第23話「死神と洗濯」
「洗濯をする」
朝。
クロハが洗濯カゴを持って立っていた。
「俺がやろうか?」
「いい。私がやる」
「大丈夫か?」
「洗濯機の使い方は覚えた」
クロハは自信満々だった。
料理はまだ不安だが、洗濯機は問題ないだろう。
「頼むな」
「任せろ」
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洗濯機の前で、クロハが固まっていた。
「どうした?」
「……色分けをしなければならないらしい」
「ああ、白いものと色物は分けた方がいいな」
「分かっている。だが……」
クロハは洗濯カゴの中を見つめていた。
「お前の下着が混ざっている」
「え?」
「私の下着と、お前の下着が、一緒に洗濯されようとしている」
「いや、普通そうだろ」
「普通なのか」
「一緒に暮らしてるんだから」
クロハは少し考えて、頷いた。
「……そうか。同居人なら普通なのか」
「まあ、気になるなら分けてもいいけど」
「いや、一緒でいい。効率的だ」
クロハは洗濯物を洗濯機に入れ始めた。
俺のシャツ、クロハのワンピース、俺の靴下、クロハのストッキング。
そして――
「……」
クロハが、俺のボクサーブリーフを摘まんでいた。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
「い、入れてくれ」
「……ああ」
クロハは無表情だが、耳が少し赤い。
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洗濯が終わった。
干す作業だ。
クロハはベランダに出て、洗濯物を干し始めた。
俺も手伝うことにした。
「ハンガーはここにある」
「分かった」
俺はシャツを干し、クロハはワンピースを干す。
平和な日常の風景だ。
しかし――
「誠一」
「なんだ」
「これは……」
クロハが、何かを持っていた。
白いブラジャー。
クロハのブラジャー。
「……っ!」
俺は慌てて視線を逸らした。
「お、俺が干そうか?」
「なぜだ」
「いや、その、恥ずかしくないか?」
「恥ずかしい? 下着だぞ」
「だから恥ずかしいんだよ」
「……そういうものか」
クロハは首を傾げながら、ブラジャーを干した。
白いブラジャーが、風に揺れている。
見ちゃいけない。見ちゃいけない。
「誠一」
「な、なんだ」
「見てもいいぞ」
「見てない」
「見ていただろう」
「見てない」
「目が泳いでいる」
「……」
クロハは無表情だが、少し楽しそうだ。
からかっているのだろうか。
「……誠一」
「な、なんだ」
「不思議だ」
「何が」
「お前は私の体を見ても平気なのに、下着を見ると動揺する」
「そ、そりゃそうだろ」
「なぜだ。下着は体を覆うものだ。むしろ、体より見せて恥ずかしいところは隠れている」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「誠一は変だな。体ではなくて、下着にドキドキするのか」
「だ、だから……」
「下着には何か特別な意味があるのか」
「ない。いや、あるけど、説明するのは恥ずかしい」
「複雑だな。人間は」
クロハは首を傾げながら、俺を観察している。
その目が、妙に真剣だ。
「つまり、私の下着を見ると興奮するのか」
「そ、そういう直接的な言い方は……!」
「否定しないのか」
「……」
「沈黙は肯定だ」
「……はい」
俺は観念した。
クロハは無表情だが、耳が少し赤くなった。
「……なら、あまり見せないようにする」
「お、おう、頼む」
「でも、見たいなら言え」
「言わないよ!」
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洗濯物を干し終えた。
ベランダには、俺とクロハの服が並んで干されている。
シャツの隣にワンピース、靴下の隣にストッキング。
そして、ボクサーブリーフの隣にブラジャー。
「……」
「……」
なんだか、夫婦の洗濯物みたいだ。
「……誠一」
「なんだ」
「お前、顔が赤い」
「気のせいだ」
「嘘だな」
「……」
クロハは小さく笑った。
「照れているのか」
「照れてない」
「照れている。魂が輝いている」
「だから照れてないって」
「嘘つきだ」
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夕方。
乾いた洗濯物を取り込む。
「たたむぞ」
「分かった」
俺とクロハは、リビングで洗濯物をたたみ始めた。
シャツをたたみ、ワンピースをたたみ。
靴下を揃え、タオルを重ねる。
そして――
「これは……」
俺の手が、何かに触れた。
柔らかい生地。
白い色。
クロハのショーツだった。
「……っ!」
俺は慌てて手を離した。
「す、すまん! たまたま!」
「別にいい」
「いや、でも……」
「下着だ。触っても死なない」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
クロハは無表情で、俺の手からショーツを取った。
「私がたたむ」
「お、おう……」
クロハは慣れた手つきでショーツをたたんでいる。
俺は目のやり場に困って、天井を見つめていた。
「誠一」
「な、なんだ」
「そんなに意識しなくていい」
「意識してない」
「嘘だな」
「……」
「でも、そういうところが可愛い」
俺は思わずクロハを見た。
「可愛い?」
「ああ。照れているお前は可愛い」
「……」
今度は俺が言葉に詰まった。
クロハに可愛いと言われるとは思わなかった。
「私の下着を見て動揺するお前も、可愛い」
「からかってるだろ」
「事実を述べているだけだ」
クロハは無表情だが、目元が少し笑っている。
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洗濯物をしまい終えた。
「誠一」
「なんだ」
「また一緒に洗濯しよう」
「まあ、毎日やることだからな」
「ああ。毎日やろう」
「……」
俺は少し恥ずかしくなった。
毎日、クロハの下着と一緒に洗濯する。
毎日、クロハの下着を干して、たたむ。
同棲してるんだから当たり前だ。
でも、改めて意識すると、ドキドキする。
「……お前の魂、輝いている」
「……また、それか」
「今日は一日中輝いていた」
「そうか」
「洗濯のおかげか」
「……多分、違う」
「じゃあ何だ」
「さあ」
俺はとぼけた。
本当の理由は、クロハの下着を意識してしまったからだ。
でも、それは絶対に言えない。




