「何だ」
「寒い」
「こたつ入ってるのに?」
「上半身が寒い」
クロハが俺にもたれかかってきた。
銀髪が俺の肩にかかる。
「……こうすると温かい」
「そうか」
「お前の体温が丁度いい」
「そりゃよかった」
---
クロハが俺の顔を覗き込んできた。
「誠一」
「なんだ」
「キスしたい」
「……いきなりだな」
「正月だから」
「正月だからキスするのか」
「新年の挨拶だ」
「……そうか」
俺はクロハの唇に軽くキスした。
「……これでいいか」
「足りない」
「え?」
「もっと」
クロハが俺の首に腕を回してきた。
そのまま、押し倒されるような形になる。
「お、おい」
「こたつの中だから温かい」
「それはそうだけど……」
クロハの唇が俺の唇に重なった。
今度は深く、長く。
「……っ」
「……」
こたつの温かさと、クロハの体温が混ざり合う。
柔らかい体が俺の上に乗っている。
「誠一」
「なんだ」
「正月は良いものだな」
「……そうだな」
---
「誠一」
「なんだ」
「お正月はいいものだな」
「そうだな」
「毎年やろう」
「もちろん」
「来年も、再来年も」
「ずっと一緒にな」
---
「お前の魂、輝いている」
「新年だからか」
「私と一緒だからだ」
「……そうかもな」
「今年も、魂を輝かせろ」
「頑張るよ」
「私も頑張る」
「何を頑張るんだ」
「お前を幸せにすることを」
「……ありがとう」




