第36話「死神とカラオケ」
「カラオケとは何だ」
街を歩いていて、クロハがカラオケ店の看板を見て聞いてきた。
「歌を歌う場所だよ」
「歌?」
「マイクを使って、音楽に合わせて歌うんだ」
「……興味がある」
---
カラオケ店に入った。
個室に通されて、機械の使い方を教える。
「この画面で曲を選ぶ」
「たくさんある」
「何万曲もあるからな」
「何を選べばいい」
「好きな曲を選べばいいよ」
「好きな曲……」
クロハは少し考えて、ある曲を選んだ。
「……童謡だな」
「知っている曲がこれしかない」
「まあ、いいか」
---
クロハの歌が始まった。
『チューリップ』
「さいた さいた……」
クロハの声が部屋に響く。
「……」
俺は聞き入っていた。
クロハの歌声は、透き通っていた。
無表情で歌っているのに、なぜか心に響く。
「……」
曲が終わった。
「どうだった」
「……上手い」
「本当か」
「本当だ。声が綺麗だ」
「……そうか」
クロハは少し照れたようだった。
---
「……クロハ」
「何だ」
「なんで童謡なんて知ってるんだ」
俺は前から気になっていたことを聞いた。
「……」
クロハは少し黙った。
それから、静かに話し始めた。
「昔、小さい子どもの魂を刈りにいったことがある」
「……」
「疫病が流行った時代があった。たくさんの子どもが死んだ」
「……」
「その時、子どもたちが歌っていた」
「……」
「チューリップ、しゃぼん玉、赤とんぼ……」
クロハの声が、少し震えていた。
「子どもたちは、死ぬのが怖くて、歌を歌っていた」
「……」
「私は、その魂を回収した。何十人も、何百人も」
クロハは俯いた。
「その時の歌が……ずっと、頭に残っている」
「……」
俺は言葉を失った。
……と、気づいた。
クロハの目から、涙が流れていた。
「クロハ……」
「……?」
クロハは自分の頬に触れた。
濡れた指を見て、目を丸くした。
「……なぜだ」
「え?」
「なぜ、涙が出ている」
「……」
「私は悲しいのか。分からない」
「……」
「なぜ泣いているのだ、私は」
クロハは困惑した顔をしていた。
自分の感情が分からないらしい。
「……クロハ」
「何だ」
「人の気持ちが分かってきたんじゃないか」
「……」
「子どもたちの辛さが、今になって分かるようになったんじゃないか」
「……いや」
クロハは首を振った。
「全然分からない。人間は不思議だ」
「……」
「なぜ死ぬのが怖いのか。なぜ歌を歌うのか。なぜ涙が出るのか」
「……」
「何も分からない」
でも、クロハはまだ泣いていた。
分からないと言いながら、涙を流している。
俺はクロハの手を取った。
「クロハ」
「何だ」
「お前も、辛い思いをしてきたんだな」
「……辛い?」
「三千年も、たくさんの魂を見送ってきたんだろ」
「……ああ」
「それは、辛いことだと思う」
「……」
クロハは何も答えなかった。
「……なあ、クロハ」
「何だ」
「俺と一緒にいることで、もっと辛くなったりしないか」
「……」
「俺もいつか死ぬ。その時、お前はまた辛い思いをするんじゃないか」
「……」
「心配なんだ」
クロハは俺を見つめた。
紫色の瞳が、涙で潤んでいる。
「……分からない」
「……」
「でも、お前といる今は、幸せだ」
「……」
「だから、いい」
クロハは俺の手をきゅっと握り返した。
「未来のことは分からない。でも、今が幸せなら、それでいい」
「……」
「お前が、そう教えてくれた」
俺は何も言えなかった。
ただ、クロハの手を握り返すことしかできなかった。
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俺も歌った。
適当にJ-POPを選んで歌う。
……普通の出来だった。
「誠一」
「なんだ」
「普通だな」
「辛辣だな」
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何曲か歌った後、クロハが採点機能を発見した。
「これは何だ」
「採点機能だよ。歌の上手さを点数で出してくれる」
「……やってみたい」
クロハは再び『チューリップ』を選んだ。
歌い終わって……
採点結果:95点
「おお」
「高いのか」
「かなり高いよ」
「そうか」
「俺なんて78点だったのに」
「私の勝ちだな」
「また負けた」
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クロハは採点機能にハマった。
「次はこれを歌う」
「知らない曲じゃないか」
「画面に歌詞が出る。問題ない」
クロハは初見の曲を歌い始めた。
……なぜか上手い。
採点結果:91点
「すごいな」
「音程を合わせるだけだ」
「それが難しいんだよ」
「そうか」
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「デュエットをしよう」
「え?」
「二人で歌う曲がある」
「まあ、いいけど……」
クロハが選んだのは、有名なデュエット曲だった。
隣に座って、マイクを持つ。
曲が始まった。
俺のパート、クロハのパート、そしてサビは一緒に。
「……」
なんだか恥ずかしい。
でも、楽しい。
曲が終わった。
採点結果:87点
「まあまあだな」
「俺のせいで下がったな」
「そうだな」
「ひどい」
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「誠一」
「なんだ」
「カラオケ、楽しい」
「そうか」
「また来よう」
「いいよ」
「次はもっと高得点を出す」
「負けず嫌いだな」
「当然だ」
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帰り道。
「誠一」
「なんだ」
「お前の魂、すごく輝いている」
「カラオケのおかげか」
「デュエットのおかげだ」
「そうか」
「一緒に歌うと、魂が共鳴する」
「ロマンチックな言い方だな」
「事実だ」
クロハは俺の手を握った。
「また一緒に歌おう」
「ああ、歌おう」
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