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拾い物と名探偵

 いくらかの調査を終えて屋敷に戻り、速やかに隆惺の元に走る。

 探すまでもなく彼は自室にいた。暖炉のそばで革張りの分厚い本を読んでいる横顔は揺れる炎に照らされまだらな山吹色に染まっている。


「坊ちゃん」

 気配を薄くして影からするりと滲み出るように主人に声をかける。


「あったか。あと坊ちゃんはやめろ」


 ゆるりと振り返ったかと思うとなにやら微笑ましげな眼差しを向けられた。虎堂に習った隠形を披露したかったとバレてしまったのかもしれない。

 少しの気恥ずかしさを誤魔化すようにこほんと咳をして、跪いたまま報告を続ける。


「お探しのものは確かに、坊ちゃ……若様が予想された通りのところにありました。協力者によれば、警察の方では防火扉が落下した際にできた破損だろうと考えているようです。あと、こちらなのですが」


 懐紙に包んでおいた例の藁半紙を取り出し、主へと手渡す。紙を紙に包むというのもおかしな話だが、直接懐に入れるのもこれを剥き出しで隆惺に渡すのも、何か嫌な感じがした。

 手のひら大の藁半紙を受け取った隆惺がカサカサと開き、そこに描かれた模様に目を落とした。隆惺も何かを感じたのかできる限り懐紙越しにつまむようにしながら、表裏と確かめて、また模様を観察し始める。


「これは?」


 少しの沈黙ののち、隆惺が視線を模様に向けたまま問うた。


「若様が『気になるものは拾ってこい』と仰られていましたので、拾ってまいりました。何かの印だと思うのですが、僕ではわからなくって」


 忠犬のごとく跪きながら報告を続ける倖斗の頭を片手間に撫でてくれはしたものの、隆惺の目は依然として藁半紙を凝視し続けている。余程気になることがあるのだろうか、と横顔を見つめても紫の目はこちらを見ない。いつもならば倖斗の視線を感じれば多少なりとも確認してくれるので、よほどの集中具合だ。


「梅? いや、鎌柄(かまつか)か? 掠れていて断定はできないが……どこかで」


 ぶつぶつと隆惺が呟く。

 においを信じるなら頭の中にある莫大な資料をひっくり返して集中しようとしているのだろう。隆惺は一度見たものをほとんど覚えていると聞かされたことがある。だが、あまりに険しい顔をするのに慄いて、倖斗はついおずおずと尋ねた。


「余計な拾い物でしたか。捨ててまいりますか?」


「いや。いい。お前の予感はなかなかに優秀だからな。今はわからなくともいずれ役にたつものやもしれん。よくやった」


 紫色の瞳がゆるりと倖斗を見た。その口元にはうっすらとした笑みが浮かんでいる。険しさが薄れたわけではないが、満足はしてもらえたらしい。


「それで、この調べ物はいったいなんだったのですか?」


「理恵の首が落ちることになった原因を探る材料、といったところかな。談話室に移動したら聞かせるさ」


 原因、と言う言葉にピリリと緊張が走る。倖斗に探させたもので新たな発見を得たと言うことは、理恵子の件は事故ではない可能性が高まったと言うことではないのか。

 そんな倖斗をよそに、隆惺は再び藁半紙に目を落とした。

 目の粗い紙面にじっとりと染み付いたようなその紋様は暖炉の灯りを受けて少し禍々しくも見える。


「それにしても……立ち入り禁止の裏庭にこんなものが落ちる状況、ねえ?」


 紫色に燃える目が、思案を深めて瞬いた。

今宵はここまで

次はまた明日の朝9時頃です

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