第17話「死神と観覧車」
最後に、観覧車。
夕暮れ時。
オレンジ色の光が遊園地を包んでいる。
「観覧車に乗ろう」
「観覧車?」
「ゆっくり回って、景色を見渡せる乗り物だ」
「……分かった」
俺たちはゴンドラに乗り込んだ。
二人きりの狭い空間。
ゆっくりと、観覧車が動き出した。
どんどん高くなっていく。
街が遠ざかり、夕焼けの空が広がっていく。
「……綺麗だ」
クロハが窓の外を見つめている。
銀髪がオレンジ色の光を受けて、キラキラと輝いている。
「今日は楽しかったか?」
「……ああ」
クロハは頷いた。
「ジェットコースターは物足りなかったが」
「普通の人間には十分なスリルだよ」
「お化け屋敷も嘘だらけだったが」
「フィクションだからな」
「……でも」
クロハは俺を見た。
紫色の瞳が、夕焼けの光を映している。
「お前と一緒だったから、楽しかった」
「……」
俺は言葉に詰まった。
クロハがこんなに素直に気持ちを言うのは珍しい。
観覧車の雰囲気が、そうさせているのかもしれない。
ゴンドラが頂上に近づいた。
街の明かりが瞬き始めている。夜景が広がっていく。
「……誠一」
「なんだ」
「ここで、キスをする習慣があると聞いた」
「え?」
俺は驚いて、クロハを見た。
クロハは真剣な表情で俺を見つめている。
「観覧車の頂上でキスをすると、願いが叶うと」
「いや、それは都市伝説というか……」
「嘘なのか」
「嘘というか、ロマンチックな演出というか……」
クロハは少し考えて、俺に顔を近づけた。
「……」
紫色の瞳が、至近距離にある。
銀髪が俺の頬をくすぐる。
吐息がかかる距離。
俺の心臓が、ドクンと跳ねた。
「……試してみないか」
「え」
「願いが叶うか確かめたい」
「いや、あの……」
クロハの唇が、ゆっくりと近づいてくる。
薄いピンク色の唇。柔らかそうな唇。
俺は――
目を閉じた。
そして、柔らかい感触が唇に触れた。
一瞬だった。
羽が触れたような、軽い感触。
でも、確かにクロハの唇だった。
「……」
クロハが離れた。
頬が真っ赤になっている。耳まで赤い。
「……願いは」
「え?」
「願いは、叶うか」
「……さあ。これから分かると思う」
「……そうか」
俺たちは黙って、窓の外を見た。
夜景がキラキラと輝いている。
ゴンドラはゆっくりと下降していく。
「……誠一」
「なんだ」
「お前の魂、今、すごく輝いている」
「……そうか」
「今までで一番、輝いている」
「……そうだな」
俺の心臓は、まだバクバクいっていた。
でも、ジェットコースターの時とは違う理由で。
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遊園地を出た。
夜の街を、二人で歩く。
イルミネーションがキラキラと輝いている。
「誠一」
「なんだ」
「また来よう」
「遊園地に?」
「ああ。観覧車に」
「……分かった」
クロハは俺の手を取った。
小さくて温かい手。
「願いが叶ったか、確認しないといけない」
「そうだな」
「何度も確認する必要がある」
「……そうかもな」
俺たちは手を繋いで、夜道を歩いた。
死神との同棲生活、二年目。
遊園地デートで、俺たちはまた一歩、近づいた気がする。




