第27話「死神と記念日・後編」
デザートを待っている間、クロハが口を開いた。
「誠一」
「なんだ」
「二年間、ありがとう」
「……」
「お前と一緒にいて、色々なことを経験した」
「ああ」
「花見も、花火も、紅葉も、雪も。全部、お前と一緒だった」
「……」
「楽しかった」
クロハの紫色の瞳が、キャンドルの光を映して輝いている。
「これからも、よろしく」
「こちらこそ」
俺はクロハの手を取った。
テーブル越しに、二人の手が繋がる。
「クロハ」
「何だ」
「俺も、感謝してる」
「……」
「クロハがいなかったら、俺は死んでた」
「……」
「クロハといるから、毎日が楽しい」
「……」
「これからも、一緒にいてくれ」
クロハは少し目を丸くして、それから――小さく微笑んだ。
「当然だ。私はお前の魂を回収するまで、離れない」
「また養殖の話か」
「栽培だ」
「どっちでもいいよ」
俺たちは顔を見合わせて、笑った。
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帰り道。
夜空には星が輝いている。
二人で並んで歩く。
「今日は楽しかった」
「ああ」
「来年も、再来年も、記念日を祝おう」
「そうだな」
「毎年、二周年、三周年、四周年……」
「いずれ数えきれなくなるな」
「それでいい。数えきれないほど一緒にいよう」
俺はクロハの手を握った。
小さくて温かい手。
「約束だ」
「ああ。約束だ」
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帰宅後。
クロハは俺がプレゼントしたバラを、花瓶に活けていた。
赤いバラが、リビングに彩りを添えている。
「誠一」
「なんだ」
「お前の魂、今、すごく輝いている」
「……また、それか」
「今までで一番、輝いている」
「そうか」
「記念日のおかげか」
「……多分、そうだな」
今日は素直に認めよう。
記念日を過ごせて、幸せだから。
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クロハがソファに座った。
俺も隣に座る。
静かな夜。
窓の外には、月が輝いている。
「誠一」
「なんだ」
「……こっちに来い」
クロハが俺の腕を引っ張った。
俺は引き寄せられて、クロハの肩に手が当たる。
「お、おい」
「近くにいたい」
「……」
クロハは俺に寄りかかってきた。
銀髪が俺の肩に触れる。甘い香りが漂ってくる。
「……今日、楽しかった」
「ああ、俺も」
「料理も美味しかった。マフラーも喜んでくれた」
「マフラー、すごく嬉しかったよ」
「本当か」
「ああ。クロハが俺のために作ってくれたんだから」
クロハは俺を見上げた。
紫色の瞳が、月明かりを映して輝いている。
「……誠一」
「なんだ」
「……好きだ」
クロハが、真っ直ぐに言った。
無表情だけど、耳が赤い。
「……俺も、好きだよ」
「知っている」
「じゃあ、なんで言ったんだよ」
「言いたかったから」
クロハの顔が近づいてくる。
紫色の瞳。長い睫毛。薄い唇。
「……誠一」
「……」
「キスしてもいいか」
「……いいよ」
唇が、触れ合った。
柔らかくて、温かい。
シャンパンの香りがかすかに残っている。
長い、長いキス。
体をもっと近づける。
クロハの細い腰に手を回す。
ワンピース越しに、体温が伝わってくる。
「……っ」
「……」
唇が離れた。
お互いに、息が乱れている。
「……誠一」
「なんだ」
「もう一回」
「……貪欲だな」
「悪いか」
「悪くない」
また、唇が重なった。
今度は、もっと深く。
舌が触れ合う。
クロハの体が震えている。
俺は思わずクロハを引き寄せた。
華奢な体が、俺の腕の中に収まる。
細い腰、柔らかい胸の感触。
「……っ、誠一」
「ごめん、力入れすぎた?」
「……いい。もっと抱きしめて」
クロハが俺にしがみついてきた。
細い腕が、俺の背中に回る。
俺もクロハを強く抱きしめた。
「……」
「……」
しばらく、そのままでいた。
静かな夜。月明かり。二人だけの時間。
「……誠一」
「なんだ」
「幸せだ」
「……俺も」
「来年も、こうしていたい」
「ああ。来年も、再来年も」
「……ずっと」
「ずっと」
クロハは俺の胸に顔を埋めた。
銀髪がくすぐったい。
「……誠一の心臓、うるさい」
「お前のせいだよ」
「私のせい?」
「ああ。クロハが可愛いから、ドキドキしてるんだ」
「……」
クロハは黙って、俺の胸に耳を当てていた。
顔が真っ赤になっているのが分かる。
「……馬鹿」
「なんでだよ」
「そういうことを言うな。恥ずかしい」
「言いたいから言ったんだよ」
「……」
「さっきのクロハと同じだろ」
「……ずるい」
クロハは拗ねたように俺を見上げた。
でも、その目は嬉しそうだった。
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俺はクロハの髪を撫でた。
銀色の髪が、指の間をすり抜けていく。
「綺麗な髪だな」
「……」
「いつも思ってたんだ。月みたいに綺麗だって」
「……お前は、本当に」
「なんだ」
「私を照れさせる天才か」
「天才っていうか、本当のことを言ってるだけだけど」
クロハは俺の手を取った。
そして、自分の頬に当てた。
「……温かい」
「お前の手は冷たいな」
「死神だから」
「じゃあ、温めてやる」
俺はクロハの手を両手で包んだ。
温めるように、ゆっくりと握る。
「……」
「どうだ?」
「……温かくなってきた」
「よかった」
「……誠一」
「なんだ」
「お前の魂、今、ものすごく輝いている」
「そうか」
「眩しいくらいだ」
「……それは、クロハのおかげだよ」
俺たちは顔を見合わせて、静かに微笑んだ。
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同棲二周年。
これからも、この日常が続きますように。
俺はそう願いながら、クロハを抱きしめていた。




