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双子星の怒り

「まあ大変。ところで隆惺、わたくしたち皮を剥がしても似ているのかしらね」


 とんでもないことを言われた隆惺が片割れから顔面を逃すようにぐっと半身を捻る。


「それを検証するにはお前だけでなく俺も皮を剥がさなくてはならんから永劫知ることはない。命を大事にしろと言っているだろう。好奇心をくすぐられるな」


「つまんなーい」


「命にスリルを求めるな」


 会話の興が乗ると脱線しがちな主人たちに苦笑いをこぼす。こうなると外野が流れを元に戻すしかない。ペラリとわざとらしくメモ帳をめくり、こんこんっと紙面をペンで叩けば、対の紫眼が揃ってこちらを向いた。


「最後のお話をいたしましょう。【詳細不明】で場所は蓮池。こちらはとどのつまり、どういうことなのですか?」


 倖斗の問いに、理恵子は少しばかり考え込んでから口を開いた。


「百物語に近いわね。『全て語り終えると恐ろしいものが現れる』みたいなやつ。夜行さんや青行燈と違って名称もないみたいだから詳細不明のままにしたのだけれど」


 百物語とは江戸の頃に流行った遊びだっただろうか。倖斗の知っている怪談といえば番町皿屋敷や牡丹灯籠であるから、むしろこちらの方が怪談らしいようにも思える。

 やはりどこか【怪談】と言われるたびに実像の曖昧なもののように思えてしまう倖斗とは違い、隆惺はもうこの話を推理の手札として加えているらしい。気だるげながら実存を突くような険しい声で理恵子に問いかけている。


「蓮池、というのは女子部の裏手にあるものでいいのか? 豊葦院の外まで探せば他にもあるだろう。寺社などなら珍しくもない」


「いいと思うわ。女子部に忘れ物をとりにきた子がどうのとか、知った日の放課後に覗き込んでみたら何かが……、といった言葉がよく添えられているもの」


 豊葦院に池は多くあれど、蓮池の名を冠しているのは一つだけだ。奇しくも女子部の裏庭からいくらか奥まったところにあり、美しい造りの東屋が設置されている。女子部に通う少女たちはここかサンルームでお茶会をするのが日課だ。


「それにしても……他のものは警戒すべきものがいくらか絞り込めそうですが、最後のものはどうしようもないですね。順番に来るならばまだ対応のしようはありますが、そんな保証はどこにもありませんし」


 もどかしさに歯噛みする倖斗をよそに、隆惺の指がトン、トン、と肘置きを静かに叩いた。伏目がちになった紫色の奥で知性の炎がゆらめく。


「いや。来るならば理恵がつけた順番になると見て間違いない。ナンバリング自体がそう仕向けられているはずだ」


 その言葉は確信に満ちていた。


「どうしてそんなことをする必要があるのですか?」


「見立てるならば、相応の意図があるからだ。軽かろうと、重かろうと、この手の輩は一度始めたら止まらない。わざわざ面倒な真似をしている以上、強いこだわりがあるのは間違いなかろうよ」


「じゃあ、わたくしあと何回死ねばいいのかしら?」


 明日の天気を気にするように、理恵子が微笑みながら問う。同じ顔はひどく不機嫌そうに、だが確信を持って断言する。


「二回だ。それ以上は殺させない」


 その言葉に、ころころと理恵子が笑った。


「まあ、それでは最後のもの以外全てじゃないの。格好つけないで、素直にぎりぎりになると言いなさいな」


「悪かったな。格好つかなくて」


 膨れた隆惺の頬を理恵子がつつく。揶揄う理恵子も、きっとわかっているのだろう。今回彼女を二度も殺して見せたのは豊葦院の鉄壁を打ち破り、円の索敵を超えた輩だ。それはこれまで、双子が相対したことのない強敵であることを意味している。


「隆惺。逃げ切りで満足するなどとは、言わないでしょうね?」


 誕生日までに限度を迎えなければ理恵子は死なない。故にこの下手人との対峙はこちらが逃げ切れば勝ちだとかつて隆惺が設定した終点を否定するように、理恵子が勝気に笑う。


 ギラギラ燃える紫の目に、己の不死を無遠慮に使われていることへの怒りと強敵への愉悦がにおい立つ。


 もちろんと応じた隆惺の紫眼が、片割れの炎を貰い受けたように炎熱を灯す。


「お前を四度死なせると決めた以上、必ず捕まえるさ」


 力強い宣言とは裏腹にその唇は強く噛み締められ、強く握り締められた拳の中からは溢れ出した血の匂いがしていた。

次回は13時頃の更新です。

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