第35話「死神とボウリング」
「ボウリングとは何だ」
テレビでボウリング大会を見ながら、クロハが聞いてきた。
「ボールを転がして、ピンを倒すスポーツだよ」
「なぜピンを倒す」
「……スポーツだから」
「非効率だ」
「遊びだよ」
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「やってみたい」
翌週、クロハがそう言い出した。
「ボウリングか」
「ああ」
「じゃあ、行ってみるか」
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ボウリング場に来た。
ピカピカのレーン、カラフルなボール、ピンが並んでいる。
週末なので家族連れや若者で賑わっている。
「人が多いな」
「週末だからな」
「……緊張する」
「大丈夫だよ。誰でも最初は初心者だ」
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靴を借りて、レーンに立った。
「まず、ボールを選ぶ」
「この青いのがいい」
「軽いやつにしろよ。最初は」
「分かった」
クロハは軽めのボールを選んだ。
「で、これを転がす」
「転がす」
「ピンを狙って」
「分かった」
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クロハの第一投。
ボールを構えて、レーンに向かう。
そして、投げた。
ボールは……
ゴロゴロと転がって……
ガターに落ちた。
「……」
「惜しかったな」
「落ちた」
「ガターだ。最初はよくある」
「……もう一度」
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第二投。
今度は慎重に狙って……
投げた。
ボールは真っ直ぐ転がって……
一本だけ倒した。
「一本倒れた」
「おお、良いじゃないか」
「一本だけだ」
「最初はそんなもんだよ」
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数フレーム後。
クロハは少しずつ上達していた。
「コツが分かってきた」
「そうか」
「ピンの真ん中を狙うのだ」
「そうそう」
「力を入れすぎない」
「うん」
「……見ろ」
クロハが投げた。
ボールは真っ直ぐ転がって……
ストライク。
「おお!」
「倒れた。全部」
「ストライクだ!」
「ストライク……」
クロハは少し得意げな顔をした。
「誠一」
「なんだ」
「これは、魂を扱うのと似ている」
「……は?」
「丸いものを転がして、遠くの黒いものに送り込む」
「……」
「魂も丸い。ピンも黒い。同じだ」
「同じじゃないよ!」
「同じだ。だから得意だ」
俺は思わず後ずさりした。
なんか怖い。
「やめてくれ、その例え」
「なぜだ。分かりやすいだろう」
「全然分かりやすくない」
「そうか」
クロハは不思議そうな顔をした。
やっぱり死神と人間は感覚が違う。
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その後、クロハは急激に上達した。
ストライク。
スペア。
ストライク。
また、ストライク。
もはや手のつけようがない。
「……」
「クロハ、強いな」
「コツが分かった」
「死神の動体視力か何かか?」
「たぶん。ピンの動きが見える。魂の動きを追うのと同じだ」
「また魂の話か」
「便利な比較対象だ」
「やめてくれ。俺の魂も見えてるんだろ?」
「ああ。今、怯えている」
「当たり前だ!」
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最終スコア。
俺:127点
クロハ:189点
「……負けた」
「勝った」
「初心者に負けた」
「初心者ではない。死神だ」
「反則だろ」
クロハは満面の笑みだった。
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「誠一」
「なんだ」
「ボウリング、楽しい」
「そうか」
「また来よう」
「……俺、また負けるのか」
「努力しろ」
「ひどい」
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「……でも、お前の魂、輝いているぞ」
「負けたのに?」
「負けても輝いている」
「なぜだ」
「楽しかったからだろう」
「……まあ、楽しかったけど」
「だから輝いている」
クロハは俺の手を握った。
「次は勝て」
「頑張るよ」




