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第二の怪談

 こんな噂がある。


 豊葦院ができたばかりの頃、評判のいい女師範がいた。


 学生たちに真摯で、知識豊かで芯は強いが穏やかな気性。当然、学生たちの生家からの覚えもめでたい。そんなまさに手本のような女だった。

 その師範は近々嫁入りを控えており、それはそれは素晴らしいことだと話題になっていた。


 そんな矢先に、悲劇が起きた。


 春に近い日のこと。女が命を落としたのだ。


 垂氷が落ちてきたことによる事故死だった。


 死体は実にむごいものであった。

 幾日もかけて幼稚舎に通う子供の身長ほどになったそれがずるりと落ち、それに顔面をまっすぐに貫かれて死んだ。

 音に気づいて上を見上げた顔面の皮も肉も骨も食い破った氷の杭に頭蓋まで刺し貫かれ、女は死んだ。

 氷で刺し貫かれた傷口はぽっかりと穴を開けたまま内部が凍傷で爛れ、あまりにも無惨な有り様だったという。


 これを人目に晒すのは非道であろうと誰ともなく言い出し、女の棺は小窓のないものが拵えられた上で固く釘で打ち付けられることとなった。


 嫁入り間近で人望も厚い彼女の死は多くの人間に惜しまれた。


 嫁ぐ予定であった婚約者の家はもちろん、勤め先である豊葦院までもが協力した盛大な葬儀が挙げられた。

 わんわんと泣く学生たちの声と位の高いお坊様たちの読経が合わさり、それはそれは大きな嘆きとなって街中を満たしていった。


 それから一年ほど経ったある日、女が受け持っていた生徒の間で一つの噂が流れた。


 曰く、街中で女師範を見た、というのだ。

 それを聞いて女の婚約者は驚いた。あれだけ盛大に弔ったというのに未だ世を彷徨っているというのだから、当然のことだろう。


 もしかしたら、とてつもない無念があるのかもしれない。


 そう思い、婚約者は街を練り歩くようになった。女が好んでいた場所を巡り巡るも、まるで見たという言葉を聞かない。


 さては、学生たちに担がれたか?


 そんなことを思い始めた婚約者は、最後にとある花畑に足を運んだ。そこは、女とともにたった一度だけ、道に迷ってたどり着いたことのある場所だった。


 学を好んだ聡明な女がそこにいるとは露とも思っていなかったが、不意に思い出したので足を運んでみたのだ。


 しかし、女はそこにいた。


 一足先に春がきたようなその場所で、花を枕にするように仰向けに女は倒れていた。最期に見たときと同じ空っぽの顔であったが、どうしてだかその姿はこれまでに見たこともないほど、満足げに思えた。


 女が暗いところを苦手としていたことを婚約者はその時ようやく思い出し、棺桶の中の暗闇はどれほど恐ろしかったのだろうと涙を流した。


 婚約者が小さな葬儀をやり直したのちは、もう二度と彷徨い歩く女師範の噂は流れなかったと言う。

次回更新は19時頃です。

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