鈴の音が鳴る
りん、りん、りん、りん……りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん!
大音量で耳の奥に響く鈴の音は華族が用いる警鐘だ。
特定の条件を満たした時にだけ当該一族とその従者の脳へと直接届く、特殊な術。
この緊急警報の条件は、命が狙われること。
「お嬢様……っ」
溢れた声は、悲鳴のようだった。
走る。
走る。
走る。
鈴の音が導くように咎めるように叫んでいる。その音がより大きくなる方角を聞き逃さぬように、一秒たりとも遅れぬように、少年は人波を縫って駆け抜ける。
「【藤宮】です! 入りますっ」
警備室に叩きつけるように主家の名と学生証を叩きつけ、速度を落とさぬまま白亜の校舎の脇へと入る。入り組んだ校舎内よりは横を抜けた方が直線距離に強い倖斗の足なら早くたどり着くという咄嗟の判断だった。
鈴の音は女子部、その裏庭の方向から聞こえている。
豊葦院の中でも女子部は嫁入り前の少女たちを預かるというのもあって、最も警備の厚い、敷地内の奥まった場所にある。従者棟からは離れているが、そんなことは気にもならなかった。
(お嬢様、お嬢様、お嬢様……っ どうか)
心臓が早鐘を打つ。駆け抜けることによる身体的な負荷はもちろんのこと、焦る気持ちがなおのこと強く心臓を握っている。
白い息が上がる。冷たい冬の風に晒されながら登校した体の冷えは強制的な活性化によりとうに解消され、もはや汗が背中を流れ落ちるほどに体温は上がっていた。
だというのに、指先だけはひどく冷たいままだ。
嫌な予感がする。
(あの、角を曲がればっ)
枯れ木のような冬桜をくぐり、裏庭へと入る。鈴の音が大きくなる。
そして、見た。
「お嬢様……?」
最初は、ただ倒れているように見えた。
だが、艶やかな亜麻色の髪が冷たい石畳に身じろぎもせず散っている。
どんな時も従者の声を聞き逃さず振り向いてくれる顔がこちらを向かない。
唯一見える小さな耳に血色はなく、生気のない土気色。
そのすべてが示すものが、そうではないと告げていた。
「あ、あああッ」
聞こえた叫びが自分のものだと気づいたのは、喉が枯れた後のことだった。
何よりも敬愛する主人のそんな姿を前に正気を保つこともできぬまま、それでも倖斗は理解せざるを得ない。
太陽の如く崇拝する藤宮理恵子の死が、そこにあることを。
一日三回投稿の予定ですが今日は区切りが悪いので20時頃もう一話投稿します




