なにを言っている。『恥ずかしい』のだろう?
【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】の続きっぽい話。一応、あっちを読んでなくても大丈夫なはず……多分。
わからなかったら、上のシリアスっぽい短編リンクから飛べるので、気が向いたら読んでやってください。
「お話とは、なんでしょうか? 義父上」
「ああ、君は、あの子の義弟でいることが恥ずかしいと言ったそうだね?」
「! それはあのおんっ……いえ、その、義姉上、が……婚約者の彼と、その友人である令嬢のことを酷く侮辱したからです。あのように、淑女にあるまじき言葉を公衆の面前で言ってのけるなど、貴族子女としてあり得ません!」
「そうか……」
「はい、そうなんです! あのようなことを二度と口にしないよう、義姉上にはもっと厳しいマナー講師を付けて教育を受け直した方がいいと思います」
「わかった。君との養子縁組は、解除しよう」
「……え? 義父、上? なに、を……?」
「君との養子縁組を解消する。これは決定事項だ。君には期待していたのだが、残念だよ。幼少期からの学費は返済しなくていい。荷物を纏めなさい。明日、実家へ送り届けよう」
「ちょっ、待ってください義父上っ!? なんでいきなりそんなことをっ!? ぼ、僕が義姉上のことを悪く言ったからですかっ!? それは少し、義姉上のことを甘やかし過ぎではありませんかっ!?」
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近頃、娘を見る義息の目がやけに反抗的だとは思っていた。
思春期の男子で、血の繋がらない姉に対する反発や反抗かとも考えていたが……複数の子息達と一緒にとある令嬢に侍っている、との報告を受けた。
その令嬢へ侍っている令息達、の中には娘の婚約者もいるようで――――頭が痛い。
あまりにも行き過ぎるようであれば、義息と話し合いをせねばと思っていた矢先のことだった。
娘から相談を受けた。例の令嬢に侍る婚約者達に公衆の面前で罵られた、と。よくよく話を聞くと、もう駄目だと思った。
全く、あの婚約者は一体なにを考えているのだ?
娘と彼との婚約は、彼が傍系王族であるが故に結ばれた……王命で成った婚約。そうでなければ、誰が一人娘を他家へ嫁がせたいと思うものか。
無論、一人娘なのでと断った。すると、親族から養子を取ればいいだろうなどと言われた。傍系とは言え、王族の血を絶やさぬため、我が国の貴族なれば協力せよ、と。半ば強引に、娘を嫁に出すことを約束させられた。
まあ、なんだ。娘の婚約者の家は傍系王族のクセに、ここ数十年段々と斜陽気味のようで……堅実で、それなりに蓄えのある我が家が、彼の家を立て直せ、と暗に命令されたというワケだ。
なので、娘と彼との婚約は、我が家としては全く歓迎していないのだが――――
どうやら彼の方は、そのことを全く理解していないようだな。
破談にするのに、好都合ではあるが。
そしてわたしは、親族から幼少期に養子として引き取った義息を呼び出すことにした。
「お話とは、なんでしょうか? 義父上」
「ああ、君は、あの子の義弟でいることが恥ずかしいと言ったそうだね?」
「! それはあのおんっ……いえ、その、義姉上、が……婚約者の彼と、その友人である令嬢のことを酷く侮辱したからです。あのように、淑女にあるまじき言葉を公衆の面前で言ってのけるなど、貴族子女としてあり得ません!」
息巻いて話す義息に、失望の念が募る。
「そうか……」
「はい、そうなんです! あのようなことを二度と口にしないよう、義姉上にはもっと厳しいマナー講師を付けて教育を受け直した方がいいと思います」
言うに事欠いて、あの子へ再教育? これ程に愚かになるとは……
「わかった。君との養子縁組は、解除しよう」
さっさと手続きを済ませてしまおう。これ以上、この子を我が家へ置いておくことはできない。
「……え? 義父、上? なに、を……?」
「君との養子縁組を解消する。これは決定事項だ。君には期待していたのだが、残念だよ。幼少期からの学費は返済しなくていい。荷物を纏めなさい。明日、実家へ送り届けよう」
「ちょっ、待ってください義父上っ!? なんでいきなりそんなことをっ!? ぼ、僕が義姉上のことを悪く言ったからですかっ!? それは少し、義姉上のことを甘やかし過ぎではありませんかっ!? だから、義姉上があのように恥ずかしいことをっ」
「なにを言っている」
冷ややかな声で、義息……いや、元養子だった少年の声を遮る。
「なにを言っている。『恥ずかしい』のだろう? あの子の……我が娘の義弟であることが」
「そ、それは、義姉上が、公衆の面前であのような恥知らずなことを言った、からで……」
