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フィオナ王女の冒険譚  作者: アイヒカ
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第七話 意外な訪問者


 心臓がバクバクさらに全身の血流がドクドクし、今にも口から心臓が出てきてしまいそうなフィオナ。そんな中ではあるがふと、フィオナは思った。


 あれ?この香りどこかで…?


 そんなことを考えていると耳元でクロトの声がした。


「お前は…キーラか?」


 クロトの力が弱まり、フィオナはゆっくりとクロトから離れた。そして窓の方を見るとふわっと夜風が入ってくる。そこには、月明かりに照らされたキーラが出窓の窓台に足をかけ、今まさに入ってこようとするところであった。クロトは、フィオナを抱きしめていた反対の手にいつの間にか剣を持っていて、その剣先はキーラの喉元に突きささるか否かのところで止まっていた。


「ちっ、さすが騎士団様は察しがいい」

「お、お前一体何を…?」


 キーラがクロトの剣を手で払いのける。意外な訪問者にたじろぐ2人と…寝ぼけ眼な一頭がベッドから落っこちた。


「何って、王国の姫さんなら金目の物でも持ってるかと思ってね。」

「お前!そんな無礼許されると…って違う違うこの方は…」


 クロトは勢いよく怒鳴りつけようとしたが、はて?今は姫の設定ではないんだっけ?えーと、と明らかに挙動不審になる。


「あんた、分かりやすいんだよ!みんな騙されたふりしてんの分かんないかなぁ。ま、むしろはっきりとこの子が姫様だなんて言われなくて良かったんじやない?」

「な、な、な!失礼だぞ!仮にも窃盗未遂のくせに!」


 キーラは堂々とした態度で出窓の窓台に足を組んで座っている。クロトはというとキーラの挑発に見事なまでに怒りを露わにしている。一方のフィオナはまだ全身がドキドキしているようだが声を絞り、キーラに問いかけた。


「あ、あの!なんで、そんな窃盗なんかする必要が…?」

「ふんっ!私わねぇ、人間が大っっ嫌いなんだよ!とくに王国の姫様ならなおさら困らせてやりたかったんだ!」


 キーラは隠そうともせず、本音をぶちまける。そんなキーラに怒り心頭なクロトではあるがフィオナが珍しく、一歩前に出て話をする。


「その…何でそんなに人間が嫌いですか?わ、私何か失礼なことを…?」

「何にも知らないお姫様に教えてあげる。私たち亜人族がどうしてこんな日に当たらない湿っぽい土地で暮らしているか。」

「え?」


 まだ先程のドキドキと相まって息を呑むフィオナ。そんなフィオナの足元にはようやく目が覚めたシロがいた。


「そもそもの始まりは、人間に誑かされ魔王のせいさ。人間でもない魔物でもない半端な私たちを大賢者ってやつが邪魔者扱いしてこんな日陰の湿っぽい場所に私たちを追いやったのさ。」

「そ、そんな…。ミハエル様はそんなこと…」


 フィオナは自身が崇拝している大賢者ミハエルを庇おうとするが、キーラの話が続く。


「じゃあ!なんで、母さんは死んだんだ?弟だってなんで連れて行かれたんだ!お前ら王国のやつらは私たちに耳が生えてるからって見下して奴隷のように扱ってきたんだ!」


 キーラの怒りが伝わり、静まり返る。

 クロトには心当たりがあった。以前から亜人族の村には近づくなと周囲から聞かされていた。中には亜人族を毛嫌いするものや彼らを野蛮で手が付けられないため王国が仕方なく労働力として雇っているという話をしていた者もいた。クロト自身も会ったことのない亜人族を良く思っていなかった。だが、実際村に来て親切にされ、考えが変わったところでもあった、

 一方のフィオナは、何も知らない自分自身を責めていた。私は、この国の第一王女なのに何も知らなかったと…。


「キーラさん…く、詳しく教えてくれませんか?」


 キーラは、窓台からひょいっと降りてフィオナが寝ていたベッドにあぐらをかいて座り右手で頬杖をつきながら話始めた。


 キーラが幼い頃から聞かされている話である。

500年前に大賢者ミハエルと魔王クロードレイが戦争を終結させた。人間と魔物は住む場所を分けて人間らが住む場所には強力な結界を張ることで魔物の侵入を防ぐこととなる。亜人族も魔物から守られる存在として結界内で暮らすことになった。しかし、魔物のように人間を襲うのではないかと恐れられ、国民の意見を尊重した当時の王は亜人族の村を王国の隅っこへと移した。当時の村長は、王国が生活を保障し、若い男性達には働き口を手配するという話を鵜呑みにしてまんまと王国に乗せられたって話さ。

 今ではどうみても奴隷関係。生活物資は運ばれてくるが最低限。労働として連れて行かれた男どもは年に1,2回帰ってくるか。帰ってきてもすぐに呼び戻されちまう。弟だって10歳で連れて行かれた。家は代々牛飼いをしているからと拒んだのに!だ。亜人族は魔物みたいな力は持っていないし、あったとしても多少人間らより腕っぷしがいいとか耳がよく聞こえるとかや鼻がいいとかっていうくらいだ。


「それで…お母様は…?」

 フィオナかキーラに尋ねる。


「母さんはもともと病弱だったんだ。風邪をこじらせて寝込んでいた時、ちょうど王都から物資を運んできたやつらに医者を呼んでほしいと頼んだんだ。だが、あり合わせの薬を渡されてそれっきりさ。父さんが王都に医者を呼びに行ったが誰も相手してくれず。そのまま母さんは…。」

 

 キーラは下を向き、言葉を詰まらせた。先程までは怒りに任せた口調であったが、母親の話になると苦しそうに語っていた。


「キーラ、お前が言っていることが正しければおそらく物資を派遣したのは騎士団だろう。戻って真実を確かめる必要はあると思うが、お前がやったことは無視できないぞ。」


 静まり返る中、クロトは最もな正論を披露してみせた。母の死という情状酌量の余地はあるものの、姫の護衛であるこの俺はここは毅然とした態度で応じねばと思っていた。さらにクロトの心の内では、あぁ、やっぱり俺ってばできる男。さすが、セルバ団長一番弟子だな、と自分を褒め称えていた。


「わかっているさ。そんなことを言っても王国にいいように丸め込まれるだけだろうさ!どうぞ、私を裁いてくださいな!」


 キーラの開き直った態度にクロトは、またもイラッとさせられる。そんな、クロトを横で見ていたフィオナはこう思った。これは、自分の出番であると。サンフィオーレ王国第一王女としての務めを果たさなければいけない場面であるとどこからともなく謎の責任感がフィオナを突き動かす。

 クロトがキーラに一言物申そうと口を開く前にフィオナが一言。


「キーラさん!私とお友達になってください!」

「はぁぁぁぁ?」


 皆の意表を突いたフィオナの一言にキーラ、クロトは声をそろえて返事をした。シロも大きな口をあんぐりと開けたまま閉じられないでいた。




 

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