第42話「死神とクリスマス」
12月25日。
クリスマスの日だ。
「誠一、今日はクリスマスだな」
「ああ」
「人間界では特別な日だと聞いた」
「そうだな。恋人と過ごす日だ」
「……恋人」
「俺たちのことだよ」
「……そうか」
クロハは少し照れたように頷いた。
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「私は、恋人らしいことをしてみたい」
「恋人らしいこと?」
「ああ。調べた。クリスマスには、恋人同士がすることがあるらしい」
「へえ、何を調べたんだ」
「まず、手を繋いで歩く」
「それは普段からやってるな」
「次に、イルミネーションを見る」
「今日行く予定だ」
「それから……キスをする」
「……」
「そして、一緒に夜を過ごす」
「……」
クロハは俺をじっと見つめた。
「全部やりたい」
「……分かった」
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夜、イルミネーションを見に行った。
駅前の広場には、巨大なクリスマスツリー。
色とりどりの光が、夜空に輝いている。
周りにはカップルがたくさんいた。
「綺麗だな」
「ああ。綺麗だ」
クロハは目を輝かせて、イルミネーションを見つめていた。
光が銀髪に反射して、キラキラと輝いている。
「死神の世界には、こういうものはないのか」
「ない。光を飾る習慣がない」
「そうか」
「人間は、なぜ光を飾るのだ」
「……綺麗だからじゃないか」
「それだけか」
「それだけでいいんじゃないか」
「……なるほど」
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俺たちは手を繋いで、イルミネーションの中を歩いた。
「誠一」
「なんだ」
「周りの恋人たちを見ろ」
「……」
確かに、周りのカップルは色々なことをしていた。
腕を組んでいる人。頬にキスしている人。抱き合っている人。
「私もやってみたい」
「え? ここで?」
「ああ」
クロハは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
密着する形になる。
「こうか」
「お、おう」
「あのカップルは頬にキスしていたな」
「お、おい、ちょっと……」
クロハは背伸びして、俺の頬にキスした。
「!」
「これでいいか」
「い、いや、良いけど、恥ずかしいから……」
「なぜだ。周りもやっている」
「いや、そうだけど……」
俺は顔が熱くなった。
周りの人がチラチラこっちを見ている気がする。
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帰宅後、ケーキを食べた。
買ってきたクリスマスケーキ。
いちごとクリームがたっぷり乗っている。
中には、チョコレートムースの層も。
「美味しい」
「だろ?」
「このスポンジ、ふわふわだ」
「クリスマスケーキは特別だからな」
「イチゴも甘い」
「旬だしな」
「クリスマスはいいものだな」
「そうだな」
「毎年やろう」
「もちろん」
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「プレゼント交換をしよう」
「プレゼント?」
「クリスマスは、恋人同士がプレゼントを交換するのだ」
「……」
俺は用意していたプレゼントを取り出した。
小さな箱だ。
「開けてみろ」
クロハが箱を開けた。
中には、ピアスが入っていた。
小さな銀色の、星の形のピアス。
「……綺麗だ」
「似合うと思った。クロハの銀髪に合うかなって」
「……ありがとう」
クロハは早速ピアスを付けてみた。
銀色の星が、耳元でキラキラと輝く。
「どうだ」
「すごく似合ってる。可愛い」
「……そうか」
クロハは少し照れたように微笑んだ。
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クロハもプレゼントを差し出した。
「私からもだ」
俺が開けると、腕時計が入っていた。
シルバーのシンプルなデザイン。でも、高級感がある。
「これ、高そうだな」
「三ヶ月かけて貯めた」
「三ヶ月!?」
「お前から貰った生活費を少しずつ貯めた」
「……」
「迷惑か」
「迷惑じゃない。すごく嬉しい」
俺は時計を付けてみた。
腕にぴったりフィットする。
「似合うか」
「似合ってる。格好いい」
「……よかった」
クロハは安堵したように息をついた。
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夜も更けて、俺たちはソファで並んで座っていた。
「誠一」
「なんだ」
「恋人らしいこと、全部やったか」
「……まだだな」
「何が残っている」
「キスと、一緒に夜を過ごすこと」
「……」
クロハが俺に寄りかかってきた。
銀髪が俺の肩にかかる。甘い香りがする。
「キスしよう」
「……いいよ」
俺はクロハの顔を両手で包んだ。
紫色の瞳が、俺を見つめている。
そして、唇を重ねた。
柔らかくて、温かい。
ケーキの甘さがかすかに残っている。
「……っ」
「……」
唇が離れて、また重なる。
今度は少し深く。舌が触れ合う。
「……誠一」
「……」
「もっと」
クロハが俺の首に腕を回した。
体が密着する。柔らかい胸が俺の胸に押し付けられる。
「……っ」
「お前の心臓、うるさい」
「そりゃそうだろ」
「私のもうるさい」
「……」
俺たちはしばらく、抱き合いながらキスを続けた。
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「一緒に夜を過ごす、というのは」
「ん?」
「こうやって一緒にいることか」
「……まあ、そうだな」
「他に何かあるのか」
「……い、いや、今日はこれでいいんじゃないか」
「そうか」
クロハは俺の腕を抱きしめて、目を閉じた。
「今日は楽しかった」
「俺もだよ」
「来年もやろう」
「もちろん」
「再来年も」
「ずっとやろう」
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「サンタクロースは本当にいるのか」
「え?」
「人間界では、サンタがプレゼントを配ると聞いた」
「……いるかもしれないな」
「本当か」
「夢があっていいじゃないか」
「……そうか」
クロハは少し考え込んでいた。
「死神がサンタになれないか」
「え?」
「子供たちにプレゼントを配る死神」
「それは……ちょっと怖いかもしれない」
「そうか」
「でも、俺にはプレゼント配ってくれたよ」
「……そうだな」
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「お前の魂、今、すごく輝いている」
「クリスマスのおかげか」
「私と一緒だからだ」
「……そうだな」
「メリークリスマス、誠一」
「メリークリスマス、クロハ」
俺たちは二人で、温かいクリスマスの夜を過ごした。
来年も、再来年も、ずっとこうしていたいと思った。