ギロリと愚かな少年を睨めば、尻すぼみになる言葉。
「あのような恥知らずな発言、とは。婚約者に下の病気に罹るなと忠告したことか? 年頃の娘が、公衆の面前で、自分の婚約者にそのようなことを言わなければならない。それが、どれ程勇気の要ることか想像できないか?」
それを言った娘が恥知らず、なのではない。
「君達は、複数で一人の令嬢を共有しているように見える程、周囲には親密に映っていた。彼は、傍系でも王族だ。血統管理は、当然優先される事柄である。病気を忠告するのは婚約者としての当然の権利であり、臣下としての義務だ。それに、彼と結婚すれば誰が彼の子を産むことになると? 娘が、自身の身を案じ、自衛として彼に忠告してなにが悪い? 性病は、男よりも女性の方が症状が重くなることが多い。子にも悪影響が出るという。流産や死産になる可能性もある。更には、子自体ができなくなることさえある。君達は、そのことを全て鑑みた上で、娘の発言を『恥ずかしいこと』だと言っているのか?」
「そ、それ、は……」
愚か者は答えられない。それこそが、なにも考えていないという答え。
「どちらが恥知らずだ? 年頃の娘にそのようなことを、公衆の面前で言わせる婚約者の男。そして、それを諫めることをしないどころか増長させ、あまつさえ娘を侮辱する者達」
どちらが笑い者になっているのかも判らぬ、愚か者共が。
「……っ」
「君には、我が家を継ぐのは荷が重かったようだ」
「義父上! そ、それでは、この家は誰が継ぐというのですかっ? ぼ、僕が優秀だったから養子に迎えたのですよね! 今から他の者を教育するのは大変ではないですかっ? 見付けられないと思いますよ!」
必死に言い募る愚か者。
「確かに、君は優秀だった。但し、今の君よりも優秀な者は他にもいる。君を我が家の養子に迎えたのは、君が娘と相性が良さそうだったからだ」
一年程前までは、義理とは言え仲睦まじい姉弟だったのに。
「え? う、そ……」
「嘘ではない。娘は、傍系王族の家へ嫁入りする予定だった。その娘を、生涯……わたしの死後も支える者が必要だった。君なら、そうしてくれると思ったのだが、とんだ見込み違いだったらしい。娘のための養子縁組だ。娘の害になる者を、我が家のことを誇れない者に、我が家を継がせるはずがないだろう?」
「そ、そんなこと、言っていなかったじゃないですかっ!?」
「なにを言っている? 嫡子にと望まれた養子が、養家の家に尽くすよう求められるのは当然のことだろう? 期待に応えられず、この程度のことも判らず、色恋に惑い、貴族としての正しい判断ができなくなる者は不要だ。貴族家の当主に、領主には向いていない。それに、君はわたしに『無理矢理養子にさせられた』、のだろう? これからは、実家でのんびり暮らすといい」
彼の実家は、穀倉地の下位貴族。農民に交じり、畑仕事をするような領主家だった。子供も労働力として数えるような地方。彼は子沢山の兄弟の中で、身体を動かすよりは書物に親しみ……家族から浮いているように見えた。
優秀だとの噂があり、彼を娘と一緒に面談し……彼は娘に懐いた。他にも養子の候補はいたが、彼が一番娘と話が合った。だから、うちの養子にと決めた。
確かに、労働力を手放したくない彼の実家からは無理矢理養子にしたように見えるかもしれない。ただ、彼は喜んで我が家へやって来たと思っていた。
「そんなっ!? せ、せめて学園を卒業させてください」
「勝手にすればいいだろう? 但し、我が家とは無関係になる君のことは関知しない。実家の方から学費を出してもらうか、または平民の生徒達と競って、特待生枠でも狙えばいいのではないか? 君は、優秀なのだろう?」
そう言うと、愚か者は絶望した顔をした。
まあ、さもありなん。例の令嬢に侍るようになってから、彼らの成績は下降気味。現状の成績で、特待生枠での編入試験に合格できはしないだろう。
「では、明日までに荷造りを終えるように」
そう言い付けて、侍従に彼を退出させた。
さて、養子を後継にする件は白紙。となると、我が家はこれから後継問題が発生する。
婚約者の愚かさを王家に物申し……娘を我が家の後継に据えると宣言し、婚約の白紙撤回を求めることにしよう。駄々を捏ねるようであれば、彼が元養子を使って我が家の乗っ取りを教唆していたと訴えるのもいいかもしれない。
愛する娘に傷は付けさせない。
彼は……娘との婚約が破談となれば、家を継ぐのは難しくなることだろう。まあ、娘を無下に扱い、我が家を虚仮にした連中など知ったことではないが。
彼の弟妹が後継に据えられることになるだろうか? はてさて、弟妹の方は彼に似ず賢い選択のできる子達であるといいのだが……
それにしても、一人の令嬢に侍る彼らはなにがしたかったのだろうか?
