従者として
決戦前夜には回復タイムが必要派につきこれ含めて3話やります
いざ敵を討たん、と意気揚々と蓮池に向かおうとした三人を止めたのは丑前田だった。
時計を見れば話し込んでいたせいかすでに夕餉の時間を過ぎている。それで呼びにきたのだろう。足音がなかったのはさすがである。
「行くなとは申しませんよ。けれど、お腹を満たさず出歩くことはおやめくださいな。ロクなことになりませんからね」
保護者と呼べる保護者が軒並み外国を飛び回る中、幼少期から面倒をみてきた彼女にはさすがの双子も返す言葉がなかったのか、素直に頷いた。
食事を終えるころになると、もう一人の親代わりである虎堂が寡黙ながらに重々しい説教をはじめ、また一時間経過した。
そうしたことが重なって、気づいたころには夜がとっくりと暮れていた。もう明日にしてしまおうか、と誰かが言いかけて、無言のうちに棄却される。
なんやかんや言って、倖斗も倖斗の主人たちも皆この連続殺傷のことは、いい加減頭に来ていた。
だが、その前に従者としてやらなければならないことがある。
諸々を済ませ、倖斗の自室に主人らが揃ってやってきた夜更け。
本来であれば主人たちを迎えるには狭苦しい場所で時間なのだが、いつもの談話室では速やかに出掛けるにはいささか玄関から遠い。
ここにしようという双子主人の命令により、ここが集合場所として決定された。
倖斗にこの場合拒否権はない。
だが、質問権はある。
「気になっていたことがございます」
「今言わねばならん事か?」
「はい。空腹はいけない、とは至言ですね。言わねばと思っていたことを思い出せました」
決定権はないが、倖斗には二人の命令よりも守るべき義務がある。
それは、二人の心と体の安全だ。
二人の主人の前に跪き、失礼をと一言断ってそれぞれの片手を取る。
「お嬢様。体の修復に遅れが出ておいでですよね」
倖斗の静かな言葉に、理恵子の手が小さく引かれた。いつもならば意図を汲み取り放してしまうところだが、今日は譲るわけにはいかない。
次いで、無言で理恵子の横顔を見ている隆惺へと視線を向ける。
「坊ちゃん。お嬢様の介錯をされた日から、ほとんど眠れていませんよね」
隆惺の強張った手がわずかに藻掻いた。こちらも、倖斗は放さない。
やがて抵抗を諦めたように、双子が揃って肩を落とした。
「いつから気づいていたの」
「俺と理恵、どちらに先に気付いた」
お互いのそれに驚くこともなくこちらへと問いかけてくる姿に、倖斗はそっと眉を寄せる。
「恥ずかしながら、昨晩ようやく。お二人ほぼ同時に。……申し訳ございません。目に入っていたのに、直視するのが遅れていました」
兆候はあった。隆惺の軍刀で断ち切られた理恵子の髪も、らしからぬ見落としの増えていく隆惺も、どちらも双子の疲弊の証だった。
それを自分の未熟によって見落としていたのだから、本来ならば失望されても仕方がない。悔しさからら喉の奥が痛むが、今は倖斗の涙は邪魔だ。
痛みを無視し、ただ主人の手を取る。
「それでも、今日のことが無ければ様子を見ようと思っておりましたが……お二人とも、お互いのことは知っておられたのですね」
「俺たちの特技だよ。互いの不調は自分のことよりも早く気付くんだ。昔からな」
だからか、と倖斗は胸の内で納得する。
いくら警鐘があるとはいえ、隆惺はあまり身体能力が優れているとはいえない上に虚弱体質だ。全力疾走した倖斗から遅れて数分程度で現場にたどり着くには、警鐘が鳴る前から動き出さなければ間に合わないだろう。
「……今、不調のことを聞いてどうするつもりなんだ」
「場合によっては寝所にお戻りいただきます」
「冗談よね?」
「冗談では御座いません。まともな判断も出来ないほどに弱っておられるならば、お二人には眠っていただいて【くだん】は僕一人で捕らえてまいります」
おつかいは得意ですから。
そう告げる倖斗の目は真剣そのものだった。
次回更新は13時頃です