令嬢は一人しかおらず、我が国……というか、大概の国では直系王族以外の重婚は禁止されているはずだが?
娘に「彼女を侮辱するな」と言っていたそうだが。一人の女性を複数人で共有しているように見せている状況の方が、余程その女性を侮辱する行為だと思うのだが?
それとも、その令嬢は高級娼婦でも目指していたのだろうか? そして、彼らはそれを応援していたのか? それならば、複数の令息を侍らせることは娼婦としてのトロフィー。彼らは、人気娼婦の得意客という誉になるのだろう。
恋した女を複数人で共有し、公衆の面前で娼婦のような女だと暗に示唆し、婚約者に性病の指摘をされて、指摘した方を恥だと騒ぐ。まだ若いというのに……一体、彼らはどれ程性癖が歪んでいるのだろうか? 恐ろしい。
どちらにせよ、まともな感性をしてはいまい。
そのような連中とは可及的速やかに、娘との縁切りをしよう。
――――さぁて、傍系とは言え、王族の婚約を壊すのだ。彼らは一体、どうなるのやら? どのような報いを受けるかな? いつまで、その身が無事でいられることか?
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんか、【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】で元義弟君のその後の話を読みたいという感想を頂いたので、続き……というか、あっちの主人公ちゃんのパパンが養子君と縁切りしてる感じになりました。
元義弟君に対するざまぁになっているかは不明。(੭ ᐕ))?
でも、パパ的には別に自分達が直接手ぇ下さんでも、王族の婚約壊した連中には娘との婚約決めた連中が報復すんだろ、という感じですかねー。
パパンは、普通に娘が可愛いパパ。且つ、まともな高位貴族なので、お花畑共の思考がマジで謎。
パパ的に連中のやっていることをなんとか理解しようとしたら、恋人を複数の男で共有して、「俺達がこの女を高級娼婦に押し上げてやる!」という特殊性癖持ちなやべぇ集団という解釈になりました。(((*≧艸≦)ププッ
え? そんな野郎と娘を結婚させるとか冗談じゃないわ! つか、そんなクソ野郎をうちの跡取りとか無いわー! と、婚約の白紙撤回、養子縁組解消を全力でがんばりました。( ・`д・´)
まあ、なんかこんな感じになりました。思ってたんと違う、という方にはすみません。なんでこうなったか、書いてる奴にも不明。
最初は元義弟視点で書くつもりだったのに。なんかパパに主役を奪われた。(*ノω・*)テヘ
パパンボイスは、速○奨さんとかどうっすかね? 脳内再生でめっちゃ美形になるかも?(*>∀<*)
感想で頂いた(他サイト分のも込み)脳内パパンボイス一覧。
津○健次郎さん→渋いイケオジパパ!
秋〇羊介さん→東方○敗! 「この、愚か者がっ!!」素手でガ○ダムぶん投げちゃう!
内○賢二さん→ラ○ウorアームストロ○グ少佐。覇王系パパor暑苦しい人情家パパ。どちらにせよ、筋肉は裏切らない!
大塚◯夫さん→屈強な軍人系パパ。「こちらス○ーク、こちらス○ーク。今から対象の暗殺へ向かう」あれ? 自分で手を下しちゃう?
杉○智和さん→天パな白○叉……いや、ぽっちゃりになった元暗殺者? いやいや、苦労性な烏○先生? 殿?
若本規○さん→クセ強なマフィア系パパ? いや、実は取り締まる方? でもきっと溺愛してくれるはず!
銀河○丈さん→紳士的でダンディなパパor冷酷な軍の支配者? 冷酷そうに見えても身内にはデロ甘!
どのパパにも勝てる気がしねぇぜ! 皆様のお好きな脳内パパンボイスをお楽しみください。(*`・ω・)ゞ
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます♪(ノ≧▽≦)ノ
続きと言われたら……元婚約者がパパンに理詰めで説かれてメンタルフルボッコにされるか、元婚約者の妹ちゃんに「穢らわしい」と蔑みの目で見られてガチへこみするくらいしか思い浮かばない。あと、書いてる奴が元婚約者共にあんまり興味がない……ꉂ(ˊᗜˋ*)
と、言いつつ……【これでもう、『恥ずかしくない』だろう?】元婚約者視点を書いてしまった。上のシリアスっぽい短編リンクから飛べます。(*ノω・*)テヘ